国境の南、太陽の西 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
3.52
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本棚登録 : 9753
レビュー : 863
  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062630863

作品紹介・あらすじ

今の僕という存在に何らかの意味を見いだそうとするなら、僕は力の及ぶかぎりその作業を続けていかなくてはならないだろう-たぶん。「ジャズを流す上品なバー」を経営する、絵に描いたように幸せな僕の前にかつて好きだった女性が現われて-。日常に潜む不安をみずみずしく描く話題作。

感想・レビュー・書評

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  •  結婚して子どもまでいる成人男性が、小学校の頃に好きだった女の子と再開してセックスして妻を傷付けるけど、結局女の子は消えちゃったので妻と寄りを戻す話。

     ……もう少しちゃんと書く。
     当時としては少数派の一人っ子だった主人公は、同じ小学校にいた足の不自由な一人っ子、島田さんに想いを抱いていた。別々の中学に進学してしまい、彼女のことを忘れられないまま、高校生になってイズミという女の子と交際をした。彼女と交際するも、彼女は島田さんが持っているものを持っていない、そんな美人でもない、と思い、結構雑に扱う。そんな彼に、イズミは以下の言葉を投げかける。

    「あなたはきっと自分の頭の中で、ひとりだけでいろんなことを考えるのが好きなんだと思うわ。そして他人にそれをのぞかれるのがあまり好きじゃないのよ。それはあるいはあなたが一人っ子だからかもしれない。あなたは自分だけでいろんなことを考えて処理することに慣れてるのよ。自分にだけそれがわかっていれば、それでいいのよ」p.53

     結局他の女と姦通していたのがバレて、正直かつ不誠実な説明(言い訳)をして、イズミはそれを「理解しなかった」。壊れてしまった彼女を置いて東京へ行き、大学4年間をつまらなく過ごし、三十までを孤独に過ごした。
     三十になって一人の有紀子いう女性と結婚するが、そこには安心を求める主人公の気持ちがあったように思う。

    「彼女と一緒にいると、この十年以上のあいだに自分が失いつづけてきたものの重みをひしひしと感じることができた。僕はそれらの歳月をほとんど無駄に費やしてしまったのだ。でもまだ遅くはない、今ならまだ間に合う。手遅れになってしまう前に、少しでもそれを取り返しておかなくてはならない。」pp.91-92

     で、結婚し子どもが二人、少なくとも形式的には順風満帆な人生を送っているときに、島田さん?に再開し、彼は島田さんという亡霊に搦め取られて……。そんな話。



     あらすじをなぞるとこれでもかというほどクズな主人公だが、私が今まで読んだ村上春樹の小説の中では比較的珍しく、主人公は妻と二人の娘もいる、その意味ではかなりスタンダードな社会人だ(義父が金持ちで、そのお金で自分のバーを持って、類い稀なる才能から経営もトントン拍子にうまくいくという点は浮世離れしている観もあるが、まあ…)。
     「子を持つ親として現実的に生きる」というノルマは、自分の孤独な過去や現在の人生に向ける眼差しを、曇らせてしまっているのかもしれない。

    「これはなんだか僕の人生じゃないみたいだな、と。まるで誰かが用意してくれた場所で、誰かに用意してもらった生き方をしているみたいだ。いったいこの僕という人間のどこまでが本当の自分で、どこから先が自分じゃないんだろう。」
    「でも僕はおおむね幸せな生活を送っていたと言っていいと思う。(中略)僕は何があっても、もう二度とあの二十代のうら寂しい孤独な生活に戻りたくなかった。ここが自分の場所なんだと僕は思った。」p.99

     しかし、どこか自分の根っこから浮いているような生活は、「何か」があったときにぽっきりと折れてしまうものだ。
     私自身、色々あって何もかもなくなってしまった。色々あって仕事もあって不自由なく生きているが、大きな喪失を抱えたままで何か辛いことがあった時、踏みとどまれる気がしないし、踏みとどまろうと思えないのだろうなと思う。
     この物語の主人公にとっての「何か」は、島田さんとの再会。彼はイズミの人生を壊したことを覚えているにも関わらず、妻のいる身でありながら島田さんに深く関わってゆく。それは或いは小学生時代に残したままの空白を埋め、自分の人生を取り戻そうとしているようにも見える。
     島田さんは警告する。

    「とても残念なことだけれど、ある種のものごとは、後ろ向きには進まないのよう。それは一度前に行ってしまうと、どれだけ努力をしても、もうもとに戻れないのよ。もしそのときに何かがほんの少しでも狂っていたら、それは狂ったままそこに固まってしまうのよ」p.204

     それでも、主人公はどんどん破滅に向かっていってしまうのだ。


     人は何を持っているかではなく、何を持っていないかによって特徴づけられる、という言説を何かで読んだことがある。主人公は兄弟を持たないことが自分を特徴づけていると幼少期の頃に捉え、島田さんは健常な足を持たないことを深く気にしていた。
     この物語は、そうした自分の中にある欠落なり空白に上手く向き合って生きてゆくことができなかった男の話だと、今は解釈している。
     また、僅かにファンタジー要素があり、お伽噺のような薄気味悪さも相まって、小説のラストはともすればバッドエンドの可能性もある。表層的には主人公はただの浮気・不倫野郎ではあるが、大きな空白を抱え、それが取り返しの付かないものであるならば、彼はどうすれば幸せになれるのか、この小説には示されていない。
     この小説は長編『ねじまき鳥クロニクル』の一部になるはずだったものが、切り離されて一つの小説として独立したという経緯があるらしい。まとまった時間のある時に、次は『ねじまき鳥』も読んでみよう。

  • 仕事も、金も、夢も、家族も、誰かを愛することも否定され、失意の底に訪れる暗示的なラストシーン、そしてその読後感は奇妙で特異的なものだった。
    人生の目的とは何なのか、愛する意義とは何なのかを考えさせられる作品だった。

    個人的に著者の作品で一番好きです。

  • 一見すれば不倫の話だけれど、私は純愛の話だと感じました。
    価値観も外観もセックスの相性も良い妻、やり甲斐のある仕事、最愛の娘たち、手放したいものがないような理想的な生活を送りながらも、心の奥底にずっと燻らせていた想いのために全てを捨てることのできる主人公の一途さと弱さが、主人公の生活の豊かさと現実味の曖昧な島崎さんの存在との表現的対比の中で、リアリティかつ繊細に描かれています。
    形而上の制約を取り払った恋愛は、倫理や常識上受け入れられ難いものが多いかもしれませんが、格好をつけることも計算することも捨てた、これまでにはない恋愛小説だと思います。

  • 2019/5/31読了。

  • 前に読んだのは何年も前で、当時春樹作品の中でもかなり好きだったんだけどなんで好きだったのか思い出せない。笑
    バーを経営して成功したい。2人の娘を育ててみたい。

  • ひどい主人公だ

    • かなりワルイネコさん
      だよね、ロクでもないよね
      だよね、ロクでもないよね
      2019/05/15
  • 久しぶりに村上春樹を読んだけど、やっぱり文章が上手い。大人になって再開した二人は、もう子供の恋愛ができない。
    肉体か精神か。

  • ひと言でいえば、不倫の話なのかもしれない。でもそれだけではもの足りない。主人公の男に関して言えば、足りない何かを相手に求めていた。相手の女はどうだったのだろう。
    ハラハラドキドキするような展開ではなく、心の深いところの話だったのだと思う。

    あまり現実味のない物語という印象だったけれど、流れに身を任せているような、特に大事件が起こったわけではないような、時間の経過が自然っぽいところが、逆に現実的であるように感じられた。
    不倫の物語を読んでいるはずなのに、なぜだか落ち着く心地がした。

    主人公がバーを経営いるのも大きな要因だったと思う。二人の会話は常に落ち着いていてムーディーな雰囲気が漂っていた。生演奏で流れていると描写されていた曲を実際に聴いてみたらとてもよかった。
    読んでいて一番思ったのは、こんな素敵な場所に行ってみたい……ということだった。できれば不倫以外でいつか。

  • 読み進んでいくうちに、ある程度予想はできる最後。
    村上春樹らしい主人公、ストーリーで、結局不明なことも多く大きな驚きはない。
    村上春樹の本を読んだなぁというかんじ。
    この本の登場人物はそれぞれみんな苦しい思いをしていて、これからも心から幸せにはならないだろう。
    生きていくって苦しいよねって思った。

  • 村上春樹の小説。
    複数の女性を通過して、成長していく物語なんだと思います。
    実際、世の中には人間的には未成熟でも社会的に成功している人って結構いるけれど、本作の主人公も、運を掴んで安定した生活を手に入れた、結構そのタイプ。

    多分これは10年前に読んだら、何も面白くなかったと思うのです。それは自分が世間知らずすぎたからで、
    でもあくまでフィクションと割り切って、出てくる女性(割とひどい扱いを受けている)もすべて創作と思えば、「ああ、こうやって人は自己を開示し、結婚という他者との生活に折り合いをつけられるようになるのかな」と思います。
    本人が最後に破滅するとこまで行かないとこを除けば、割と太宰っぽいかも。

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著者プロフィール

村上春樹(むらかみ はるき)
1949年、京都府京都市伏見区生まれ、兵庫県西宮市芦屋市育ち。早稲田大学第一文学部映画演劇科卒。大学在学中にジャズ喫茶「ピーター・キャット」を国分寺・千駄ヶ谷に開店していた(1981年、店を人に譲渡)。1979年にデビュー作の「風の歌を聴け」で群像新人文学賞を受賞。谷崎潤一郎賞、読売文学賞、朝日賞など数々の受賞歴がある。2006年にフランツ・カフカ賞、2009年にイスラエルのエルサレム賞受賞。ノーベル文学賞に最も近い作家の一人と言われており、毎年発表時期に日本国内でニュースになる。事実、村上春樹作品は全世界で翻訳されており、アメリカ・アジアでの評価がとりわけ高い。フィッツジェラルドやレイモンド・カーヴァーなどの作品の翻訳も手がけ、翻訳家としての仕事も高い評価を受ける。翻訳と創作活動を交互に行うことで、作風を変化させ、作家としての成長を続けている。新作が発表されるたび大きな話題となるが、近年は特別番組「村上RADIO」にてラジオDJも務め(不定期放映)、数々の名言も注目を集める。代表作に『風の歌を聴け』『羊をめぐる冒険』『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『ノルウェイの森』『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』。2019年7月31日に『神の子どもたちはみな踊る』が舞台化。2019年8月7日発売の『文学界』でロングインタビュー「暗闇の中のランタンのように」掲載。アメリカのサックス奏者スタン・ゲッツの伝記翻訳を2019年8月末に刊行予定。

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