- Amazon.co.jp ・本 (401ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062645690
作品紹介・あらすじ
記憶狩りによって消滅が静かにすすむ島の生活。人は何をなくしたのかさえ思い出せない。何かをなくした小説ばかり書いているわたしも、言葉を、自分自身を確実に失っていった。有機物であることの人間の哀しみを澄んだまなざしで見つめ、現代の消滅、空無への願望を、美しく危険な情況の中で描く傑作長編。
感想・レビュー・書評
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やっと読み終えた。あまりにも不穏な感じで先に進むのが怖かったのと「消滅」が想像し難く半分位で中断していたのだ。後半を一気に読んで、不穏感と大きな喪失感とともに、小川さんのいつものような静謐さ優しさの漂う世界の美しさが心に残った。
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ただただ、涙がこぼれました。
小川洋子さんの小説を読むのは実は初めてなのだけれど、こんなに悲しくも美しい物語を書く作家さんだったのですね。本当に今まで読んでいなかったことを後悔しました。
この本を手に取ったのはニューヨークタイムズの記事(2019.8.12付)でこの『密やかな結晶』(英語題名“The Memory Police”)が英訳されてアメリカで発売されるという記事を読んで興味が出たからでした。
この記事には小川洋子さんのインタビューも載っていて「自分の作ったその世界を覗き見るようにして観察し、その世界に住む人たちの様子をすくい取って文章にする」というような方法で小説を書いているということをおっしゃっていてそのことにもすごく惹かれたのが本書を選んだ理由の一つでした。
この物語は、ある島での出来事を描いています。
その島では一定の期間がくると『物』が『消滅』する、つまり無くなっていくのです。
『物』というのは、その存在そのものではなく概念としての意味です。あるときは『帽子』、そしてあるときは『鳥』、そして『バラ』と次々に『物』が無くなってゆきます。
島の住民たちは『消滅』が起きると、住民達はあくまでも自発的にその無くなった『物』を燃やしたり、川に流したり、海に捨てたりします。そしてその『物』が何であったかという記憶も徐々に無くしていきます。
そう、彼らは何が無くなったのかすら忘れてしまうのです。
『消滅』が起こった後は『秘密警察(これが英訳では“Memory Police”と訳されているのです)』が各住民の家を回り、消滅すべき物がちゃんと無くなっているかを確認していくのです。
住民の中には、記憶を保ったままの人もいます。そういった人は秘密警察に連行され、二度と戻ってきません。
本書の主人公である小説家の『わたし』は、母親が記憶を保ったままでいられた人物の一人で『わたし』は母親から子供の頃にいろいろと消滅してしまった物のことを教えてもらっていました。しかし、ある時、母親は秘密警察に連れて行かれ、それ以後二度と生きて会うことはありませんでした。
そんな過去を持った『わたし』は自分の小説の担当編集者R氏が記憶を保ったままでいられる人物であることを知り、彼を秘密警察から守るために『わたし』のおじいさんと一緒に自宅を改造して秘密の小部屋を作り、R氏を小部屋の中に匿うことにしたのです。R氏は物ごとを忘れませんが『わたし』やおじいさんは次々と物ごと忘れてゆきます。R氏は『わたし』やおじさんに消滅した物の存在を思い出せようとするのですが、その物の概念すら忘れてしまった『わたし』やおじさんには、R氏の言っていることもよく理解できなくなっていきます。否応なく物は『消滅』していき、そしてこの島に最後に残ったものとは・・・。
なんという物語なのでしょう。
このあらすじだけ読むと、小川洋子さんが高校生の時に大きな影響を受けたという『アンネの日記』にでてくるようなナチスのゲシュタポや第二次大戦中の日本の特高警察のような思想狩りを想像しますが、この本に登場する住民達は政治的な意図や弾圧された人々というような感覚はありません。あくまでも淡々と『消滅』を受け入れていきます。
そこには、諦めというか達観というか、すべてをありのままに受け入れる人々の脆さと矮小さが強調されます。あまりにも大きな渦のなかでは人はあらがうことができないのです。しかも、無くした物の記憶さえも消えてしまうのですからあらがう術も無いのです。
小川洋子さんの美しい文体で紡ぎ出されるこの無情の美は、小説家である「わたし」が本文中で書いている小説『あるタイピスト女性のお話』の結末とともに、この物語の美しさは永遠にこの本のなかに閉じ込められるのです。
本当に儚くて、哀しくて、美しい物語でした。
私の読書歴のなかでこのような哀しく美しい物語を読んだのは初めてと言っても良いくらい感動しました。
あらゆる物が溢れ、そして知らぬ間に『物』がうち捨てられる時代となった現代。
こういった時代だからこそ、全ての『物』の本質が今まで以上に問われているのだと思います。
本書はもう25年も前の小説ですが、まさに今の時代を生きる人々に「本当に大切なものとはなにか」ということを私たちに問いかけているような、そんな小説でした。
この本はこの先も自分の心のなかでずっと大切にしていきたい一冊になると思います。
次は、小川洋子さんの代表作であり、やはり『記憶』を題材にした『博士の愛した数式』を読んでみたいと思います。-
この作品は私も大好きです。
最初に読んだ小川作品は「薬指の標本」でそちらもかなり衝撃を受けましたが、この作品はまた違った雰囲気で、どんどん...この作品は私も大好きです。
最初に読んだ小川作品は「薬指の標本」でそちらもかなり衝撃を受けましたが、この作品はまた違った雰囲気で、どんどん失くなっていくのにどんどん広がっていくような、なんだか不思議な感覚に陥ったのを覚えています。2019/09/25 -
fukuさん、こんにちは!
fukuさん、いつも「いいね」していただいきありがとうございます。そしてfukuさんの興味深い本のレビューもい...fukuさん、こんにちは!
fukuさん、いつも「いいね」していただいきありがとうございます。そしてfukuさんの興味深い本のレビューもいつも楽しく読ませてもらっています。
この本は本当に素晴らしい作品でした。fukuさんのおっしゃる「どんどん広がっていく」という感じ分かる気がします。哀しいのだけれど、逆に自由になっていくような、そんな感じが確かに不思議でした。
小川さんの「薬指の標本」も評価が高いですよね。この本もぜひ読んでみたいと思います。
fukuさん、興味深い本の推薦ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。ありがとうございました!2019/09/25
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圧倒的な美を感じる。
記憶、消滅、喪失が描かれたこの物語は断然、静寂無音の夜が似合う。
毎晩、小川さんの紡ぎ出す言葉たちに取り囲まれ、圧倒的な美に心はのみ込まれた。どんな瞬間も丁寧に掬い取られ丁寧に言葉に姿を変えて心に届けられる。そしてしっかりと心でキャッチした瞬間、キュッとくる。これを味わうたびになんとも言えない恍惚感を覚える。
朝起きたら何かが喪われてる世界。記憶からも消滅する世界。
それが誰かにとってはとても大切なモノかもしれない哀しみ、そしてその分、残されたモノを心に記憶に濃密に閉じ込め慈しむ大切さを感じられた。
きっと人は永遠に誰かの記憶に閉じ込められていたい…そんなことを思うと言葉にならない気持ちで心が締めつけられる。
文句なしに好きな小川さんの作品だ。-
kanegonさん♪
そう、文句なしの満点です(≧∇≦)
良い時間を味わえました(*≧∀≦*)kanegonさん♪
そう、文句なしの満点です(≧∇≦)
良い時間を味わえました(*≧∀≦*)2019/10/04 -
グッモーニン(^-^)/
この本、本棚に眠っているかもꉂꉂ(ᵔᗜᵔ*)
私は新刊が気になるんだけど、この前読んだ小川洋子さんちょっ...グッモーニン(^-^)/
この本、本棚に眠っているかもꉂꉂ(ᵔᗜᵔ*)
私は新刊が気になるんだけど、この前読んだ小川洋子さんちょっときつかったから迷い中。
この作品は小川洋子さんらしい感じだね。
楽しめそう♪探してみよう。2019/10/07 -
けいたん♪おはよー♪♪
わかる、小川作品って合うのもあるし合わないのもあるかな。って、そんなに読んでないけど(*∩ω∩)
これはとても好き...けいたん♪おはよー♪♪
わかる、小川作品って合うのもあるし合わないのもあるかな。って、そんなに読んでないけど(*∩ω∩)
これはとても好きな世界だったからオススメ♡
架空の設定がまたなんとも良い雰囲気、世界だったよ♡2019/10/07
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淡々とした狂気というか
静かな文体に闇と優しさが溢れているというか。
少しづつ読み進めて 不思議な世界にどっぷり浸らせてもらった。
起こっていることは恐ろしいのだけれど 現実的な恐怖を感じない そこはかとない 静かな 死
そう この本は 死者と記憶のものがたり。
昔 アイデンティティとは 脳か体か記憶かと考えるゼミに所属していた私にとって
消滅していく世界と それに抗う、記憶を無くさない人々との対峙の表現は とても興味深く面白かった。
この世界観をこの設定を 見事に表現した作者にただただ脱帽。違う本も読んでみる。 -
海外から帰国後、ホテルで隔離されている時に読むべき本ではなかった笑。
ずっと冬のまま春にならないのが、辛い。ただでさえシンガポールから帰国して、今の東京のくらーい感じの冬、さらにコロナ感染者拡大で不安な社会に飛び込んできた不安、、、こんな状況でホテルに閉じ込められて、こんな本を読んでしまった笑。
しかし、別途Twitterでも書いたが、今の世の中、日本だけではなく世界を覆う雰囲気というかムードに繋がるものがある気がする。自然災害、政治家やコメンテーターの言葉の軽さ(嘘も多い)、民主活動家の弾圧とか、、、。なんだか社会が暗い。でもみんな折り合いをつけていると言うと語弊があるが、なんとなく慣れてしまっている空気感。
著者の意図はわからないけど、自分なりに解釈すると、意外と現実世界と変わらないことがこの小説には書いてある気がします。 -
身の回りのあらゆるものが「消滅」してゆく島の物語。
読みながらジョージ・オーウェルの『一九八四年』を思い出しましたが、『一九八四年』と違ってこの物語の主人公の「わたし」はいきなり訪れる「消滅」を諦め受け入れていて、不満を抱いていない様子。「わたし」がR氏を匿ったように、記憶を失わない少数の人を「記憶狩り」から守ろうとする人はあっても、「消滅」に対する島民の反乱のような大きな動きもなく、社会的・政治的なニオイが全くしないとても静かな物語。
薔薇の消滅のシーンが象徴的ですが、「失う」ことの悲しみが美しく描かれているという意味で、耽美的な印象を受けました。
小説家の「わたし」が書く、言葉が話せなくなった別の「わたし」の物語が作中で同時進行しますが、どちらの物語も一人称で語られるのが印象的。言い換えれば、どちらも一人称で語るほかない物語、という気がしました。客観的な視点で語ることが難しいかなーと。
「わたし」が匿っていた、記憶を失くさないR氏が一人称で語ったらどんな物語になるだろう。と少し思いました。 -
小川洋子さんの長編では今のところこの作品が一番好きです。何度読んでも、この静かで脆く不安な世界もとても好きです。
少しずつ、人々は何かを失っていき、何をなくしたのかも忘れてしまう島。鳥が消滅したときは鳥を放し、バラが消滅したときはバラを摘んで川に流し、小説が消滅したときは本や図書館を焼く…記憶を保ち、消滅したものを持ったままだと記憶狩りに連行されるとはいえ、狂気も感じます。カレンダーが消滅して、冬が終わらないところもなんだか好きです。
今回は、おじいさんがとても優しく心強く感じられたので地震からの展開には泣いてしまいました。
ものの記憶も、自分の身体の記憶も失っていく主人公と、記憶を失わない編集者のR氏がわかりあえないところもせつなかったです。
主人公の消滅が穏やかなものだったので、自分の消滅もこんな甘美すら感じるものだったらいいなと思いました。 -
磨き上げられたガラスみたいな文章で、
不穏で、チリチリしてて、惚れました。
コロナでわたしたちが失ったものを再認識すると共に、それらはなくなったわけじゃなくて、心の奥底に沈められて、いつか取り出せることができると思いました。
今、読んでほしい。
失ったことを実感する今だから生まれた感情があると思うので。