文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
3.83
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本棚登録 : 12121
レビュー : 1521
  • Amazon.co.jp ・本 (630ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062638876

作品紹介・あらすじ

この世には不思議なことなど何もないのだよ-古本屋にして陰陽師が憑物を落とし事件を解きほぐす人気シリーズ第一弾。東京・雑司ケ谷の医院に奇怪な噂が流れる。娘は二十箇月も身籠ったままで、その夫は密室から失踪したという。文士・関口や探偵・榎木津らの推理を超え噂は意外な結末へ。

感想・レビュー・書評

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  •  メフィスト賞が出来るきっかけとなった本。
     物語を進めるのは関口で、彼が言うならばワトソン役だ。彼が曖昧であることで作品が長引き、雰囲気が陽炎のように見える。
     著者の小説は長いと評判だが、それも読んでいくと長い理由が分かる。この小説のタネは非常にシンプルで、見えればそれで終わりなのだ。それを単純に見せないために周りを理屈で固める。著者は妖怪のことをドーナッツの穴だと言っていた。ドーナッツの穴は本来、何もないものだが、周りにドーナッツが出来ることでそこに穴が生まれる。この穴が妖怪で、周りが情報なのだ。この小説も、この情報を作って、穴を見せるために長々と書いている。おかげで、この小説は安っぽくは見えない。見事な構成力だ。
     京極堂が語ることは、全て物語に繋がっている。偶然はこれだけではない。藤牧と梗子の性交渉への齟齬。涼子の性的虐待と憑きやすい体質。久遠寺のしきたり。無頭児。それらが姑獲鳥の話につながる。これだけを書くと偶然が重なりすぎているように見えるが、それを感じさせないための長い文章なのだ。そして、京極堂の憑き物落としのように、長い文を読むことで、我々にも姑獲鳥というものが分かるようになっているし、ラストの憑き物落としの内容が理解できる。憑き物落としとは、登場人物だけではなくて、読者にも適用されている。それは著者の手によるものだ。
     涼子が産んだ子が関口の子ではないかという話がある。それは違うかなと思う。関口が、あの場面で勃ったとは、そして果てたとは思えない。鬱の人は勃ちにくいに、それに関口は幻視、妄想が多いのは本書で明らかだ。
     戦後の情景が鮮やかに浮かぶのは、舞台が限定されているからだろう。そこまで場所を移動していないので、京極堂の語りが好きなら長いわりに読みやすい小説だ。

  • レビューはこちらに書きました。

    https://www.yoiyoru.org/entry/2019/04/29/000000

  • 確かこの本を最初に読んだのは20年近く前だった。このシリーズの初読、「魍魎の匣」に次ぐ衝撃だった。
    そこから何度読み返しただろう。

    とは言えここ数年は家の本棚で他のシリーズとともにただ幅をとっていた。(とは言え他に比べたら全然スリムだけど)
    今回めちゃくちゃ久しぶりに読み返して思ったのは、想像以上にこの本からわたし、影響を受けていたんだなぁということ。
    とりあえず、90ページまでの関口と京極堂の会話内容が、勝手にわたしの人生の指針になってる気がする。
    特に脳と心と意識の関係については、自身のメンタルを穏やかに保つ秘訣になっているなぁ。
    あと、量子力学については、20年以上経って少し内容が解るようになっていて
    あの頃はチンプンカンプンだったけど20年分は成長したんだなぁと少しだけ自分を褒めたくなった。

    さて、肝心の内容。(以下、若干ネタバレ)

    もちろん話の筋は全て覚えていたし、
    オチについてだけなら今となってはなんら珍しいモノでもない。正直なぜ登場する人物はみなその可能性に至らないのかとも思えてしまうのだけど、
    昔は夢中でページをめくって貪り読んだことも同時に思い出した。
    今回読み返して、もの凄い情報量と、ドラマチックな描写、魅力的なキャラ造形、それこそ最初の90ページにわたるあのたわいなさげな会話が全て事件に収束していく筆力は、圧巻の一言。
    でもやっぱり若い頃、最初に読んだ、
    あの衝撃は超えられない。

    10数年前に、映画化されて、
    わくわくしてレイトショーを観に行ったことも思い出したな。
    …あ、
    そう言えばあの後から読み返してなかったかも(笑)

    とりあえず、また新刊が出ているようなので、
    久しぶりに追いかけようかなと思っている次第。

  • 「鬼は、鬼となった瞬間に、さかのぼって歴史ができる」
    古い病院とダチュラの花と眩暈坂。
    今、自分がそこにいるような気持ちにさせられる。

  • 序盤を乗り越えたらとても面白く、佳境に入ってからは寝食を忘れて読み続けました。

  • あの結末でブチ壊し。見えないわけないだろ? それまでは☆5だったんだけどね。

  • 六月二十七日再読
    京極堂が比較的優しくてびっくりする(私見)

  • 初めて京極夏彦を読んだ。
    榎木津さんが気になる。

  •  15年ぶりくらいで読み直す。
     現在「百鬼夜行シリーズ」と称されるもののうち、京極堂こと中禅寺秋彦を中心とした分厚いシリーズの処女作である。
     これ、信用ならない語り手というミステリの禁じ手を使っているのだが、語り手である「私」、小説家の関口巽がいかに胡乱な語り手なのかは冒頭に書かれていることに気づく。また冒頭で暫く続く関口と京極堂の談義は認識論とその周辺であり、しかも観測者問題に言及されると、このミステリの構造が暗示されていることに気づくのだ。
     関口は古書店「京極堂」を営みつつ神主の仕事もしている旧制高校の同級生のもとを訪ねるのだが、そこで、「二十箇月も身ごもっている女」の噂話を持ち込む。京極堂は答える、「この世には不思議なことなど何もないのだよ」。これは最近の流行語に翻訳すると「ボーッと生きてんじゃねえよ」かも知れぬ。
     会話の中で、その妊婦が学生時代の一級上の知人で、産婦人科の久遠寺医院に婿養子にはいった藤野牧朗、通称・藤牧の妻のことだということがわかる。そして牧朗は失踪しているというのだ。いやいやここは榎木津に要約してもらおう。「藤牧が婿養子に入った先で密室から失踪した、奧さんはそのとき妊娠三箇月で、失踪以来一年半も経つのにまだ赤ん坊は産まれない」。
     ウブメは、お産で死んだ女の無念を形象化した妖怪で、大陸のこかくちょう(姑獲鳥)という悪鬼と同一視されてしまったという。妖怪などいないのであるが、昔の人がある概念を形象化したものが妖怪なのである。

     パロディではなくて、これほどいろんな探偵の登場する作品は珍しいと思うが、中心になって捜査するのは語り手である小説家の関口なのだ。彼はいろんなタイプの探偵と行動を共にする。まずは捜査も推理もしない探偵・榎木津礼二郎(彼は京極堂と関口の一級上だ)と京極堂の妹で雑誌記者の敦子とともに、次に榎木津の幼なじみで、戦時中は関口の部下に当たる警視庁刑事・木場修太郎とともに。榎木津は他人の記憶が見えてしまうので、事件の見える部分は解決して早々に立ち去る。敦子は緻密に密室の状況を見聞する。親分肌の木場は動機という側面から切り込む。
     そして最後に京極堂が憑き物落としに出てくる。憑き物とは人間のとらわれである。因習だったり、思い込みだったり、プライドだったりいろいろあるわけだが。

  • 「うぶめのなつ」と読む。

    うぶめは産女とも書き、人に害をなす妊婦の妖怪であったり、中国の伝承(姑獲鳥=こかくちょう)と結びついて人間、なかんづく幼児の命を奪う化け物であったりする・・・。

    とかなんとかも含め、「脳と心のせめぎ合いから宗教や幽霊妖怪の類いが生まれる」といった、激しく理屈っぽいというか余りにも衒学的というかなコンニャク問答から始まっていて、大いに困惑する。え、これって普通の(?)怪異譚、伝奇小説じゃないの? 夏のひととき、ちょっとゾっとしてみようかと思ったのにぃ・・・って感じ。

    とても読み通せないかと思ったが、まあなんだかんだ読了。(京極夏彦氏一流の「サイコロ文庫」で、一冊600ページくらいあるが)リズムに乗ったらまずまず面白く最後まで読めた。

    探偵が出て来たり、謎解きが筋であったり、ミステリーではあるんだけど、やはり前後のうんちくが主眼というかキモになっている。超常チックな設定もあるが(探偵の能力とか)、総じて怪異に合理的説明がつく内容になっていてコクがある。

    読後によく調べてみたら、京極夏彦氏のデビュー作だった。

    ページごとにパラグラフが終わっている(見開きの終わりは必ず「。」になっている)のも特徴とか。

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著者プロフィール

京極 夏彦(きょうごく なつひこ)
1963年、北海道小樽市生まれ。小説家としてだけでなく、世界妖怪協会・世界妖怪会議評議員(肝煎)など妖怪研究家であり、他にも装幀家、アートディレクター、俳優など様々な顔を持つ。
広告代理店を経てデザイン会社を設立。1994年、そこで暇つぶしに書いた『姑獲鳥の夏』を講談社に送ったところ極めて評価を受け、同年、即出版・デビューに至る。瞬く間に執筆依頼が殺到する人気作家に上り詰めた。
1996年に『魍魎の匣』で日本推理作家協会賞、1997年『嗤う伊右衛門』で第25回泉鏡花文学賞、2002年『覘き小平次』で第16回山本周五郎賞、2004年『後巷説百物語』で第130回直木三十五賞、2011年『西巷説百物語』で第24回柴田錬三郎賞など、数多くの受賞歴がある。
代表作に「百鬼夜行シリーズ」「巷説百物語シリーズ」「豆腐小僧シリーズ」など。

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