霧の橋 (講談社文庫)

著者 :
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062648202

作品紹介・あらすじ

第7回時代小説大賞受賞作!

刀を捨て、紅を扱う紅屋の主人となった惣兵衛だったが、大店の陰謀、父親の仇の出現を契機に武士魂が蘇った。妻は夫が武士に戻ってしまうのではと不安を感じ、心のすれ違いに思い悩む。夫婦の愛のあり方、感情の機微を叙情豊かに描き、鮮やかなラストシーンが感動的な傑作長編。

感想・レビュー・書評

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  • 惣兵衛と、いとしい妻との夫婦愛の物語です。

    父が殺されてから17年。江坂与惣次は、長い歳月のはてに江戸は浅草の小間物屋・紅屋清右衛門に気に入られて一人娘おいとの婿となり、名を惣兵衛と改めて武士を捨てて商人になった。惣兵衛は、振り返れば陸奥国田村家(一関藩3万石)で勘定組頭の父が料理屋の女将・紗綾をかばって殺され、十年の歳月ののちにやっと仇と巡り合い、兄に代って仇・林房之助を討ち、帰ってみれば兄・主一郎が公金横領の罪で切腹し、江坂家が潰れ、逃げるように国を離れ、浪々のはてにつかんだいまがあることを思い返す。

    また、惣兵衛に難題が降りかかった日本橋室町に店を構える大店の小間物問屋・勝田屋善藏が、紅屋の紅に目をつけて乗っ取ろうとしていると感じ。商人になったがなりきれぬ惣兵衛は、商人とは隙あらば人の足を引っ張り、蹴落として、金を儲けるものと忌み嫌うが。最後は、刀を捨て商人となり妻を抱きしめます。

    乙川優三郎さんの本を読むのは始めてです。

    【読後】
    この物語は、最初は、父と女将・紗綾との恋物語から始まり、最後には、惣兵衛にとって紗綾が母となったかもしれない人への愛情を描き。あいだに壮烈な商人として店や妻を守る戦いがありと。そして底流には、惣兵衛と妻・おいととの夫婦愛が描かれています。強く心に残る物語です。読み終って再読したいと強く思いました。読後感がよかったです。
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    霧の橋《大活字本》
    2002.05埼玉福祉会発行。字の大きさは…大活字。
    2023.05.12~18音読で読了。★★★★★
    図書館から借りてくる2023.04.28
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    【音読】
    2023年5月12日から18日まで音読で乙川優三郎さんの「霧の橋」を大活字本で読みました。この大活字本の底本は、2000年3月に講談社文庫から発行された「霧の橋」です。本の登録は、講談社文庫で行います。埼玉福祉会発行の大活字本は、上下巻の2冊からなっています。
    「参考」
    ※参考は、私のメモ書きです。本の感想ではありません。
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    「一関藩(いちのせきはん)」は、江戸時代の藩の一つ。陸奥磐井郡一関(現在の岩手県一関市)に藩主居館を置いた。石高は3万石。この地に陣屋を置いた大名家は、いずれも仙台藩伊達家の領地を分与した、分家に当たる一関伊達家と田村家の2家である。前者は11年で改易・廃藩となったが、後者は180年余り続いて明治維新を迎えた。

  • 乙川優三郎の時代小説大賞受賞作。
    これには唸らされた。乙川氏、見事な受賞作である。
    まずは、舞台設定が独特である。
    武家の次男坊である主人公与惣次が父の仇を討ちを果たして帰郷すると、事情によりお家は断絶していた。
    行き場をなくして江戸に戻った彼は、暴漢に襲われていた娘を助けた縁で、実家である商人の家の婿となり武士を捨てることとなる。
    本業の商いにおける大店の野望に立ち向かう本筋に、様々な話が絡んでくる。
    商人になったものの、なかなか捨て切れない武士としての心構え、父親が討たれた背景にあった物語と終わっていなかった仇討ち、そしてそういった事々に振り回される中で少しずつ失われていく夫婦の心の絆。
    筋の絡めたかも素晴らしいのだが、何と言っても変節していく二人の心情の描写と絆を取り戻そうとする焦りと揺れ、その奥深さに唸らされてしまった。
    そして霧の中、吾妻橋でのラストシーンでは、仇討ち、与惣次の心、夫婦の絆すべてに決着がつくのだが、ここは涙なしには読めずに何度も読み返してしまった。
    藤沢周平で最も好きな「蝉しぐれ」は、結ばれない運命の主人公と幼馴染の心情とそれにかぶさる情景描写が素晴らしかったのだが、それに匹敵するのではという思いで読み切ってしまった。
    素晴らしい時代小説に出会えた嬉しさでいっぱいの読後感だった。

  • 穏やかな主人公に心和むストーリー。一気に読めるが盛り上がりにも欠ける感じ。あまり印象に残らない。

  • もとは武士だった男が、紅屋の主人として生きる、人情あり、駆け引きありの物語。
    この作者は、一本の物語を描きながら、その裏に表のストーリィに負けないくらいの設定を用意する、というのが手法なんでしょうか。
    「喜知次」でもそうでしたが。
    商人としての浮き沈みが主ですが、裏筋の方が気になるというか、きっと作者はそれを描くために主筋を描いているのでしょう。
    夫婦の絆もあり、駆け引きの面白さもあり、かなり「読ませる」お話ですが、はらはらするような展開はちょっと苦手なので星4つ。

  •  読み応えがあり、テンポも良く、一気に読了。そして、これほど見事なラストは、これまで出会ったことがありません。素晴らしい大作。コメントのしようもありません! 乙川優三郎「霧の端」、1997.3刊行、2000.3文庫。

  • 自分の過去やプライドが無意識のうちに邪魔をして今の生活に素直に溶け込めない 一番大切なのは何なのか 今の愛する人でありその人を守るには過去やプライドと決別しないといけない時がある 自分にとって一番大切なのは家族でありこれは何ものにも代えられない世界で一番大切なもの 家族を守るために残りの人生一生懸命に生きる

  • T図書館 再読
    「ロゴスの市」がきっかけ
    1997年 第7回時代小説大賞受賞作

    内容はほぼ忘れていたが一気に読めた
    描写力があり言葉が美しいから、古きよき時代の日本の風景がはっきりと目に浮かんできた
    市ヶ谷、日本橋、浅草寺、両国橋、酒田
    よく聞く地名も楽しさを倍増させた

  • こちらも上町63佐々木マスターからご紹介の作家乙川優三郎さんの作品 第七回時代小説大賞受賞作です。面白かった!!
    付箋
    ・再婚するのなら惚れた女子としたいものだと思うようになった。それが相手の女子にとっても幸福と言えるのではないだろうか。
    ・一日の仕事を終えて、小僧らに飯を食わせ、さらには夫のために煮炊きする妻。煮炊きを終えたなら夫婦で料理をつつき、何とはなしに語り合う。至極ありふれたことかも知れぬが、惣兵衛が守ろうとしているのはそういうものかも知れなかった。

  • いままで読んだ歴史小説はチャンバラありのものがほとんどだったので、この作品には新しい歴史小説観を与えてくれた。決闘はほとんどないが、さらっとした読後感がなんともいえない。どこかやさしい小説である。

  • 何故か長編と思わず、短編集との思い込みで読み始め(笑)
    偶然の出会いから、刀を捨て商人となった主人公惣兵衛、商売上の諍いがどう展開するか、サスペンスタッチに描かれる。
    さらに、過去のしがらみから、時に武士の心が顔を出し、夫婦の間にすれ違いが生じる。
    しかし、商売仲間の言葉がきっかけに、過去を克服し、感動のラストシーンへ。
    この場面を描きたい為に、それまでの話があったかのよう。
    心に琴線を震わす夫婦小説。著者が、藤沢周平の後継者と世評される所以。

    蛇足ながら・・・
    この作品の主人公は、商人の道を選ぶが、同じく刀を捨て商人になった、あさのあつこ著『弥勒の月』シリーズの遠野屋清之介を思い浮かべる。
    故児玉清氏お勧めの作品であり、人間の心の闇を見事に笑顔ている。まだまだシリーズは続いているが、清之介が今後、商人を全うできるか、それとも刀を取らざるを得なくなるか、今後の行方が気になる。

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著者プロフィール

1953年 東京都生れ。96年「藪燕」でオール讀物新人賞を受賞。97年「霧の橋」で時代小説大賞、2001年「五年の梅」で山本周五郎賞、02年「生きる」で直木三十五賞、04年「武家用心集」で中山義秀文学賞、13年「脊梁山脈」で大佛次郎賞、16年「太陽は気を失う」で芸術選奨文部科学大臣賞、17年「ロゴスの市」で島清恋愛文学賞を受賞。

「2022年 『地先』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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