深い河 (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (374ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062632577

作品紹介・あらすじ

愛を求めて、人生の意味を求めてインドへと向う人々。自らの生きてきた時間をふり仰ぎ、母なる河ガンジスのほとりにたたずむとき、大いなる水の流れは人間たちを次の世に運ぶように包みこむ。人と人とのふれ合いの声を力強い沈黙で受けとめ河は流れる。純文学書下ろし長篇待望の文庫化、毎日芸術賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 『君が手にするはずだった黄金について』で登場したことをきっかけに読みました。これをきっかけに他の遠藤作品にも手を出すのかは、どうだろう

  • 作者がキリスト教信者であり、長い間読むことをさけていた。この本を持っていること自体覚えていなかったが、整理をしていると出てきた。いい本であった。作者が70台の時に書かれた本であり、若い時に読むとあまり気に入らなかったかもしれない。普通の人の磯部の場合が気に入った。大津の生き方が気になった。彼が臆病で自分の考え方を人に言えないが、この人が信念の人なのか。信念の人はこのような人なのか。なぜ、このような生き方なのか。人のためにいろいろなことをするが、それは目的ではない。何が彼の生きる目的なのか、目的はないのか?

    〇結婚生活とは彼にとって、互いに世話したり面倒をみたりする男女の分業的な助け合いだった。
    〇彼は愛想よく誰とも付き合ったが、その一人おも心の底から信じていなかった。それぞれの底にはそれぞれのエゴイズムがあり、そのエゴイズムを糊塗するために、善意だの正しい方向だのと主張していることを実生活を通して承知していた。彼自身もそれを認めたうえで波風の立たぬ人生を送ってきた。
    〇生活と人生とが根本的に違うことがやっとわかってきた。そして生活のために交わった他人は多かったが、人生のなかで、本当にふれあった人間はたった二人、母親と妻しかいなかったこと認めざるをえなかった。
    〇要するに彼は挫折者であり弱虫にすぎなかった。言葉の上でも立ち向かったり、戦ったりする力に欠けていた。
    〇人は愛よりも憎しみによって結ばれる。人間の連帯は愛ではなく共通の敵を作ることで可能になる。

  • やはり遠藤周作作品は面白すぎてどんどん読める。
    13章という構成のうち、場面展開で章が進むところもあればそうでないところもある。解説の佐伯氏が書かれていたように、作者は不吉な「13」という数に執着したのだろうか。
    死と輪廻転生という二つは、生きているうち、また身近な人間の死というものを経験しないうちには実感の湧かない、漠然とした恐怖なのかもしれない。
    ただ、本当に身近な死を経験した時には、磯部のように自分もその幻影を追い求めて、輪廻転生の旅に出るのかも知れない。

  • タイトルは前から知ってた。むずかしそうだと思ってた。
    いまは、なぜもっとはやくに手に取らなかったのかと思う。
    大津、たぶんかれは生まれ変わり?
    魂がかっこいい。
    なぜ大津が祈っていることは人々からばかにされたのか。人々は異端をみたのか。同調圧力の強い日本をとびだしてもなぜうまくいかなかったのか。大津の問題というより大津をみているとみな自分が揺らいだんじゃないかな。だから攻撃した。

    また、木口みたいな悩みをかかえた戦争体験者は世界中にいたんじゃないかなぁ。ひかりごけを思い出した。

  • 遠藤周作文学忌 1923.3.27〜1996.9.29 周作忌

    それぞれの人生の それぞれの意義を求めて、インドツアーに5人の日本人が参加する。
    妻の生まれ変わりを追う男。
    幼児期から動物への愛が深い童話作家。
    戦時中、自分を助ける為、戦友に深い罪を負わせた老人。
    当時の新婚夫婦。
    他人を愛することができない離婚歴のある女性。
    彼らを案内するインド哲学を学んだ添乗員。

    彼らは、ガンジス河のほとりで日常的な死と祈りを見る。

    キリスト教の神父として修行しながら、教えの矛盾に答えを出せなかった日本人神父は、異端者として教会を追われていた。彼は、インドのヒンズー教の修道院に受け入れられ、そこでキリスト教徒として修行を続けていた。

    彼らの人生を時折重ねながら、それぞれが信じるものは何か、なぜ日本にキリスト教が根付きにくいのか、問われているように思います。
    罪も業も全て飲み込み転生さえも信じられるガンジスのような深さが求められているものかもしれません。

    • yhyby940さん
      好きな作品です。過去に映画化されているようなので観たいのですが、難しいです。確か奥田瑛二さんや秋吉久美子さんが出演されていたようなんですが。
      好きな作品です。過去に映画化されているようなので観たいのですが、難しいです。確か奥田瑛二さんや秋吉久美子さんが出演されていたようなんですが。
      2023/11/27
    • おびのりさん
      こんばんは。コメントありがとうございます。
      映画良さそうですね。検索してみました。
      深い河は、遠藤周作さんの他のキリスト教物に比べて、現実感...
      こんばんは。コメントありがとうございます。
      映画良さそうですね。検索してみました。
      深い河は、遠藤周作さんの他のキリスト教物に比べて、現実感があるというか、日本人に理解しやすい感じでとても良い作品でした。
      2023/11/27
    • yhyby940さん
      おっしゃる通りですね。著者のキリスト教関連の書物の中でも読みやすいので好きなんですよ。ご返信ありがとうございます。
      おっしゃる通りですね。著者のキリスト教関連の書物の中でも読みやすいので好きなんですよ。ご返信ありがとうございます。
      2023/11/27
  • 『沈黙』よりも読みやすく考えさせられる小説だった。

    「必ず…生まれかわるから、この世界の何処かに。探して…わたしを見つけて…約束よ、約束よ!」
    亡くなった妻を求めインドへやって来た磯辺。
    彼と同じツアーに参加した沼田、木口、そして愛に枯渇し、信じられるものを持たない美津子もまた自らの生きてきた時間を振り返る。
    ガンジスの河に生まれ死に行く人々を見つめていると、人は心の中に溜め込んだ思いを全て吐き出してしまいたくなるのだろうか!

    遠藤周作は、作中人物の一人である大津に自己の思いを語らせている。
    神父になるため、神学校で学んでいた彼が批判された汎神論的な感覚「日本人としてぼくは自然の大きな命を軽視することには耐えられません。いくら明晰で論理的でも、このヨーロッパの基督教のなかには生命のなかに序列があります。
    よく見ればなずな花咲く垣根かな、は、
    ここの人たちには遂に理解できないでしょう」
    「神とはあなたたちのように人間の外にあって、仰ぎみるものではないと思います。それは人間のなかにあって、しかも人間を包み、樹を包み、草花をも包む、あの大きな命です」
    「中世では、正統と異端の区別があったが、今は他宗教と対話すべき時代だ」…
    など大津の言葉から、遠藤周作が生涯「日本人にとっての基督教」とは何かを問い続けていたのだとわかった。

    神父になれなかった大津。朝の光の中を、彼がアウト・カーストの老婆を背負ってガンジス河に歩く姿が心に残った。
    遺体にカメラを向けた三條の代わりに殴られ危篤となった大津の「玉ねぎ」が転生するのはもしかしたら美津子なのでは?…と思ったが、あまりの唐突な終わり方に正直驚いてしまった。

  • 素晴らしい作品を読んだと思ったのが第一印象。
    死も生も全て受け入れてくれるガンジス河。
    ラストがあっさり終わった。もう少し続きが読みたかったが、これはこれでありかも。
    今後もまた読むだろう。
    『沈黙』も良いがこちらも良かった。
    インドに行ってみたいという気持ちが最近強くなりつつある。

  • 妻を亡くした磯辺は、妻の生まれ変わりを探すため、インドへのツアーに参加する。そこで出会った女性、美津子は、妻が入院していた病院でボランティアをしていた人で、彼女は大学時代の知人、大津という神学生を探していた。

    5人の登場人物の物語が織り交ざっていて、読み応えがあったが、ラストがあっけなく終わっていて残念。
    ガンジス河で人々が沐浴し、その隣で火葬場が死体の灰を河に流していることが、とても印象的で、生と死の共存は実は身近な所でも起きているのだと考えさせられた。

  • 生活と人生は違う。人生を「生きる」とは何か?
    「悲しみ」に直面するのは無駄ではない。むしろ、「悲しみに直面してからが、本当の意味での人生の始まりなのだ」と気付かされる。
    悲しみに直面し自分に対峙することで見える「大切な何か」。それに気づくことで、ようやく人生を「深い」ものにすることができる。 

    この先も読み続けるであろう、深い作品。人生のための読書。

    キリスト教やイエスの愛についての知識が少しある方が理解しやすいと思う。

    例えば、
    ・キリスト教入門(岩波ジュニア新書)
    ・名画と読むイエス・キリストの物語(中野京子 著)などを取っ掛かりとして。
    ※どちらも分かりやすい。

    次に、
    ・イエスの生涯(遠藤周作)→深い河が理解しやすいかもしれません。
    ・日本人にとってキリスト教とは何か:
    遠藤周作「深い河」から考える(若松英輔 著)
    も、合わせてぜひ。
     
    西洋社会を理解する上で、その中核にあるキリスト教を知るために、いくつかキリスト教に関する本を読んでみた。
    その上で、「深い河」を読むと、以前読んだ時とは違うものが見えた。

    遠藤周作の本は、「日本人に理解しやすいようなキリスト教」という視点で書かれているため、助かる。この「深い河」でも、登場人物の大津が追い求めるキリスト教観の方が、日本人である自分には、しっくりくるように思う。

    大津
    「ぼくはここの人たち(西洋の神父)のように善と悪とを、あまりにはっきり区別できません。善のなかにも悪が潜み、悪の中にも良いことが潜在していると思います。だからこそ神は手品を使えるんです。
    ぼくの罪さえ活用して、救いに向けてくださった。」

  • さまざまな思いを抱えて、インドのガンジス川のほとりへやってきた登場人物たちをえがいた作品です。

    妻をガンでうしなった磯部は、死のまぎわに妻が語った生まれ変わりを示唆することばを頼りに、前世で日本人だったと語るインド人の少女をさがし求めます。

    その磯部の妻が入院していた病院のヴォランティア・スタッフである美津子は、大学時代の同窓生である大津という男がインドにいるという話を聞いて、この地にやってきます。大学時代の美津子は、大津の生真面目な信仰を嗤い、彼を誘惑して信仰を捨てさせようとしたことがありました。しかし、けっきょく大津は信仰の道にもどり、汎神論的な考えを批判されながらもみずからの信じる神にうながされて、インドへとやってきたのでした。

    童話作家の沼田は、病院で手術を受けた日に九官鳥が死んだことで、鳥がみずからの身代わりになってその命を落としたのだという思いをいだき、インドの野生動物保護地区へ向かいます。

    戦争中、東南アジアのジャングルで飢餓に直面した木口は、塚田に命を救われます。しかし戦後、塚田は戦争のなかでみずからの犯した罪をかかえて苦しんでおり、死に臨んで木口にみずからの罪を告白します。木口は、塚田をはじめ戦争で命をうしなった人びとのために、仏教の発祥地であるインドで彼らのための祈りをささげたいと願います。

    さまざまな人びとのさまざまな思いを飲み込んで滔々と流れるガンジス川と、ガンジス川を聖なる川としてそこへやってくるインドの人びとの悠久の営みが、強い印象をのこしました。

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著者プロフィール

1923年東京に生まれる。母・郁は音楽家。12歳でカトリックの洗礼を受ける。慶應義塾大学仏文科卒。50~53年戦後最初のフランスへの留学生となる。55年「白い人」で芥川賞を、58年『海と毒薬』で毎日出版文化賞を、66年『沈黙』で谷崎潤一郎賞受賞。『沈黙』は、海外翻訳も多数。79年『キリストの誕生』で読売文学賞を、80年『侍』で野間文芸賞を受賞。著書多数。


「2016年 『『沈黙』をめぐる短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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