トマス・アクィナス 『神学大全』 (講談社選書メチエ)

著者 :
  • 講談社
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レビュー : 6
  • Amazon.co.jp ・本 (204ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062584548

作品紹介・あらすじ

神とは何か。創造とは、悪とは、そして人間の幸福とは?キリスト教の根源にトマスは深い洞察で答える。斯界の第一人者が『神学大全』をアクチュアルな挑戦の書として読み直す。

感想・レビュー・書評

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  • トマスの信仰を前提とした知的探究を、信仰に限界づけられた探究ととらえるのでなく、論理に限界づけられた現代の探究に対する「挑戦」と捉え直して、神、三位一体、悪、共通善、等々についてそれぞれ論じてみせている。

  • トマスの主著「神学大全」を捉えなおすという内容の本です。稲垣氏の著書を読むのははこれで2冊目になりますが,前著「トマス・アクィナス」(講談社学術文庫)を読んで以来,トマス哲学をもっと深く知りたいと思っていました。それが,こうした形でかなえることができたのは本当にうれしいことでした。
    著者は「神学大全」に記された数々の哲学的論考を,現代への挑戦として読み解いていきます。トマスに代表されるスコラ哲学は,現代では「極めて保守的で旧時代的」というイメージがありますが,著者はそれを,(ラテン語でも邦訳でも)数十巻に分かれた神学大全を「一冊の書物」として読みなおすことで打破し,新しい「大全像」を描出しようとします。その意気込みは充分に私たち読者を圧倒してくれるでしょう。具体的には,「神」「三位一体」「創造」「悪」「幸福」「共通善」という6つのテーマにそれぞれ1章ずつを割いて,論を進めていきます。そのどれもが,難しい内容でありながら,読んでいる私に切々と語りかけてくるような,そんな説得性を持っていた気がします。
    これらのうち,私の中で特に印象に残ったのは「神」「悪」「共通善」でした。最初のテーマ「神」では,トマスが「人間が神の存在証明をするは不可能であり,神は人間が理性によって最後の最後に到達するべき終着である」と考えていたのではないかという考察を加え,トマスの有名な「5つの道」の解釈を大きく転回させます。次に「悪は善の欠如である」とするトマスの考えをたどり,人間が悪に打ち勝つためには何が必要なのかという議論に一石を投じます。そして聞きなれない用語「共通善」をもう一度現代哲学の中に位置づけることによって,正義や政治にいま必要なのは,共同体にとっての「善」を考えるための「徳」を,市民一人ひとりが生涯をかけて培う努力なのではないかと提言します。どれをとっても,眼から鱗の落ちる内容です。
    トマスの哲学は読めば読むほど「危うい」と感じさせるほどのバランスの上に成り立っているような気がしてなりません。それゆえに解釈が難しく,(著者いわく)「トマス研究者でさえ解釈を誤ってきた」のではないでしょうか。思うに,「挑戦の書」として神学大全を紐解こうとした著者の試みそのものこそ,現代の哲学に対する大きな挑戦,もっといえば賭けだったのではないでしょうか。本書は「これまでのトマス哲学の流れ」を念頭に置いて論を進めているため,相当に難しい物になっています。しかし少なくとも私は,読み切るのに1カ月を要してしまいましたが,それだけの何がしかをつかむことができたのではないかと思っています。改めて,トマス哲学をもっと学びたいという気持ちにさせてくれた一冊です。

    (2011年5月入手・7月読了)

  • キリスト教徒ではない人間からすると、神学とそれにまつわる書物一般って、「結局、唯一神の存在を認めようとしてるだけでしょ」と思いがちなんだけど、というか、そういう部分は間違いなくあるわけだけど、そこだけ見てたらなんにもならないというか。西洋文明が世界を制した理由にキリスト教的思想があるのは間違いないわけですから。
    例えば、「神学大全」に書かれている最重要事項は「神の存在の証明」ではなく、「本性的に知ることを欲する人間の知的探究の試み、つまり知性の能力の限りを尽くして物事を理解しようとする試みを成せ」とのことです。なるほど。この時点で我々が抱く「一神教的ななにか」と大きく違う。原理主義的思考=「思考停止しろ」、ではなく「限界まで考えろ」とおっしゃってるわけです。
    そして。そういった思考の結果としての「法」のお話が書かれています。今著を読みますと、我々の「法」に対する認識と、キリスト教文化圏で成立した「法」の認識は根本的に大きな違いがあるんだなーとおもわざるを得ない。我々日本人の認識下の「法」っていうものは、結局「適法的正義」に基づくものでしかない。「法にのっとってさえいれば何をしてもイイ」「法さえブチ立てとけば後はなんとでもなる」。まさしく「最高の【正】は最高の【不正】」。とても醜いですよねえ。対して、キリスト教文化圏における「法」認識って、もっとなんていうか、イデア的、つまり、「神」的なものだったりするんですよね。この差はとてつもなく大きいですね。

  • 本書は、哲学・法哲学を専門とし

    現在は長崎純心大学教授である著者が、

    『神学大全』を独自の視点から解説する著作です。


    中世最大の哲学者であるトマス・アクィナスとその主著『神学大全』。

    511の問いと、それにに対する回答からなる本書について

    著者は、創造論のように神学上の重要な論点に加え

    幸福の意義、悪の存在、そして共通善など

    現在を生きる我々にとっても重要な論点に注目し、読み解きます。


    安易な妥協に落ち着くことなく

    徹底して思考し続けるトマスの姿に

    時として、著者自身が戸惑いながらも

    文理的整合性と、内容上の妥当性を兼ね備えた解釈を展開。


    善と悪の不可分な関係、正義と愛の峻別論

    などどの記述も興味深く

    本書をきっかけにもう一度深く学んでみたいと思いました。

    なかでも興味深かったのは

    三位一体論と関連付け論じる「神の存在」論です。

    我々が前提とする、近代的な人格=ペルソナ論とはまったく異なる理論は、

    キチンと理解できているのか怪しいのですが、

    「人格」を多面的に理解する手がかりにしたいと思いました。


    神学や倫理学はもちろん、

    法哲学、政治思想、経済思想など

    幅広い領域に根強い影響を与え続けるトマス。

    その思想を振り返るとともに

    我々の思考のあり方をもう一度根底から問い直す本書。


    トマスに興味がある方に限らず、

    物事をより深く考えたい方には強くおススメしたい著作です。

  • メモ)
    《Si malum est, Deus est.》:悪は善の欠如である。善の欠如たる悪が存在するなら善も存在する。従って、その原因たる神は存在する。
    共通善を対象とする法的正義。

  • 心の貧しい人は幸いである。天の国はその人たちのためにある。
    心の清い人は幸いである。その人たちは神を見る。
    神学と呼ばれる知的探求は、人間が究極目的である幸福の実現に向かって行う様々な働きの最高の部分に属するが、sれのみによって人間が幸福に到達することはできない。
    自分自身に打ち勝つこと。

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