東京裁判への道(上) (講談社選書メチエ)

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  • Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062583671

作品紹介・あらすじ

「A級戦犯」二八人はいかにして選ばれたのか?近衛文麿の死、木戸幸一の長大な弁明、陸軍の大物・田中隆吉の謎の変節。そして昭和天皇「不訴追」決定の真実-。膨大な尋問調書が語る、濃密な人間ドラマの開幕。

感想・レビュー・書評

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  • 粟屋憲太郎『東京裁判への道』上下巻併せての感想であることをまず断っておく。
    本書は『IPS尋問調書』を始め多数の史料を用いながら、東京裁判が開廷されるまでの過程について多角的角度から迫っている。

    東京裁判において連合国側の裁判準備に日本人の協力があった点、証人の一部が免責になっている点、毒ガス等問われなかった戦争責任があった点を指摘している。
    東京裁判の不公平性は度々指摘される問題であるが、それは日本と連合国との間にのみ生じたものではなく、同じ日本人同士の間にも起こった事柄であることを、本書を通じて読者は改めて認識するだろう。

    東京裁判は単なる軍事裁判ではなく、政治裁判でもあった。それは紛れもない事実である。我々は裁判で裁かれた者だけが戦争犯罪人であったかの印象を拭いきれていないが、本書が示す裁判開廷に至るまでの道程からも、被告の選定そのものも非常に政治的であったことがわかる。
    裁判そのもののみならず、その前段階を知ることによって見えてくるものが確実にあるだろう。

  • タイトル通り、東京裁判の成立過程を追いかけた書籍。内容は主に、1975年に機密解除され米国立公文書館(NA)で公開された国際検察局(IPS)の尋問調書を基にしている。
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    東京裁判に関しては、比較されるニュルンベルク裁判と違い、裁判記録が公刊されなかったことが特徴の一つとして挙げられる。結果として、裁判に対して右派左派共に主観的な歴史観の投影が行われ、多くの通説が定着してしまっている。本書では、上記の資料に合わせてアメリカ以外で収集された資料を基に、その「通説」の見直しと、新発見がコンパクトに纏められている。
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    上巻は、検察側の資料集め、証人の確保、被告人の選定といった裁判そのものの成立過程の詳細な解説が主な内容となっている。
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    本書を読んで浮かび上がってくる東京裁判像を大雑把に纏めると以下の様になるだろうか。連合国側は、日本統治にあたって、天皇を最大限利用しつつ、軍部及び軍国主義者は徹底的に排除するという政策を採った。東京裁判もこの政策下で行われた行政手段の一部であると見なすことができる。日本側の文官勢力は、自身と天皇の免責を目的に、連合国側の思惑に呼応した。復讐裁判としての側面は、マッカーサー等に存在したが、裁判という形式を採ったことで逆に削がれてしまった。
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    前々から指摘されている通り、木戸幸一と田中隆吉の検察への協力が被告人の選定に大きく影響を与えたことが裏付けられている。本書では、木戸が自身の日記を提出した動機に関しては、天皇の免責と自身の無実を証明するためとしている。
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    似たような対場にあった田中と木戸だが、後年になって田中に対して風当たりが強くなったのは、木戸が最終的に起訴されたからだろう。詳しくは下巻で指摘されているが、戦後の日本において、戦犯、あるいは戦犯候補になったことは、ある意味で免責の証明や勲章になったのである。「不当な裁判である」との国民感情が裁判直後からある程度発生していた証拠の一つでもあろう。
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    それ以外にも、2・26事件で軍の中央から追われていた、皇道派の面々による、統制派への復讐を目的にしたGHQへのタレコミといった陰惨な事態も描かれている。
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    上記の田中隆吉の件でも、田中は日米開戦の責任は武藤章にあると、証言している。しかし、本書でも指摘されているように、開戦当時軍務局長だった武藤は日米交渉を開戦直前まで模索しており、強攻策を推進したのは作戦部長だった田中新一であった。そして、西浦進、石井秋穂といった当時の陸軍幕僚の回顧録を読むと、田中隆吉と武藤章の間に個人的なわだかまりがあったことが再三書かれている。
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    これらを考えても、連合国側の「復讐裁判」といった見解は非常に一面的で、日本側の「復讐裁判」でもあったのだ、と言うことはできよう。

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