異邦の騎士 改訂完全版

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (452ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062637701

作品紹介・あらすじ

失われた過去の記憶が浮かびあがり男は戦慄する。自分は本当に愛する妻子を殺したのか。やっと手にした幸せな生活にしのび寄る新たな魔の手。名探偵御手洗潔の最初の事件を描いた傑作ミステリ『異邦の騎士』に著者が精魂こめて全面加筆修整した改訂完全版。幾多の歳月を越え、いま異邦の扉が再び開かれる。

感想・レビュー・書評

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  • 記憶を失くしてしまうことが、人をこんなにも危うい存在にするものなのかと愕然とする。
    同時に、失くしたくても失くせない記憶が変わりたくない人を変え、あるいは変わりたい人をその場に縛りつけたまま離そうとしない、そんな枷となることが悔しくていたたまれない。

    記憶を失った「俺」の語りでストーリーはすすんでいくので、わたしも彼の視点で彼が愛した石川良子や、狂人ぶりがユーモラスでもある御手洗潔を見ていた。
    だから良子が次第に情緒不安定になっていく様子には、「俺」を元の場所に帰すためにわざと離れさせようとしているのだろうなと、「俺」と同様に愛しさを募らせたし、「俺」を救うべく真相を明かす御手洗の言動に、(御手洗の言うとおりだろうなと思いながらも)「俺」とともに抗い、猛然と反発する気持ちでいた。
    それほどまでに「俺」と同調していたわたしだったので、「俺」に失われた過去の記憶が浮かびあがりはじめてからは、心臓がバクバクしっぱなしだった。その過去があまりにも戦慄するものだったので、激しい怒りと恐怖に耳鳴りがしたくらいである。そのうえ「俺」には過去の記憶ばかりではなく更なる悲劇が襲いかかり……
    きっとわたしが「俺」の立場になっても、同じように行動しようとする気持ちは確実に生まれたはずだ。行動しないとはっきり言える自信はない。
    ところがここで、憤りと憎しみで轟轟と高ぶる「俺」とわたしの前に御手洗が登場する。
    何事か御手洗が話しているのだけれど、「俺」同様にわたしの頭にもしばらく何も入ってこなかった。
    「はっ?どういうこと!?」
    事件の真相が明らかになるにつれ、「俺」とわたしはパニックに陥る。

    はぁ、わたしは深くため息をつく。なんたることか。「俺」にまつわる全ての謎が明るみになり茫然とする。ある程度は覚悟していたけれど、「まさか……ここまでとはな……」と、つい赤井秀一(名探偵コナン)のセリフを呟いてしまった。今回の犯罪で天分を発揮した黒幕。彼と御手洗の再会はあるのだろうか。

    あぁ、手にふれることのできない記憶というものは、まるで砂時計の砂のようだ。
    零れ落ちる砂をとめることはできないし、時計をひっくり返すことで、簡単に砂を彼方から此方へ、此方から彼方へ移すことができるのだから。

    御手洗が呼ぶ「俺」の名前に、これからの彼の未来を思い浮かべる。
    一夜の夢であってほしい。
    そんなとても悲しい物語だった。

  • 皆さんが書いているとおり、先に占星術殺人事件と斜め屋敷の犯罪を読んでいて良かったと、心底思えました。
    私には、十角館の殺人の“あの一行“に匹敵する衝撃でした。これ以上は何を書いてもネタバレになりそうです。
    これからお読みになる方、是非順番通りに読んで下さい。不用意にレビュー読むのも危険です。

    久しぶりに鳥肌がたちました。
    いやぁ、小説って本当にいいもんですね~ (金曜ロードショーの水野晴郎さん風に)



  • 御手洗シリーズ4作目。
    時系列で言えば一番最初の話。
    洗脳って怖い。
    知識がないと提示されたものが政界になっちゃうよな。
    こんな出会いだったんだ。
    え、普通に人殺しじゃない?(笑)

  • もしかして…と思いつつ読んだが、石岡君…!!と新鮮に驚けて良かった。(軽い罵り合いとギターのくだりであれ?と思った。)
    ミステリーとしては一癖あるが、二転三転しつつ最後まで楽しめた。良子の手紙部分はじんわり来た。
    出会い編が途中でくるのはシリーズ物として好みなので、それも良かった。

  • 記憶を失った男は若い女との幸せな生活を手にするも失われた過去の記憶が浮かび上がるにつれ、男はその断片的”事実”に戦慄する。幸せな生活に忍び寄る魔の手。記憶喪失の男を翻弄する事件。蟻地獄にも似た罠から男は逃げ切ることができるのか。

    "すべてを思い出したとき、俺はまだ正気でいられるのだろうか"

    名探偵 御手洗潔の最初の事件。記憶喪失となり、すべてが”異邦”の地という東京で生き抜かなければならなくなった男の数奇な運命を描く作品。

    推理小説としては予測不可能な部分も多いのは事実ですが、正直そんなことはどうでもいいくらい引き込まれます。

    "十角館の殺人”や”ハサミ男”、”殺戮にいたる病”、”葉桜の季節に君を想うということ”に、負けづ劣らずの最高の衝撃。

    読了後、“異邦の騎士”というタイトルの意味を知り、なんて素敵でぴったりなタイトルなんだろうと思いました。興味があれば、ぜひ手に取ってみてくださいね。

  • まさか主人公が彼だとは思わず、全く情報が無いまま読んだ本だったので、最高に楽しめた。

    記憶喪失から始まるストーリーも展開が早くて全く飽きさせず、常に一体何が起こるんだ!?これからどうなるんだ!?の期待が消えることが無い。

    幸せな結末ではなかったが、とても引き込まれる話だった。御手洗シリーズでは、私的には一番好きかもしれない。今のところ。。。
    他の作品ももっと読んでみたい。

  • 再読。悲しい、哀しい物語。中盤の日記、手記以降の流れは圧巻。完全に内容を忘れていたので、主人公の男のように自分が記憶喪失なのかと思ってしまった。御手洗シリーズをコツコツ読み直そう。チック・コリアの「浪漫の騎士」を聴きながら余韻に浸ろう。名作です。

  • 流石に改訂完全版とは云え、3回目ともなると初めて読んだ時の感動、衝撃は薄められて胸に飛び込んでくる。しかし、何度読んでも胸に残るものは確かに、在る。

    今回特に想ったのは、人を計算された駒のように扱う本格に対し、島田氏なりにアンチテーゼを示したかったのではないかという事。それは石岡が御手洗から真相を明かされても頑なに否定した一節に表れているように思える。

    女(ひと)が男(ひと)を愛した、その本統の気持ちは計算などでは生まれない黄金でありたい。

  • 途中までダラダラ感があったが、さすがは島田荘司。最後はビシッと締めてくれました。

  • 肝となる仕掛けの発想が図抜けていて、終盤にかけて様相が大きく変わってくるストーリーは圧巻。
    鏡が見えなくなっているとは言え、主人公が自分の顔と免許証の顔に気づかないなど細かいところでん?と思うところはいくつかあったが、間違いなく素晴らしい作品でとても面白かった。

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著者プロフィール

1948年広島県福山市生まれ。武蔵野美術大学卒。1981年『占星術殺人事件』で衝撃のデビューを果たして以来、『斜め屋敷の犯罪』『異邦の騎士』など50作以上に登場する探偵・御手洗潔シリーズや、『奇想、天を動かす』などの刑事・吉敷竹史シリーズで圧倒的な人気を博す。2008年、日本ミステリー文学大賞を受賞。また「島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」や「本格ミステリー『ベテラン新人』発掘プロジェクト」、台湾にて中国語による「金車・島田荘司推理小説賞」の選考委員を務めるなど、国境を越えた新しい才能の発掘と育成に尽力。日本の本格ミステリーの海外への翻訳や紹介にも積極的に取り組んでいる。

「2023年 『ローズマリーのあまき香り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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