吸血の家 (講談社文庫 に 22-4)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (599ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062646260

作品紹介・あらすじ

江戸時代から遊廓を営んでいた旧家にもたらされた殺人予告。かつて狂死した遊女の怨霊祓いの夜、果たして起きた二つの殺人事件。折しも乱舞する雪は、二十四年前の惨劇にも似て…。名探偵・二階堂蘭子が解きあかす「密室」そして「足跡なき殺人」の謎。美しき三姉妹を弄ぶ滅びの運命とは!?本格長編推理。

感想・レビュー・書評

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  • 〇 感想
     二階堂黎人の作品は,自分には合わないだろうという先入観があり,全く読んでいなかった。しかし,コテコテの本格推理が読みたいと思い,ブックオフで見つけた本作品を購入。読んでみた。
     読んでみた率直な感想は,面白かったということ。ロジック重視ではなく,外連味重視。緻密で,しっかりと推理しなければ驚きを感じない作品ではなく,エンターテイメントとして気楽に読んでも驚きを感じることができる作品として仕上がっており,気楽に読みながら,楽しむことができた。
     作中で出てくる事件が,まさに本格ミステリらしい,古典的な魅力的な謎。24年前に起こった雪の日の,犯人の足跡がないという現場での殺人事件。この謎を発端として,密室殺人,さらにはテニスコートにおける足跡がない現場での殺人。この3つの殺人事件が,物理トリックによって描かれる。
     トリックそのものは,物理トリックなので,原理だけ見れば推理クイズレベルだが,こういう古典的な謎を物理トリックで描いた作品はかえって新鮮に感じた。
     単なる推理クイズにならないように,二階堂蘭子,二階堂玲子といったキャラクターや,雅宮家の美人姉妹といった,いかにも古典的な本格ミステリめいたキャラクターが登場する。被害者も音楽家とインチキ霊媒師。捜査をする警察官である中村警部も,まさに「名端的」モノに出てくる警察官。ミスターミスディレクションともいえるブラジルの農園主麻田茂一という人物や,怪しくてしょうがない,雅宮家の謎の同居人である小川清二,ハマ夫婦等,古典的な本格ミステリ要素満載。冒頭で,喫茶店に現れ,蘭子に挑戦をする謎の女性の存在,作中で繰り広げられるミステリうんちく。ミステリうんちくは,作中での蘭子と黎人の会話だけでなく,注釈にも満載。ある意味,ギャグとも思えるような,古典的本格ミステリである。
     読んで,「なんだこれ」と思う人もいそうだが,個人的には結構好み。こういったがちがちの本格ミステリ,小説というより推理クイズっぽい作品はたまに読みたくなる。真犯人は,予測できてしまったので,フーダニットとしての意外性こそなかったが,雰囲気は堪能できたので満足。採点としては,まぁ,好きな作風だし,なにょり楽しく読めたので,★4にしておく。

    〇 メモ
     血吸い姫=翡翠姫。怨念。久月楼
    〇 第1の血 白い魔術
    〇 第1章 雪の中の予言
     紫煙という喫茶店に謎の女性が現れ,八王子の久月で殺人事件が起こる。そのことを二階堂家に必ず伝えてほしいという。雪の上に女は足跡を残して消える。
    〇 第2章 蘭子登場
     第1章の謎の女の消滅は,車に乗って去っただけと推理。二階堂蘭子と二階堂黎人の会話。蘭子は,旧知の中村警部から,久月で24年前に起きた事件について教えてほしいと伝えたという。
    〇 第3章 警部の来訪
     中村警部から,雅宮家における24年前のある兵隊の死亡事件についての話を聞く。被害者は井原一郎という陸軍の兵隊。中村警部が死体の発見者だった。
    〇 第4章 毒殺魔
     24年前の事件の話。中村警部は馬等の毒殺事件の捜査をしていたという。
    〇 第5章 足跡のない殺人
     24年前の事件の話。男は雪の上に突っ伏していたが,犯人の足跡が残されていなかった。
    〇 第6章 過去なる亡霊
     被害者は首にトリカブトを塗った短刀を刺され殺害されていた。井原は死ぬ前に恋人と娘に会おうとしていた。殺害現場や井原と雅宮家との関係等の説明
    〇 第7章 奇跡の講義
     蘭子は,中村警部に雅宮家で浄霊会が開かれる予定であることを伝える。井原殺し,足跡のない殺人の推理。
    〇 第2の血 呪縛浄霊
    〇 第8章 眠れる女
     蘭子と黎人は久月を訪れる。8年飼った犬のチビが死亡したという。新な毒殺魔が現れた可能性を示唆。蘭子は,冬子が幽体離脱を起こし,殺害したというトンデモ推理を披露する。
    〇 第9章 血を吸うもの
     久月での登場人物の紹介。蘭子は,久月にある能楽堂で,能面を確認し,紫煙に表れた謎の女が,班女のお面を被っていたことを確認する。
    〇 第10章 教祖の笑い
     夕食等。蘭子と黎人は,除霊をする大権寺瑛華という女性に会う。大権寺はバイオリンやラッパを鳴らす現象を見せるが,蘭子は手品と言い切る。透明な糸を使ったトリック
    〇 第11章 死を刻む時
     除霊会がある日の一堂の動き
    〇 第12章 闇の中の除霊会
     浄霊会は失敗。大権寺が霊を読んでいる際に,翡翠姫の霊が現れる。
    〇 第13章 日本刀の殺人
     浄霊会の失敗に対する蘭子の推理。1つ目は全て大権寺の筋書きどおりというもの。2つ目は,途中で誰かの邪魔が入ったというもの。3つ目は,本当に翡翠姫の霊が現れたというもの。翌朝,テニスをする前に,黎人は納戸で滝川義明の死体を見つける。密室殺人事件
    〇 第14章 窓の影の魔
     滝川の死の捜査
    〇 第15章 呪詛復活
     滝川の死の捜査の続き。日本刀は雅宮家のものではなかったが,24年前の事件の凶器となった翡翠姫の担当が消えていた。
    〇 第16章 毒に至る病
     成瀬と笛子が,警察官の見張りのもと,外部へ。大権寺瑛華がテニスコートで殺害される。こちらも,足跡がない殺人
    〇 第3の血 吸血の家
    〇 第17章 姿なき殺人
     金網がないことを除けば,カーの「テニスコートの謎」と同じ状況。凶器は,翡翠姫の短刀
    〇 第18章 脅える巫女
     二人の巫女の尋問。また,麻田という老人が,浅井重吉だと蘭子が指摘。二人の巫女のうち,明美という巫女は,納戸に鍵を掛けていた。
    〇 第19章 洋画の秘密
     二階堂黎人の推理。犯人は麻田茂=浅井重吉。井原殺しは雅宮絃子との共犯。麻田が弓で殺害。絃子が弓を回収し,短剣を刺した。大権寺は,杖に短刀を括り付けた凶器で殺害。中村警部は信じそうになったが,蘭子の反論で論破される。
     黎人の推理を受け,蘭子が検討すべき方向性として次の3つについて語る。1つ目は,24年前の井原殺しの解明を第一義とすること,2つ目は藤岡大山という画家が描いた「富士美人図」という「絵」の中に秘密があること,3つ目小川が滝川が帰ってくるのを見ていなかったこと
    〇 第20章 殺人鬼
     蘭子と黎人が絵についての捜査を終えて久月に帰ってくると,雅宮絃子が殺害されていた。犯人は白い着物を着た女。蘭子と黎人は犯人を捜索するが,反対に犯人に襲われる。白い着物を着た女と小川ハマに襲われるが,中村警部が白い着物を着た女を射殺。ハマは気を失う。白い着物を着た女=毒殺魔=殺人鬼は,雅宮笛子だった。
    〇 第21章 殺人の解明
     滝川義明殺しのトリックは,死亡時刻をごまかすために,晩御飯と同じものを早い時間に滝川に食べさせていたというもの。これにより,胃の状況から,最後に食事をしてから約20分後に殺害されたという死亡推定時刻により,殺害時刻を3時間ごまかした。これにより,殺害時刻には密室状態になってしまった。実際の殺害時刻は密室ではなかった。滝川が吹いたと思われたフルートの演奏による「悪魔の笛」は,午後7時にラジオから聞こえたものだった。滝川の死体は,浄霊会の間も納戸にあった。室内に格闘があったように見せかけたのは犯人の偽装
     大権寺瑛華殺しの足跡のない殺害現場のトリックは,犯行現場のテニスコートが凍っていたということ
    〇 第22章 恐るべき真相
     大権寺殺害の種明かし。大権寺と滝川は,テニスコートの半面に塩化石灰を巻き,半分は凍らないようにしていた。これにより,奇跡を演出しようとしていた。この被害者である大権寺と滝川の細工により,足跡のない殺害現場という現象が生じた。
     笛子は,絃子が冬子より先に産んだ子だった。絃子は冬子の姉ではなく,母だった。富士美人図は妊婦の絵。この絵の描いた時期を踏まえると,絃子が2年にわたり,2度妊娠していたということしか考えられなかった。滝川と大権寺がゆすりの種にしたスキャンダルもこのことだった。
     裏にあるのは絃子の母である清乃の存在。蘭子は,井原殺害や,橘大仁が破傷風が悪化して死んだことにも関わり,黒幕として暗躍していたのではないかと推理する。
     井原殺し。真犯人の笛子は当時6歳。被害者である井原に背負われていた。笛子は父である井原に背負われている状態で井原を殺害。そのまま背中にいた。その状態で絃子らに発見され,連れて帰られた。これが井原殺しの足跡のない殺害の真相
    〇 第23章 吸血の家
     蘭子は,琴子から笛子が残した手紙を受け取る。ここでさらに真相が明らかになる。笛子だけでなく絃子も殺害に関与していた。滝川殺害で,腕時計に細工をし,現場を密室にして格闘があったように偽装したのは絃子。
     滝川の腕時計は故障しており,午後6時50分で止まっていた。絃子はこのことを知らなかった。だから,止まっていた腕時計を進めるという偽装工作をした。また,滝川殺害が午後9時以降だと信じたのは,絃子が「小川清二が滝川の帰宅を告げた」と絃子が言ったからだった。蘭子はこの嘘を見破っていた。
     大権寺殺害の実行犯も絃子
     蘭子は,笛子からの遺書のような告白の手紙を読み,火をつけて燃やす。
     

  • 吸血の家
     《血吸い姫》の話

     第1の血 白い魔術
      第1章 雪の中の予言
      第2章 蘭子登場
      第3章 警部の来訪
      第4章 毒殺魔
      第5章 足跡のない殺人
      第6章 過去なる亡霊
      第7章 奇跡の講義

     第2の血 呪縛浄霊
      第8章 眠れる女
      第9章 血を吸うもの
      第10章 教祖の笑い
      第11章 死を刻む時
      第12章 闇の中の浄霊会
      第13章 日本刀の殺人
      第14章 窓の影の魔
      第15章 呪詛復活
      第16章 毒に至る病

     第3の血 吸血の家
      第17章 姿なき殺人
      第18章 脅える巫女
      第19章 洋画の秘密
      第20章 殺人鬼
      第21章 殺人の解明
      第22章 恐るべき真相
      第23章 吸血の家
    立風書房「吸血の家」 1992年10月

    解説 鷹城宏
    文士の親指

  • このシリーズは、ある程度海外や国内の有名なミステリーを
    読んでいるとなお一層楽しめると思います。
    (むろん知らなくても大丈夫だからね)

    何かといわくがありげな家で巻き起こる殺人事件。
    どうやら娘の身を案じて
    とんでもないものにゆだねてしまいますが
    それが悲劇の始まりだったわけで…

    真相に関しては深くは語りません。
    目も当てられない代物です。
    まさしく歪、ですわ。

    救われないわ。

  • 再読。舞台は昭和44年。蘭子たちは大学生になっています。殺人予告に始まり足跡なき殺人に密室殺人、24年前にも未解決の惨劇があり…。王道のしっかりとしたミステリですが相変わらず有名ミステリに言及する部分が多いので直接トリックに触れていなくても読んでいない本が出てくるとハラハラします。ほとんど覚えていなかったので初読のように楽しめたのですがトリックや伏線を探っている時に24年前と現在が混じってしまい混乱してしまいました。横溝正史を彷彿とさせる世界。最後の最後まで世界は白黒。でもこの雰囲気は好きですね。

  • ー こうして、この奇怪な殺人事件は、私たちが愛読するジョン・ディクスン・カーの『三つの棺』の冒頭の章とよく似た出来事で幕をあけた。しかもこれは、数々の凶悪犯罪を解決に導いた名探偵二階堂蘭子の事件簿の中でも、特に《足跡のない殺人》という謎に真っ向から挑戦した異色のものになった。

    一般的に言って、不可能犯罪には、《鍵のかかった部屋》とか、《人間や物体の消失》とか、《不可解な死》とか、あるいは《姿なき殺人者》といった困難極まる謎が存在する。その中でも、柔らかい砂の上やまっさらな雪の上に足跡を一つも残さずに殺人を犯していく者の話は、現象が単純できわめて明確なだけに、かえって我々をひどく困惑させる。 ー

    二階堂黎人の実質的な初長編ミステリー。
    ミステリー好きの為のミステリー。

    一族への呪い、美しい三姉妹、病弱な娘、霊媒師、雪の足跡、泥濘の足跡、密室、日本刀、そして名探偵!素晴らしいガジェット!

    横溝正史的世界観の探偵小説。
    25年前の作品でもはや古典だが、懐かしくて面白かった。

  • 初二階堂作品。
    足跡のない殺人や、密室殺人など不可能犯罪に真正面から取り組んでいる。足跡〜のほうのトリックは見事だ。

  • 2010.12.04

  • 二階堂蘭子シリーズ二作目。
    とても読み応えのある本格ミステリー。
    過去の殺人が一番好き!!
    ジョン・ディクスン・カーの『テニスコートの謎』読んでみたいな。

  • 最初の事件のことを思うと犯人の心理が、せつない。この犯人はサイコパスではなく、他者により作られた人格による犯行だったんだ。トリックは相変わらず本格しててよかったです。でも長いから、続編もゆっくり読んでいこう。

  • 美人姉妹に旧家での惨劇…横溝作品を彷彿させる妖しさに冒頭から惹き込まれます。
    『足跡なき殺人』が2つ、密室殺人が1つと内容が盛り沢山ですし、物語の作り込みが丁寧で好感が持てました。
    24年前の『足跡なき殺人』はシンプル且つ虚を突いたトリックで感心しましたが、テニスコートの『足跡なき殺人』は微妙でした。巧く盲点を突いてはいますが、よくよく考えると、地面の状態を見ればバレバレだと思います。旧家でテニスコートというのも若干浮いているので、なくても良い気がしました。
    その他、蘭子のネタバレつきの推理小説批評にが鼻につきましたが、総合的に見ると良作な推理小説だと思います。

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著者プロフィール

1959年7月19日、東京都生まれ。中央大学理工学部卒業。在学中は「手塚治虫ファンクラブ」会長を務める。1990年に第一回鮎川哲也賞で「吸血の家」が佳作入選。92年に書下ろし長編『地獄の奇術師』を講談社より上梓し、作家デビューを果たす。江戸川乱歩やJ・D・カー、横溝正史の作品を現代に再現したような作風は推理界の注目を大いに集め、全四部作の大長編『人狼城の恐怖』(1996〜99年。講談社ノベルス)では「1999年版本格ミステリ・ベスト10」第一位を獲得。アンソロジー編纂や新進作家の育成にも力を注ぎ、2000年代は合作ミステリの企画も多数行った。SFの分野にも精通し、『宇宙捜査艦《ギガンテス》』(2002年。徳間デュアル文庫)や『アイアン・レディ』(2015年。原書房)などの著書がある。近年は手塚治虫研究者として傑作選編纂や評伝「僕らが愛した手塚治虫」シリーズの刊行に力を入れている。

「2022年 『【完全版】悪霊の館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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