文庫版 絡新婦の理 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 5314
レビュー : 484
  • Amazon.co.jp ・本 (1408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062735353

感想・レビュー・書評

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  • 当然、僕の動きも読み込まれているのだろうな―二つの事件は京極堂をしてかく言わしめた。房総の富豪、織作家創設の女学校に拠る美貌の堕天使と、血塗られた鑿をふるう目潰し魔。連続殺人は八方に張り巡らされた蜘蛛の巣となって刑事・木場らを眩惑し、搦め捕る。中心に陣取るのは誰か?シリーズ第五弾。

    ・レビュー



     これは、少なくとも今作までの百鬼夜行シリーズの中では文句なしの最高傑作だと思う。更に、個人的には今まで知った創作物で最も面白いと感じた。姑獲鳥の夏、魍魎の匣、狂骨の夢、鉄鼠の檻を読んでいることが前提であるように思うのでここまでのシリーズがあってこその傑作かもしれない。とはいえこれを単体で読んだとしても☆を5つ付けただろうとは思う。そういう意味では『絡新婦の理』の評価は☆6といっても良さそうだ。
     まず、素晴らしい点は「伏線と伏線回収」「テーマと物語の親和性」「構成美」。正直なところ、京極夏彦の百鬼夜行シリーズに関してはどの作品もこの3点は素晴らしいのだけれど、今回は過去4作を凌駕している。基本的に複数の事件が重なって生じ、真実が見えぬまま混乱が最大になった時点で、京極堂――中禅寺秋彦が登場し謎を明らかにし不思議を分解することで全て綺麗に収まる。これがこのシリーズの流れなのだけれど、今回はそれが明瞭で著しい。だがそれだけによりシンプルであり読みやすい。だからミステリの色が非常に濃いが、かといっていつもの宗教、哲学、心理学、民俗学などの知識面が霞むわけではない。
     面白いのは、いままでは「偶然」が複数の事件を混同したりかけ離したりして全容が判らなくなるというパターンなのに対し、人間による恣意的な操作がそれを起こしている、つまり黒幕あるいは犯人がいて、しかもそのような存在が小説の1行目で現れる。「あなたが――蜘蛛だったのですね」と京極堂が言い暫し「蜘蛛」と小難しい話をするところから今作は始まり、時は遡り、全ての事件が終わり最後にこの冒頭に物語は戻ってくる。最初は全く意味が解らない冒頭が最後に読み返すとピタリと用意された箱に収まる感じがする。
     今回の敵は冒頭からずっと「蜘蛛」であり、全てを操作しようとする。全く関連性のないような事件が「蜘蛛」のワードで繋がることが示唆される。構成も仕組みも舞台も何もかも蜘蛛。約1400ページと、冒頭の再読が終わるまで、読者はまさに蜘蛛の巣にかかったようにもがくことになる。最強の敵である蜘蛛が一体誰なのか、ミステリとしても非常に完成度が高い。

  • 『あなたが‐蜘蛛だったのですね』

    京極堂のこんな印象的な一文から始まるこのお話。

    今回の相手は『蜘蛛』。何重にも罠を仕掛けておき、自分の望む展開にもっていこうとする。全然関連性のなさそうな2つの事件も全て『蜘蛛』が操っている。『蜘蛛』の最終的な目的とは…。

    このお話はすごい面白かった。主人公の探偵サイドは榎木津を始めとする相変わらずの個性的な面々。
    名家である織作家の人物も個性的だ。
    これだけの個性的な面々が動いてて面白くないわけがない。

    また、このお話でも京極堂の薀蓄は顕在だった。これまでの話だと仏教や密教、心理学などがキーワードだったと思えるが、今回はキリスト教や女性の権利についてのものが多かったように思える。

    ページ数は多いけど、面白さに絡め取られたらグイグイ読んでしまいます。是非、オススメです。

  • ものすごい重いテーマのはずなのに、淡い儚い印象の作品。
    清涼院流水のジョーカーを思わせる大量殺人と度重なるどんでん返しを取り入れつつ、民俗学を使って構造主義を説明していたりと非常に読後感のよい小説でした。

  • 京極堂シリーズ5作目。前作までの事件はそれぞれ今回の事件に結びつくために張られた蜘蛛の糸の一端だった。「この世には不思議なものなど何ひとつないのだよ。―」妖怪の仕業か人のエゴか、古いしきたりか宗教のならわしか、男性的女性的、偶然必然。陰陽師中禅寺秋彦の軽妙な饒舌うんちくで、絡新婦(じょろうぐも)の憑物がおちてゆく。(K.M)

  • 前作は白黒の世界に閉じ込められているような感覚に陥ったけど、今作は冒頭から色彩が豊かで、特に桜のうつくしさが印象に残った。そのぶん、かなしみもさびしさも空虚さもすべて押し寄せてくるのだけど。
    つながっていそうで、ほんとうのつながりが見えない。自分の行動が次々と連鎖を起こしていく。止めることはできない、早めること、遅くすることはできる。蜘蛛の糸に搦め捕られて、気付かないうちに蜘蛛の筋書き通りになっている。よくよく考えてみれば、ひどく怖いことだと思う。
    男とは?女とは?と疑問に思ってしまった。なんだか、自分の性別に関する知識や感情がぐらぐら揺れている。夜這いのこと、そうとらえると決してマイナスイメージばかりではないんだなあと。
    最後の最後まで読んで、また冒頭に戻る。この作業が無意識に行われる作品って、これ以外知らない。蜘蛛と対峙する京極堂が、頭の中でありありと浮かんだ。

    (1408P)

  • 京極堂シリーズ5作目。
    鉄鼠の檻に引き続く、勉強になったという感じの話。
    女の人の権利問題とか、江戸時代の夜這い文化とか、女系家族とか、そういうことの分析がおもしろかった。
    ストーリーの頭で犯人のヒントを出すのはこのシリーズ初だった。やっぱり女性が出てくる度に、この人かな、違うかなと考えてしまって、いつもとはちょっと読み応えが違った気がした。
    ブログでの紹介はこちら→http://monogatarigatari.blog.fc2.com/blog-entry-101.html

  • 張り巡らされた蜘蛛の巣があまりにも巨大で、一つ一つを紐解くのは容易なことではないだろうと不安になりましたが、巧みな構成で読み出したら止まらない!

    前作の坊主とは打って変わり妖しげな信仰をもつミッション系の女学生たち、社会や男や己自身に抑圧されながら春を売る哀しき淫女達、そんな彼女らを同情しながらもどこかで見下す女権拡張論者など、各々が巣食うのは美しき女の蜘蛛ばかり。
    彼女らの個々のキャラクターや思想が魅力的、な話ではあるのだろうけど私は少し食傷気味。美由紀の存在がちょっとした救いのように感じる。

    なんとも耽美な世界でした。
    一面の桜吹雪に黒衣の死神、冒頭と末尾のこの描写がこのお話の妖艶さを際立てていますね。
    もう一巡したくなる流れですし。

    今回割とアクティブな動きを見せてくれた榎さんが新鮮で愛しさが爆発しそうになりました。あの探偵あざとい。

  •  冒頭からして犯人は独身の若い女性だということが分かるのだが、作者の思惑通りにミスリードに誘導された。美由紀視点が無けりゃあずっと気づかずだったかも。構成がこれまでのなかで一番好みで、一体どうやったらこんなシナリオを描けるのかと思いました。蜘蛛の糸に絡め取られる登場人物のように一旦読めば読破するまで抜けられないこの罠。犯人は、推理という観点を離れてみて、物語として誰がそうだったら面白いかを考えると一発で分かる。……か弱く可憐で犯罪とは程遠い女性像がセオリー。
     今回関くんが登場せずと思いきやラストでまさかの……。飲み物頂くシーンで毒でも盛られてないかと作中で一番ハラハラした。主役だし死ぬわきゃないと分かっていても。いさま屋の、他者に干渉したがる意外な気質を見た。榎さんの安定っぷりは相変わらず。

  • 謎が少しずつ明らかになってきてからラストまでの脳汁全開っぷりが気持ち良かったです。
    人におすすめしたいけどこの分厚さを思うとなかなかおすすめできないのよね…。

  • 【本79】本の分厚さを感じさせない、すばらしい構成。横移動の事件が視点を変え縦移動になる。奥までいっても辿りつかず最後には京極堂さえ絡められてしまう。最後の読了感も申し分なしの一冊です。

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著者プロフィール

京極 夏彦(きょうごく なつひこ)
1963年、北海道小樽市生まれ。小説家としてだけでなく、世界妖怪協会・世界妖怪会議評議員(肝煎)など妖怪研究家であり、他にも装幀家、アートディレクター、俳優など様々な顔を持つ。
広告代理店を経てデザイン会社を設立。1994年、そこで暇つぶしに書いた『姑獲鳥の夏』を講談社に送ったところ極めて評価を受け、同年、即出版・デビューに至る。瞬く間に執筆依頼が殺到する人気作家に上り詰めた。
1996年に『魍魎の匣』で日本推理作家協会賞、1997年『嗤う伊右衛門』で第25回泉鏡花文学賞、2002年『覘き小平次』で第16回山本周五郎賞、2004年『後巷説百物語』で第130回直木三十五賞、2011年『西巷説百物語』で第24回柴田錬三郎賞など、数多くの受賞歴がある。
代表作に「百鬼夜行シリーズ」「巷説百物語シリーズ」「豆腐小僧シリーズ」など。

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