国境の南、太陽の西 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
3.52
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本棚登録 : 9761
レビュー : 865
  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062630863

作品紹介・あらすじ

今の僕という存在に何らかの意味を見いだそうとするなら、僕は力の及ぶかぎりその作業を続けていかなくてはならないだろう-たぶん。「ジャズを流す上品なバー」を経営する、絵に描いたように幸せな僕の前にかつて好きだった女性が現われて-。日常に潜む不安をみずみずしく描く話題作。

感想・レビュー・書評

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  • 村上春樹はあまり好きじゃない、とある男の子に話したら、この本を薦められた。
    女の子が読むなら、この本がいちばんお薦めだと。



    でも多分それは間違いだ。
    なんて自分勝手な小説なんだろう。
    限りなく男の人目線の話。
    男の人だけで完結してしまっている。

    村上春樹の小説に出てくる女のひとは皆、男のひとが想像する姿。
    こんな女のひとだったらいいな。あるいはこんな女のひとだったらいやだな。

    村上春樹の小説には、男のひとは基本的に一人しかでてこない。主人公。
    ふらふらと考えがかたまらなくて、優柔不断。
    女のひとは沢山でてくる。色々な考えを持った女のひと、女の子。
    彼女たちはそれぞれ色々な事を考えて、色々な悩みを持っている。
    だけど、彼女たちはぶれない。
    危うくて脆くて壊れてしまいそうだけど、根底の考え方はふらふらしない。
    危ういなりに、しっかり芯を持った考え方をしている。
    ひたすら依存体質だったり、ひたすらだらしなかったり、ひたすら安定志向だったり、ひたすらエキセントリックだったり。
    そこに違和感を感じる。
    女のひとはそんなに強くない。
    女のひとはそんなに単純じゃない。
    単純、というと語弊があるかもしれないけど、「芯が変わらない」という意味での単純。
    女性に男性が甘えきっている構図がいやだ。

    主人公には芯がなくて、周りのいろんな女の子が持っている芯に惹かれていく。
    男の人はその芯に惹かれて、影響されて、成長していく。

    じゃあ女の人はどうなるんだ。
    女の人だって、周りの女の子の持ってる色んな芯に触れて、憧れて、真似しようとして挫折したりしてる。



    私だけかもしれないけど。

    これを読んで、男の子が村上春樹好きな理由がすこしわかった。
    こういう女のひとを世の中の男のひとが求めているのなら、それはすこし嫌だなと思う。
    マザコンっぽい。

    でもそれもある意味妥当なことなのかもしれない。
    「理想」はいつだって「シンプル」だ。
    好き好んでややこしい複雑なものを好きになる必要はない。
    単純に強いひと。単純に弱いひと。単純にエキセントリックなひと。



    でも村上春樹が嫌いなわけじゃないんだ。うまく言えないけど。
    表現が、描写が、胸を苦しくさせる。
    この本だってボロクソに書いてるけど、嫌いなわけじゃない。
    最後まで読んだもん。

    世の中にはうまくいかないことが沢山あって、皆それぞれ苦しい思いをかかえてるけど
    それでもまあなんとかそれなりに生きていこうよ、
    っていうのが村上春樹の小説だと思ってる。

    あと村上春樹の小説が苦手な理由のひとつに「ストーリーのわりにオチが弱い 」 っていうのがあったんだけど、
    今回はあまり感じなかった。
    収まるべきところに収まったという感じ。
    ていうかストーリーというストーリーもなかったかな。

  • 青山に上品なジャズバーを経営する主人公。
    小学校時代の友人、島本さんとの、雨の日のドラマチックな出会い。
    恋愛は、日常に起こり得る「事件」のようなものだ。

    ナット・キング・コールの「プリテンド」は好きな曲だ。
    「辛いときには幸せなふりをしよう。」
    歳を重ねるごとに、その意味がよくわかるようになる。

    太陽の西には、何かがあるのかもしれないし、何もないのかもしれない。
    そんなことを考えながら、日々現実を積み重ねている。

  • 村上春樹の小説。
    複数の女性を通過して、成長していく物語なんだと思います。
    実際、世の中には人間的には未成熟でも社会的に成功している人って結構いるけれど、本作の主人公も、運を掴んで安定した生活を手に入れた、結構そのタイプ。

    多分これは10年前に読んだら、何も面白くなかったと思うのです。それは自分が世間知らずすぎたからで、
    でもあくまでフィクションと割り切って、出てくる女性(割とひどい扱いを受けている)もすべて創作と思えば、「ああ、こうやって人は自己を開示し、結婚という他者との生活に折り合いをつけられるようになるのかな」と思います。
    本人が最後に破滅するとこまで行かないとこを除けば、割と太宰っぽいかも。

  • ハードカバーの新刊が出てすぐ買ったが、またこの話かと嫌になってすぐ古本屋に売った。
    あれから20年以上経って、どんな小説だったっけとふと思い再購入。
    たしかにまたこの話かとは思ったが、こんなに痛切な小説だったのか…。自分が年をとって色々な経験をしたからこの小説が身にしみたんだろう。彼の作品中、最も悲しみを表した小説だと思う。

    ノルウェイの森同様、最後に「現実」を選択するが、そこに希望も喜びもあるわけではない。悲しみがあるだけだ。
    失ったものは失ったもの、失われたものは失われたものということを認めるのはとても難しい。
    夢はどれほどリアルでも夢でしかないということはあるときにはとても辛い。

    村上春樹特有の回りくどさは比較的薄く、一定のザクザクとしたリズムで話が進んでゆく。
    このリズムの保ち方は見事で、色々な要素が入ってきても全体を貫くトーンがまったくぶれない。一つの曲のような小説だ。

  • 年をとることでの喪失感を描いた小説なのだと思った。年をとっていく中で、自分が何か大切なものを失ってしまったんじゃないかという感覚。
    10代20代の時には世界に向けて開かれていた自分の感性、可能性が、現実を生きる中で徐々に輝きを失って、形が定まり、ひとつに固まってしまう。たいていの人は仕事をしたり子供を育てたりすることでそれなりのやりがいや責任をもち、忙しさの中でふと自分が何か失ったことに気づいたとしても、また逞ましく現実に戻っていくのだと思うけれど。

    小説の中では、仕事をしていない島本さんは若者のような定まらなさ、形の不安定さを持ち続けたまま大人になり、ハジメくんは喪失感を島本さんとつながることで埋めようとする。けれど結局それはうまくいかない。
    願わくば最後にハジメくんの背中にそっと手を置いたのが、有紀子さんであってほしいと思った。

  • 村上春樹作品の中で一番好き。

    しかし読んでいてどんどん辛くなってくる。
    読み終わると何とも心が沈んでしまう。
    イズミとの再会(?)シーンは息を思わずこちらが、あ、あぁ、と声が漏れてしまうくらい。

    常に何かしらの欠落を感じていて、それを埋めるために変える努力をして成功するのだが、結局埋め合わせにはなっていない、ハジメ。
    人を愛するのだが、自分の性格からは逃れられず、結局愛する人を傷つけることになってしまう。

    考え方とか、物事に対する姿勢がすごく似ていると思った。
    主人公に共感した数少ない作品。

  • 一見すれば不倫の話だけれど、私は純愛の話だと感じました。
    価値観も外観もセックスの相性も良い妻、やり甲斐のある仕事、最愛の娘たち、手放したいものがないような理想的な生活を送りながらも、心の奥底にずっと燻らせていた想いのために全てを捨てることのできる主人公の一途さと弱さが、主人公の生活の豊かさと現実味の曖昧な島崎さんの存在との表現的対比の中で、リアリティかつ繊細に描かれています。
    形而上の制約を取り払った恋愛は、倫理や常識上受け入れられ難いものが多いかもしれませんが、格好をつけることも計算することも捨てた、これまでにはない恋愛小説だと思います。

  • ひどい主人公だ

    • かなりワルイネコさん
      だよね、ロクでもないよね
      だよね、ロクでもないよね
      2019/05/15
  • 文体からは1973年のピンボールやノルウェイの森の瑞々しさ、生々しさは無く、全体的に乾いた印象を受けた。そして物語全体からも80年代までの村上春樹作品から一歩踏み出し、何かを失ったその後を描こうとしているように私には思えた。完成度という点から見れば村上作品の最高峰とは言えないかもしれないが、海辺のカフカなどねじまき鳥~以降の傑作群を生み出すためには必要な作品だったのかもしれない。
    追記
    しかし村上作品は終わり方がいい。海の彼方の海面に優しい雨が降っている描写は、美しいイメージを私の頭の中に思い起こさせてくれた。
    これだけでも'悪い読書ではなかったな'と思える。

  • 『国境の南、太陽の西』という洗練されたタイトル、軽やかな文章、現代的でありながら哲学的なテーマ性、いずれを採っても非常に面白かった。

    本作品は「作者 村上春樹」ということが極めて重要である。仮に「作者 村上春樹」でなければ、不倫をテーマとした単なる恋愛小説と言えなくもない。他作品、例えば羊三部作などを反芻したうえで村上作品に佇む「喪失的」との対比が浮かび上がる。であるから「作者 村上春樹」であることが重要である。

    誰もが持つ過ぎ去った日の追憶。過去に得られなかったもしくは失ったものへの渇望。それに対する喪失感は、ある時点で取り戻そうとしても、別の喪失感をもたらすだけなのかもしれない。ハジメにとって「島本さん」は幻想が具象化した存在であり、喪失を取り戻すため全てを投げ打つ価値があると錯覚を与える存在であったのだろう。

    「国境の南」「太陽の西」、存在しないその先を渇望する喪失感、恋愛小説と春樹イズムが融合した非常に良い作品であった。

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著者プロフィール

村上春樹(むらかみ はるき)
1949年、京都府京都市伏見区生まれ、兵庫県西宮市芦屋市育ち。早稲田大学第一文学部映画演劇科卒。大学在学中にジャズ喫茶「ピーター・キャット」を国分寺・千駄ヶ谷に開店していた(1981年、店を人に譲渡)。1979年にデビュー作の「風の歌を聴け」で群像新人文学賞を受賞。谷崎潤一郎賞、読売文学賞、朝日賞など数々の受賞歴がある。2006年にフランツ・カフカ賞、2009年にイスラエルのエルサレム賞受賞。ノーベル文学賞に最も近い作家の一人と言われており、毎年発表時期に日本国内でニュースになる。事実、村上春樹作品は全世界で翻訳されており、アメリカ・アジアでの評価がとりわけ高い。フィッツジェラルドやレイモンド・カーヴァーなどの作品の翻訳も手がけ、翻訳家としての仕事も高い評価を受ける。翻訳と創作活動を交互に行うことで、作風を変化させ、作家としての成長を続けている。新作が発表されるたび大きな話題となるが、近年は特別番組「村上RADIO」にてラジオDJも務め(不定期放映)、数々の名言も注目を集める。代表作に『風の歌を聴け』『羊をめぐる冒険』『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『ノルウェイの森』『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』。2019年7月31日に『神の子どもたちはみな踊る』が舞台化。2019年8月7日発売の『文学界』でロングインタビュー「暗闇の中のランタンのように」掲載。アメリカのサックス奏者スタン・ゲッツの伝記翻訳を2019年8月末に刊行予定。

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