詩的私的ジャック (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (474ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062647069

作品紹介・あらすじ

大学施設で女子大生が連続して殺された。現場は密室状態で死体には文字状の傷が残されていた。捜査線上に浮かんだのはロック歌手の結城稔。被害者と面識があった上、事件と彼の歌詞が似ていたのだ。N大学工学部助教授・犀川創平とお嬢様学生・西之園萌絵が、明敏な知性を駆使して事件の構造を解体する。

感想・レビュー・書評

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  • 妻の殺人を隠す為に考えたトリックもすごかったが、その妻と弟まで殺す計画に瞬時に変更し実行するのが恐怖でした。ほぼ完全犯罪を防いだ萌絵の行動が凄かった

  • S&Mシリーズの4作目である本作。本作の印象として、前回までのシリーズとは打って変わって主人公である犀川が不在の中、もう1人の主人公である西之園が事件に巻き込まれていくことがとても印象的でした。

    本作はまず、大学教員が密室のログハウスで女子生徒の遺体を発見することから始まります。その遺体は絞殺された痕跡とともに、衣類が脱がされ、ナイフによる切り傷で作られたメッセージが残されています。そして、事件が連鎖していく中で1人のミュージャンに疑惑の目が向いていきます。果たして、殺人犯はどのようにして、密室を作り、なぜこういう犯行に至ったのか…というストーリー。

    事件のトリックと推理の導き方に関しては、森さんの特徴とも言える、理系工学に基づいたトリックであり、かつ論理の筋道も思考過程を踏まえながら主人公が話してくれるので、知的好奇心がそそられるようで相変わらず面白いなと思いました。

    また、少しずつ主人公の関係性にも変化が見えてきて、シリーズも深まってきたなぁと個人的には思いました。

  • 森博嗣先生のシリーズ作品をすべて読むというのが僕のライフワークのひとつであるが、本作はS&Mシリーズの4作目である。

    本作も理系ミステリーの魅力爆発であるが、今回は正統派な密室殺人が複数発生する。

    前作の『笑わない数学者』に比べるとトリックもかなり入り組んでいて読み解いていくのに力量がいる感じだ。

    さて、S&Mシリーズは理系トリックを解き明かすのも魅力だが、犀川先生と西之園萌絵との恋愛の行方が気になるところだ。
    今回は萌絵ちゃんがかなり大胆に犀川先生に迫っていく。お酒の力を借りたとはいえ、萌絵ちゃんからはっきりとああ言われてしまうと犀川先生も誤魔化しきれないよね。

    21歳の萌絵ちゃんをお子様扱いするのも気が引けるし、かといって13歳も年下で、幼いころから知っている自分の教え子に邪な気持ちを抱くのも大人の男性としてどうなんだ……と考えてしまう犀川先生の気持ちも良くわかる。
    まあ、この二人がどうにかなるのはいずれにしても萌絵ちゃんが大学を卒業してから考えるというのが一般常識的には一番波風が立たないのだろうな。

    このS&Mシリーズで僕がもう一つ楽しみにしているのが、犀川先生の名言だ。
    今回の犀川先生の名言はこんな感じ。
    犀川先生が萌絵ちゃんから大学院に進むことについて『自分は研究に向いているか?』と質問された際に答えるセリフだ。

      犀川『研究ってね。何かに興味があるからできるというものじゃないんだよ。
         研究そのものが面白いんだ。
         目的を見失うことが研究の心髄なんだ。
         君が、今、殺人事件に夢中なのと同じ。
         君だって、殺人が好きなわけじゃないだろう?』
      萌絵『不思議なことって、あまり日常にないでしょう?』
      犀川『勉強すればたくさんあることがわかるよ。
         わかっていないことばっかりなんだ。
         ただ、みんな、不思議を見逃しているだけだよ。
         ブーメランがどうして戻ってくるのか、
         ヘリコプタがどうして前進するのか、
         工学部の学生だって誰も知らない』

    う~ん。犀川先生の言葉にはいちいちうなずかされる。こういう風に言われると、じゃあ、勉強ちゃんとしようかなって思ってしまうよね。
    僕はもう40をトウに超えた中年男子だけど、中高生の時にこのS&Mシリーズを読んでいたら人生変わっていただろうなって思うなあ。

    • やまさん
      kazzu008さん
      こんにちは。
      1月から、その月の最後に読んだ本に、その月のベスト3を載せています。
      きょうから始めています。
      ...
      kazzu008さん
      こんにちは。
      1月から、その月の最後に読んだ本に、その月のベスト3を載せています。
      きょうから始めています。
      やま
      2020/02/23
    • やまさん
      各位
      こんにちは。
      1月最後に読んだ本は、「新・浪人若さま 新見左近【四】-桜田の悪 (双葉文庫) 」です。
      見つけ方は、私のページの...
      各位
      こんにちは。
      1月最後に読んだ本は、「新・浪人若さま 新見左近【四】-桜田の悪 (双葉文庫) 」です。
      見つけ方は、私のページの「読書グラフ」の2020.01をクリックして、1月、本、27(冊)をクリックして、一番最後までもって行くと最後に読んだ本の所に行き当たります。
      やま
      2020/02/23
  • 今回は今までのシリーズ3作品より犀川先生の名言が多いような気がした。「夢と希望の違い」に対する犀川先生の答えがお気に入り。
    事件や密室の仕組みもよかったですが、犀川先生と萌絵の掛け合いなども面白く読めた。
    「S&Mシリーズ」はミステリー要素もありつつ、それぞれの人間模様にも魅力が詰まっていて、他にはない面白さがあると思う。

  • S&Mシリーズ4作目。
    今作は今までと少し違うテイスト多めかも。
    でも面白い!

    今作は特段、天才は出てこない。
    なので、S&Mの知的な会話が存分に楽しめる…
    かと思いきや、
    犀川助教授が出張で不在となる期間が発生。
    今までのシリーズではここまで
    別行動する期間が長いのは無かったかも。

    また萌絵が大人になりつつある、
    というのが物語のあちこちでアピールされてる。
    犀川が何度もそれを感じる場面もある。
    萌絵が犀川のことを
    別の見方から知りたいと思うようにもなる。

    萌絵の友人がいろいろ出てきたのも新しい。
    今まではちょっと出るくらいだったのに、
    今作では物語全般を通して出てくる。

    今まではただ2人の会話と
    2人の共通の人間とのやりとりでしか、
    2人のことを把握できなかった。
    それが今作では
    それぞれの友人との会話、
    2人が揃っていないところでの振る舞いから、
    2人の普段を知ることになる。

    また天才が少なかったからか
    いつもより会話や表現が易しい感じも。
    言葉の大切さや男女の違いなどが、
    凡人にも分かるレベルで語られてる。

    今作で一番印象的なのは
    夢と希望のくだりも良いけど
    「酸化するというよりは、錆びるといった方が
    ずいぶんロマンチックだろう?」
    のシーン。
    錆びるって全くロマンチックに思えないのに
    こう言われるとマシかも…
    と納得させられてしまう不思議。

  • 暗示的な連続殺人に、今まではバリバリの合理的手法で殺人が起こっていたのに今回はちょっと趣向が違う?と思いながら読み進めていったら、やっぱりトリックが潜んでいた。
    最後の殺人のトリックは全く予想外で驚いた。
    犯人の頭脳も凄いけれど、ほとんど萌絵から聞いた情報のみで推測する犀川先生の明晰さが凄い。

    萌絵との仲もぐっと縮まった感じで、その意味でも続きが気になる。
    すごく面白かった!

  • '23年3月6日、Amazon audibleで、聴き終えました。シリーズ、4作目。

    本作も、何度か読んでいましたが…内容は、覚えてなかった(⁠・⁠o⁠・⁠;⁠)かなり以前だし、内容的に、好きではなかったのかな…。

    今聴いてみて、ミステリーとしては、段々クオリティが落ちていってるような気がします。でも、犀川と萌絵(←この字?)の関係は、少しずつ深まっていって…二人の関係を楽しむ小説、でした。あくまでも、個人的な感想ですが。
    犀川先生の幸せを、歯ぎしりして妬む小説、ですね~ハハハƪ⁠(⁠‾⁠.⁠‾⁠“⁠)⁠┐

    楽しかったです。感謝!

  • 犯人はなぜ密室を作ったのか?なぜ死体に文字を刻んだのか?なぜコンクリートを盗んだのか?
    そして、なぜ殺したのか。
    様々なWhyが交錯し、予想だにしない真相が導かれる。

    まず、「コンクリートが盗まれた」という事実から盗んだ=犯人はコンクリートに何かを隠した=その時持ち出せなかった という単純な三段論法から犯人を特定するのが見事。「もし、西之園くんの足がもう少し大きかったら、この事件は解決していなかったでしょう。」という皮肉的な一言も最高だ。

    また、寛は元々部屋にいて、入ってきた稔を殺してから出てきたというトリックも単純だが気づかなかった。元々は本物の稔だったが、部屋に入る前から寛が化けていたと誤認させるのが上手い。
    「結城稔を杉東よりあとに殺したことを隠すために死体に文字を刻んだ。」
    「入れ替わりのトリックを成立させるためには結城に尾行をつけさせなければならないので、稔が疑われるように歌詞に似せて殺した」
    というような一つ一つの事柄に合理的な理由がついているのも良い。

    ここまででもかなりの傑作だが、これに加えて動機も衝撃的。
    もう一度、真っ白なノートが欲しかった。衝撃的だが、理解できないこともない、むしろだれしもこういった発想は持つものではないだろうか。
    すべて、素敵なイーコールのために……

    最後の一文もとても良い。ミステリとしての出来も超一級品。それに加え、心に残る表現、魅力的なキャラクター。最後の作品だ。

  • 真相を知ってから、358ページの会話を読むと、そのやりとりの絶妙さに思わず唸ってしまった…

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    2つの大学での連続女子大生密室殺害事件が起こる。

    捜査線上に浮かんできたのはロック歌手の結城稔だった。
    彼の曲の歌詞をなぞらえたかのような殺人の手口…
    本当に彼が犯人なのか…?

    お嬢様大学生・萌絵は情報を集めていくものの、真相にたどり着くことができないでいた。
    一方、犀川助教授は…

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    S&Mシリーズ第4作目。
    究極の消極的探偵・犀川は、あまり事件に関係してこないにも関わらず、萌絵もたどり着けなかった真相にポンと気づいてしまうところが、恐ろしいです。
    というか、このシリーズを読めば読むほど、犀川という人物がますます遠くなる感覚を覚えます。
    例えるならば、ウルトラセブンに出てくる諸星ダンのような…身体は人間のように見えるけれども、中身は地球人ではないような…
    ちょっと大げさかもしれませんが、そんな風に思えてしまうのが犀川という人物です。
    それと同時に、ウルトラセブンが地球を離れて帰っていってしまったように、いつか犀川も“どこか”へ行ってしまうのではないかと、危惧してしまいます。
    今後、犀川と萌絵の関係性も、どうなるのでしょうか…

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    分厚い1冊であり、物語の8割は萌絵がつかんでくる情報が書かれているのですが、全然真相がわかりません。
    正直、5割くらい読んだ時点で、あまりに真相らしきものがわからなくて、じれったさマックスになりました。

    もちろん犯人の予想は自分なりに立ててみるのですが、今回もまったくのハズレでした。
    特に358・359ページに書かれている犀川とある人物との会話は、初見ではチンプンカンプンであり、その場にいた萌絵のセリフ「もう!何の話をしているの?二人とも…」(359ページ)という叫びに、「わかる!その気持ち!」と思ってしまいました。
    しかし真相を知ってから改めてそのページの会話を読んでみたところ、驚くべきことにちゃんとかみ合っているのです会話が。
    驚愕でした。

    しかも、ある人物の、ある相手への苦しい恋心を示したこの一見不可思議な会話のやりとりは、その恋の“苦しさ”を真に知ったとき、とてもせつなくなりました。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    トリックも正直なところ、勉強した内容を全部学校に置いて卒業した身のわたしには、なかなか理解するところまでいきませんでした。
    なので真相部分では、人間模様のほうに重きをおいて読み進めました。
    それでも十分、楽しめました。

    真相にたどり着くまでの道のりは長いですが、なんとかがんばって歩ききっていただければ…と思います。

  • 今作はミステリとしては控えめな面白さという印象でしたが、常人には理解できない理由で事件を起こすこれまでの犯人とは違い、「ノートを真っ白にしたい」というの分からなくもない動機だったので(「女性を」といったジェンダーの話ではなく、全ての事象において自分の理解の範疇に納めて起きたいという感情)、心情は一番受け止めやすかったかも知れません。それでも殺人に結びつけるのは、やはり異常だとは思いましたが。

    とはいえ、犀川先生と萌絵の2人の関係性を掘り下げる作品としては、これまで以上に心情を深掘りしたエピソードが多く、非常に魅力的な作品でした。あそこまでぶちまけられたにも関わらずはぐらかす犀川先生は流石に鬼だと思いましたが(笑)。萌絵の大学院進学の話も出てきて、ますます目が話せませんね。

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著者プロフィール

工学博士。1996年『すべてがFになる』で第1回メフィスト賞を受賞しデビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、エッセィ、新書も多数刊行。

「2023年 『馬鹿と嘘の弓 Fool Lie Bow』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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