国際紛争を読み解く五つの視座 現代世界の「戦争の構造」 (講談社選書メチエ)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062586177

作品紹介・あらすじ

本書は、現代国際社会の全体動向のなかで紛争を理解していくために、いくつかの代表的な理論を題材として取り上げながら、構造的に武力紛争の背景を探ることを試みた。
 第一章では、まず現代国際社会の秩序の特徴を見たうえで、国際秩序への挑戦として紛争をとらえることを論じた。第二章は、東アジアに焦点をあて、勢力均衡の理論的視座を用いながら、紛争構造を分析することを試みた。第三章は、ヨーロッパに焦点をあて、地政学の理論的視座を用いた分析を試みた。第四章は、中東情勢を論じるにあたって、文明の衝突という考えかたを参照してみる作業をおこなった。第五章は、アフリカを格差社会としての国際社会の問題としてとらえるために、世界システム論などを手がかりにすることを試みた。第六章は、アメリカによる対外的な軍事行動を、成長の限界を克服するための運動としてとらえることを試みた。
 本書がこれらの試みをおこなったのは、日本においてとくに、紛争分析に問題関心が集まる機会があまりなく、とくに理論的な視座を駆使した分析の機会が少ないことを補うという意図をもってのことであった。
 本書の議論だけでは不足があることは当然だ。しかし紛争分析とは、単に混沌とした情報を並べることではなく、ときには理論的視座も駆使しながら、目に見えない社会の動きの性格を把握していくことなのだということを、少しでも示唆することができたとすれば本書の執筆にはそれなりの意味があったということになるだろう。
(「むすびに」より)

感想・レビュー・書評

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  • 非常に頭が整理される『国際紛争を読み解く五つの視座』 | アゴラ 言論プラットフォーム(2016.10.30)
    https://agora-web.jp/archives/2022373-2.html

    『国際紛争を読み解く五つの視座 現代世界の「戦争の構造」』(篠田 英朗):講談社選書メチエ|講談社BOOK倶楽部
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000195576

  • 国際政治 東アジアの政治的勢力均衡を通しで解説
    欧州地政学
    大学の時以来見たウォータースタインの世界システム論
    など 思考の軸を提供してもらった。
    良書と思う。

  • 世界各地で発生している紛争の背景を理論的に理解でき、読みやすかったです。

    日本では、こういった冷静な議論が少ないため、とても勉強になりました。

  • 国際紛争というよりも地政学を戦争とからませてわかりやすく説明した本である。ハンチントンがアメリカに与えたイスラムという考え方の影響をアメリカが無視してきたインディアンとの関係からもっと深く書けばよかったような気がする。ただし、地政学についてまったく知識がない学生にとっては入門書として適しているかもしれない。

  • 開発目標16:平和と公正をすべての人に
    摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB99820430

  • 日本人にとって他人事と思われがちな紛争について5つの理論的視座を地域とその歴史を通して対立の本質的要因を解いた本著はとても興味深かったです。正直、自分も意識的に注意しないと中東紛争など日本には関係ないと思ってしまっていた節がありました。しかし、他国(特にアメリカという超大国)と密接な関係を持ち、中国やロシアと地理的距離も近い日本こそ世界中の紛争に深く関係している事に気づかされ、事の重大さを思い知りました。今物議を醸している香港問題は米中対立や中国の東シナにおける台頭と拡張が挙げられていますがその背景にある地政学や勢力均衡、文明の衝突等の存在に文献のおかげで着眼することができました。
    本著を通して普遍化した自由主義の①留保(韓国の立ち位置によって実現される勢力均衡やマッキンダーの理論を通して知った地政学)、②挑戦(中東混乱の根底にある西洋文明とイスラム文明の対立とその解決の有限性)、そして③欠陥(西洋的国民国家制度が馴染まない上に経済的不利で国際社会で行き詰まるアフリカ)について学び、その背後に自由主義を提唱し「明白な運命」を理由に拡張と侵略を正当化し成長を続けてきたアメリカの存在がある事が大変わかりやすく繋がりました。
    そこで考えたのはまず成長と進歩についてです。アメリカの成長に対する執着は明白な運命という言葉と思想によって正当化された利己的な行動を促し、国際秩序を混乱させ世界情勢に悪影響を及ぼしてきたという点は以前から感じていました。しかし本著ではアメリカの上昇志向なくては限界を超えようとする存在が居なくなり、人類の発展をもストップさせてしまうと指摘されており、大変興味深く目から鱗でした。それもそれで困ると感じたと同時に、終盤の日本の格差問題の部分であるように「成長の限界を受け止める」事も必要なのではないかと考え、一度立ち止まって既存の問題を解決する事も成長なのではないかと思います。成長とは物事が大きくなる事と定義づけられがちですが、私は成長という言葉が持つ進歩の意味に着目すべきだと感じています。これまでは物事を大きくすればするほど新しい価値が生まれ社会は育っていました。しかし現代の世界に求められているのは拡大的な成長ではなく道徳・倫理の意味での成長、進歩なのではないでしょうか。
    次に日本の外交について論じられている「曖昧さとの折り合い」の点について考えました。2章で言及されているように外交政策を通して達成しようとする目標に一貫性を大切にし、同時に目標達成の為に臨機応変かつ柔軟な対応が必要である為、時には曖昧な態度もとることが必要だという点に同意見です。日本の外交は曖昧な故に弱腰と批判されることが多いですが、批判すべきはその態度よりも外交目標の透明性さが故に起こる「軸」の欠如だと思いました。そもそも目標が不透明なのは目標がないからなのか、何を目標とすればいいかわからないのか、もしくはその他に理由があるのかは分かりませんがこの部分を明確にしない限り日本の外交は進展しないと思います。その目標に何を設定すべきか考えさせられ、香港問題や移民・難民問題を中心に日本もイギリスのようなバランサーとしての役割を担い実行する事はできないのだろうかとふと思いました。
    また、地政学の重要さは分かったのですがその本来の意味について十分に理解できていないと感じ、更に学びを深めたいと思いました。

  • 「『複数の人間(集団)が、相容れない目的をもっているとき』、紛争は生まれる」(P14)。分析のスタートとして的確な定義だと思う。つまりそう簡単に紛争はなくならない、ということだ。では不安定なりに維持しなければならない秩序とは何か。

    著者が強調するのは、世界のそれぞれの地域に「国民」が存在し、その「国民」が「国家」を形成しているというしくみ(P38)自体が、せいぜい20世紀後半に確立したものであること、このいわば「今たまたま」の国際秩序を費用対効果に見合った方法で維持できるのか、その答えは見つかっていないこと(P42)、の二点。

    当たり前だが、すべてを整合的に説明できるような統一理論は社会科学には(今のところ)存在しない。ただ冷静な観察からある種の傾向を見つけることは可能、ということは言えそうだ。

  •  「勢力均衡」を東アジアでの中国と台頭を米中関係を例に、「地政学」をNATOの東方拡大とロシアの反応を例に、「文明の衝突」を「テロとの闘い」を例に、「世界システム論」を奴隷貿易以来のアフリカを例に、「成長の限界」を19世紀以降の米の拡張主義を例に、それぞれ解説している。国際関係の理論に対しては難解だと敬遠しがちだったが、現実の地域情勢を例にしているため肌感覚で理解しやすかった。
     筆者は末尾で、理論の万能性を唱えるわけではない、また一つの地域情勢を見る時に複数の理論的視座を提供することで有効となる可能性を否定しているわけではない、と述べている。実際、文明の衝突論による東アジアの分析には疑問を呈してもいる。それでも、現実の国際情勢を見る上での一歩引いた視座の可能性・有効性に気づかせてくれた。しばしば巷で言われる地域研究と国際関係理論研究の繋がりにも関係してくるのではないか。
     文明の衝突論は9.11テロの発生前であり、主権国家間の闘争を想定していたが、今日の中東では主権国家内で既得権益を守る者と彼らを否定する者との間で発生している、と筆者は述べる。主権国家を否定する者からすれば自分たちがイスラム文明を代表しているというわけだ。現実の方が進化しているということなのだろう。

  • とても読みやすく勉強になる本だった。
    この本の前に、安保論の本を読んだ。
    その本だけ読んでいたら、言われてみればそうだ!ってことばかりだったんだけど、その後にこの本を読み、そもそもこの世界の作りを知って、安保論の世界観は未来永劫続くものではないし、そもそもこの価値観は欧米諸国主導で作られたものであって、脆いものなのだ。

    こんなことを考えながら、ニュースを見ているとかなり怖い。
    世界の中の日本、という考え方から目をそらして、私たちはこうだからって言いたくなる気持ちも分かるけれど、それじゃあ滅びるんだなぁ。

    1歳になったばかりの甥っ子の将来を案じつつ、じゃあどうしよう、ということを考える本だった。
    おススメ。

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著者プロフィール

1968年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。同大大学院政治学研究科修士課程修了。ロンドン大学ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス(LSE)博士課程修了、Ph.D.(国際関係学)を取得。広島大学准教授、ケンブリッジ大学客員研究員などを経て、東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授(国際関係論)。著書に『平和構築と法の支配――国際平和活動の理論的・機能的分析』(創文社、大佛次郎論壇賞受賞)、『国際社会の秩序』(東京大学出版会)、『「国家主権」という思想――国際立憲主義への軌跡』(勁草書房、サントリー学芸賞受賞)、『国際紛争を読み解く五つの視座――現代世界の「戦争の構造」』(講談社)、『集団的自衛権の思想史――憲法九条と日米安保』(風行社、読売・吉野作造賞受賞)など多数。

「2023年 『戦争の地政学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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