密やかな結晶 (講談社文庫)

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  • 講談社
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レビュー : 315
  • Amazon.co.jp ・本 (402ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062645690

感想・レビュー・書評

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  • 小川洋子ならではの文章表現がとても綺麗。一文一文の描写から目が離せない作品だった。記憶の消失が起きるのを淡々と受け入れていく様子が切なく、大切なことが消えてしまっても、それすらもわからない島の人たちを見ているのが辛い。私たちの生活の中のモノにひとつひとつに思い入れや意味があって、大切にしなければならないものなのだと感じた。

  • 消滅、が日常的に起こる島。

    …というだけでは読んでない人はなんだと思うかもしれないけれど、読んでる人でもなんなんだと思うシチュエーションなので、そこはさておき。

    島という規模の割には鉄道もあるし、消滅によってある種の産業が丸々失われても経済活動が存続していくからには、それなりの規模なわけで。
    日本と同規模の島なのかもしれない。
    もしくは日本を指して「島」と称しているのかもしれない。

    …と考えると、様々な抑圧を粛々と受け入れる国民性を示唆している気もしつつ、メッセージ性は主題ではないとも感じるので、そんな穿った見方は置いといて。

    いずれにせよ、いつもながら不思議なお話を紡がれる作家さんだと思います。

  • 小川洋子『密やかな結晶』読了。その島ではいろいろなものが「消滅」してゆく。鳥、バラの花、小説…。そして人々は「消滅」が来るたびにそれらを川に流し、燃やし、やがて記憶からも消えていく。ついには何が消えたのかも分からなくなるのだ。静かに繰り返される「消滅」の世界に思いがけず没頭!

  • 物と、それにまつわる記憶が「消滅」していく島。記憶を失わない人々は秘密警察に連行されていく。フェリーやバラ、鳥、音楽などが失われていくが、「物語」の消滅をきっかけに、世界の崩壊は加速する…
    主な登場人物は3人。小説家の女性と、亡妻がその女性の家で昔「ばあや」をしていた縁で女性の手助けをしているおじいさん、女性の担当編集者のR氏。
    女性とおじいさんは「消滅」の影響を受けるが、R氏は影響を受けずに記憶を保ち続けているため、記憶狩りから逃れるために女性の家に匿われて隠れている。
    女性の書く物語が所々に挿入されて、効果的。
    「消滅」を静かな諦観をもって受け入れた人々は、やがて、自分という存在さえ失っていく。大きな流れに疑問を持たずに身を委ね、失うこと・奪われることに慣れていくことが、自己をも失わせていくことにつながる。
    自分の存在までなくした人達と対象的に、最後まで自分を保って隠れ家から光の下へ出ていくR氏…その逆転が鮮やかで、印象に残った。

    それと、この文庫を、私はブックオフで105円で購入した。105円で手に入れたのが、こんなに奥深くて豊かな世界だったなんて、何だかとても不思議な気がする。私自身は、この本はこれからも手元に置いて、慈しみたいと思う。

  • あまりよくわからなかった。
    文章はとても落ち着いていて、きれいだった。

  • なんでこの人はこんなに日本語が綺麗なんだろう。指の隙間からこぼれていくように、失っていく世界を優しく描いた話。すべて失うことになっても、残るんだなと思いました。

  • ひとつずつ、何かが消滅していく島の物語。
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    「消滅が起こるとしばらくは、島はざわつくわ。みんな通りのあちらこちらに集まって、なくしてしまったものの思い出話をするの。懐しがったり、寂しがったり、慰め合ったり。もしもそれが形のあるものだったら、みんなで持ち寄って、燃やしたり、土に埋めたり、川に流したりもするの。でも、そんなちょっとしたざわめきも、二、三日でおさまるわ。みんなすぐにまた、元通りの毎日を取り戻すの。何をなくしたのかさえ、もう思い出せなくなるのよ」(p.8)
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    元通りの毎日に戻るようで、実は、心の中で何かが失われてしまっている。自分でも気づかぬうちに。
    そして、消滅したものについての記憶が消えない人たちを狙って行われる、秘密警察による記憶狩りも日常的な光景になっていく。

    世界から何かが消え続けるということの、一見穏やかにさえ見える恐さがじんわりと沁みこんできます。
    不条理ともいえる現実を受け入れるほかない主人公の密かな抵抗を軸に、サスペンスタッチで進む物語をたどりつつ、結末に希望が見出せることを願わずにはいられません。

    フェティシズムな色合いを帯びた独特な世界と、消滅、というテーマはあまりにもしっくりきすぎていて怖い。
    それでも、この唯一無二の雰囲気と切なさを味わってほしいという気もします。

  • 2回読んだけど、2回とも苦しくなる。閉塞感の中にある濃さ。

  • 2012.11/16

  • 秘密警察という名の権威が、人の心にとって大事なものを、一つずつ消滅させていく。

    オルゴール、フェリー、鳥、小説、声…
    「消滅」が起こるたび、人の心はスカスカになっていく。

    そしてついに、左足、右手…最後に声。

    最後まで人は、「大した問題じゃない、今までも消滅には慣れてきたじゃないか」と抗うことなく受け入れた。

    私たちは…?

    自由、真実、命への尊厳、国からの約束、自分たちの大地…。

    大事なものが、権威によって少しずつ「消滅」させられてはないかしら。

    心は知らない間に、スカスカになっていないかしら。

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著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

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