新トロイア物語 (講談社文庫 あ 4-22)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (697ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062636582

感想・レビュー・書評

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  • 阿刀田氏の「知っていますか」シリーズ以外を読むのは初めて

    「トロイア」
    なんとなくのあらすじは知っているというトホホな知識量
    さらにかなりぼんやりしてきているのでここでしっかりおさらいしようと読むことに

    登場人物は多めながらもさすが阿刀田さん!
    いちいち特徴的な部分をニックネームにしてくださり覚えやすい
    例)鷲鼻の〇〇、赤髭の××、背高の△△…
    またしばらくしてから登場する人物は必ずどこのどなたさんか親切に説明が入る

    物語形式ではあるものの、要所要所に現在の場所や歴史的史実がナレーション形式で入ってくる
    さらにギリシア神話のご説明もあり大変親切だ
    (阿刀田氏の親切さは相変わらずこの上ない!)

    主人公はトロイア国の王家の血をひく若者の、アイネイアス
    ギリシア神話およびローマ神話に登場する半神の英雄…ということになっている
    彼はなかなかの純朴で真っ直ぐな好青年である
    出生はアフロディーテの息子とされているが、本書ではおそらく乳母カイエタという父の雇い女…
    が母親では?という設定
    カイエタというのがこれまた魅力的な女性
    恐らく異国のそれなりの身分だった女性が
    戦争で敗れたため、今の立場になったと思われる人物
    若く美しく知識も拾い
    何より愛情深くアイネイアスの心の中でいつも生き続け、常に寄り添っているかのようだ

    さてアイネイアスであるが、トロイア滅亡後、イタリア半島に逃れて後のローマ建国の祖となったといわれる
    古代ローマでは敬虔な人物とされ、彼を主人公とした作品に詩人ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』がある

    このアイネイアスの子孫が、ロムルスとレムスという双子で、この双子がローマの建国者(よくオオカミと双子の人間の像があるアレ)
    つまりアイネイアスこそ、ローマ建国の礎となった人物である

    そして本書はトロイア戦争までとトロイア戦争後と分量的にも半々くらいあるため、アイネイアス物語といっても過言ではない(と思っているワタクシ)

    前半はトロイア戦争が中心だ
    ヘクトル、パリスの華々しい兄弟の活躍
    有名なアキレスの奮闘と慈悲深い心
    トロイアの滅亡…
    ここでアイネイアスは多くを学ぶ

    後半は、戦争で敗れたアイネイアスら一行はトロイアの再建のため、炎上するトロイアを脱出
    7年近く流浪の旅を続けたあと、イタリアのテベル川河口に到着して、そこに新しいトロイアを建国
    これがローマ帝国の基となるのだ
    この最後の地でアイネイアスらはトロイアでの戦争で学んだことを存分に生かす…

    本書の魅力は多くあるが、武器を持たない女の戦いも見どころのひとつだ
    戦争で勝利することを切に願う理由は
    負けてしまえば残された女たちは凌辱され奴隷のような身分になるのだ
    それゆえ、戦にむかう男たちの勝利を切に願う
    また武器を持たない彼女たちは生きるために知恵を駆使し戦うのである
    現代とは違う
    決して浅ましいドロドロ劇なわけではない
    生き残るための術なのだ

    理不尽な死も多く、グッとくるほどせつなくなる場面も
    彼らの建国への志と、生きるという懸命な姿に何度も感動する

    あとトロイア戦争は大変長い戦争、かつ神話も交えたストーリーのため、多く文献が存在する
    ここでのトロイアは阿刀田氏のトロイアとすべきだろう

    あとがきによると…
    ホメロスのイリアス、オデュッセイア
    ヴェルギリウスのアイネイアス
    この3つの叙事詩
    阿刀田氏はこれらの伝説的な事象が現代人の常識に適うものかどうかの吟味から始まったという
    その上で阿刀田氏の解釈・考え方に基づき、本書は作られている
    そしてどのあたりが創作なのかを説明してくださるのだがこれがまたなかなか面白い
    木馬の計略も例の派手な策略はないものの地味ながら阿刀田氏のお考えを知った上で読むと実に興味深いのである

    最後まで読んで驚いたのだが、巻末に主な登場人物の一覧が4ページもあるではないか!
    地図もある〜(涙)
    読み終わってから気づいたためなかなかショックであった
    これがあったらもっと便利だっただろうに
    逆に言えばこれがなくても読み切れるところが阿刀田氏の凄さだ
    今回人物メモを一切取らず最後まできちんと読めたのだから(でもやっぱり知りたかった〜最後にあるなんて!)


    700ページ近い分量ながら、全くその長さを感じさせることのない面白い作品であった
    またいつかイリアスやオデッセウスも読んでみたいなぁ…
    いろいろな角度からトロイア戦争を見てみたい

    • アテナイエさん
      こんばんは。またコメントさせてもらいます。

      この作品、吉川英治文学賞受賞なんですか! うわ~知らなかったです。図書館で探してみようかな...
      こんばんは。またコメントさせてもらいます。

      この作品、吉川英治文学賞受賞なんですか! うわ~知らなかったです。図書館で探してみようかな。
      でもちょっと尻込みしてしまうのは、ホメロスやウェルギリウスのオリジナル作品から、一体どういう風に変わっているのか……気になってしまうところです。といっても、オリジナル作品自体をあまり覚えてないのですけど(笑)、でもとにかく格調高く、凄まじい迫力なんですよね。神々と人間が入り乱れるのも、独特のおもしろさです。

      やはり、ハイジさんはヘクトルのキャラクターが気になりましたか。地味ですが堅実なキャラクターですよね。
      半神アキレウスは華ですが、なかなか小賢しくて、人間臭くて、苦労だらけのオデュッセウスあたりがわたしは気になります(笑)。

      ということで、ハイジさんはヘクトルがお好みのようですので、『トロヤ』という映画はいかがでしょう。ヘクトルがすごくいいですよ。ちなみにアキレウスは、ブラットピットがやっています。またトロヤ陥落の際にはアエネーアスもしっかり出てきます。「これからが難儀だけど、とにかく頑張っておくれ!」と思わず声をかけてしまいそうになります(笑)。
      別の角度からトロイア戦争を見れるかもしれません。
      2021/12/12
    • ハイジさん
      やはりオリジナルとは諸々違いそうですね
      その辺りあとがきでなぜ異なる内容にしたか…を語っておられます
      オリジナルを知ってこその醍醐味として読...
      やはりオリジナルとは諸々違いそうですね
      その辺りあとがきでなぜ異なる内容にしたか…を語っておられます
      オリジナルを知ってこその醍醐味として読めるかもしれませんね(^ ^)
      私もいつかは…と思っておりますが…^^;

      アテナイエさん!
      「トロイ」観ましたよ〜
      もうかなり昔の話で記憶が曖昧ですが…
      エリックバナがヘクトルでイイ味を出してました♪
      懐かしいのでこちらも改めて観たいです!

      いつも楽しいコメントくださいましてありがとうございます(^ ^)
      2021/12/12
    • アテナイエさん
      そっか~『トロヤ』はすでに観てらしたんですね♪ 
      わたしはこの映画のヘクトルとオデッセイアがとても気に入っています。
      歴史モノは衣装や船...
      そっか~『トロヤ』はすでに観てらしたんですね♪ 
      わたしはこの映画のヘクトルとオデッセイアがとても気に入っています。
      歴史モノは衣装や船団や舞台なども見ていて楽しいですよね。
      遺跡調査から、トロヤの美しい城壁は海から数キロ離れた小高い丘に建てられていた難攻不落のものだったそうで、この映画も海辺がとてもきれいでした。

      ハイジさんのレビューとコメントでとてもわくわくしました。
      また楽しみにしています(^^♪
      2021/12/12
  • 「トロイの木馬」の逸話で有名なギリシア神話に出てくる城塞都市・トロイア(英語名:トロイ)に生まれた一人の少年が父親と共に神託を授かるところから物語は始まります。
    神話を舞台にした物語なので、ギリシア神話で有名なゼウスやアポロン、アフロディーテなど神々の名前が随所に出てきます。
    歴史小説、というよりは、古代から伝わる叙事詩環を元に、日本人に合うように作られた時代小説です。著者が自分で「あとがき」で言明してます(^^ゞ

    著書の主人公はアイネイアス。
    女神アフロディーテの御子と言われ、トロイア戦争を生き延びた数少ない武将の一人で、トロイア脱出後、数年の流浪の旅の末にイタリア半島に流れ着き、後のローマ建国の祖となったと言われる人物です。
    本編は、彼・アイネイアスの少年時代から青年期、そしてトロイア戦争、流浪の日々、イタリアでの最後の戦いの後にトロイア再興として国を継ぐまでの、結構長い物語でした。
    最初はトロイア戦争のことを描いた作品と思って読んでいたんですが、トロイア戦争は本の半分くらいで決着して、あれ? と思う間に流浪の旅が描かれて、そこで初めてアイネイアスがトロイア再興を果たすまでの物語だと判りました。

    歴史は好きですが、神話にまで遡るとどうかな?
    と思っていたんですが、予想外に楽しめました。
    古代ローマの祖、ってところも大きく作用していたかもしれませんが、自分でも驚くほど読むスピードが早かったので、私に合っていた本だと思います。

    ギリシアの連合国も出てきますが、都市国家(ポリス)としてのアテネやスパルタは出てきません。
    都市国家(ポリス)としてアテネやスパルタはもっと後なんだそうです。
    色々な神話を基にした逸話が盛り込まれていたり、逆に「トロイの木馬」の逸話は違う形に変えられたりしてます。
    そういうのも含めて楽しめた作品でした。

  • このあたりのことを全然知らなかったので、名前を知っている人が目新しいことをしていて、大いに驚いた。
    ローマのこととかギリシャのこととかエジプトや聖書の世界とか、全然知らないなあ。

  • トロイア戦争を生き延び、国の再興を誓ってローマ帝国の礎を築いたアイネイアスの物語です。
    見てきたような嘘は講釈師だけではなく小説家もつけるようです。現代の日本人の感覚では理解しにくいところも多々ある叙事詩が、著者の肉付けによって実際にそうだったのだろうと思えるくらい説得力のある物語に。読んでいる間、登場人物たちの思惑や後の出来事に繋がる行動も含め、「木馬ってそういう使われ方をしたのか」「だからアイネイアスは西を目指したのか」と本気で信じてました。勇将たちの戦いの場面には興奮し、次々と戦死していく勇者たちや名もなき兵士たちを哀しみ、船旅の間の出来事にはアイネイアスが詩人の話を興味深く聞いたのと同じように夢中になり、二つの優しさ=二つの愛について思い悩む。これぞ胸躍る冒険譚。2000年も前の伝承が語り継がれる所以なのでしょう。
    夕日に始まり、夕日に終わる。なお西へ向かうアイネイアス。その足跡を辿ってみたい。(まぁ現実には難しいのでテレビのドキュメンタリーなんかで取り上げてくれないかな。)

  • 読みやすい神話だが、作者が主人公を優遇しすぎでなんか。チートは嫌いじゃないけれど。
    あと、vsアキレウスのときの味方はそんな行動していない。本当はアキレウスにびびって逃げたんだよ。

  • これはすごい小説だと思う。何がすごいかというと、まず量が(笑)。
    しかし面白さのあまり一気に読んでしまった。
    金のりんごが云々といった神がかり的な部分は最小限に抑えて、現実的な解釈をもってホメロス(だっけ?)の原著を再構成している。
    最後に著者の阿刀田高氏も述べられているが必ずしも原書に忠実ではない。しかしそのことによって現代人のわれわれにとって理解されやすい読み物となっている。
    ギリシャ側から見たトロイア物語は呼んだことがあったが、トロイア側からの物語は始めて読んだ。どちらの陣営も魅力的な人物が描かれており、その言動からどのような外見をしているかが自然と想像された。
    好きな登場人物はアイネイアスのお母さんです。
    なかなかよくできた人物のようで。彼女がいたからアイネイアスという傑人も生まれたのであろう。
    それにしても当時は
    美男=強い=家柄
    といった感じだったのだろうか。
    家柄がよければ小さい頃からの訓練も充実していたろうし
    強ければ美人の嫁さんをもらえるので、その家系はどんどん美しくなる。
    今でもそうかもしれないが。

  • トロイア戦争を題材にした小説です。史実も伝説も混ぜ合わせているので歴史小説と言ってはいけないのかもしれませんが、それが逆に物語を一層楽しいものとしています。大変分厚い本ですが読後感は最高です。

  • ギリシャ神話のなかで有名なトロイ戦争の話。トロイの木馬、が特に有名。
    トルコとギリシャでもともと若干の緊迫関係があったところ、トルコの勇者パリスがギリシャに住む美女ヘレネを誘拐し、このことが戦争のきっかけとなっている。物語中には一度は名前を聞いたことがあるような有名な神々が登場し、それぞれの関係や役割を知ることができるなど、楽しみながらも勉強になることが多い。
    抜群に面白かったので星5つ。

  • 現代に蘇る壮大な叙事詩
    絶世の美女ヘレネと王子パリスが駆け落ちした。ヘレネを略奪した者は、求婚した者全員から報復を受ける。ユニークな「テュンダレオスの掟」が、古代ギリシアに予期せぬ大戦争を巻きおこした。名高い「トロイアの木馬」は真実だったのか。壮大な叙事詩の世界に挑んだ歴史小説。吉川英治文学賞受賞作。

  • トロイア神話を、伝説としてではなく、現実に起こりうる物語としての視点で描かれた小説。

    阿刀田さんの文章、すごく好きです。メタファーがすごく素敵。美しく、生々しい表現。
    ギリシャ神話で有名な逸話、トロイ戦争にて、トロイア王家の生き残りで、後にローマで国を作ってローマ人の祖となった銀髪の美丈夫アイネイアスを主人公の“伝説”を基にして“実際の出来事”を想定した小説です。
    美と愛の女神の子アイネイアス。彼の視点で見たトロイア戦争はとても興味深かったです。
    もともと私はギリシャ神話がすごく好きで、ひととおりの知識は持っていたのですが、とにかく阿刀田さんの創作部分が面白い!
    もちろん、調べ上げられた上で、細かいところにこだわった上での創作ですが。
    この本を読んで、新たに好きな人物が増えましたv阿刀田さんの主観に踊らされてるような気がしないでもないですけど(笑)。
    アイネイアスに焦点を当てるなんていうのは、阿刀田さんだけでしょう。彼に興味を持つ日本人は少ないそうです(作中より)。
    とにかく人物が魅力的。とにかくパリス!パリス!今までパリスはバカ王子だと思っていたのですが、この本で印象が随分と変わりました。享楽的で奔放な人物でありますが、彼は勇敢な戦士であることには変わりありませんでした。阿刀田さんの創作部分が大きいのかもしれませんが、私もパリスはこういう人物だったのだと思いたいです。
    王がルールであるこの時代、かなり残虐非道でヘコみました。よくもそんなこと思いつくな、というくらい色んな残酷なやり方で殺していくんです。特に女性の力がとても弱かったこの時代、気の毒な人生を送った人が多くて。色々考えさせられました。

    ギリシャ神話を扱う物語としては、今まで出会った中で最高の物語です。

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著者プロフィール

作家
1935年、東京生れ。早稲田大学文学部卒。国立国会図書館に勤務しながら執筆活動を続け、78年『冷蔵庫より愛をこめて』でデビュー。79年「来訪者」で日本推理作家協会賞、短編集『ナポレオン狂』で直木賞。95年『新トロイア物語』で吉川英治文学賞。日本ペンクラブ会長や文化庁文化審議会会長、山梨県立図書館長などを歴任。2018年、文化功労者。

「2019年 『私が作家になった理由』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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