聖の青春 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062734240

作品紹介・あらすじ

重い腎臓病を抱え、命懸けで将棋を指す弟子のために、師匠は彼のパンツをも洗った。弟子の名前は村山聖。享年29。将棋界の最高峰A級に在籍したままの逝去だった。名人への夢半ばで倒れた"怪童"の一生を、師弟愛、家族愛、ライバルたちとの友情を通して描く感動ノンフィクション。第13回新潮学芸賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 今秋に、役作りのため激太りした松山ケンイチ主演の映画が公開されるということで、映画を観る前に原作を読もうと手にとってみました。
    1998年に29歳という若さで没した棋士・村山聖八段の生涯を描いたノンフィクション小説です。
    将棋界という伝統的ではありますがローカルな世界の話にもかかわらず、本書は新潮学芸賞を受賞したほか、テレビドラマや舞台やドキュメントにもなったほどの作品です。

    天才たちが集い熾烈な競争に身を置くことになる将棋界。その中でも「東に天才羽生がいれば、西に怪童村山がいる」と並び称され(これ並んでいるか?(笑))、「終盤は村山に訊け」と言われたほどの実力の持ち主ながら、幼少に患った腎ネフローゼのため生涯にわたりその制約を受け、最後は膀胱がんを患い、順位戦A級(トップ11)のまま世を去った村山聖八段の一代記です。
    Youtubeなどに残された映像を見る限り、その病気からくる異様な風貌以外は病気による不調は一切見せず普通の棋士にしかみえないのですが、実は破天荒な生活と性格であったようです。髪や爪は伸ばし放題、風呂には入らない、気に入らなければ「いやじゃあ」の一言でテコでも動かない、四畳半のアパートで膨大な少女漫画と推理小説それにゴミに埋もれての生活、そして医師の制止を振り切っての棋戦出場の繰り返しと暴飲ということで、繊細さと激しさ、静と動が両極端に同居し、まさに生き急いだ感のある人生であったと思います。中でも、当たり散らされる家族、とりわけ母・トミ子さんには特に深い同情を禁じ得ませんが、これまたYoutubeを見ると、ある種、満足感のようなオーラも感じられて、ちょっとホっとしました。
    幼少の頃より病院や養護施設の中で育った村山が父に将棋のルールを教わるや急速にその虜となり、当時名人となった谷川浩司を破ることを目標に棋界に飛び込んだということです。
    その村山聖八段を語る上で外せないのが師匠・森信雄七段との心温まる師弟愛のエピソードの数々でしょう。
    師・森信雄自身、極貧の幼少期に始まり世界を放浪をしたりして奇抜な人生を送ってきた人物だったとのことですが、一番弟子として師弟関係になるまでの顛末にはじまり、病身の村山と内弟子として狭いアパートでの同居生活、繰り返される定食屋での2人きりでの夕食、森は村山が入院すればパンツを洗ってやり、少女漫画の目録を渡され書店を駆け巡り、嫌がる村山を無理やり床屋に連れていき、著者の大崎善生によれば犬の親子愛を見ているようだと言わしめるほど、親代わりとなり、どちらが師匠かわからないと言われたほどの献身ぶりで、思わず心が和みます。またただの献身だけでなく、時には怒り、また突き放し、村山を一人前の棋士に育てあげた経緯には本当に目を瞠ります。
    その森信雄一門もいまでは「西の森信」と呼ばれるまでの名門となっていて、森信雄七段にしても人間何があるかはなかなかわからないものですね。
    羽生世代のライバルたちとの熾烈な戦いと友情、後輩には分け隔てなく接したという人柄、そして将棋でトップをとろうというあくなき執念には、苦しい病気を抱えながらそれでも将棋という世界でひたすら前に向かって進んでいこうという村山聖の命をかけた壮絶な生き様がみえてきます。

    早く映画の方も観てみたいですね。楽しみです。

    • だいさん
      気魄を感じますよね
      気魄を感じますよね
      2016/05/31
    • mkt99さん
      だいさん、こんにちわ。
      コメントいただきありがとうございます!(^o^)/

      ほんとうに。

      ところで、わーっ、羽生さん、名人から...
      だいさん、こんにちわ。
      コメントいただきありがとうございます!(^o^)/

      ほんとうに。

      ところで、わーっ、羽生さん、名人から陥落しちゃった・・・。(>_<)
      2016/05/31
  • ☆映画を見たのを思い出し、借りてきました。

    〇お母さん、大変な病気にしてしまいましたねえ。(p20)
    ☆これは母親にとっては辛すぎる一言。
    言葉がでない。

    〇このころ、聖は毎日、日記をつけている(p35)
    ☆自分自身を成長させていくためには、自分と向き合う時間がやはり必要なのだ。そして、それは「書く」という行為によって生まれる。

    〇塾生をはじめることによって、森は生まれてはじめて自分の存在が人の役に立つということを実感し、その心地よさを知ったのである。(p86)
    ☆人の役に立つ、ということは、生きる上で大切なことなのだ。人の役に立っているということが実感できるように、意味づけてやらないといけない。

    〇シンプルでしかし精神的には豊かな生活基盤を築き、村山はその線路の上をぐるぐると回りながら、実力を養っていった。(p149)
    ☆単純な繰り返しの中でしか、つまりは、習慣が人をつくる、ということ。無駄な時間はない。

    〇C級1組に昇格した18歳の村山がまずはじめたことは、日本フォスター・プラン協会というボランティアへの寄付活動であった。(p158)
    ☆自分の納得できる使われ方のするところへ寄付する。すごいなあ。学生の頃、寄付をしていたけど、ちゃんと使われていないというのをテレビで特集していたのを見て、するのをやめたんだっけ。

    〇そんな村山を森は許していた。(p176)
    ☆深酒、マージャン、徹夜。親なら、身のために注意してしまいそうだ。森は本当の親じゃないから、許せたのか。そんな日々が決して無駄にならないことは、私にも分かる。大学時代のあの日々がなかったら、勉強だけしていた、なんてつまんない人間になったんだろうなあというのは容易に想像できる。

    〇子供の教育はときにはその才能の芽を摘んでいることもあるのかもしれないと、いま伸一は考えている。(p280)
    ☆せめて自分が足手まといにならないようにしよう。好きなようにやらせるって難しいよなあ。つい、本人のため、とか、後々のため、とかいって、小言をいいそうになってしまう。(というか言っている。)
    最大限、支援者でい続けることが、子どもを伸ばすための秘訣なのかもしれない。

  • 将棋の世界の奥深さに惹かれ出会った、宝物のような作品です。早世した天才棋士・村山聖の生涯を綴ったノンフィクション。
    家族・戦友・師匠に支えられ、命を燃やし尽くすように将棋に打ち込んだ彼の情熱、執念。「僕には時間が無い」という言葉が、映画の台詞としてではなく、現実に存在することがショックだった。

    間違いなく心を揺さぶられます。ただ、単なる偉人伝というのも違う。「名人になったら将棋をやめて楽になりたい」と語る彼の心情はどんなものだったんでしょう。将棋に生き、生かされ、周囲を傷つけ、自分も傷つき。ここには生々しい人間の葛藤がある。それは村山聖だけに限った話ではない。

    もうひとつのノンフィクション『将棋の子』を読むこともおすすめします。これは『聖の青春』とは対照的に、天才になれなかった棋士たちの人生が描かれてます。

  • 棋士村山聖さんの師弟愛、家族愛、他の棋士達との友情が描かれた名著

  • 名人を目指す意志の強さに心を打たれた。
    元来の高い集中力に加えて、自分の死(タイムリミット)への意識が、あらゆることに真剣に向き合わせてきたのだと思う。

    自分はこれだけの意志を持って何かに打ち込んだことはあるだろうか、と振り返りながら読んだ。



  • この夏一番の出来事は、この小説との出会い。


    こんなにもノンフィクション小説に心が揺さぶられるとは。

    限られた命であることは長短あれど誰もが同じである。1番のポイントは、人生に目標があるかないかで、ここまで人生の濃さは変わるということ。カッコいい。

    そして、もうひとつ。貪欲さ。

    限られた体力と人生の時間を自覚しているからこそ、なにごとにも貪欲である。遊びも趣味も。

    その姿勢はすぐにでも学ばなければいけない。

    そして、魅力的な人間、村山聖さん。

    ユーモラスでいることがいかに周りを幸せにするか。
    好かれる、愛される。とても眩しい。

    フォスター制度で支援していたことにも、感銘を受けた。


    イメージが壊れては嫌だから映画はすぐには見たくないと思った。

    でも、冷静に考えれば、映像で見ることでまた違う角度で村山聖さんの人生を追体験できるかもしれないので、やはり見たい気もする。

  • 5歳の時に 腎ネフローゼにかかり、
    病院で 将棋に 出会い、
    将棋のおもしろさに引き込まれる。
    幼いながらも 『死』と隣り合わせであることを
    自ら 知りぬいて、中学1年生になった時に、
    谷川浩司と勝負して、名人になるんだと。
    プロになることを 決意し、家族の了解を得る。

    すざましい執念。将棋の世界の年齢制限による過酷さ。
    羽生善治の強さと 村山聖の 切磋琢磨。
    なぜ 村山聖が 強くなっていったのか?
    というのが、将棋の成績の面でしか語られないのが残念である。
    彼のこころと技術の中で なにが起こっていたのか。

    自分が死ぬということを目前にしていることで、
    阪神大震災で 弟弟子をなくす悲しみ。
    そして 積極的に 義援金を託す姿勢。共感力の強さ。
    それを、やさしく見守る 両親と家族のつながり。
    若くして 夭折した 人間像を 浮かび上がらせようとする。

    師匠の森信雄の人間的包容力と 
    どちらが師匠かわからないとぼやく姿が秀逸。

  • ネフローゼで顔は青白くむくみ、ほっぺたも膨らんでいる。高熱も出て身体も動かなくなる。だが彼の純粋さの塊の様な生き方と将棋への情熱、それに掛ける鬼神の集中力と努力。そして"生きる"事に対する真摯な姿勢。天才・羽生善治が将棋界に革命を起こした同時期、もう1人の天才がいた。村山 聖8段。享年29歳。彼が"生きる"という事にもがき苦しみ、そして青春を謳歌した壮絶な人生がこの本にはある。彼に関わった全ての人々の愛が詰まっている。ただ泣けただけの本ではない。

  • (さとしのせいしゅん)と読みます。将棋の小説です。
    けっこう昔の小説ですが、とても良かったです。名作です。
    みなさん羽生善治名人はご存知と思います。
    この小説の主人公村山聖は、その羽生善治をすら凌駕するのでは、と恐れられた
    天才棋士です。
    ですが、そのそばには常に重病の影がありました。
    死と常に隣り合わせで闘う村山は、いつしか「生きること=将棋を指すこと」となり、文字通り必死で名人を目指します。
    この本を読んで考えさせられるのは、命を賭してまでやりたいこと、成し遂げたいことがある人はある意味とても幸せなのかもしれないということです。
    村山は重病で苦しみながら闘い続けるわけですが、
    そのそばには常に「名人」という希望もありました。
    この村山の生きざまは、まさに真摯に生きるということだと思いました。
    また、余談ですが
    要所要所で棋譜が紹介されています。
    これもまた、村山の天才的な強さ、また羽生名人の強さが現れていて
    とても面白いです。

  •  久しぶりに魂を揺さぶられる本を読んだ。

     主人公は、幼少期から重い腎臓病を患い、それでも名人を目指しひたすら将棋の道を突き進んだ。将棋は、頭だけ使えばいいように思うが、実際には相当体力が必要だ。何しろ8時間、10時間という対局もあり、この本の中でも午前0時を回る対局がいくつも紹介されている。その間、脳みそがフル回転しているわけだから、普通の体力ではすぐにまいってしまうだろう。

     彼は、谷川、羽生など、将棋を知らない人間でも一度くらいは名前を聞いたことがあるスーパースターを相手に、一歩も引けをとらない将棋を指したという。残念ながら、29歳の若さでこの世を去ってしまったが、もし病気という足かせがなかったら、どこまで昇りつめていたのだろうか。

     彼の人生は確かに短かったが、自分のやりたいこと、やるべきことをこれほどやり切れる人間がどれほどいるだろうか。自分の生き方に悩むとき、ぜひ出会って欲しい1冊である。

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著者プロフィール

1957年、札幌市生まれ。大学卒業後、日本将棋連盟に入り、「将棋世界」編集長などを務める。2000年、『聖の青春』で新潮学芸賞、翌年、『将棋の子』で講談社ノンフィクション賞を受賞。さらには、初めての小説作品となる『パイロットフィッシュ』で吉川英治文学新人賞を受賞。

「2019年 『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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