石の花(1)侵攻編 (講談社漫画文庫)

著者 :
  • 講談社
3.96
  • (45)
  • (34)
  • (44)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 350
感想 : 41
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062602440

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 28pから始まる、フンベルバルディンクの台詞。

    ぼくは野山を歩くのが好きなんだ……。
    ヘェェ……もうひなげしが蕾をつけているぞ。
    (わあほんと)
    きみたち突然変異って知ってるかい?
    (知らないね)
    生物が……親の系統になかった新しい性質が、突然生物体に出現し、それが遺伝する現象のことなんだ。
    つまり今まで続いていたものと違う形や性質が、ひょっこり現れるんだよ。
    フーホ・ド・フリースという人の説なんだが。
    それ以前にダーウィンは自然淘汰を唱えていた。
    これは環境の変化など生存環境の結果、適者生存して子孫を残し、劣者は子孫を残さずに亡びるということなんだ。
    弱肉強食だ。
    (あ……)
    どちらも、生物の進化がどのように行われるかという説明だ。
    つまりこの花が新種をつくるのは、この花の中に変化をもたらすものがあるという説と、外からの刺激によるという説だね。
    そのどちらが自然の摂理か、あるいは両方なのかわからないが、ぼくはそのことからこんなことを想ったんだ。
    力と運命……。
    人間は過去へも未来へも行ける。
    記憶、思い出……理想、憧れ……。
    それは人間の力だ! 才能だよ。
    ぼくにも、クリロ、フィー、きみたちにもあるんだよ。
    人間は現実の時間を歩きながら、頭の中で時を戻ったり先へ進んだりできるってことなんだ!
    100万光年先の星も想い浮かべられるってことなんだ。
    (なんだか空想小説みたい……)
    そう、空想さ。
    空想できるのは生物の中で人間だけだ。
    今、僕が空想しているのは、カエルの子はカエルじゃなくなるっていう空想さ。
    (なんだかむずかしいわ……)
    (じゃあ人間の子は人間じゃなくなると何になるのさ。ドラゴンかい。ハハハハ……)
    ああ、もしかしたらね!
    (チェッ! 謎々みたいなことばかりいうな)

  •  仕事上の必要があって、坂口尚の『石の花』全5巻を再読。

     以前に何度も読んでいるのに、読み始めると作品世界にぐいぐい引き込まれ、改めて感動してしまった。やはり名作だと思う。

     旧ユーゴスラビアが第2次大戦中にナチスドイツの侵攻で分割・占領され、1945年に解放されるまでの激動の5年間を描いた大河マンガである。
     対独パルチザンに加わる少年クリロを中心とした群像劇であり、“『戦争と平和』のマンガ版/ユーゴスラビア版”という趣もある。

     5つの民族・4つの言語・3つの宗教・2つの文字を持つ複雑な国であったユーゴ。その入り組んだ現代史が巧みに作品に組み込まれ、知識のない日本人にもすんなり物語の中に入ることができる。また、強制収容所での大量虐殺など、ナチスの蛮行についても理解が深まる。

     妙に観念的になってしまうラストにはちょっと首をかしげるが、作品全体の素晴らしさの前では、それは瑕瑾にすぎない。

     なんといっても、絵がよい。うまいのはもちろんのこと、画面構成や構図などがいちいちバシッとキマっていて、ハイセンスなのだ。
     とくに、全編冒頭のカラーページのなんと見事なこと。1ページ1ページが立派な絵画作品のようだ。

     坂口さんには、某出版社の忘年会で一度だけお目にかかったことがある。背が高くてハンサムなカッコイイ人だった。
     49歳という若さでの早逝が、いまさらながらつくづく惜しまれる。

  • ユーゴスラビア クロアチア首都ザクレブ クリロ フィー 鍾乳洞 自然淘汰 適者生存 弱肉強食 謎々 スロヴェニア プラム アーリア人の奴隷 造花 平等こそ頽廃をもたらす 生存とは闘争そのものだ 凡俗はガス室送り 鉤十字=ハーケンクロイツ ハイルヒットラー 我が闘争 イヴァン

  • 全5巻。ユーゴのことがよくわかる、という触れ込みの作品だけど、その通り。そしてそれに加えて、戦争についても考えさせられる作品だ。


    クロアチアとVSセルビア。カトリック教徒VSムスリムVS正教徒。コソボ。ボスニア。言葉だけはよく聞くけど、何がどうなっているのかあまりよくわからない。ただでさえ複雑な旧ユーゴスラビアの状況なのに、日本に入ってくる情報はアメリカおよび西ヨーロッパ経由のため、けっこう偏りがあったらしい。まあ、偏っていようがいまいが、ユーゴスラビアはあまりにも日本には馴染みが薄かったので、関心を持つ機会も少なかったと思う。それなのに、この作品。作者が第2次世界大戦下のパルチザンに興味があったらしいが、当時のユーゴの状況がものすごくわかりやすく描かれているし、現在の状況を理解する手助けになると思う。


    パルチザンはクロアチア人など非セルビア人が多く、セルビア人はまた別の抵抗組織「チェトニク」を作っていたというのも初めて知った。そして、「ウスタシ」というナチスの協力機関もあったということも。物語では一応パルチザンが主役ではあるが、彼らに対する民衆の不満も描かれているところはフェアだと思う。それにしても戦後、こうした様々な民族をまとめあげて、曲がりなりにも約50年、大きな紛争もなく統治していたチトーに、ちょっと興味がわいた。……いやもしかしたら、本当はチトー政権下にも、何かあったのだろうか。


    なんとなく物語は唐突に終わる感じがするのが気になるが、妬み、羨み、恨みなどがうずまく収容所やパルチザン、ナチスの内部での人間模様がリアル。

  • 7つの隣国、6つの共和国、5つの民族、4つの 言語、3つの宗教、2つの文字により構成される1つの国と表現されたユーゴスラビアが、第二次世界大戦時、ナチス・ドイツの侵攻を受けた際の物語。
    チトーなど一部実在の人物も登場。

    これでもかという大胆で精緻な画が戦争の恐ろしさと悲しさを、同じ人間同士で殺し合う愚かさをリアルに伝えてくれる。
    とても深くて重いテーマを扱っているので読んでいると心が疲れますが…名作です。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「とても深くて重いテーマ」
      生きるために殺し、生きるために裏切り、理想を追って斃れる。そんな風に人を焚き付けるモノは何なんだろう?
      坂口尚は...
      「とても深くて重いテーマ」
      生きるために殺し、生きるために裏切り、理想を追って斃れる。そんな風に人を焚き付けるモノは何なんだろう?
      坂口尚は、ユーゴ解体を見ずに亡くなられた。もし生きていたら、どんな「石の花」を描いただろう?
      2012/12/18
    • 05さん
      読了したのが昔過ぎてかなり話の内容忘れてました。作者はすでに鬼籍に入られたのですね。再度読んでみたいです。
      読了したのが昔過ぎてかなり話の内容忘れてました。作者はすでに鬼籍に入られたのですね。再度読んでみたいです。
      2020/05/16
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      手元には、この文庫版がありますが、絵が巧いので大きな判で再読したいと思っています。古本屋で探さなきゃ、、、
      手元には、この文庫版がありますが、絵が巧いので大きな判で再読したいと思っています。古本屋で探さなきゃ、、、
      2020/07/16
  • (『世界史読書案内』津野田興一著 の紹介より;)
    ・世界史を学ぶ人すべてに読んでもらいたい漫画の一つ。部隊は1941年から45年のユーゴスラヴィア。複合多民族国家の典型ともいえるこの国は、WW1か大戦後の民族自決原則の適用を受け、南のスラヴ族の寄せ集めとして誕生した。スロヴェニア人、クロアチア人、セルビア人、マケドニア人など。「七つの国境線、六つの共和国、5つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家」と揶揄される、世界に類を見ない複雑な構成を持つ国。社会主義国でありながら自主管理をおこなってソ連に対する独自路線を貫き、非同盟諸国のリーダーでもああった国。ここからは、「国家とは何か」「民族とは何か」「社会主義とは何か」「宗教と国家の関わりについて」など、様々な問題のケーススタディを導くことができる。
    ・絵の美しさ、ストーリー性、歴史的背景の正確な把握、いずれをとっても一級品。
    ・さらにユーゴスラヴィアの歴史をより深く学びたい人には柴信弘『ユーゴスラヴィア現代史』を推薦する。

  • ウクライナと重複する、戦争はだめだ!

  • 2022.6.5市立図書館
    もうずいぶん前から一度は読まなくてはと思っていたが(縁のある土地の話であり米原万里の力強い推薦もあり)、ロシアとウクライナの情勢が緊張をはらむ中、KADOKAWAの戦争を考えるための電子書籍版0円販売という大盤振る舞いキャンペーンがあり、好機に乗って「戦争は女の顔をしていない」ともども全巻ついに入手。といっても、行きつ戻りつしながら読む私のスタイルで慣れない電子書籍を読むのはやはりしんどいので、まずは図書館で借りて読み進めることにした。

    初出「月刊コミックトム」(潮出版社)1983年3月号〜10月号に加筆。

    旧ユーゴ内スロヴェニア地方のダーナスという小さな村(ポストイナにほど近いあたり?)の少年クリロと幼馴染の少女フィーの二人の運命を追って物語は進む。冒頭ののんびりした日常があっというまに失われ、クリロとフィーそれぞれに激流に流されていく。クリロたちの学校に新任教師として着任したばかりだったフンベルバルディンク先生はいったいどこへ行ってしまったのだろう。他にもたくさんの謎がちりばめられており、続きが気になる。
    地名を見ても、強制収容所やパルチザンにまつわるエピソードを見ても、スロヴェニアに住んでいた二年間に見聞きしたこと学んだことがあれこれ思い出されて胸がいっぱいになる。ポストイナの鍾乳洞ツアーの様子などずいぶんリアルだけれど、まだ旧ユーゴだった時期にどうやって取材したのだろう。「アドルフに告ぐ」にも見劣りしない内容で、虫プロ出身、手塚治虫の後継と言われていたというのも納得。作者が早くに亡くなったことが惜しまれる。

  • 読み始めるまでに時間がかかったけれど、読んでよかった。

    漫画の知識だけであたかも分かったかの様に思ってはいけないのだろうけれど、日本人に遠い国の内戦について考えるという思いを向けてくれる。



  • 20171108読了
    1996年出版。第二次世界大戦中にドイツの侵攻を受けた、ユーゴスラビアの歴史。殺戮の場面が多くて読んでいるともう勘弁と思うけれど、それが戦争の現実。多民族国家であったり隣国と地続きであったりと、日本と条件がずいぶん違うから感覚としてなかなかピンとこないユーゴの歴史を、少しでも知ろうとして読んでみた。米原万里の著作で知った漫画。

全41件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

坂口尚(さかぐち ひさし)
1946年5月5日生まれ。高校在学中の1963年に虫プロダクションへ入社。アニメーション作品『鉄腕アトム』『ジャングル大帝』『リボンの騎士』等で動画、原画、演出を担当。その後フリーとなり、1969年、漫画雑誌「COM」誌に『おさらばしろ!』で漫画家としてデビュー。以後多くの短編作品を発表。アニメーションの制作にも断続的に携わり、24時間テレビのスペシャルアニメ「100万年地球の旅 バンダーブック」「フウムーン」等で、作画監督、設定デザイン、演出を担当。1980~82年、代表作の一つとなる『12色物語』を執筆。1983~95年にわたって、長編3部作となる『石の花』『VERSION』『あっかんべェ一休』を発表。1995年12月22日逝去。1996年、日本漫画家協会賞 優秀賞を受賞。

「2019年 『坂口尚 トム=ソーヤーの冒険』 で使われていた紹介文から引用しています。」

坂口尚の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ウィリアム・ゴー...
吾妻 ひでお
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×