密やかな結晶 (講談社文庫)

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  • 講談社 (1999年8月10日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (402ページ) / ISBN・EAN: 9784062645690

作品紹介・あらすじ

2019年度「全米図書賞」翻訳部門、2020年度「英国ブッカー国際賞」最終候補作。『博士の愛した数式』など数々の話題作で知られる著者が描く、澄明に描く人間の哀しみ。記憶狩りによって消滅が静かにすすむ島の生活。人は何をなくしたのかさえ思い出せない。何かをなくした小説ばかり書いているわたしも、言葉を、自分自身を確実に失っていった。有機物であることの人間の哀しみを澄んだまなざしで見つめ、空無への願望を、美しく危険な情況の中で描く傑作長編。

みんなの感想まとめ

記憶や消滅、喪失がテーマのこの物語は、静寂の中に漂う美しさと哀しみを描き出しています。不穏な雰囲気が漂う中で、主人公たちが直面する現実の恐怖は、どこか幻想的であり、淡々とした文体が心に深く響きます。小...

感想・レビュー・書評

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  • やっと読み終えた。あまりにも不穏な感じで先に進むのが怖かったのと「消滅」が想像し難く半分位で中断していたのだ。後半を一気に読んで、不穏感と大きな喪失感とともに、小川さんのいつものような静謐さ優しさの漂う世界の美しさが心に残った。

  • ただただ、涙がこぼれました。

    小川洋子さんの小説を読むのは実は初めてなのだけれど、こんなに悲しくも美しい物語を書く作家さんだったのですね。本当に今まで読んでいなかったことを後悔しました。

    この本を手に取ったのはニューヨークタイムズの記事(2019.8.12付)でこの『密やかな結晶』(英語題名“The Memory Police”)が英訳されてアメリカで発売されるという記事を読んで興味が出たからでした。
    この記事には小川洋子さんのインタビューも載っていて「自分の作ったその世界を覗き見るようにして観察し、その世界に住む人たちの様子をすくい取って文章にする」というような方法で小説を書いているということをおっしゃっていてそのことにもすごく惹かれたのが本書を選んだ理由の一つでした。

    この物語は、ある島での出来事を描いています。
    その島では一定の期間がくると『物』が『消滅』する、つまり無くなっていくのです。
    『物』というのは、その存在そのものではなく概念としての意味です。あるときは『帽子』、そしてあるときは『鳥』、そして『バラ』と次々に『物』が無くなってゆきます。
    島の住民たちは『消滅』が起きると、住民達はあくまでも自発的にその無くなった『物』を燃やしたり、川に流したり、海に捨てたりします。そしてその『物』が何であったかという記憶も徐々に無くしていきます。
    そう、彼らは何が無くなったのかすら忘れてしまうのです。
    『消滅』が起こった後は『秘密警察(これが英訳では“Memory Police”と訳されているのです)』が各住民の家を回り、消滅すべき物がちゃんと無くなっているかを確認していくのです。

    住民の中には、記憶を保ったままの人もいます。そういった人は秘密警察に連行され、二度と戻ってきません。
    本書の主人公である小説家の『わたし』は、母親が記憶を保ったままでいられた人物の一人で『わたし』は母親から子供の頃にいろいろと消滅してしまった物のことを教えてもらっていました。しかし、ある時、母親は秘密警察に連れて行かれ、それ以後二度と生きて会うことはありませんでした。
    そんな過去を持った『わたし』は自分の小説の担当編集者R氏が記憶を保ったままでいられる人物であることを知り、彼を秘密警察から守るために『わたし』のおじいさんと一緒に自宅を改造して秘密の小部屋を作り、R氏を小部屋の中に匿うことにしたのです。R氏は物ごとを忘れませんが『わたし』やおじいさんは次々と物ごと忘れてゆきます。R氏は『わたし』やおじさんに消滅した物の存在を思い出せようとするのですが、その物の概念すら忘れてしまった『わたし』やおじさんには、R氏の言っていることもよく理解できなくなっていきます。否応なく物は『消滅』していき、そしてこの島に最後に残ったものとは・・・。

    なんという物語なのでしょう。
    このあらすじだけ読むと、小川洋子さんが高校生の時に大きな影響を受けたという『アンネの日記』にでてくるようなナチスのゲシュタポや第二次大戦中の日本の特高警察のような思想狩りを想像しますが、この本に登場する住民達は政治的な意図や弾圧された人々というような感覚はありません。あくまでも淡々と『消滅』を受け入れていきます。

    そこには、諦めというか達観というか、すべてをありのままに受け入れる人々の脆さと矮小さが強調されます。あまりにも大きな渦のなかでは人はあらがうことができないのです。しかも、無くした物の記憶さえも消えてしまうのですからあらがう術も無いのです。

    小川洋子さんの美しい文体で紡ぎ出されるこの無情の美は、小説家である「わたし」が本文中で書いている小説『あるタイピスト女性のお話』の結末とともに、この物語の美しさは永遠にこの本のなかに閉じ込められるのです。

    本当に儚くて、哀しくて、美しい物語でした。
    私の読書歴のなかでこのような哀しく美しい物語を読んだのは初めてと言っても良いくらい感動しました。

    あらゆる物が溢れ、そして知らぬ間に『物』がうち捨てられる時代となった現代。
    こういった時代だからこそ、全ての『物』の本質が今まで以上に問われているのだと思います。
    本書はもう25年も前の小説ですが、まさに今の時代を生きる人々に「本当に大切なものとはなにか」ということを私たちに問いかけているような、そんな小説でした。

    この本はこの先も自分の心のなかでずっと大切にしていきたい一冊になると思います。
    次は、小川洋子さんの代表作であり、やはり『記憶』を題材にした『博士の愛した数式』を読んでみたいと思います。

    • fuku ※たまにレビューします さん
      この作品は私も大好きです。
      最初に読んだ小川作品は「薬指の標本」でそちらもかなり衝撃を受けましたが、この作品はまた違った雰囲気で、どんどん...
      この作品は私も大好きです。
      最初に読んだ小川作品は「薬指の標本」でそちらもかなり衝撃を受けましたが、この作品はまた違った雰囲気で、どんどん失くなっていくのにどんどん広がっていくような、なんだか不思議な感覚に陥ったのを覚えています。
      2019/09/25
    • kazzu008さん
      fukuさん、こんにちは!
      fukuさん、いつも「いいね」していただいきありがとうございます。そしてfukuさんの興味深い本のレビューもい...
      fukuさん、こんにちは!
      fukuさん、いつも「いいね」していただいきありがとうございます。そしてfukuさんの興味深い本のレビューもいつも楽しく読ませてもらっています。

      この本は本当に素晴らしい作品でした。fukuさんのおっしゃる「どんどん広がっていく」という感じ分かる気がします。哀しいのだけれど、逆に自由になっていくような、そんな感じが確かに不思議でした。

      小川さんの「薬指の標本」も評価が高いですよね。この本もぜひ読んでみたいと思います。
      fukuさん、興味深い本の推薦ありがとうございます。
      今後ともよろしくお願いします。ありがとうございました!
      2019/09/25
  • 圧倒的な美を感じる。

    記憶、消滅、喪失が描かれたこの物語は断然、静寂無音の夜が似合う。
    毎晩、小川さんの紡ぎ出す言葉たちに取り囲まれ、圧倒的な美に心はのみ込まれた。どんな瞬間も丁寧に掬い取られ丁寧に言葉に姿を変えて心に届けられる。そしてしっかりと心でキャッチした瞬間、キュッとくる。これを味わうたびになんとも言えない恍惚感を覚える。

    朝起きたら何かが喪われてる世界。記憶からも消滅する世界。
    それが誰かにとってはとても大切なモノかもしれない哀しみ、そしてその分、残されたモノを心に記憶に濃密に閉じ込め慈しむ大切さを感じられた。

    きっと人は永遠に誰かの記憶に閉じ込められていたい…そんなことを思うと言葉にならない気持ちで心が締めつけられる。

    文句なしに好きな小川さんの作品だ。

    • くるたんさん
      kanegonさん♪
      そう、文句なしの満点です(≧∇≦)
      良い時間を味わえました(*≧∀≦*)
      kanegonさん♪
      そう、文句なしの満点です(≧∇≦)
      良い時間を味わえました(*≧∀≦*)
      2019/10/04
    • あいさん
      グッモーニン(^-^)/

      この本、本棚に眠っているかもꉂꉂ(ᵔᗜᵔ*)
      私は新刊が気になるんだけど、この前読んだ小川洋子さんちょっ...
      グッモーニン(^-^)/

      この本、本棚に眠っているかもꉂꉂ(ᵔᗜᵔ*)
      私は新刊が気になるんだけど、この前読んだ小川洋子さんちょっときつかったから迷い中。
      この作品は小川洋子さんらしい感じだね。
      楽しめそう♪探してみよう。
      2019/10/07
    • くるたんさん
      けいたん♪おはよー♪♪

      わかる、小川作品って合うのもあるし合わないのもあるかな。って、そんなに読んでないけど(*∩ω∩)
      これはとても好き...
      けいたん♪おはよー♪♪

      わかる、小川作品って合うのもあるし合わないのもあるかな。って、そんなに読んでないけど(*∩ω∩)
      これはとても好きな世界だったからオススメ♡
      架空の設定がまたなんとも良い雰囲気、世界だったよ♡
      2019/10/07
  •  やはり作者は、謎解きをしてくれない。どこの国、いつの時代、誰が首謀者か。主人公の名前さえわからない。だから、読み手は登場人物と同じ気分にさせられるのか。
     私の生きる世界でも、ゆっくりと記憶狩りが進んでいるのだろうか。どこかの地下室に誰かが匿われたり隠れたりしているのかも知れない。こんなふうにいろいろ考えさせられる物語が私は好きなのだ。

  • 淡々とした狂気というか
    静かな文体に闇と優しさが溢れているというか。

    少しづつ読み進めて 不思議な世界にどっぷり浸らせてもらった。

    起こっていることは恐ろしいのだけれど 現実的な恐怖を感じない そこはかとない 静かな 死

    そう この本は 死者と記憶のものがたり。

    昔 アイデンティティとは 脳か体か記憶かと考えるゼミに所属していた私にとって

    消滅していく世界と それに抗う、記憶を無くさない人々との対峙の表現は とても興味深く面白かった。

    この世界観をこの設定を 見事に表現した作者にただただ脱帽。違う本も読んでみる。

  • 息をひそめて文字を追う。それが正しい読み方と思わせるような、そんな小説。

    主人公の「わたし」は小さな島に住んでいる。
    その島では定期的に、『消滅』という不可思議な現象が起こる。「リボン」「香水」「ハーモニカ」。色々なものが人々の心から消えていく。空洞ができた心にとっては、もう「リボン」はただの細い布で、「香水」は瓶に入った少量の水だ。
    それにまつわるさまざまな思い出も消えて、人々はそれを見ただけで心がざわつき、遠ざけたくなる。『消滅』の日の朝、島の人々は持っていた「それ」を川に捨てるために集まってくるのだ。
    そして、だんだん忘れてしまう。自分が「それ」をどんなに好きだったか。どんな風に愛していたか。

    島には『消滅』が起こっても「それ」を忘れずにいる人々が存在する。
    彼らを探し出し、捕まえ、どこかに連れ去る秘密警察がいて、島の人々は消滅したもののことを気安く口にすることが出来ない。
    このあたりの雰囲気は、ナチス政権下のドイツのユダヤ人のようである。やがて主人公は消滅したものを忘れられずにいるR氏を自宅にかくまうことになる。

    見知ったものが無くなっていく。生活から彩りやほんの少しの華やかさが姿を消していく。
    人々はそれを仕方ないことと諦め、無かったものとして生活を維持していく。
    現実感の無い捉えどころのない夢のようなお話なのに、なぜかとてもよく知っている気がしてくる。
    『消滅』を怖がる主人公に、人々は「あまり難しいことは考えず、身を任せていればそのうち収まるべき場所にきちんと収まる」という。それもなんだか、良く知っている言葉のようだ。
    R氏だけが、ささやかだけれど想いを込めて作られたモノたちが持つ豊かさを訴え続ける。
    だが、主人公にはもうそれらを思い出すことも覚えていることもできない。

    わたしには主人公たちが、どんどん大切なものを差し出していく物語に思えた。逆らえないから、覚えているとつらいから、差し出したものは忘れてしまうのだ。最後に向けて、『消滅』の速度は増していく。そのスピードだけが、現実的で恐ろしかった。

  • 人々が少しずつモノに対する記憶をなくしてしまうある島での話。
    記憶をなくさない人々も一定数いて、主人公の友人R氏もその1人。その人を主人公は家に匿うんだけど。。
    不思議な話。
    ホロコーストを想起させる様な話だけれど、
    私は主人公に少し怖さを感じた。
    主人公はおそらくR氏の事を以前より好きだったのだろうけど、R氏には奥さんも子供もいて自分のものにはならない。
    だけれど、R氏を自宅に匿う事で、R氏が自分が居ないと生活できない状況にどんどんと追い込んでいく。
    状況は主人公が意図したものではないのだけれど、
    主人公が書いてる小説も自分の恋人をコントロールする話だったし、
    なんとなくこの状況自体が主人公の妄想の産物で、R氏を自分のモノにしたいが為のものなのでは?とか物語の本質と少し離れてるとは思うんだけど、私はそこに怖さを感じた。
    淡々と話が進んでいく所も怖い。最後はR氏だけが生き残る訳で。結局人をコントロールする事は本質的にはできないのかなと思う。

  • 海外から帰国後、ホテルで隔離されている時に読むべき本ではなかった笑。
    ずっと冬のまま春にならないのが、辛い。ただでさえシンガポールから帰国して、今の東京のくらーい感じの冬、さらにコロナ感染者拡大で不安な社会に飛び込んできた不安、、、こんな状況でホテルに閉じ込められて、こんな本を読んでしまった笑。

    しかし、別途Twitterでも書いたが、今の世の中、日本だけではなく世界を覆う雰囲気というかムードに繋がるものがある気がする。自然災害、政治家やコメンテーターの言葉の軽さ(嘘も多い)、民主活動家の弾圧とか、、、。なんだか社会が暗い。でもみんな折り合いをつけていると言うと語弊があるが、なんとなく慣れてしまっている空気感。
    著者の意図はわからないけど、自分なりに解釈すると、意外と現実世界と変わらないことがこの小説には書いてある気がします。

  • 身の回りのあらゆるものが「消滅」してゆく島の物語。
    読みながらジョージ・オーウェルの『一九八四年』を思い出しましたが、『一九八四年』と違ってこの物語の主人公の「わたし」はいきなり訪れる「消滅」を諦め受け入れていて、不満を抱いていない様子。「わたし」がR氏を匿ったように、記憶を失わない少数の人を「記憶狩り」から守ろうとする人はあっても、「消滅」に対する島民の反乱のような大きな動きもなく、社会的・政治的なニオイが全くしないとても静かな物語。
    薔薇の消滅のシーンが象徴的ですが、「失う」ことの悲しみが美しく描かれているという意味で、耽美的な印象を受けました。
    小説家の「わたし」が書く、言葉が話せなくなった別の「わたし」の物語が作中で同時進行しますが、どちらの物語も一人称で語られるのが印象的。言い換えれば、どちらも一人称で語るほかない物語、という気がしました。客観的な視点で語ることが難しいかなーと。
    「わたし」が匿っていた、記憶を失くさないR氏が一人称で語ったらどんな物語になるだろう。と少し思いました。

  • 小川洋子さんの長編では今のところこの作品が一番好きです。何度読んでも、この静かで脆く不安な世界もとても好きです。
    少しずつ、人々は何かを失っていき、何をなくしたのかも忘れてしまう島。鳥が消滅したときは鳥を放し、バラが消滅したときはバラを摘んで川に流し、小説が消滅したときは本や図書館を焼く…記憶を保ち、消滅したものを持ったままだと記憶狩りに連行されるとはいえ、狂気も感じます。カレンダーが消滅して、冬が終わらないところもなんだか好きです。
    今回は、おじいさんがとても優しく心強く感じられたので地震からの展開には泣いてしまいました。
    ものの記憶も、自分の身体の記憶も失っていく主人公と、記憶を失わない編集者のR氏がわかりあえないところもせつなかったです。
    主人公の消滅が穏やかなものだったので、自分の消滅もこんな甘美すら感じるものだったらいいなと思いました。

  • 破滅的な事が少しずつ進行していく中で推移する親しい人との関係や内面的な変化を中心に描いている
    閉鎖的な空間や事態を静かに受け入れ、受け入れざるを得ないとする考え方が、意外性もありながら理解できる感覚もある

  • 磨き上げられたガラスみたいな文章で、
    不穏で、チリチリしてて、惚れました。

    コロナでわたしたちが失ったものを再認識すると共に、それらはなくなったわけじゃなくて、心の奥底に沈められて、いつか取り出せることができると思いました。

    今、読んでほしい。
    失ったことを実感する今だから生まれた感情があると思うので。

  • ※再読後に追加予定

    静謐で美しい喪失の物語。

    記憶狩りにより消滅が進む島に住む
    小説家の「わたし」は「何かをなくす小説」を
    書いて暮らしている。暮らしていく中で、
    ひとつ、またひとつとなにかが消滅していく。
    人々は最初は悲しみつつ、そのなにかを
    川に捨てたり焼いたりして処分するけれど、
    すぐにその状態に慣れ記憶も感情も失くしていく。

    「わたし」の母のようにわずかに存在する
    記憶を失くさない人たちは、秘密警察に
    連れていかれてしまう。

    なにかが消滅すると、そのものに関する記憶が
    あいまいになっていき、さらにそれを見ても
    なにも感じなくなってしまう。静かに確実に
    記憶と感情が失われることによって
    物語全体が静謐な不安に包まれる。
    秘密警察が来て多くの人が消えてしまっても
    広大で静かな世界の中の小さな一つの出来事、
    例えば、雪の草原での1枚の葉が落ちるような
    出来事のよう。

    静かに静かに終わりが来たとき、最後に
    「わたし」はどうなるのか。

    再読2回目(2021年4月14日)
    英文と併読。英語で小川さんの文章の雰囲気を
    出すのはかなり難しそうだと感じました。

    英語だと主人公が日本語より少し強そうに思えました( *´艸`)

  • 『密やかな結晶』小川洋子さん著

    ----------ーーーーーー
    記憶狩りにより、日々“その物”と記憶が消されてしまう島に住む「わたし」のお話。
    ある日は鳥、またある日は写真、そして左脚…。島民はその物を物理的に処分するだけではなく、その物にまつわる記憶も消す。というか、“消えてしまう”。島民の中には記憶を失わない人もいるのだが、彼らは「秘密警察」の徹底的な捜索によってどこかへ連れ去られてしまう。小説家の「わたし」の編集者R氏もその一人。果たして彼、そして「わたし」は消滅が続く島でどうなってしまうのか…。
    ----------ーーーーーー

    この小説の “ものの消え方” は、とても切ないと思いました。物が物理的に消えてしまうだけでなく、その記憶も消えてしまうから。しかも、その物を自分で処分しなければならないので、悲しみで胸がぎゅっと締め付けられる思いでした。。
    特に、写真が消滅するシーンは苦しかったです。「写真を見ても何もよみがえらない。懐かしくもない。新しい心の空洞が燃やすことを求めている」と語る主人公の言葉に、切なさを感じない人はいるのでしょうか。

    この小説が出版されたのは1994年ですが、まわりの物が消滅していく様子や、隠れ家での閉塞した生活など、今のコロナ禍と通じるものがあり、恐ろしいくらい現実的でした。

    昨年度の「英国ブッカー国際賞」の最終候補にノミネートされた作品。英語版タイトルは “The Memory Police" ぜひ読んでみたいです。

  • 美しく、不可解。
    消滅という圧倒的に理解を超えた事象を
    どう捉えていいかずっとわからないまま
    わたしが消えてしまうところまでたどり着いた。

    石原さとみちゃんの舞台を観て
    よくわからないまま原作を読んだけど
    さらに迷い込んで浮遊してしまった気持ち。

    感じたいろいろな気持ちを
    今すぐ言葉にできないけど、
    この物語をきっとずっと覚えている。

  • 文学ラジオ空飛び猫たち第103回 https://spotifyanchor-web.app.link/e/fe3LhDV3hwb 小川洋子さんが30代前半で書いたとは思えない完成度の高い小説で、時代が変わっても読まれる作品だと思った。海外の評価も高いのも頷ける。 読了後にいろんな人と語りたくなるタイプなので読書会向きかもしれない。 違う世界観に触れたい人にはオススメ。

  • ひとつひとつものの記憶が消えていく島で、「記憶狩り」が行われる話。隠し部屋や秘密警察の描写を見るに、ナチスのホロコーストをベースにしているんだと思う。静謐な文体のせいか、設定の重さの割に不思議と悲壮感はなかった。
    小川洋子特有の言葉選びやメタファーが美しかった。そういったものたちが総体として形成する退廃的で幻想的でどこかグロテスクな世界観の中に浸ることができる。

  • 小川洋子、初読。今後読むべき作家だと認識(今さら)。

    「秘密警察」に象徴されるようなディストピアを描くことが主眼ではないな、ということが物語の序盤で感得される。

    静謐で無菌的なイマジネーションの世界。甘味料不使用なのに、ほの甘い菓子のアソートのような小説。フェリーの切符、ラムネ、などオブジェの際立たせ方が、宮沢賢治を思わせる。少々感動的。

    思料すべきものの豊富さも特筆もので、わたし自身「記憶と肌感覚」「支配と服従」「閉所と想像力」のような事をあれこれ考える機会に恵まれる、幸福な読書体験を授けられた。

    類似テーマの諸作品を近々読んでみたい。

  • つまらない本、悪い本だとは思わないし、読んでて退屈したわけでもないのだけれど、個人的に受け付けない本だった。
    要するに、この小説のキモであるところの『消滅』という要素が、どうにも自分の中で腑に落ちず(実際、作中で『消滅』がどういうものなのかはかなりふわふわしている)、そこを了承させてもらえなかったのが大きいと思う。
    もうそうするとこの小説の世界の住人になれないので、いろいろと小説のあらというか、不徹底なところが目についてしまう。ふわふわした幻想的な作品なのかと思いきや、ずいぶん読者をハラハラさせるエンタメに近い展開を持ってきたり、あからさまにナチスとユダヤ人の関係を示唆したり、この小説の目指しているところが僕には最後まで掴めなかった。残念。

  • 静かで悲しくてキレイな本でした。
    暗くてひんやりしてる。
    雪が降り続いてる。

    最後、外の世界にR氏が出ていくのが希望でした。
    おじいさんが温かくて強くて良かった。
    この物語の癒やしでした。

    対になるタイピストの物語も悲しい。

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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