文庫版 狂骨の夢 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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レビュー : 563
  • Amazon.co.jp ・本 (984ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062649612

作品紹介・あらすじ

夫を四度殺した女、朱美。極度の強迫観念に脅える元精神科医、降旗。神を信じ得ぬ牧師、白丘。夢と現実の縺れに悩む三人の前に怪事件が続発する。海に漂う金色の髑髏、山中での集団自決。遊民・伊佐間、文士・関口、刑事・木場らも見守るなか、京極堂は憑物を落とせるのか?著者会心のシリーズ第三弾。

感想・レビュー・書評

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  •  出版とリアルタイムで読んでいたわけではないのだが、『姑獲鳥の夏』『魍魎の函』『狂骨の夢』は4カ月間隔で発売されていたのだ。すげーな。

     狂骨とは井戸から出てくる白骨の妖怪で、大変な恨みを持っているらしい。骨と怨念がモティーフだ。

     冒頭の一人称は関口巽ではなく、朱美という女の独白。今は怪奇小説家の内縁の妻に収まっているこの薄幸の女性は、他人の記憶に悩まされている。
     そして、いさま屋。『魍魎の函』にちょっと登場した伊佐間は旅館いさま屋の御曹司だが、戦争で旅館は焼けて、残った生け簀を釣り堀にして暮らしている。仕事をしているようなしていないような、そんな瓢箪鯰であるが、榎木津の友人だ。ぶらぶら釣りなどして歩いているいさま屋は逗子で朱美と知り合う。朱美の郷里ではご本尊として髑髏を代々受け継いでいるという。

     次に降旗という男が登場する。精神分析を学び精神神経科医となったが半年も持たずに、教会の居候をしている。彼は、炎の中、山積みの髑髏の前で交接する男女の夢を幼い頃から見ていて、何だか骨にこだわっている。しかも、木場の幼なじみで、榎木津ともそのころ付き合いがある。
     降旗は今は牧師の白丘にいわれて、信者の懺悔を聴いたりしている。そこに朱美が相談に来るのだ。

     朱美の前の夫は結婚すると1週間ばかりで出征。しかし兵役から逃げ、しかも首なし死体で発見されているのだ。そしてそれから8年後の現在。死んだはずのその前夫が朱美のもとにやってきたので、彼女はそれを殺し、首を切る。しかしまた前夫は生き返って来訪するので、彼女はまた殺し、首を切る。そしてまた夫が……

     この謎に、逗子の海で発見される黄金の髑髏、二子山の集団自殺にかかわって刑事・木場も登場。他方、朱美の小説家の夫は朱美の不思議な体験について関口と敦子に相談する。探偵の紹介を頼まれて、超探偵・榎木津。
     京極堂の登場はようよう600ページ過ぎ。『魍魎の函』では連続した事件ではないと釘を刺した京極堂、この事件はすべてを関連づけていく。その力業が本書の読みどころ、そして読者をだます罠も。

  • なかなか読書時間が取れず、読了までに随分と時間がかかってしまいました。
    が、どんなに時間が空いても途中で読むのを止めよういう気にはならないところが京極作品の凄さだなと。
    前作でも思いましたが、大量の伏線を京極堂の登場で一気に回収していく様は見事以外のなにものでもありません。
    京極堂が本格的に登場してからはページを捲る手が止まらなくなり、夜な夜な一気に読みました。

  •  人の体の一部が発見されて事件になる。違う事を頼まれていた面々は、話を聞いた京極堂によって、それもこれも繋がりのある事件だと知る。
     魍魎の匣では手足、狂骨の夢では頭蓋骨が見つかる。つまり狂骨の夢は、前作と同じ手法で物語が進んでいく。この本が、あまり面白くないのは情報の開示が下手だからだろう。魍魎の匣では、京極堂が憑き物落としをするまでに、もっと情報を提示していたのだが、今回は薄い。それは、解決への繋がりや、解決自体が無理やりすぎたからではないだろうか。ボロを出さずに整合性を付けるために、情報の提示を広く薄く終わらせて解決へといったのだ。魍魎の匣が上手かったので、手腕の違いを見比べてしまう。謎を複数散らばせて、個人の事件が複雑に絡み合う仕組みは、魍魎の匣と同じだ。違う仕組みだったら、また違った目で見れただろう。
     京極堂が説明をするときに、一呼吸を入れる為か、関口や木場が話を止めて茶々を入れるが、これも上手く聞こえなかった。あまりに中断する回数が多いので、関口が異様なほどの愚鈍に、木場が凶暴な木偶に見えた。それで誤解されるかもしれないが、関口という男は無能なワトソン役ではないと思う。犯人や関係者、または場の空気を身に写して読者に見せる役目になる。京極堂が自身に何も写さずに体外からの知識で解れをとく者ならば、関口は全てを写す鏡なのだ。
     京極堂は相手の理屈の穴を見抜いて憑き物落としをする。理屈がなくて、ただ本能のままに犯罪を犯す狂犬のような奴には、憑き物落としは効かないのだろうか。そして、理屈が完全に固まってしまった者にも、京極堂の弁舌は作用しない。本書に出てくる文覺長者の憑き物は落とせなかった。
     関係者が沢山いるが、あまりキャラクターがたっていない人も多くて理解がしにくいのも、カタルシスの減少につながっていると思う。そこに置いて設定を決定しているだけに見えると必然性が感じられない。
     本作では遠回しにフロイトを否定するようになっている。降旗の朱美に対する推理は全て外れていたわけだし、自分のことに対しても何も見えてはいなかったのだ。それは巻末解説で山田正紀が言っていたように、圧倒的なリアリズムによる解決を示唆している。これは京極堂というキャラクターの特質であり、憑き物落としの方法論を明示するものだ。文化に対しては科学を、科学に対しては文化を持って、その穴を埋めていく。謎の繋ぎ方には疑問を呈したが、曖昧な感覚である夢や幻を現実のものとして明確に解き明かしたのは推理小説らしくて面白かった。

  • これだけのものをどう収束させるのか…ひたすらページをめくり続けた。

    息づかいしか聞こえない暗闇のお堂。
    憑物落としに自然と増す緊張感。

    脳裏にはいく本もの川が浮かんだ。

    夢と現、狂気、陰鬱さを携え何回も蛇行し、濁りが増していく。
    やがて全てが混じり合い、一本の大きな川となる。
    そして悲しみと愚かさを流れに浮かべようやく冬の鈍色の海へと還っていく。

    まさに京極堂が全ての思いを海に還し、誰もが緊張感から解放されたそんな瞬間だった。

    まるで潮騒の拍手に包まれたかのような朱美のラストシーンが印象的。
    これはいつまでも心に残る。

  • とてつもなく長いうえに、お馬鹿さんな私は言葉の意味を検索、漢字の読みを検索、日本史の流れを検索、、、どんだけ時間のかかる本やねん。そやのに止まらない次読みたい感。
    複雑かつ知識力の必要なお話しなので、私にはあまりにレベルが高すぎた。でもおもしろい。すばらしい。
    今回は関口くんと伊佐間くんと榎木津の人間性がよく感じられて彼らを好きになった。そこに木場さんと中禅寺さんが混じった時の化学反応は、青春小説のようでもありほほえましい。・・榎木津は"さん"付けしないのが正統派です。

  • 古本屋にて分冊文庫版の上巻を買ったが、‪中が見つからず結局こちらを購入し、読了。

    合間の榎木津さんに、相変わらずニッコリしてしまう。朱美が民江なのではと疑ってはいたが、流石に真相には辿り着けず……。木場さんの結論を急く気持ちがとてもわかったけど、京極堂のあの感じがやっぱり好きだなぁと思いましたね。

  • 2019年7月4日再読
    要約すると、ありがたいしゃれこうべを愚かな人間が奪い合い勘違いをし幾多の命が失われた。人間の業の深さたるや。信仰心を持っていても救われないこともあるのだと思いました。朱美は最後まで美しかった。

  • まさか京極堂シリーズに☆5つ以外の評価を付ける日が来るとは!
    なんというか、本作品はこれまで以上に緻密な事件で、決して物足りないとかそういうんじゃないんだけど、個人的にイマイチ乗り切れなかったのだ。

    理由はいくつか思い当たる。
    前作『魍魎の匣』では関連してそうな複数の事件がある部分でリンクしつつも別個の事件だったのが、今回は逆に全く無関係そうな複数の事件が実は一連のものだった、という趣向で、本作品でも京極堂の憑き物落としの儀式でその繋がりが明らかになるのだが、そのポイントとなる事項がかなり細かくて、「そうだったのか!」ってより「そうだったっけ?」という心境になってしまったのが、一番の要因である。
    要は、私が細かな伏線を覚えていられなかったんだな。
    結構良い環境で集中して読んだのだけど。

    じゃあなんで覚えていられなかったのかといえば、事件が主要人物に全く絡んでいなかったから、各エピソードに没入しきれなかったんだな。
    最初の『姑獲鳥の夏』から僅か半年足らずでそうそう何度も彼らの周辺で事件が起こったらそりゃ堪らないんだけどね。
    だから(なのか)今回事件に絡んだのは、いさま屋なのだった。
    しかし、私にとって伊佐間は、名前だけが出てくる京極堂サークルの知人だったので(『魍魎の匣』の最後にちょっと本人登場したけど)、まさか主要人物に昇格するなんて、かなり意外だったのだ。
    実は『魍魎の匣』の木場修ですでに同じような感覚を持ったんだけど、伊佐間はそれ以上だった。
    それに、木場修の時はあからさまに色恋沙汰だったけど、伊佐間は(絶対朱美に惚れてるけど)枯れてる(笑)からそういう気持ちを表に出さないので、なんか盛り上がりに欠けたのかな(下世話!)。
    まぁ、伊佐間のキャラは良かったけど。

    あと、それぞれの事件に同じようなモチーフが出てきて(髑髏とか神主とか)、頭の中で整理しきれなかったのも一因である。どのエピソードがどの事件のものだったか、途中で混乱してしまった。

    そんで、みんな大好き中禅寺は途中留守にしてるし、私が大好き榎木津はそんなに幻視しなかったし、レギュラーにもっと活躍してほしかったんだな。
    (いや二人とも充分活躍してるけど。榎木津は持ち前の天真爛漫さでまた人を救って素敵だったし)
    (京極堂が「そうだね」と言ってくれる時はなんか承認されたみたいで嬉しくなるなぁ。私に言ってるんじゃなくても)
    関口に至っては、今回は語り手としての役割さえも奪われてしまって、ホント存在感が薄かった。
    朱美のモノローグのみ一人称扱いにした作者の配慮だろうけど。

    事件そのものは、昭和27年という設定の時代性が活かされてて、史実なんかも踏まえられていて、とても奥行きがあった。ただ、真言立川流のことは全く知らなかったし、キリスト教にも日本神話にも疎いせいもあって、真相が刺さって来なかったんだよね。
    あぁ…「そうだったのか!」を味わいたかったなぁ。伊佐間が会った朱美と降旗が話した朱美が別人ぽいこととか、宇多川朱美が失顔症ぽいことまでは何となく気づいたんだけどなぁ…。


    あと本編と直接関係ないけど、中禅寺、関口、榎木津の年齢が分からなくなってしまって、すごくモヤモヤした。
    『姑獲鳥の夏』で関口が奥さんを「自分より2歳下だから28、29歳のはず」とか言ってたから、私の中では中禅寺と関口は31歳、1学年上の榎木津は32歳設定だった。木場修は35だけど、榎木津と木場修は幼なじみであって同級とは書いてないから、矛盾はないかと。
    でも今回降旗が木場と同級の35で、幼少時の回想での木場と榎木津は3歳も差があるようには思えず、なんだかよく分からなくなった。
    関口が胡乱なのか、私が胡乱なのか。何か見落としたかなぁ。


    胡乱と言えば、本作品でも関口はあらゆる友人から胡乱胡乱となじられてるけど、その胡乱な関口でさえ、宇多川から一度聞いただけの話を正確に再話するの、驚愕でしかない。
    ていうか、みんなの再話力、半端ない。子どもだった白丘が立ち聞きした神官達の会話を、神社の固有名詞に至るまで正確に覚えてるの、天才かよ。そしてそれを一度聞いただけの降旗もきっちり覚えてるってどういうことよ。
    私が京極堂の座敷に居合わせて、再話しなくちゃならない立場になったら、全くお役に立たないだろう…


    なんか自分がお馬鹿なことを露呈しただけになったけど。
    再読すればもう少しいろいろ入ってくるかもしれない。
    とりあえず一度目の読了の感想としては、上記の通りです。

  • 前2作と違い主要登場人物達が密接に関わらないので派手さには欠ける。
    ただ後半からの今までに出てきた些細な描写やら宗教やらが綺麗に収束していき、京極堂が憑き物を落とす描写は圧巻。
    終わりはしんみりとしたまま終わるのかと思いきや、良い意味でぶち壊してくれた。
    終わり方に関していえば一番スッキリして好きかもしれないな今作。

  • 姑獲鳥 魍魎に続いて10年振りくらいの再読。

    前二作より読み終わるまで期間が長かった。
    蘊蓄が難しいんだもの。
    初めて読んだ時はだいぶすっ飛ばしたのか、理解力がそこまでなかったのか。狂骨は前二作以上に内容を覚えてなかった……(笑)
    それだけ今回再読して噛み砕いて読んだら面白かったですが。
    それにしても毎度の事ながら風呂敷広げすぎて「いやいや収集つかないだろ」ってネタを一気にぎゅっと束ねる展開がすごい。
    できればラストの事件解決の時に「※○○ページ」みたいにその場面や伏線を読み直せる注釈欲しい(笑)

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著者プロフィール

京極 夏彦(きょうごく なつひこ)
1963年、北海道小樽市生まれ。小説家としてだけでなく、世界妖怪協会・世界妖怪会議評議員(肝煎)など妖怪研究家であり、他にも装幀家、アートディレクター、俳優など様々な顔を持つ。
広告代理店を経てデザイン会社を設立。1994年、そこで暇つぶしに書いた『姑獲鳥の夏』を講談社に送ったところ極めて評価を受け、同年、即出版・デビューに至る。瞬く間に執筆依頼が殺到する人気作家に上り詰めた。
1996年に『魍魎の匣』で日本推理作家協会賞、1997年『嗤う伊右衛門』で第25回泉鏡花文学賞、2002年『覘き小平次』で第16回山本周五郎賞、2004年『後巷説百物語』で第130回直木三十五賞、2011年『西巷説百物語』で第24回柴田錬三郎賞など、数多くの受賞歴がある。
代表作に「百鬼夜行シリーズ」「巷説百物語シリーズ」「豆腐小僧シリーズ」など。

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