藤原道長「御堂関白記」を読む (講談社選書メチエ)

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感想 : 3
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062585675

作品紹介・あらすじ

豊富な原文写真に翻刻・現代語訳・解説を付して、平安の最高権力者の日記がこの一冊でわかる!

世界記憶遺産に選ばれた、世界最古の自筆本日記は、摂関期の政務、儀式、外交、から当時の家庭生活、精神世界までを描いた藤原道長自身の記録である。
抹消された箇所、豪放磊落な筆致、破格の文体……。「披露すべきに非ず。早く破却すべき者なり」と道長が記したのはなぜか。摂関期に栄華を誇った権力者の揺れ動く心中と宮廷社会の実像を読み解く。

感想・レビュー・書評

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  • 『大鏡』や『紫式部日記』などを読むと、やっぱり気になるのが藤原道長。
    彼は政治の実権を天皇に仕える貴族がにぎっていた時代、 ひときわ大きな権力を持っていた。
    「この世をば……」の歌や、摂関政治全盛期の権力者ということから、道長には野心家で尊大なイメージがつきまとう。たしかに『大鏡』には、道長の栄華を讃える目的があったので偉大な道長像が描かれていた。けれど、『紫式部日記』や『枕草子』に登場する道長には、もっと身近な存在としての印象を受けるのだ。
    本当の道長ってどんな人物だったのだろう。道長の内面というものに迫りたくなり、道長の記した『御堂関白記』について書かれた本書を読んでみた。なお、世界最古の自筆本日記である『御堂関白記』は2013年6月18日「世界の記憶」に登録されている。

    本書『藤原道長「御堂関白記」を読む』は、『御堂関白記』の原本写真を撮影し、翻刻文(原文)と現代語訳、そして解説を並べ、わかりやすく日記の魅力が伝わるように構成されている。

    序章でまず目に入るのは、『御堂関白記』長保2年(1000)正月10日条の自筆本だ。
    そこには3行に渡り、かなり太い線で力強く黒々と消された印象的な抹消部分がある。
    この日、道長は彰子立后に対して一条の勅許が下ったと思い込み、安倍晴明を召して立后の雑「事」を勘申させた。ところが事実は、いまだに一条は彰子の立后をためらっていたとのことで、道長は慌てて〈彰子立后勘申に関する部分のみ〉を、一生懸命に抹消した……ということらしい。
    この日に書かれた日記全体を抹消するならば、道長が一条に対して立腹しているとか、彰子立后が成就しないことを悔しく思ってるとか、そんな想像もしてしまうけれど、「勘申」の部分だけを消したのならば、著者の言う「慌てて」消した可能性の方が高いのだろう。
    その墨を磨り直した形跡までもある、気合いを入れた消し方。それでいて墨がかすれていい加減な抹消となっている部分。そんな小さな痕跡を解読しながら、道長のその時の感情や人となりを想像するというのは、なかなか面白い試みだ。

    また同年正月1日条の日記には、道長の弱気な態度が見られる。
    参入した公卿の見参簿(出席簿)を一条に奏上しようとしたところ、公卿たちは道長を残して退出してしまう。明らかに公卿たちの失態なのであるが、道長は、これは儀式を主宰する自分が、それに相応しい人間ではないからであろうかと綴っているのだ。
    このように『御堂関白記』には、権力者道長の本来の姿が所々に顔を出す。

    現存する『御堂関白記』は、長徳4年(998年)から治安元年(1021年)に至る、道長33歳から56歳までの記事を収めている。
    そのなかでも、わたしが関心をもつ彰子が立后してから東宮敦成親王の即位(後一条天皇)、そしてそれにともなう道長の摂政就任……という頃の日記は特に興味深く読んだ。
    それに加え、この道長と一条天皇を中心とする時代には、『御堂関白記』だけでなく、実資の『小右記』、行成の『権記』の三種の日記が存在したのだから素晴らしい。なぜなら同じ出来事についても三者三様の記述を読み解くことができ、摂関政治と王朝文化の最盛期について、わたしたちは正確かつ緻密に知ることができるからである。

    しかしながら『御堂関白記』は、他の古記録とは異なり、自分の日記を他人や後世の人びとに見せることを想定していなかった。
    「件の記等、披露すべきに非ず。早く破却すべき者なり。」
    と道長は、寛弘7年暦巻上の標紙見返に書き付けている。
    道長はこの日記を、後世に伝えるべき先例としてではなく、自分自身(せいぜい直系の摂関)のための備忘録として認識していたのだろうと著者は述べる。自分の主宰した儀式に誰が出席し(逆に誰が欠席し)、どの身分の者に何を下賜したか。これこそが道長が後年にまで記録しておくべき出来事だったのだ。

  • ゆっくり読み進めている最中です。さらっと日本史を勉強した人にとって日本で最も誤解されている人物の一人じゃないか、とも言える道長の心が読み解ける本です。平安時代は日本史の中で「興味はあるけど割と苦手」という時代なのでこれをきっかけに苦手意識がなくなればいいな!

  • 千年前の出来事が現代に伝わっているのが素晴らしい。
    テレビで藤原道長は糖尿病だった?とやっていたので、歴史で学んだ以外のことがあるかなと思って借りたのだが、政治的なことが中心で少々期待はずれでした。
    権力者=悪人のイメージだったけど、道長はそこに至るまで、人をたて、気を配るなど、ちょっと見る目が変わった。

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著者プロフィール

1958年 三重県津市生まれ
1983年 東京大学文学部国史学専修課程卒業
1989年 東京大学大学院人文科学研究科国史学専門課程博士課程単位修得退学
1997年 博士(文学、東京大学)
現在 国際日本文化研究センター教授
著書 『 一条天皇』吉川弘文館、2003年
『壬申の乱』吉川弘文館、2007年
 『藤原道長「御堂関白記」を読む』講談社、2013年
『平安朝 皇位継承の闇』角川学芸出版、2014年
『蘇我氏 古代豪族の興亡』中央公論新社、2015年
『戦争の日本古代史』講談社、2017年
『『御堂関白記』の研究』思文閣出版、2018年
『内戦の日本古代史 邪馬台国から武士の誕生まで』講談社、2018年
『公家源氏 王権を支えた名族』中央公論新社、2019年
『皇子たちの悲劇皇位継承の日本古代史』KADOKAWA、2020年
『平安京の下級官人』講談社、2022年
『平氏 公家の盛衰、武家の興亡』中央公論新社、2022年

「2022年 『藤原氏の研究 普及版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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