マークスの山(下) (講談社文庫)

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  • 講談社
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本棚登録 : 2620
レビュー : 238
  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062734929

感想・レビュー・書評

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  • 上下巻を3日間で読了。
    こんな抜群の集中力発揮は久しぶりです。
    読んだ記憶はあっても内容はすっかり忘れ、
    そのまま書棚の奥深くに放置。
    再読の機会が来るはず!と確信をもって
    捨てずにおいたことを今になって思い出します。
    さて今回の結末は忘れていても読み進むうちに
    ある程度予想がついていました。
    合田と水沢の顔合わせは、生きてはないだろうと。
    互いに引き寄せられながらも離れていく、という
    繰り返しは、物語の展開自体が「対峙」を
    拒んでいるのだと思わせます。
    両端の世界にいる2人は、ある瞬間重なって見えます。
    軽い身のこなしや、突然回転し始める頭脳、そして
    時に寡黙となる伏し目がちの姿。
    映像作品は観ていませんが、途中から二者の姿が
    はっきりと脳裏に焼き付いていきました。

    最近は、こうした、反体制を強く打ちだす作品が
    少なくなったと思います。
    読みながらこんなことを言って大丈夫なのかと心配する
    自分を感じながら、それこそが流されている姿なのだと
    思い知らされます。
    本作品が直木賞を受賞した時代背景を改めて
    振り返った次第です。

    あれから20数年。
    自分と同じだけ年を重ねた合田に会ってみたい。

  • 最後の一行で涙が滲む。

    読み終わったのが結構前なので、細部を覚えておらず、かつ色々疑問に思ったところもあったはずなんだけど、やっぱりラストシーンを思い返すと何もかも霧散するというか、それだけで「充分」って満たされる。

    正直最初から犯人わかってるし、ミステリとはまたちょっと違う気がするんだけど(それとも、合田が犯人と気づくまでの過程からミステリ扱いになるのか?犯罪があるからミステリなのか?)、いずれにしても賞に値する素晴らしい一冊だと思う。

    まだ女性が書く雰囲気が微かにあって、妙な柔らかさがあるのも好き。
    そっから照柿とかレディ・ジョーカーはなんか男性が書いているのか女性が書いているのかかなりあやふや感がある。
    というか、両性具有?むしろ無性?な感じ。でもラストにいつも女性を感じるんだよなー。まぁ、それはいいとして。

    最後は読者も合田と一緒に山に登ってるんだよね。
    頁が残り少ないし、文中にもあるし、水沢は恐らく最期を迎えてると思いながら、でもみんな必死に登る。

    合田や他の刑事がどんな心情か作者にしかわからないけれど、私は水沢を見つけた時、静かに微笑んでしまう。
    間違いなく幸せだと思うから。
    そして切なくて泣けてくる。
    真知子が与えていた愛はちゃんと昇華されていることに救いも感じる。

    心に冬山の恐ろしく冷たくて綺麗な風がふいて、そのあとたまらなく熱くさせてくれる。

    これこそ小説を読む醍醐味なのかもしれない。
    そんだけ気持ちがいい作品。

  • ずっと気になっていたのに重くて読みにくそうだなと避けていた本。何となく今なら読めそうな気がして手にとってみた。

    最近ブログとかTwitterとか誰でも発信できるツールが増えて、素人でも素晴らしい文章を書く人がたくさんいるんだなあと思っていたけど、今更ながらプロの日本語は読みやすいんんだなと思った。
    緩急のある無駄のない、それでいてしっかりと厚みのある文章、プロ中のプロの作品だった。

    後半ラスト近く、合田が山行きを決め、山ってなんなんだと考察を始めてからラストまで、登山には無縁な自分も合田とともに冬山を登るような不思議な感覚で読み進んだ。
    ラストの叙情はそれまでの硬さ冷たさを忘れさせるような温かな光がさすもので、長く暗い話を読み終えたご褒美のようにも思えた。

    水沢と真知子、合田と加納、それぞれの関係の描き方が独特で、かなり違和感というか、はてなマークいっぱいだった。
    水沢のほうは真知子の存在の大きさが最後の最後で大きく示されて、その前の真知子の取り調べと重なって泣けた。
    合田と加納の関係はこの先どうなるのだろう。

    偶然にもちょうど新作が発表されたので、この夏次作以降も読もうと思う。

  • 殺人犯を特定できない警察をあざ笑うかのように、次々と人を殺し続けるマークス。捜査情報を共有できない刑事たちが苛立つ一方、事件は地検にも及ぶ。事件を解くカギは、マークスが握る秘密にあった。凶暴で狡知に長ける殺人鬼にたどり着いた合田刑事が見たものは…。

    かつて「ミステリーを書いているつもりはない」と語って世間を驚嘆させた著者。しかしその述懐を気に留めながら読んでいくと妙に腑に落ちる。不可解な謎があり、それを推進力として引き込み、ラストで種明かしというミステリーの王道を行くような本作だが、ミステリーにしては過剰とも言える心理描写や人物たちの葛藤が随所に表れている。つまりミステリーを突き抜けて「人間」を描く小説となっているように思います。そこにミステリーとはちがった読後感、人間の「業」とは何かと問いかけられるような感慨を覚えます。

    以下、ネタバレ。
    東京の連続殺人事件は16年前の山梨・南アルプスでの事件に端を発していた。昭和51年、水沢裕之(当時10)の両親が心中したわずか数日後に、暁成大学出身の野村久志が登山中に急死。学生運動をめぐって対立していた木原郁夫:Kらは野村の遺体を山中に埋めて遺棄。山登りの仲間として自分たちをMARKSと呼んでいた彼らは、以後、事件を包み隠しながら生きることになる。
    そして16年後の東京。26歳となった水沢裕之は、窃盗により入手していた医師・浅野剛:Aの遺書をもとに、弁護士・林原雄三:Rを脅迫。水沢は自身の凶暴な人格を「マークス」と呼び、元暴力団員・畠山宏、検事・松井浩司:Mを殺害。マークスの脅威が迫る中、建設会社社長・佐伯正一:Sは自ら命を絶った。
    犯人の行方を掴めない警察を翻弄するかのように、旅行中と思われた荒川区の豆腐屋で水沢の養父母・山本勝俊・郁代夫婦が惨殺死体として発見される。
    そして、林原が隠滅しようとした浅野の遺書により、事件の背景が判明してくる。
    水沢の行動範囲が限られると読んだ合田は…。

  • 久しぶりに小説を読む。
    警察小説と簡単にくくれない話。
    アメリカの大学にある秘密クラブのような話と犯人含めた登場人物の人間の描写が細かく描かれており引き込まれる。最後のシーンは悲しみを感じた。

  • 高村作品を読むのに大変なことは、単行本と文庫本で、同じタイトル、テーマでも内容が違う作品くらい変わっていることです。どちらか読んだからといってもけっして安心は出来ないのです。

  • たたの警察小説ではない。圧倒的で泥臭い警察官同士のぶつかり合い。最後まで一気に楽しめました。
    合田雄一郎シリーズになってるらしいので、それらも読みたいと思います。

  • 久々に臓腑に沁みわたるような読み応えのある小説を読んだ思いがします。

    まず状況設定の重厚さが尋常ではない。
    発端となる事件の舞台となる南アルプス・北岳の登山道や山麓の情景の描き込みにしても、或いは、警察組織の一筋縄ではいかない人間関係の中で捜査を進める過程の描写にしても、どれだけの取材と準備を下敷きに書かれているのだろうと思わされる厚みがある。
    さらに、平成に入って書かれた小説ではあるものの、そこに流れる昭和の香り、どす黒い、昭和の闇の部分が全編から立ち上っているのがまた堪らない。

    ミステリではあるものの、仮に結末を知って読んだとしてもこの読み応えは変わらない気がします。
    個人的に、伊坂幸太郎のようなストーリーテリングの巧みさだけで引っ張る薄っぺらいミステリは評価する気になれないのですが、この小説はそれと対極にある。
    今回読んだ文庫版は、当初の単行本版から全面改訂されており、ネットで両方読んだ方の感想をいくつか読んだところでも、登場人物の印象などにかなり相違が生まれているとのこと。
    単行本版もぜひとも読んでみたいと思わせられます。

    ところどころ冗長な心理描写があったり、主人公の同僚刑事のニックネームがアナクロだったり、少々首をかしげるところがないわけではありませんが、これは文句なしの傑作だと思います。

  • う~む、面白いのは面白いが、なんか広げた風呂敷をバタバタと畳んでいるようで、最後が雑。
    遺書で解決させるというのはねぇ…。四分の三までは面白かっただけに、残念。

  • 合田雄一郎シリーズらしい。
    警察用語がやたらとでてくるので最初は戸惑ったが、犯人と刑事が繋がるまでの描写が細かく描かれ、いつ繋がるんだ?と思いながら読み進んだ。権力に抗おうと懸命にもがく刑事達を尻目に犯人は殺人を犯していく。
    MARKSの頭文字の5人達は自分が狙われる理由を理解できぬまま、戦々恐々としていく。結局、狙われた5人のうち二人が生き残り犯人は山頂で死んでしまうわけだが、MARKSの意味がわかってからの展開はいまいちな感じがした。結局、犯人が精神に異常をきたしていたから捕まえて自供させても面白くないと判断したのだろう。

著者プロフィール

高村 薫(たかむら かおる)
1953年大阪市東住吉区生まれ、現在大阪府吹田市在住。国際基督教大学教養学部人文学科(フランス文学専攻)卒業。外資系商社の勤務を経て、作家活動に入る。
1990年『黄金を抱いて翔べ』で日本推理サスペンス大賞、1993年『マークスの山』で直木三十五賞、1998年『レディ・ジョーカー』で毎日出版文化賞、2016年刊行の『土の記』では大佛次郎賞、野間文芸賞、毎日芸術賞をそれぞれ受賞し、新たな代表作となった。
『レディ・ジョーカー』を境として、重厚な社会派ミステリーから純文学に転向。織田作之助賞選考委員を務める。

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