密やかな結晶 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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レビュー : 315
  • Amazon.co.jp ・本 (402ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062645690

感想・レビュー・書評

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  • 静か。

  • これはやられました。

    小川洋子氏の『言葉の標本』を本屋さんでぱらっとめくりまして、冒頭の引用が、写真とあいまってなんとも言いがたい雰囲気に飲まれました。。

    そしてその引用部分の小説がこちらの『密やかな結晶』です。

    香水、切手、鳥、薔薇・・・何かがある日突然「消失」していく世界。

    消失をしないことは許されず、秘密警察が取り締まる中、
    上がらう方法すらない。

    このまま消えていくとどうなるのか。


    「消える」ということが淡々と書かれています。
    消失に巻き込まれない人もいるのですが、視点が「消失」する人なので、ポカンと無くなる状況を、ひたすら受け入れることになります。

    終わり方は置いてけぼりをくうし、結構怖い話なのですが、小川さんの文章の書き方は綺麗なのでタイトルのように密やかな美しさすら感じます。
    救いはあるようなないような・・・

    小川氏の本は4冊目ですが、この人の意味が無いようで美しい文の書き方が好きだと感じました。

  • 博士の愛した数式、薬指の標本につづき、小川洋子は3つめ。ここでも大変なことが起こっているのに、静かに、穏やかに時が流れ過ぎていく。受け入れてしまう。これって日本人が持つ感覚なのかなぁ。

  • どれくらいの消滅をわたしたちは自覚しているんでしょうか。

  • 博士の愛した数式が良すぎてこれは個人的に期待外れ。
    ストーリーは面白いけど設定に無理がある気がする。
    温かいような寂しいような不思議な気持ちになる。

  • まず文章がきれい、表現がきれい。内容は淡々と書かれているが、怖い話。 自分の中に空洞が広がっていく。最後に残るものは何なのか。

  • あらゆるものが、静かに消滅していく島――言葉も、そしてわたしも。


    国名も時代も明示されていないとある島。そこでは、鳥、バラ、写真など、あらゆるものが一つずつ消滅していった。「消滅」とはいったいどういうことか。鳥が消滅したときの様子を引用しよう (講談社文庫, p.17)。

    >(引用)

     鳥の消滅も他のケースと同じように、ある朝突然に起こった。
    ベッドの中で目を開けた時、空気の張りに微かなざらつきがあった。消滅のサインだ。

    >(引用終わり)

    あるものが消滅する日の朝は、いつもと違う不穏な空気が漂う。主人公の「わたし」のみならず、町の人々もみな何かの消滅に気付き、何が消滅したのか探る。消滅、といっても、異次元にワープしたかのようにそれが跡形もなく消えるのではなく、人々の記憶から、それが消えるのだ。

    主人公は空を飛ぶ小鳥を見て、消滅に気付く。

    >(引用)

    「あれは、観測所で父さんと一緒に見たことのある鳥だったかしら」
    そう思った瞬間、わたしは心の中の、鳥に関わりのあるものすべてを失っていることに気づいた。鳥という言葉の意味も、鳥に対する感情も、鳥にまつわる記憶も、とにかく全てを。

    >(引用終わり)

    こんな風に、島からは、正確には島の人々の記憶から、あらゆるものが消えて行く。
    消滅したものは、処分するしかない。川に投げ捨てるなり、燃やすなりして。

    そして島では、消滅が滞りなく行われるよう、秘密警察が監視の目を光らせている。
    消滅したはずのものをいつまでも持っていたら、没収されるか、連行されてしまう。

    しかしそんな島にも、記憶を失わない人々が存在することが明らかになり、ある時から
    秘密警察は彼らに目をつけて強制的に連行する「記憶狩り」を行うようになった……。


    舞台設定はこんな感じです。
    この島で、一般の人々は「消滅」を静かに受け入れている。
    主人公も例外ではない。かつて消滅したモノを見ても、その名前を聞いても、何の感情も呼び出せない。
    それがいくら、消滅以前には愛着を持っていたものだとしても……。

    一見絶望しかないようだが、衰亡していく記憶と感情の残滓を振り絞って綴られる、危険を孕んだ穏やかな日常と、大切な人々にむけられたあたたかい感情は何とも美しい。

    「消滅」の理由は、とくに明らかにはされない。不条理小説といってもいいと思う。
    そして、それだけでは説明できない、不思議な身体感覚、読書体験が味わえる作品である。

  • 小川洋子の作品はいつもしんとしている。
    そしてどこか恐ろしさを感じさせる。
    一つひとつ物が消えてゆき、それに伴う記憶も消滅する島。
    島の住人達は逆らうことなく記憶を手放していく。
    そんな中でも、記憶を消し去ることのできない人たちがいて、
    彼らは秘密警察の記憶狩りに執拗に追われ続け、
    島を脱出しようとしたり、協力者の手でかくまわれたりしている。
    主人公の小説家は記憶を手放す島民だが、記憶を消すことの
    できない担当者のR氏を自宅にかくまう。
    「アンネの日記」で言えば、アンネをかくまったミープ・ヒースの
    立場で物語は進行していく。
    本当にナチスのユダヤ人狩りをほうふつとさせる怖さ。
    島中の本が燃やされる描写はいつか映画で見たドイツ国会議事堂の
    放火事件を思い出した。
    物語は消えて行くことに対して多くの人は抵抗しない。
    むしろ記憶が消えないことが理解できない。
    そして物が消え、肉体が一つまた一つ消えて、
    島の多くの人たちが消滅した時に、匿われていた人たちが
    島の新しい歴史と記憶を作って行くのか。
    怖い話だなぁと思った。

  • 丁寧な言葉でたんたんと進む物語が心地よかった。他の小川洋子さんの小説も読んでみたい。

  • 消滅していく世界
    記憶の消滅 心の消滅

    人はなにを鎹にして生きていくのか

    それでも、R氏という存在が大きい

    消滅からひた隠すR氏の存在はやがて、無くされていくものを
    大事に忘れないようにするための存在となった。
    だれかが、大切な誰かが「覚えていてくれること」が
    こんなに心をあたためるんだなとおもった。
    読むではなく、感じるようなこの作品に、心から涙を流すことができた気がした。

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著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

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