八ケ嶽の魔神 (文庫コレクション大衆文学館 く 1-2)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062620437

感想・レビュー・書評

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  • 日本の伝奇物が読みたい!ということで国枝史郎を手に取った。
    解説に「国枝史郎にしては珍しく完結している」と書いてあった。どういう扱いの作家だ 笑。
    私が読んだ『神州纐纈城』
    https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4309408753#comment
    も風呂敷広げまくって未完でした。読者としては面白いからいいんだ!というつもりで読まなければいけませんね 笑

    ===
    かつて諏訪湖の城で橘宗介と夏彦兄弟は、柵姫(しがらみ姫。なんかすごい名前だな)を得ようとして激しく戦う。十四年に及んだ戦いで双方の郎党共は死に絶え、ついに兄の宗介が弟の夏彦を打ち取った。だが夏彦を待ちわびていた柵姫は、夏彦との間の久田姫を残して自害した。
    宗介は人界を捨て八ヶ嶽へ入り窩に住み、人間を呪い人間に厄災を及ぼす魔界の天狗となる。やがて人の世に恨みを持つ者たちが宗介を頼って集落を作る。彼らは窩に住む「窩人(かじん)」となった。

    一方久田姫も諏訪湖の畔に隠れ住み、天主教(キリスト教)と神道の陰陽術の一体化した宗教を樹立していた。彼らは「水狐(すいこ)」として代々「久田」の名を継ぐ巫女を中心とした宗教集団となる。

    窩人と水狐は、開祖からの恨みと呪いを引き継ぎ、互いを仇としていた。

    ここに窩人の血を引く少年がいる。
    幼名を猪太郎(ししたろう)、山を降りてからは内藤駿河守の重臣の鏡弓之進の養子、鏡葉之助(かがみ・ようのすけ)となる。彼こそが宝を盗まれた窩人の恨みを晴らす宿命を負っていたのだ。その宿命をささやくのは、葉之助の腕についた人面疽。恨みを忘れるな、仇を討つのだ。
    内藤駿河守の近習となった葉之助は、諏訪湖で駿河守の親族である諏訪家に祟った水狐の巫女を切り捨てる。
    だがそれにより水狐からの呪いを身に帯びてしまう。

    窩人と水狐の恨みを背負わされた葉之助は、追い立てられるようにして血の味に溺れるようになる。

    やがて駿河守とともに江戸に勤務となった葉之助は、駿河守の家督争いに巻き込まれる。
    ついに葉之助を要とした窩人と水狐による、妖術使いに獣使い、そして野生の獣達が入り乱れての血みどろの大合戦が始まる。

    ===
    代々の恨みを宿命として続く二つの種族、宿命を背負った若者、山の暮らし、怪しい宗教秘術、お家騒動。
    仕掛けをたっぷり巻き散らかして、縦横無尽に広がる伝奇物語。
    主人公葉之助は、摩訶不思議な生まれ育ちをした大層な美青年で、武芸に優れ、妖怪退治にお家騒動黒幕退治に活躍して駿河守の信任も厚いのだが、ちょこちょことドジっ子っブリも見せる。
    そんな主人公が呪いを受けて血の味を覚えちゃって…という展開には驚いた、そしてそんな大問題を起こしながら不問というのみの驚いた 苦笑。
    話が全体的に勢いでその場その場で書いている感じなので、「あの人どうなった?」「あの問題これで終わり?」という投げっぱなしも割とある^^;
    終盤の争いも男女の淫行乱交の場から、獣による血みどろの戦いへとなだれ込み、両勢力総力を挙げての大合戦…のわりには引き際はあっさりしていたし。

    しかしそれでもとても楽しく読みました。やっぱり絢爛豪奢な伝奇物語は面白い!
    そしてラストは案外平穏でした。
    代々の敵同士の種族は睨み合ったままだし、葉之助の呪いも解けない。
    しかし平穏に過ごすこともできるんじゃないか。
    うん、恨みも呪いものそのままで、それでも静かなラストは悪くない。

  • 稀代のストーリーテラー国枝史郎の3大伝奇小説のひとつ。母の呪詛を浴びて育ち不死の呪いを受け、おまけに腕には人面瘡がある鏡葉之助を主人公に、母の仇を討つべく一族をかけて水狐族と戦う伝奇長篇!話は複雑だがとにかく面白い。スピーディな展開に、溢れるように出てくる登場人物たち。勧善懲悪ではない。出てくる者たち皆んな悪人なのだ。いつも話が膨らみ過ぎて最後まで書けない国枝が最後まで書いたことも凄い。


  • 個人的には神州纐纈城の方が好み。
    こっちはそれよりも不気味さとか残忍さが抑えられててそれが逆に神州纐纈城を読んだあとやと物足りなく感じてしまった。
    ただ国枝史郎の作品のなかで珍しく完結しててまとまりの上では高く評価されてるように、確かに物語があっちこっち行ったりせずに一貫して葉之助という主人公の不幸な生まれから養子にとられて活躍したり事件に巻き込まれて呪いにかかったり、そして母親の悲願を遂げるまでを描いててわかりやすかった。

  • 作者の代表作の一つらしい。
    前に読んだ『神州纐纈城』は未完で驚いたので、これもそうではないかとドキドキだったが、ちゃんと完結していた。しかし伝奇小説は未完である方がよいという説もあるし、そういう意味ではこじんまりまとまっている方なのかもしれない。
    一人の姫をめぐった兄弟の戦い、その末裔の山窩族と水狐族の戦いを背景に鏡葉之助という青年の波乱万丈な運命を描いた話だが、この主人公も内面に善と悪を抱え込んだ人間で、「それでいいのか」と突っ込みたくなることもしばしば。種族と種族の戦いで盛り上がるところも、そんな昔の因縁は忘れて仲良くしろよはた迷惑な、と思ってしまう。伝奇小説には向いてないのかも。
    それでも読んでいる間は、次はどうなるのというワクワク感でどんどん読み進んでしまった。豪華絢爛な物語。

  • 非凡なストーリーテラーだ。目くるめく物語が展開し、一気に読ませる。描写が映像的なのも国枝史郎の特徴だろう。

  • 2009/10/25購入
    2013/11/24購入
    2014/1/12読了

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著者プロフィール

明治二十年(一八八七年)長野県に生まれる。早稲田大学在学中より演劇運動に参加。大学中退後、大阪朝日新聞社の演劇記者、松竹座の座付き作者となる。病を患い、長野県に戻り「講談倶楽部」「少年倶楽部」などに執筆、怪奇、幻想、耽美的な伝奇小説の第一人者となる。『神州纐纈城』は、昭和四十三年(一九六八年)復刊され、三島由紀夫に激賞される。昭和十八年(一九四三年)死去。

「2023年 『神州纐纈城』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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