- Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062630382
感想・レビュー・書評
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無機質な世界の中で決めたルールに従い生きる主人公らが、そのシステムに飲まれて精神に異常をきたしていく。共通するモチーフが読み手にも及ぶ、という面白さは残念ながら感じられなかったが、それでもスケッチのような淡々と描写していく文体と、地下鉄のダイヤグラムにブタの飼育システムといった日常では得られぬ管理性がマッチしているので、興味深く読めた。表題作は第107回芥川賞受賞作。
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1992年上半期芥川賞受賞作。同時期の候補作には、鷺沢萠「ほんとうの夏」や、多和田葉子「ペルソナ」があがっていたが、選考委員の得点は本編が断然群を抜いていた。視点人物は一貫して主人公の地下鉄の運転士に置かれている。そして小説の中を流れる時間は(それは地下鉄の、あるいは乗車業務のでもあるのだが)は、極めてストイックに進行していく。読者が眼にする光景もまた地下鉄の運転席からのものだ。強いリアリティに支えられた小説といっていいだろう。また、そうであるからこそ物語後半のシュールな状況と光景が説得力を持つのだ。
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無機質に、ただ作業をこなしていく。そんな中で主人公(運転士)に襲ってくる夢と錯覚に戸惑いつつも、どこか非日常を楽しんでいるような様が、可愛らしく思った。
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50
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散文的で、詩的な文章は、無機質な機械に挟まれた空間に存在する運転士を描写することに適合している。構造的な読み方も出来るのだろう。地下は異質な空間であり、暗闇から、始発の電車を待つ明るいホームへ滑り込むラストの描写は、真っ先に作品のパーツに当て嵌められたのだろう。無機質な形から情を込めてだんだんと人間性を回復していこうとする姿は、バブル全盛のワーカーたちを想起させるものがある。名もなく、顔もなく、言葉もなく、規律的で調和的な社会への疑問を呈したのであろうか。
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主人公は電車の運転士。「運転士」と「運転手」は違う。彼は仕事を選ぶときに「時間と方法が確立されており、いい加減なものが入り込む余地が無い明快な仕事」ということで、この職業を選んだのだ・・。
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不気味さ 不安さ 足して割る