私が捜した少年 (講談社文庫 に 22-7)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (357ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062649087

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  • 渋柿信介。通称シンちゃん(幼稚園児)のハードボイルド探偵物語。短編が5編。最後のスキー場を舞台にしたのが面白かった「渋柿とマックスの山」。以前たまたま手に取ったのが2巻目「クロを捜して」だったので遡って読了。どちらも良かった。

  • (※この文章は2002/01/06に書かれたものです)
    ■渋柿信介とは何者か?
    ●大人の部分
     第一作の時点で5歳の信介。数字がやっと間違いなく書けるようになったばかりで漢字がまだ読めない幼稚園児なのに、「洗面所の丸い鏡に映った男の顔は、年の割には老けて見えた。母親の子宮を追い出されてからこれまでの人生の苦悩が、顔面の肌に細かい年輪を刻んでいる。妄執は、男の精気を奪い取るものらしい。(10p)」と、ペシミスティック(厭世的・悲観的)な一人語りで自分を表現する。そして、母親との関係を「昔、しばらくの間同じベッドで寝ていたことがある(11p)」と言い、スタイルのことも「スカートの下で盛り上がったヒップも、無駄なく形が整っていて、とても一度子供を産んだ経験があるとは思えない。(12p)」と、論じ、しかも、同じ幼稚園で同い年のリコちゃんのことも、「胸はペッタンコで、なかなかグッとくるボディをしている。衣装も洒落ており、セックスアピールが服を着ているような女だ・・・・・・(中略)・・・・・・ゴボウのように真っ直ぐな足が、太股まで露出している。ブラジャーはしていないようだ。(18p)」と、25歳の女も、5歳の女(幼女?)も同じように魅力あるオンナとして語る。
     そして、彼は探偵である。自宅の2階に事務所を構え、一日あたりの探偵料と、必要経費をきちんと設定し、依頼を受け、解決する。もっとも、事務所はただの子供部屋で、探偵料はビックリマンチョコ2個で、必要経費は風船ガム2枚。探偵の「縄張り」は自分の通う、キンポウゲ幼稚園なのだが…。
    ●子供の部分
     しかし、一番最初に述べたように、5歳の信介は、漢字も読めない子供なのだ。焼き魚は嫌いだし、お菓子や、特におもちゃが大好きな、そういった意味では、天才でも、50年の人生を5年に凝縮して体験したというわけでもない極普通の子供なのである。「言うまでもないが、私の仕事の大半は人間を観察し、判断する事ではない。ミニカーを机に並べ、プラレールの線路をより複雑に繋げることの方が大事だ。(60p)」
     そんな子供がどうして、オトナな表現や探偵という活動をし、しかも刑事である父親の事件解決にまで貢献できてしまうのだろうか。

    ●一人語りの部分と『 』の謎
     信介のこうした、一見矛盾して見える行為発言には、今のところ2つの謎がある。
     1つは、実際両親を含む大人たちや友達と会話するときと、一人語りのときとのギャップである。一人語りのときは前述のとおり、ペシミスティックであり、社会情勢にも強い。しかし、実際の会話のときは、極普通の子供のしゃべり方なのである。
     そして、もう1つは、時折でてくる、『 』の鉤括弧である(明らかに普通のもの「 」と、使い分けているように思われる)。これは、ほとんどが信介の発言時につかわれる鉤括弧なのだが、たまに、(本書に限定すると1人だけ)ミエちゃんが信介とのやり取りでこの鉤括弧で会話する部分がある。そして、この鉤括弧に入る言葉はすべて、例の一人語りをそのまま音声化したような、オトナの駆け引き満載のセリフなのである。(101p)
     これに対する、疑問解決の1つの解釈として、一人語りの部分と、『 』の部分だけが、信介がその言葉で思考しているのではなく、作者が大人の言葉に、いわば面白く「翻訳」したのでは?というのが挙げられる。実際これが、作品全体を通して一番すっきりした解釈のように思われる。
     ならば、信介は実際には凡庸な子供で、言ってみれば、「プロ野球好プレー珍プレー」における、みのもんたのナレーションよろしく、作者(あるいは作中内の誰か)が凡庸な子供の行為発言をアドリブいっぱいに表現しているだけなのだろうか。さまざまな事件の解決も単なる子供の偶然的な行為発言を、論理的推理であるとこじつけているだけなのだろうか。

    ●信介の本当の能力
     しかし、信介は大人の介入しない、縄張り内(幼稚園)の探偵業務において、大人顔負けとは行かないまでも、5歳にしては充分過ぎる位論理的に、迷子のウサギの探索と、たくさんのウサギの中での目的対象ウサギの特定を行っているし、(103p・149p)他のさまざまな部分においても、刑事である父親のかかわった事件に対して、明らかに解決の糸口になるような助言めいた発言をしているように思われる。特に数に関する認識能力や読めない漢字の図形としての認識能力は確かにすごい。
     それに、一人語りの部分に気になる部分があった。成田空港が世界と比較して非常に不便なことに対する運輸省への「嘆き」(252p)。などは、社会情勢に通じた者の言葉である。そして、一番引っかかったのが、あるトリックの謎を考える時に、「前世で読んだ本の記憶」を思い出す部分がある。これは、信介の前世が名探偵で、その記憶が、今5歳である信介に残っているということを示唆しているのだろうか。
     ただ、その認識能力も、実際の事件の推理と切り離して考えれば、そういう能力が発達している5歳児というのも珍しくはないし、その能力が、タイミングよく発揮されたものを作者(あるいは作中内の誰か)がうまくこじつける、と言う形をとっているに過ぎないのかもしれない。それに一人語りの知識や「記憶」も作者(あるいは作中内の誰か)が、もはや、翻訳を超えて、明石家さんま的に物語の捏造にまでいたっているに過ぎないのかもしれない。…多分そうなんだろうな・・・・。

    ●結局、常識的なまとめ
     まあ、いくらパロディと言っても、実際の子供が2階にある自分の部屋に上がるのに「それが天国への階段なのか、死刑台への階段なのか、それは昇りつめてみないと解らない・・・・・・。」なんて考えるわけないし、(そんなこた、おとなだってかんがえない)やっぱり、『作者(観察者)による現象に対するニヒル版みのもんた式論理あと付けこじつけ理論』、あるいは、『子供の日常風景をホームビデオにとった親バカなバカ親が、ビデオの中の子供の動きを実況・アフレコしちゃおう理論』によってこの作品は作られているのだろう。でないと、『前世記憶理論』や『名探偵コナン理論』や、『成長しない子供理論』や『遺伝子操作理論』や、うちゅうじんとかえすぱあとか持ち出さないといけなくなるから、それはちょっと読者として不本意だし、作者もおそらくそうだろう…と、思いたい(ただの希望)。…あ、でも、面白くして、しかも納得できるのなら、だめと決め付けるわけにはいかないので、一応保留…(でも、うちゅうじんとかえすぱあだけはやめて欲しいな・・・・)
     でもとにかく、あのセリフを5歳の子供が言っていると思うことがとても面白いし、その表現の仕方は抜群だと思う。もしかしたら、本当にこの子の思考なのかもと思わせる部分を残しているのもテクニックなのかもしれないし。
     この面白さは、人に薦めやすいです。  2002/01/06

  • 楽しく読了。多分90年代半ばくらいのお話で、出てくる芸能人やテレビドラマ、アニメ、お菓子などもちょっと懐かしいです。 最初はこれは面白い!と思ったんですが、徐々にトーンダウン。シンちゃんの探偵ぶりはわかるんですが、幼稚園内での活躍も見たかったかな。楽しいお話ではありますが。シンちゃんの両親がちょっとウザかった(笑)

  • 非常に軽い☆いいじゃない!

  • 1話目から……やられた(笑)

  • 15ページまで読んで思わず冒頭に戻った。騙された!

  • 友人から、いなくなった弟を捜して欲しいと依頼を受けたシンちゃんこと渋柿信介。同じ頃、殺人を犯した暴力団員が、潜伏先の愛人宅から消失した。―表題作。他、全5編を収録した短編集。

    私の名は渋柿。職業は自称私立探偵。ライセンスは持っていない。・・・ こてこてのハードボイルドかと思いきや、ハードボイルドパロディ。(短編のタイトル全てオリジナルのパロディ) とは言え、人間消失、アリバイとしっかりミステリーしていて、トリックを見破るシンちゃんはお見事! 二階堂先生の重厚な作品の合間にいかがでしょうか

  • 前読んだアンソロジー「EDS」に出てきた探偵〝シンちゃん”のお話。5つの短編集。なんか思ったより面白くなかった。まぁそれがゆるミスなんだろうけど、シンちゃんがハードボイルドぶってるとこがいらっとくるというか。ケン一、ルル子夫婦が思ったよりバカっぽいのも何かなー。こんなに事件のことをべらべらしゃべっちゃいかんだろう。時代背景が古い、っつーか、その時代の話なんだからしょうがないけど。とにかく、合わなかった。続編は読まずに返そう。

  • 『私の名は渋柿。職業は自称私立探偵。』
    のフレーズで読むことにしましたが・・・。

    『独身』(当たり前)
    『ライセンスは持っていない。』(当たり前)
    だって、5歳の幼稚園児ですから。
    縄張りはキンポウゲ幼稚園。
    探偵料はビックリマンチョコ2個で必要経費として風船ガムが2枚。
    普段は同じ幼稚園児たちの(かわいらしい)問題を扱っていますが、
    ケン一パパが刑事なので、
    家に事件を持ち帰って来たときはちょこっとヒントをあげて、
    捜査協力もしてあげます。

    5編収録されていますが、
    それぞれのタイトルは他作品のパロディだそうです(解説より)。
    最初の数ページは読み方によっては大人の独白とも取れる(?)。
    でもその次に実は幼稚園児だと分かって「くすっ」となります。
    ただ、幼稚園児だと分かった後も何度も紛らわしい表現を繰り返すのは、
    くどいと感じてしまいました。
    5歳児にはありえない表現が続いてあざとく感じました。
    軽いものを読みたい気分のときだったら良かったんですが・・・。
    裏表紙に『傑作ハードボイルド・ミステリー』と書かないで欲しかった。

  • 【再読】変則的ハードボイルドミステリー短編集/演出上やはり避けられないクセのある文章/時代を感じる具体的なワードが飛び出す飛び出す/渋柿の頭がキレすぎるのはご愛嬌/ある方の“壮大な出オチ”という表現にくすりとしてしまいました/

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著者プロフィール

1959年7月19日、東京都生まれ。中央大学理工学部卒業。在学中は「手塚治虫ファンクラブ」会長を務める。1990年に第一回鮎川哲也賞で「吸血の家」が佳作入選。92年に書下ろし長編『地獄の奇術師』を講談社より上梓し、作家デビューを果たす。江戸川乱歩やJ・D・カー、横溝正史の作品を現代に再現したような作風は推理界の注目を大いに集め、全四部作の大長編『人狼城の恐怖』(1996〜99年。講談社ノベルス)では「1999年版本格ミステリ・ベスト10」第一位を獲得。アンソロジー編纂や新進作家の育成にも力を注ぎ、2000年代は合作ミステリの企画も多数行った。SFの分野にも精通し、『宇宙捜査艦《ギガンテス》』(2002年。徳間デュアル文庫)や『アイアン・レディ』(2015年。原書房)などの著書がある。近年は手塚治虫研究者として傑作選編纂や評伝「僕らが愛した手塚治虫」シリーズの刊行に力を入れている。

「2022年 『【完全版】悪霊の館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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