「社会」のない国、日本 ドレフュス事件・大逆事件と荷風の悲嘆 (講談社選書メチエ)

  • 講談社 (2015年3月11日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (256ページ) / ISBN・EAN: 9784062585989

作品紹介・あらすじ

20世紀初頭に日仏両国に勃発した二つの事件。冤罪被害者は、なぜフランスでは救われるのに、日本では救われないのか? 二大事件とそこに関わった人々のドラマを比較し、日本に潜む深刻な問題が白日の下にさらされる。「日本」という国家はなくても、日本という「社会」は存在できる。永井荷風の悲嘆を受けて、「共に生きること(コンヴィヴィアリテ)」を実現するための処方箋を示す、日本の未来に向けられた希望の書。


本書は、国家による冤罪事件として知られるフランスのドレフュス事件(1894-1906年)と日本の大逆事件(1910年)を取り上げ、日仏両国の比較を通して、日本に見出される問題が今日もなお深刻なまま続いていることを明らかにする。
スパイの嫌疑を受けて終身刑に処せられたユダヤ系の陸軍大尉アルフレッド・ドレフュスは、軍部や右翼との闘いの末、最終的に無罪になった。その背景に作家エミール・ゾラをはじめとする知識人の擁護があったことはよく知られている。一方、天皇暗殺計画を理由に起訴された24名が死刑宣告を受けた大逆事件では、幸徳秋水をはじめとする12名が実際に処刑されるに至った。
二つの事件に強く反応した永井荷風は、ゾラと自分を比較し、自分の情けなさを痛感した、と告白している。そこで刻み込まれた悲嘆の深さは、荷風に戯作者として隠遁生活を送ることを余儀なくさせるほどだった。
ここに見られる違いは、どうして生まれたのか。本書は、両事件を詳しく分析することで、その理由が日本には「社会」がないという事実にあることを突きとめる。「日本」というのは国家の名称に尽きるものではない。国家が存在しなかったとしても、社会は存在しうる。そして、国家が個人に牙を剥いてきたとき、社会は個人を救う力をもっている。しかし、この国には、国家はあっても社会はない。それが、ドレフュスは無罪になったのに、幸徳らは見殺しにされた理由である。
今日も何ら変わっていないこの事実に抗い、「共に生きること(コンヴィヴィアリテ)」を実現するための処方箋を示す、日本の未来に向けられた希望の書。

感想・レビュー・書評

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  •  なかなかの力作。ゾラと幸徳秋水のあいだに永井荷風を挟んだことで、著者の<日本には社会(コンヴィヴィアリテ)がない>という主張がより立体的に、説得力をもって展開されているように思う。
     あえて蛇足を言わせてもらえば、福沢諭吉の<古来の因習に国家という文字あり。この家の字は人民の家を指すにあらず。執権者の家族または家名という義ならん。故に国は即ち家なり、家は即ち国なり。甚だしきは政府(幕府、明治政府‥)を富ますを以て御国益などゝ唱うるに至れり。‥‥古来、日本においては政府と国民とは唯に主客たるのみにあらず、あるいはこれを敵対と称するも可なり、‥‥これを同国人の所業というべからざるなり>(『文明論の概略』巻之五 第九章)という一文を頭に入れて読むと、著者の言わんとするところがより鮮明に理解できるように思う。
     福沢に言わせれば、本来<知>と<理>の領域である<国>と、<情>の領域である<家>という本来両立しえない語をあえて混同するところに、日本の政治や社会の特徴、性格が凝集されているというのである。
     本文中に山縣有朋の密奏が紹介され、そのなかで<国家>ではなく<家国>という穂積八束のゴマスリ的な語が使われているが、これも国家という言葉のもつ曖昧性、功利性を逆用したもので、大逆事件もこのような政治風土が生み出したものなのである。
     フランス革命後のフランス社会は少なくとも<朕は国家なり>というような国家ではなく、<国>と<家>を分離するという共通理解がある程度までは浸透しており、そこからドレフェス事件と大逆事件に対するそれぞれの社会の対応の差が生じてきたといえよう。

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著者プロフィール

1969年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科教授。博士(社会学、一橋大学)。専門は、社会学・社会学史、社会哲学・社会思想史。著書に『トクヴィルとデュルケーム』、『「社会」の誕生』、『「社会」のない国、日本』など。

「2018年 『社会学的方法の規準』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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