犬婿入り (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 541
レビュー : 70
  • Amazon.co.jp ・本 (148ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062639101

作品紹介・あらすじ

多摩川べりのありふれた町の学習塾は"キタナラ塾"の愛称で子供たちに人気だ。北村みつこ先生が「犬婿入り」の話をしていたら本当に「犬男」の太郎さんが押しかけてきて奇妙な二人の生活が始まった。都市の中に隠された民話的世界を新しい視点でとらえた芥川賞受賞の表題作と「ペルソナ」の二編を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 多和田葉子の中編集。表題の「犬婿入り」と「ペルソナ」の2作品が収録。
    以前に読んだ「献灯使」が心に残ったので、芥川賞受賞作品である本書を手に取ってみた。

    「犬婿入り」は芥川賞受賞作。39歳の学習塾を開いている女性を中心とした不思議な物語。
    「ペルソナ」はドイツに留学している姉弟の話。姉の視点から日々の生活が描かれ、外国で日本人として暮らす姉の心情風景が描き出される。

    「犬婿入り」は、芥川賞受賞作らしく、非常に難解であった。実際に犬が婿にくるような話なのであるが、それがエロティックというか、気持ち悪いというか、心にざわざわ感が残るというか、何とも読後の印象の不思議な物語だった。

    「ペルソナ」も理解するのが、非常に難しかった。移民の多いドイツであるが、日本人や韓国人などの「東アジア人」はドイツ人や他の移民達から何となく差別を受けている。例えば、「東アジア人は表情がなく、本当の気持ちを顔に出すことは無い」などといった、差別とは言えないほどの些細なものだ。
    おおっぴらに差別はされないが、誰もが心の中に壁を作り、それぞれの人たちが持つ「東アジア人」に対するステレオタイプを押しつける、あるいはそのように接してくる。
    この微妙な空気のなかで息が詰まりそうになりながら主人公である道子の心情を、独特な筆力で筆者は描き出す。この心情は道子と同じくドイツで暮らす筆者の心情にも通じているのだろう。

  • 人は自分と共通点のある似通った人とは仲間になりたがるけれど、ちょっとでも異なる人とは区別したがる。
    生まれた国や言語、文化、風貌、立ち振舞い等あらゆる基準により自分とは異なる者を「異物」と見なし排除し、時に攻撃する。
    まるで多数決で多い方が正義となるかのように。
    『ペルソナ』でのドイツに住む日本人・道子に対して、表情が乏しく何を考えているのか分からない、と言って傷付けたり、表題作の風変わりな塾教師に対して母親達が無責任な噂話を広めたり。

    個人的には芥川賞受賞作の表題作より『ペルソナ』(これも芥川賞候補作)が好き。
    道子が日本人の顔になるために化粧をする姿(素顔ではベトナム人に間違えられるため)や能面(ペルソナ)で顔を隠すことにより柵から解放され堂々と歩く姿がとても印象深い。
    長年ドイツで暮らす多和田さんも、ドイツに住み初めの頃は色々と苦労したのだろうか。

  • 多和田葉子氏の、芥川賞受賞作。この著者のことは知らず、初めて読んでみた。芥川賞受賞作によくある、なんとも不思議な小説だった。著者は、芥川賞だけでなく、今まで数々の文学賞を受賞しているようだ。
    2作の短編小説が入っている。1つめは「ペルソナ」という題で、ドイツに留学中の姉弟の姉の一人称の視点で描かれる。外国で外国人としての暮らし、現地日本人との話、自分のアイデンティティ、など。2本目は、中年独身で、傾きかけた古民家に住み自宅で小学生の塾をしている女性が、犬のような男性と暮らす話。犬婿という民話は私は聞いたことが無かったが、普通の人間の女性が、犬と結婚するというような話のようだ。この女性宅に転がり込んでくる男性は、ちょっと変わっているので、塾に子供を通わせる親の間でも話題になっていた。実は以前、その母親の一人の夫だったそうで。
    この不思議な小説は何を伝えたいのだろう?不協和音的な心もとなさが、面白いと言えば面白いが、奥が深すぎるのか、響いてこなかった。

  • 遅読の私なのだが実にすいすい読み進めた。
    二冊目にして「多和田葉子流」に慣れたのは
    思考の形がどこか似ているのかしら?なんて
    多和田女史の研ぎ澄まされた言語感覚と
    深い洞察力を前にして とても言えない。

    1993年芥川賞受賞の「犬婿入り」。
    エロチックな有機物のにおいに満ちているが
    妙に乾いた空気感。
    「異質な存在」も人々の「言葉」次第では
    そうでないものになり
    何者なのか 何物なのか 
    わからないまま時は過ぎていく。

    「ペルソナ」には「ドイツで生きる私」が
    ちょっと痛々しく描かれている。
    ある韓国人に対するドイツ人の反応をきっかけに
    「東アジア人」の自分がよくわからなくなっていく。
    能面をかぶったまま街を歩き
    日本人を体現しようとしたものの 
    誰も日本人だと思ってくれない。
    ペルソナ=外的側面のせいで
    何者でもなくなってしまうという恐怖。

    私は海外に住んだことがないくせに
    何度も行っているから知った気になっている
    情けない人間だが
    異国において自分が誰かよくわからなくなる感じは
    なんとなくわかる。

    以前 ミュンヘンで
    商店街のウィンドウを眺めながら歩いていた時
    妙にくすんだ女性の像が突然目に飛び込み
    ぎょっとした。
    平たく表情のない顔。凹凸の少ない身体つき。
    それは鏡に映った私の姿だった。
    一瞬 時間が止まるというか 血流が止まるというか
    身体が地面から浮いてしまったような
    気がしたことを覚えている。

    20世紀末 多和田女史は異国にあって
    アイデンティティを喪失した共同体は
    やがて断片の集まりでしかなくなる 
    という不安を感じたのではないだろうか。
    21世紀に入って20年。
    その不安が現実となった世界に私たちは暮らしている。

  • 違うタイプの二編で、私にとっては二編とも居心地が良いとは言えない話だった。
    ペルソナは、国や文化や性別による差別・偏見が根底に常にあって、次から次へと襲ってくるそれらにあてられたようで、孤独や葛藤が渦巻いているのもあり少し沈んだ気持ちになる。
    犬婿入りは、良くも悪くも性が猥雑に散らばっていて動物的。そこを見て見ぬ振りはできず、不快感を薄っすらと刺激される。最後は本当に結ばれた者同士で関係が成立して丸くおさまるので良かったのかな、と思いつつも置いていかれた感じがある。

  •  
    ── 多和田 葉子《犬婿入り 19981015 講談社文庫》1993 芥川賞
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4062639106
     
    ♀Tawada, Youko 1960‥‥ 東京 /1982 ドイツ/日独語作家。
    《雪の練習生 2011 野間文芸賞》
    http://d.hatena.ne.jp/adlib/19850105 中学生諸君!
     
    (20181115)
     

  • 多摩川べりのありふれた町の学習塾は〝キタナラ塾〟の愛称で子供たちに人気だ。北村みつこ先生が「犬婿入り」の話をしていたら本当に〈犬男〉の太郎さんが押しかけてきて奇妙な2人の生活が始まった。都市の中に隠された民話的世界を新しい視点でとらえた芥川賞受賞の表題作と「ペルソナ」の2編を収録。

    ある日、黒い犬はお姫様をさらって森に入ってしまい、本当に嫁にしてしまったと言う子もいれば、お姫様のご両親が黒い犬がお姫様のお尻を舐めているところをたまたま目撃してしまい、ひどくお怒りになって、黒い犬とお姫様を無人島に島流しにしてしまったと言う子もいた。
    P84より

  • 「ペルソナ」と「犬婿入り」の短編二編を収録。
     どちらもクセのある文体なので、好き嫌いが分かれそう。
     しかもどちらも異なる文体で書かれている。
     ということは意図的に文体を作り上げているのだろう。
     他の作品を読んでいないので、何ともいえないが。

    「ペルソナ」も「犬婿入り」も異物の話なのかな、と思う。
    「ペルソナ」は異物としての日本人であり、「犬婿入り」は異物としての変わり者(あるいは人間に化けた犬や狐といってもいいかも)。
    「ペルソナ」には、読んでいるこちらの息が苦しくなってくるような、疎外感がヒシヒシと伝わってきて、その独特な文体と相まって変な心地の悪さを感じる。
     矛盾しているようだが、その心地の悪さが心地よかったりもする。
    「犬婿入り」はちょっと不思議な話。
     ファンタジーまではいかないまでも、日常の中に投げ込まれた非日常的な要素が広がっていく。
     白黒はっきりさせてもらわないと気が済まない読者の方には向かない話と思われる。
     他の作品も読んでみたくなった著者である。

  • 芥川賞受賞作品であったがすんなりとはわからない不思議な小説であった。ドイツのことには全く触れられていない。

  • 「ペルソナ」は匿名性や等価性といったものが構造としても表されているが、やや型に嵌った感もある。それに較べて「犬婿入り」はもう少し奔放な感じがするが、細部まで読み込めなかったので口惜しい。

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著者プロフィール

多和田葉子(たわだ ようこ)
1960年、東京都生まれの小説家、詩人。早稲田大学第一文学部ロシア文学科卒業後、西ドイツ・ハンブルクの書籍取次会社に入社。ハンブルク大学大学院修士課程修了。長年ドイツに暮らし日本語・ドイツ語で執筆する。著作は各国で翻訳されており、世界的に評価が高い。
’91年「かかとを失くして」で第’34回群像新人文学賞。’93年「犬婿入り」で芥川賞受賞。’96年、ドイツ語での文学活動に対しシャミッソー文学賞を授与される。’11年、『雪の練習生』で野間文芸賞、’13年、『雲をつかむ話』で読売文学賞と、芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。
世界的な賞も数々獲得している。2016年ドイツの文学賞「クライスト賞」を日本人として初めて受賞。そして2018年『献灯使』がアメリカで最も権威のある文学賞「全米図書賞」翻訳文学部門を受賞している。

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