ワイルド・スワン(下) (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062637732

作品紹介・あらすじ

迫害を受け続ける家族。思春期をむかえた著者は、十代の若者が遭遇する悩みや楽しみをひとつも経験することなく急速に「おとな」になった。労働キャンプに送られる両親。著者にも、下放される日がついに訪れた。文化大革命の残虐な真実をすべて目撃しながら生き、「野生の白鳥」は羽ばたく日を夢見続ける。

感想・レビュー・書評

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  • 紛れも無い大作。中国は毛沢東氏の時代について、3代の女性視点で語られている点、また両親は中国共産党の高級幹部であるという点により、想像を上回る壮絶な内容が語られている。私の中で中国を見る目が変わった。本書の原文は中国語ではなく、英語で発行されているという点も非常に興味深い。

  • ・毛沢東は、人民がたがいに憎みあうようにしむけることによって国を統治した。ほかの独裁政権下では専門の弾圧組織がやるようなことを、憎みあう人民にやらせた
    ・毛沢東主義のもうひとつの特徴は、無知の礼賛だ。毛沢東は、中国社会の大勢を占める無学文盲の民にとって一握りの知識階級が格好のえじきになることを、ちゃんと計算していた。毛沢東は正規の学校教育を憎み、教育を受けた人間を憎んでいた。また、誇大妄想狂で、中国文明を築きあげた古今の優れた才能を蔑視していた。さらに建築、美術、音楽など自分に理解できない分野には、まるっきり価値を認めなかった。そして結局、中国の文化遺産をほとんど破壊してしまった。毛沢東は残忍な社会を作りあげただけでなく、輝かしい過去の文化遺産まで否定し破壊して、醜いだけの中国を残していったのである

  • 下巻は文化大革命の状況をつぶさに描く。著者は当時ティーンエージャー。類稀な観察力と記憶力により、当時の成都や、彼女が下放される農村、毛沢東のバレードを拝謁するために滞在した北京の状態が克明に書かれている。「批闘大会」といわれる職場単位や学校で行われる吊るし上げの様子や様々な悲劇の描写は悲惨・理不尽極まりない。わずか40年前にここまでひどいことが行われていた国が存在していたことに絶句する。
    大衆が社会全体の情報は得られないように情報がコントロールされていた中で、迫害されつつも、共産党の高級幹部という立場にあった著者の母は、一般大衆よりも接触することができた情報か多かったのだろう。この本の刊行は中国語では不可能であり、英国に留学した著者が英語でこそ書けた物語。
    文化大革命の最中にも、中国のあちこちの都市で、イデオロギーの違いで袂をわかつ勢力がそれぞれ武装し、都市単位の内戦があちこちで行われていたということには驚く。
    毛沢東が死去し江青ら文化大革命を推進した4人組が失脚したのちに鄧小平が実権を握ったことで中国社会と経済がふたたび活性化していく様子も詳述。ただし、この本が発刊される直前に発生する天安門事件についてはページをあまり割いていない。2005年に上梓した第二作『マオ 誰も知らなかった毛沢東』も読んでみるつもり

  • 3分冊の「ワイルド・スワン」最終巻。
    この下巻では主に文化大革命前後のことが書かれている。
    確かに高校の世界史の時間に中国の「文化大革命」については教えられた。
    毛沢東という人物が中国全土の人民の信望を一身に集めたと、江青を中心とする「四人組」が逮捕されたことも教科書には書いてあった。
    そこに載っていた江青の写真を見て「随分意地の悪そうな女だな」と思った。
    でも、それだけだった。
    実際に文化大革命で何が行われたのか、具体的なことは何一つ学ばなかった。
    少なくとも教科書の表記、教師の説明の中からはそのときの国民の状況は何一つ伝わってこなかった。
    この3冊を読み進めていくうちに、知らず知らずのうちに「ウソでしょ!」という言葉が口をついて出てくる。
    文化大革命という「言葉」を高校の世界史で習ったとき、それは私の上をスッと素通りしただけだった。
    その頃の私にはもっともっと興味を惹かれるものがあったし、青春の真っ只中で世界情勢よりも自分の周りの出来事で頭の中は一杯だった。
    日本で言えば団塊の世代になる著者のユン・チアン、彼女には「青春」と呼べるものがなかった。
    彼女が過ごしたその年代を「青春」と呼ぶには、あまりにも過酷すぎる。

  • 軍閥の妾になる祖母、共産党で出世する母、農民・労働者を経て海外留学する筆者の年代記。
    いろいろな政策に振り回されて、人々が迫害しあう様がとても陰湿な記録。

  • この本を読んだのは10年以上前になるが、ノンフィクションを好きになったきっかけとなったのはまさにこの本だ。これ以降、様々なノンフィクションを読んだが、これほどまで没頭し、衝撃を受けた作品はなかったと言っても過言ではない。

    物語は中国の清朝末期、著者の祖母の誕生から始まり、毛沢東の支配下、文化大革命という激動の時代を生きた著者の家族3世代に渡る物語。

    今でこそ中国は気軽に観光にも行ける国だが、ひと昔前までは謎に包まれている国だった。特に、毛沢東統治時代については、ほとんどすべての情報が国家によって厳重に管理されており、恐怖に支配されていた人々がその口を開くこともなかった。

    そんな誰も知り得なかった中国の鎖国時代について、著者は中国共産党の高級幹部であった両親の体験や自身の鋭い観察力を通して、圧倒的なスケールと臨場感をもって描き出している。特に3世代に渡って中国の内部事情を書ききったという点では、他に類をみないのではないか。本書で扱っている時代は清朝の崩壊から、日本の侵略、共産党時代から文化大革命終息後までと壮大なスケールで、著者を含む3世代の女性の人生は歴史のうねりとともに翻弄されていく。政治という名の元に一体何が行われていたのか、赤裸々に綴られた残酷な真実に衝撃を受ける。

    貧困や飢饉に苦しむ人々の姿、新しい中国を建設しようと奔走する革命家の情熱、そしてその裏で自己保身のために密告を行う隣人。そこには苦悩や葛藤があり、それぞれの人生のドラマがある。

    私たちは歴史上の事実として中国の毛沢東時代の話や、文化大革命について学校で習うかもしれまない。しかし、この本を読むことでその時代に生きた人々のがどのような生活を送っていたのか、何に怯え、何に希望を持って生きていたのか、生きた歴史が手に取るようにわかる。

    それはきっと現代を生きる私たちからは想像もできないような、過酷な人生でありながらも、どこか共感できるような人間らしい愛情を感じさせるものだ。この本はこの時代の人々の暮らしや、政治の真実を後世に伝えるという点でも歴史的な価値のある本だと思う。

    この本は一度読み始めると、波乱万丈の結末が気になってどんどん読み進めてしまう。上下巻からなる長編だが、息もつかせずぐいぐいと引き込まれてしまうような、読者をとらえて離さないユン・チアンの語り口も本書の魅力だ。

  • 迫害を受け続ける両親と思春期を迎える著者。
    下巻は、これまでの二巻とは比較にならないほど読みやすい。一気に読んだ。

    人間は最悪だと思った。こんなにも残虐な行為ができるのかと。人を操り迫害行為をして心を痛めない人生が存在するのかと。ただ一方でこの本を読む上で予想してない希望を感じたのは、こんなひどい時代を生きた人にもまともで勤勉な人がおり、このような作品を世に出せたのだということ。

    無知を歓迎し教育的にも経済的にも砂漠を広げ続けた毛沢東が亡くなり、徐々に平和を取り戻していく中国。彼らのバイタリティーはDNAにしっかり刻まれている。

    こんな大作が存在しうるとは。コロナ禍でロックダウンの中読み更け、すごい時代にタイムスリップしてしまった。

  • 親子三代が激動の中国を生き抜くさまを描いた名作。
    ただ、最後は自分語りになるのでちょっと失速。

  • 20200929
    軍閥時代、日本の満洲支配、国共内戦、文化大革命を生きた3代の中国女性の物語。混乱を極めた過酷な状況と、その中で光る人間性を描く。纏足、妾、親が決めた結婚が当たり前だった軍閥時代に将軍の妾となった祖母。40歳ほど年の離れた夏先生との再婚にあたっては、満洲の厳格な家族制度が障壁となり義理の子供たちの反発はあまりに大きく、長男は抗議の自殺を遂げ家族は崩壊してしまう。
    祖母、夏先生と3人でのつつましい生活の中で育った母は、抵抗勢力を多数殺害し、日本のために民衆を抑圧する征服者である日本人の姿を学生として見る。終戦により日本人と協力者たちは速やかに、暴力的に排除され、街には国民党軍がやってくる。国民党は腐敗しており、役人による民衆からの搾取が横行しており、母自身も地下工作に協力して遂に共産党が街を奪取する。
    母は共産党幹部だった父と出会い、恋をするが、国民党支配の時代の人間関係から共産党内では批判の声が大きく、そこから逃れるため父の故郷であるイーチャンに移る。戦乱が絶えず、役人が権力を私的に濫用し民衆から搾取し、多くの人民は必死に働いても満足な生活が送れないほど貧しく、女性など特定の社会集団が差別的な扱いを受ける古い中国を克服し、社会正義を実現するため共産党に身を捧げる父。延安での整風運動、反右派運動などの迫害を含む政治キャンペーンを経験するが、国民党が残存する戦時下における統制の必要性に納得し、積極的に自己改革に取り組む。
    大躍進運動の失敗は廬山会議を経て、毛沢東の経済運営に対する発言権は低下するが、学校教育や機関誌報道を通じて自身を神格化し、文化大革命によって権力奪還を図る。文化大革命は、紅衛兵と造反派の誕生によって反動的学術ブルジョワから共産党中枢へと攻撃対象を広げ、旧来の共産党を粉砕する。造反派同士の抗争を経て、革命委員会が組織され毛沢東を盲信する新たな統治機構となる。筋金入りの共産党員であった父母も当然、文化大革命による迫害の対象となり、連日批闘大会という名のリンチか、隔離審査という不当監禁に晒される。父は一時発狂するが、家族の献身と病院治療でなんとか正気に戻る。父は、遂に毛沢東個人宛に文革へ反対する書簡を投稿しようとし、迫害はさらに強まる。革命委員会の発足後、父・母は強制労働キャンプへ収容され、私や兄弟達は農村に下放される。
    革命委員会発足後、社会運営段階に入って毛沢東と陳伯達・林彪は対立し、林と陳は死亡する。老幹部の粛清により軍部とのパイプを失っていた毛沢東は、鄧小平を強制労働キャンプから呼び戻し、徐々に社会の雰囲気が緩み、破壊から建設段階へ社会が移行していく。私は、下放によって過酷な農民生活、はだしの医者、電気工を経験するが、中国とアメリカとの接近でさらなる自由化が進んだこともあり、再開された大学への進学を果たす。
    母は林彪死後の社会情勢の緩和で名誉復帰を果たし、私の進路を支援してくれたが、父は毛沢東批判を行ったため名誉復帰を果たさないままに亡くなる。父の名誉回復は、毛沢東が亡くなり、江青ら四人組が逮捕されたのちとなる。

    ・毛沢東思想の真髄は、絶え間ない階級闘争こそが人間の進化のために必要である旨と、無知の信奉である。毛沢東は創業はできるが、守成はできない人材だったのかもしれない

  • 清末期→日本占領→国民党→共産党支配の時代を生き抜いた親子3代の話。その前の時代も酷いものだが、やはり共産党支配化の文化大革命がクライマックスなんだろう。正義の皮をかぶって行われる弾圧は想像を超えて恐ろしい。
    子供を政治に利用する様は、昨今のニュースと照らし合わせてもいろいろと考えさせられる。

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著者プロフィール

1952年、中華人民共和国四川省生まれ。文化大革命が吹き荒れた1960年代、14歳で紅衛兵を経験後、農村に下放されて農民として働く。以後は「はだしの医者」、鋳造工、電気工を経て四川大学英文科の学生となり、苦学ののちに講師となる。1978年にイギリスへ留学、ヨーク大学から奨学金を経て勉強を続け、1982年に言語学の博士号を取得。一族の人生を克明に描くことで激動期の中国を活写した『ワイルド・スワン』『真説 毛沢東』(ともに講談社)など、彼女の著書は世界40ヵ国に翻訳され、累計1500万部の大ベストセラーになっている。なお、上記の2作はいずれも中国国内では出版が禁止されている。

「2018年 『西太后秘録 下 近代中国の創始者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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