九鬼周造 理知と情熱のはざまに立つ〈ことば〉の哲学 (講談社選書メチエ)

著者 :
  • 講談社
4.13
  • (1)
  • (7)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 54
感想 : 4
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062586306

作品紹介・あらすじ

『「いき」の構造』(1930年)で知られる哲学者・九鬼周造(1888-1941年)は、東京帝国大学を卒業したあと、ヨーロッパに留学した。ドイツではリッケルト、フッサール、ハイデガーに学び、フランスではベルクソンと知り合って対話を交わすなど、本場で哲学の訓練を受けたことが知られる。帰国後は没年まで京都大学哲学科で教授を務めてフランス哲学や現象学などを教える一方、留学中に強く認識した日本の美と文化を追求して、『「いき」の構造』を執筆するに至った。続いて発表された『偶然性の問題』(1935年)、『人間と実存』(1939年)、『文芸論』(1941年)といった著作を手に取ればすぐ分かるように、九鬼が関心をもった対象は、「偶然性」、「時間」、「美」、「押韻」など、きわめて多岐に及んでいる。
多様な姿を見せる九鬼の哲学には、しかし一貫した問題意識がある。──本書は、そのような視点から、九鬼周造という神秘と魅力に満ちた人の生涯をたどり、すべての主要著作をていねいに読み解いていく。
哲学書はもちろん、『ウパニシャッド』などの古代インド文献、『ミリンダ王の問い』や『浄土論』などの仏教文献、さらにはボードレールやヴァレリーの詩、富士谷御杖の歌論書にまで及ぶ膨大な文献から、明確な輪郭をもつ理論を彫琢していく力。さまざまな現象から聴き取ったものを論理的に把握し、緻密に構造化する力。九鬼周造という哲学者だけがもつその力のありかに、近代日本哲学研究の第一人者である著者が迫る。
 「〈ことば〉の哲学」というキーワードを手がかりにして、九鬼の生涯と全思索を魅力ある筆致で描ききった本書は、最良の入門書であるだけでなく、他では体験できない知的冒険をもたらしてくれるだろう。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 九鬼さんの人柄、物語が分かる一冊。
    『偶然性の問題』、『文芸論』を買って読んでいるのだが、その一助になればと思い、図書館で借りた。
    53歳という若さ?で亡くなられたのが残念。
    1920年代に留学を結構長くされていたことに驚き。
    西田幾多郎がいた京都大学に留学後、赴任。
    東京とは違う文化圏にいたことが思想に影響していると思う。岡倉天心との関係のところも面白い。
    ベルクソン、ベッカー、萩原朔太郎を読んでみよう。

  • 「「いき」の構造」を昔読んで、がなんとも面白くて、興味をもっていたのだけど、なかなかそれ以外の作品には触れないまま、忘れていたのだけど、ふと気になって、読んでみた。

    なるほど、「「いき」の構造」を読んだ時に感じた、日本文化のクオリティを探求していこうという感覚の繊細さと西欧的な明晰な構造分析の統合みたいなのが、九鬼周造の読みどころなんだなと思え、うれしかった。

    そして、九鬼の他の主な著作も全体が見晴らすことができて、今後、なにを読めばいいかわかったのもよかった。

    なんか、この人、わたしが問題としているところと近いところで考えているんだなと妙なしたしみを感じた。少しづつ読んでいこうと思う。

    ちなみん、九鬼は当時としてはかなり長い8年間ヨーロッパに留学して、ハイデッガーやフッサールなどの講義を聞いたり、若き日のサルトルと交流があったりしたみたいで、その辺を想像するとすごく面白い。

    九鬼とハイデッガーが交流していたころは、もしかするとハンナ・アーレントがハイデッガーと恋愛関係にあったりしたかもな時期で、九鬼とアーレントとの遭遇なんかもあったりしたかもとか想像するのも楽しい。

    もっとも、アーレントが有名になったのは、第2次世界大戦後で、九鬼は1941年になくなっているので、もし出会っていたとしても、当時のアーレントは全くの無名時代なので、気づかなかったかもな〜。

    それにしても、20世紀の哲学におけるハイデガーとフッサールの影響の大きさを改めて感じるな〜。

  • 20200118 中央図書館
    『いきの構造』も、岩波文庫では薄い本に見えるが、適当に読もうとおもっても読みこなせない。しかし、一般人の手でも、すこし背伸びしたら手が掛かるかな、と感じさせる闊達さが九鬼の思想にはありそうだ。

  • 日本独自の美意識である「いき」について哲学的な考察をおこなったことで知られる九鬼周造の生涯と思想を、わかりやすく解説している本です。

    主著とされる『「いき」の構造』や『偶然性の問題』のほか、九鬼の回帰的時間論、日本文化論、文芸論などが扱われています。とくに『「いき」の構造』と『偶然性の問題』がとりあげられている章では、単行本にまとめられる以前の九鬼の思索の過程をたどることで、彼が何を問題にしていたのかがていねいに解き明かされています。比較的平明に書かれた本ではありますが、この点では研究書というべき内容をそなえているように思います。

    本書と同じような趣旨で書かれた九鬼哲学の解説書としては、ほかに田中久文の『九鬼周造―偶然と自然』(ぺりかん社)があります。田中の本では、九鬼の日本文化論が「自然」の一元論に回帰していったことについて批判的な態度がとられていますが、本書はこれとはやや異なる立場から九鬼の日本文化論の評価がおこなわれています。著者は、九鬼の議論に当時の国家主義的な潮流の影響が見られることを認めつつも、日本文化を世界に開かれたものにしていくような可能性をもっていたことに注目し、その積極的な意義を見ようとしています。

    両方の著作を併せて読むことで、九鬼の思想を読み解くための機軸を得ることができるのではないかと思います。

全4件中 1 - 4件を表示

著者プロフィール

1949年生まれ。京都大学名誉教授。京都大学大学院文学研究科およびドイツ・ボーフム大学哲学部ドクター・コース修了。哲学博士。専門は哲学・日本哲学史。著書『哲学のヒント』(岩波新書)、『はじめての哲学』(岩波ジュニア新書)、『大正史講義【文化篇】』(共著、ちくま新書)など。

「2022年 『西田幾多郎『善の研究』を読む』 で使われていた紹介文から引用しています。」

藤田正勝の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×