マークスの山(下) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062734929

作品紹介・あらすじ

殺人犯を特定できない警察をあざ笑うかのように、次々と人を殺し続けるマークス。捜査情報を共有できない刑事たちが苛立つ一方、事件は地検にも及ぶ。事件を解くカギは、マークスが握る秘密にあった。凶暴で狡知に長ける殺人鬼にたどり着いた合田刑事が見たものは…。リアルな筆致で描く警察小説の最高峰。

感想・レビュー・書評

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  • 高村薫の本には性格がある。
    哀愁というか、なんと言うか……
    読者にとって、合田雄一郎という人物は、自分の何かが重なって見える。そんな人物ではないだろうか。
    著者の表現力も見事。

    切っ掛けは運命的で、結末は呆気ない。しかし、その中身はどうか。
    警察、権力者、被害者、逃亡犯、支援者、養父母。各々が営む生活はありふれたものだったのかもしれない。それらが重なり合い、織りなす世界は怪奇であり、形容できない現実だった。
    合田が見て、感じたもの。説明のつかない感情に答えを求め、また彷徨うような、彼の仕事への姿勢には、上巻に続いて、また胃がキリキリした。

    日本アルプス登山を好む人にとっては楽しい小説になるかも。


    以下、ネタバレ有り(備忘録)。


    水沢は少年から青年へ。
    北岳の山中で、心中によって両親を失い、少年は一人山で救助される。これを切っ掛けに彼はもう一つの人格を宿す。その名はマークス。
    ある時、盗みに入った家で遺書を手に入れる。それは癌を患い苦しむ男の遺書であり、かつて北岳で起こった犯罪行為のことが告白されていた。それをネタに遺書に登場する人物たちを強請る水沢。水沢から強請られた男たちは、生活と身分を守るために抵抗する。それに狂気の報復を始めたのがマークスであり、水沢は自我の強いマークスに、不本意ながら従い、彼らを殺害してゆく。

    合田たち警察が捜査を進める中、警察組織と自分という個人の間で揺れる面々。警察の隠蔽の裏にある力、事件の真相。過去の事件との驚くべき繋がりが明らかになる。

    水沢の狂気によって、点と点が繋がり、登場人物たちの過去にフォーカスされていく展開は劇的で運命的。

    保身のために、遺体を埋めた男たち。事故だった。それは仲間の為だった。だが、今思えば何だったのか。遺書に書かれたことは真実か。本当のことは読者の想像に委ねられた。

    ちょっと心が傷ついた気分になっちゃう小説。

    読了。

  • 推理小説と思って見ていたので、最後に、えっ、これで終わりなの?的な感じになってしまい……。

    後でよく考え直すと、ちゃんと正しく処理をしていたら、こんなに大きくならなかったのに。色々な後ろめたさがあったがために、こうなってしまったという感じで。(何があっても、ちゃんと対処しようねと言われているような)

    そう思うと、なんで推理小説と思ってしまった自分。

  • なるほど直木賞だなという感想。合田シリーズは他も読みたくなる。

  • *かなりネタバレです*
    警察小説としては、よくある”刑事もの”のようなエンタメ性に特化したようなものではなく、重厚で読みごたえがあり、引き込まれるものがあった。
    それにしても、警察と言うのは、上層部と現場、本部と所轄、部署ごとの対立だけでなく、同じ部署・係の中でも、こんなに探り合いなの?リアルさがあり、高村さんが非常によく取材をして書かれているのではないか、と思うだけに、この対立構造には、少々辟易してしまった。その、仲間であっても先を越されたくないと言う心意気が良い循環を生むのであれば良いけれど、被害者不在の権力ゲームのようにすら見えて不快。せめてチーム内、誰がどんなことを掴んだのか、誰の手柄なのか、どうでも良くないですか?
    と本筋とは関係ないところで、ストレスが(苦笑)

    さて、読後に改めて確認すると、あらすじ・紹介文にも「ミステリー」とは特に書いていないのだが、警察小説=ミステリーみたいな自分の思い込みがあったのか、ミステリーだと思って読み始めた。そして、ミステリーとして読んでしまうと、この作品は、これだけのボリュームと重厚な読み応えとは比例してこなかった。
    そもそも、かなり早い段階で、水沢が犯人だと言うことは分かるし、それが、おそらく心中事件で生き残った子供であり、精神を患って入院しているあの男なんだろう、と言うことも分かるのだし、
    マークスも完全に一人ひとりが誰で、どんな人間なのかが明らかになる過程はあるにしても、山岳会がらみなのだろう、そして、山の事件に何らかの関わりあいがあるのだろう、と言うことも大体分かった上で読み進めていく感じだからだ(とは言え、ふりがなを見落としたのか、そもそも著者の意図なのかは分からないが、私自身は、林原をずっと”はやしばら”と読んでいた為に、ずっと残り一人は誰なんだろうな、、と思いながら読んでしまった)
    そういう意味では、犯人を追っていく楽しみはない。
    それならば、どうしてこんな事件が起きてしまったのか、隠されている不都合な事とは何なのか、一見、何も接点がなさそうな犯人がなぜそれを知ったのか、なぜゆすろうなどと思ったのか。犯人がここまで残忍なことをしてしまうのには、どんな背景があるのだろうか。そう思いながら読み進める楽しみ。そちらは、これだけの長編でもあるし、過去の事件とも絡みながらなので、期待をしながら一気に読み進められた。
    しかし、明らかになっていくことも、早い段階で見えてくる事件像と大きく変わることもなく、浅野の遺書、と言う形で全容が明らかになると、そこには、あまり納得感がなく、拍子抜けしてしまう。
    それも、遺書にも書いてあるように、周りから見たら、そんな理由で、と言うことを社会的地位が高い人間だからこその保身でそうなってしまうのかもしれないが、最初の山の事件にしても、今回の連続殺人での圧力のかけ方にしても、何だか浮世離れしていて、そんな背景があったのか、と納得するにはなぁ、と感じてしまった。
    さらには、水沢についても、結局、ここまで精神を病んでしまうまでの生育が深く描かれるわけではなく、心中事件だけが原因だったのか。真知子には少し人間らしい感情を持っているように見えるのに、養親が結果としてそうなってしまうに至ったのはなぜだったのか。分からないままのことが多い。精神疾患についての知識がないので、何とも言えないのだが、お金に執着があるとも思えないのに、大金をゆすろうと思ったことや、日常生活も難しそうな状況でありながら、あの遺書から現在の5人を調べたのは、いつどうやってやったのだろうか、など、疑問に思ってしまうことが明らかにならない。

    ただ、最後は、水沢が北岳に向かったことが分かった時点で、おそらくもう生きていないのだろうと思いながらも、どこかでこのまま水沢を死なせてはいけない、生きていて欲しい、と思いながら読むことが出来た。
    山梨県警と合田・森が必死に山を登る姿には、ここまでの検察と警察の権力のごたごたに辟易していた気持ちを晴らしてくれる熱さがあったし、現場の警察は実際に現場に出ればこうなんだと信じたい思いもあった。
    最後の一行を読んだときは、涙が出て、しばらく自分まで北岳の頂上にいるかのような錯覚に陥った。

  • たたの警察小説ではない。圧倒的で泥臭い警察官同士のぶつかり合い。最後まで一気に楽しめました。
    合田雄一郎シリーズになってるらしいので、それらも読みたいと思います。

  • 上下巻を3日間で読了。
    こんな抜群の集中力発揮は久しぶりです。
    読んだ記憶はあっても内容はすっかり忘れ、
    そのまま書棚の奥深くに放置。
    再読の機会が来るはず!と確信をもって
    捨てずにおいたことを今になって思い出します。
    さて今回の結末は忘れていても読み進むうちに
    ある程度予想がついていました。
    合田と水沢の顔合わせは、生きてはないだろうと。
    互いに引き寄せられながらも離れていく、という
    繰り返しは、物語の展開自体が「対峙」を
    拒んでいるのだと思わせます。
    両端の世界にいる2人は、ある瞬間重なって見えます。
    軽い身のこなしや、突然回転し始める頭脳、そして
    時に寡黙となる伏し目がちの姿。
    映像作品は観ていませんが、途中から二者の姿が
    はっきりと脳裏に焼き付いていきました。

    最近は、こうした、反体制を強く打ちだす作品が
    少なくなったと思います。
    読みながらこんなことを言って大丈夫なのかと心配する
    自分を感じながら、それこそが流されている姿なのだと
    思い知らされます。
    本作品が直木賞を受賞した時代背景を改めて
    振り返った次第です。

    あれから20数年。
    自分と同じだけ年を重ねた合田に会ってみたい。

  • 最後の一行で涙が滲む。

    読み終わったのが結構前なので、細部を覚えておらず、かつ色々疑問に思ったところもあったはずなんだけど、やっぱりラストシーンを思い返すと何もかも霧散するというか、それだけで「充分」って満たされる。

    正直最初から犯人わかってるし、ミステリとはまたちょっと違う気がするんだけど(それとも、合田が犯人と気づくまでの過程からミステリ扱いになるのか?犯罪があるからミステリなのか?)、いずれにしても賞に値する素晴らしい一冊だと思う。

    まだ女性が書く雰囲気が微かにあって、妙な柔らかさがあるのも好き。
    そっから照柿とかレディ・ジョーカーはなんか男性が書いているのか女性が書いているのかかなりあやふや感がある。
    というか、両性具有?むしろ無性?な感じ。でもラストにいつも女性を感じるんだよなー。まぁ、それはいいとして。

    最後は読者も合田と一緒に山に登ってるんだよね。
    頁が残り少ないし、文中にもあるし、水沢は恐らく最期を迎えてると思いながら、でもみんな必死に登る。

    合田や他の刑事がどんな心情か作者にしかわからないけれど、私は水沢を見つけた時、静かに微笑んでしまう。
    間違いなく幸せだと思うから。
    そして切なくて泣けてくる。
    真知子が与えていた愛はちゃんと昇華されていることに救いも感じる。

    心に冬山の恐ろしく冷たくて綺麗な風がふいて、そのあとたまらなく熱くさせてくれる。

    これこそ小説を読む醍醐味なのかもしれない。
    そんだけ気持ちがいい作品。

  • 後半は面白かったけど、それでもちょっと長い。

  • さて、物語は佳境に入り、上巻で感じていた通り、巨悪は実は狙われたほうだったことが明らかになっていくが、警察が追うのは巨悪から消されようとしているほうというパラドックスが深まる。
    しかし、本当にじりじりという感じでしか話が進まないなぁ…。
    ある意味クライマックスであった林原に対する吾妻の斬り込みも暖簾に腕押しの感で焦れる。
    浅野の遺書で明かされる真相は、確証がなかった数多の話が明確になったに過ぎず、結局は出自や閨閥や司直各々の内部の権力争いとダメ押しされては、水沢の存在も、水沢を追ってきた警察の辛苦も、読み手の私も浮かばれず。

  • 南アルプスの山奥で起きた殺人事件から物語が始まるが、早々に舞台は約10年後の東京に移る。そこで連続殺人事件が起き、主人公はそれを追う刑事課の刑事。ただ読者には早くから、その犯人が、精神的に病んだ人物なのだろうということはわかっている。それをどのように追い詰めて行くか、刑事の様子の描写が細かい、警察小説のような雰囲気。

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著者プロフィール

●高村薫……1953年、大阪に生まれ。国際基督教大学を卒業。商社勤務をへて、1990年『黄金を抱いて翔べ』で第3回日本推理サスペンス大賞を受賞。93年『リヴィエラを撃て』(新潮文庫)で日本推理作家協会賞、『マークスの山』(講談社文庫)で直木賞を受賞。著書に『レディ・ジョーカー』『神の火』『照柿』(以上、新潮文庫)などがある。

「2014年 『日本人の度量 3・11で「生まれ直す」ための覚悟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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