- Amazon.co.jp ・本 (685ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062638791
作品紹介・あらすじ
東海の強国駿河は、守護今川氏親の手で着々と覇道を進んでいた。東に北条、北に武田、大国が激しく牽制しあう戦国の世、氏親とその妻妾の息子たちも、奇しき愛憎の闘いに巻きこまれてゆく。野望のままに、広大な富士の裾野を馳ける、武者と修験者たちの凄絶な生と死。今川一族の興亡を描き切った傑作長編。
感想・レビュー・書評
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駿河の守護大名・今川氏親の子である方菊丸12歳(後の今川義元)は、長男ではないため4歳で仏門に出され善得寺で師である九英承菊(後の太原雪斎)について修行している。さらに学ぶために京の建仁寺へ行くことになり、途次、今川家の屋形に立ち寄る。父・氏親は4年前に亡くなっており、方菊丸は家督を継いだ6歳年上の同腹の兄・氏輝、母(氏親の正室)・寿桂尼、そして妾腹の兄・幸寿丸(後の玄広恵探)とその母・明蔵主、氏親の頃からの重臣で明蔵主の父である福島正成らと面会する。素直な方菊丸は2人の兄のどちらにも思慕を覚えるが、師である九英承菊はいずれ方菊丸に家督を継がせようという野心があり、方菊丸を厳しく指導する。実は九英承菊には出生の秘密の事情があった。
一方、歩き巫女の照日は、偶然知り合った九英承菊になぜか強く惹かれ託宣をする。しかし彼女が所属する富士修験の一派からそのことで裏切りを疑われ、富士修験の本拠地である富士山麓の氷穴へ連行され尋問される。彼らは遠い昔に死に偶然氷結した女の氷漬けの死体をご神体「炸耶様」として崇めており、さらにその生き身の神として女装させた若い男をまた炸耶様と呼び守護していた。照日はこの炸耶様に惹かれ、また炸耶様のほうでも照日を可愛がる。しかし同じ富士山で富士修験と敵対する村山修験の一派の襲撃を受け、炸耶様と側近たち、そして照日は、甲斐の武田の軍師・駒井政武(後の高白斎)に助けられ駒井の屋形に身を寄せる。駒井はなぜか炸耶様の出自を知っており、彼を「彦五郎」と呼ぶが…。
90年代に静岡新聞で連載された皆川博子の戦国歴史伝奇もの。680頁以上あり分厚かった!戦国武将ではイマイチ人気のない今川義元と、その同腹異腹の兄たちとの物語。連載したのが静岡新聞ゆえ、地元の武将を題材にされた模様。義元自身の生涯はほとんど史実通りなのだけれど、この歴史ものに伝奇の彩りを添えているのが、炸耶様と照日のエピソードのほう。一種の宗教団体であると同時に、忍者よろしくスパイとして武将に使われていた修験者たち、その修験者同志の縄張り争いが、神秘的な富士の洞窟や樹海を舞台に繰り広げられる。そして炸耶様のまさかの正体。出生の秘密のほうはまだしも、怪我を負い隻眼となった後に彼がある歴史上の人物になったのにはびっくりした。
幕末オタクの私は戦国時代はあまり詳しくないので登場人物を一通りWikiで調べてみたのだけれど、今川義元の兄・氏輝の突然死についての死因はわかっておらず、疫病説、暗殺説など諸説あり、しかも駒井政武が残した『高白斎記』などの史料には氏輝と同日に彦五郎という兄弟が一緒に死んだことが記載されているらしい。さらにこの彦五郎という人物が今川家の文書には残っておらず、今もって義元の兄だったのか弟だったのか母は誰なのか不明な点だらけだというから、なるほどここから作者は物語を広げていかれたのだなと。史実の隙間を創作で見事に埋められていて面白かった。
最大の山場は、この兄・氏輝の急死により家督争いが起こり、方菊丸=梅岳承芳を立てる九英承菊らと、異腹の幸寿丸=玄広恵探を立てる祖父の福島正成らとの間におこった「花倉の乱」。もちろん承芳のほうが勝利し、彼は18歳で義元を名乗り今川家の当主となる。相模の北条、甲斐の武田らと戦ったり姻戚結んだり裏切られたりしつつ、太原雪斎となった九英承菊と協力して義元は勢力を拡大していく。やがて桶狭間で織田信長に敗れて討たれるまで、終盤はほぼ史実をなぞるだけの駆け足になってしまい、やや蛇足感。
それにしても今川義元の印象が変わりました。戦国武将ランキング堂々1位の人気武将・織田信長に討たれた今川義元は、大河ドラマなんかでも公卿かぶれのナヨナヨした嫌な奴風に描かれることが多かったせいか(実際あんまり人気もない)あまり魅力を感じていなかったが、実際にはかなりヤリ手の賢明な武将だったようだ。ちょうど今年の大河ドラマ『麒麟がくる』と時代背景がかぶっている部分もあり勉強になりました。あと戦国時代、どうしても武将がクローズアップされがちだけど、軍師というのが卜占も兼ねて陰陽師風味があったり、首実検の作法なども詳しく描写されていて興味深かった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
伝記小説なんだけど、走り出しから氷漬けの老女、女装の巫女…と皆川節全開
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方菊丸(今川義元)の幼少から桶狭間の戦いを経て、今川家が滅ぶまでを描いています。
といっても、今川義元だけでなく、九英承菊こと太原雪斎の生涯、そしてについて今川氏輝が実は双生だったということで、捨てられた方の炸耶様の3人が主人公みたいな感じです。
太原雪斎の出生に秘密があり、その視点からの足利家と今川家の関係や、今川義元への想いなどが語られていて、なかなか興味深かったです。
↓ ブログにも書いています。
http://fuji2000.cocolog-nifty.com/blog/2008/01/post_4a7b.html -
連綿たる血の流れ。歴史書では一行、もしくは名前すら書き記されてない人々の生き様。
気まぐれなのか思惑か、すべては流転し消えてゆく。
こういう歴史小説はよく出来ているほど史実と錯誤する危険性があるけど、これはその一歩手前で踏むとどまれる感じ。それがいいか悪いかは別として、この小説は面白かった。 -
道鬼と照日がかわいいです
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東海の強国駿河は、守護今川氏親の手で着々と覇道を進んでいた。東に北条、北に武田、大国が激しく牽制しあう戦国の世、氏親とその妻妾の息子たちも、奇しき愛憎の闘いに巻きこまれてゆく。野望のままに、広大な富士の裾野を馳ける、武者と修験者たちの凄絶な生と死。今川一族の興亡を描き切った傑作長編。
2010.2.3読了 -
義元が主人公というよりも、今川家の血を引く男たちの物語です。富士山を舞台に伝奇的な要素も。