30年の物語 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 109
感想 : 11
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062735964

作品紹介・あらすじ

国際派女優・岸恵子。映画監督イヴ・シァンピとの結婚のために、二十代で単身フランスに渡って以来、激動のヨーロッパで暮らした歳月は、筆者の心に何を刻み込んだのか-。チェコ人青年との淡い恋物語「栗毛色の髪の青年」、アパルトマンの煙をめぐる大騒動「女のはったり」ほか、十二の珠玉のエッセイを収録。

感想・レビュー・書評

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  • 労働者のほとんどが多民族で、恵まれない国々からやって来る出稼ぎ人。ヨーロッパの富める国は、みんな似たような事情。そんなフランスでの暮らしの大変さを教えてくれるエッセイ集。巻末の最後のエッセイ、「ホームレスと大統領」がいちばん面白いと思った。

  • 岸惠子美人だな。こんな美人な人には美人なエピソードがついてまわるものなんだな。

  • 岸惠子さんの文章をきちんと読んだのは初めてだった。少々技巧に傾きすぎる感があって、格段に上手い文章とは思わない。が、書かれている内容はかなり重い。一部の人からは、「日本を捨てた」と批判的に見られている人間が、それでも真摯に社会のことを見て、考えて、論理化しようと悪戦苦闘している様子は十分理解できる。フランスと日本と、どちらにも一体化できない人間になってしまった日本人女性の生き方は、多数派の日本人には共感されないだろうと思うと、私も少し暗い気分になってしまう。

  • 岸恵子さんのエッセイはこれで2冊目。秦早穂子さんとの往復書簡集を読んで、岸さんの文章がもっと読みたくなって、「巴里の空はあかね雲」に続き、この本を手に取ったのでした。
    正直、「巴里の空~」はなんだか期待外れでこっちもどうかなー、と思っていたけれど。でも、こちらのほうは私が読みたかった岸さんのエッセイの様で、あたり。
    良かったのは、「影絵の中のジャン・コクトオ」、「追悼」、「輪舞の外で」。特に、「輪舞の外で」の岸さんと黴臭い男との言葉遊びのやり取りのシーンが印象的。
    「私は彼の中にもフランスにも根を下ろし、枝葉を茂らせることはできなかったのよ。傲慢といわれても、根性無しといわれても仕方がないの。そんな私を彼は切り花だと言ったわ。」

    黴臭い男が「ひどく洗練された人工的な臭い」をさせるころ、二人に別れが訪れる。
    「男が身に刻んだ臭いの変化に女は身をひき、その女の疑念に男はやるせないほどむなしくなる。太古から営々と続いてきた男と女の行き違いに惘然となる。」
    人と人との出会いと別れ、そのせつなさと無常観に胸がいっぱいになる。

    エッセイの中には、ジャーナリストの視点で世界を見ている話もある。「君はヴェトナムで何も見なかった」が、それである。
    世界中を旅する中で知った戦争、内乱、紛争、そして飢餓の問題。平和ボケの日本の中ではきっと体験することのなかったそれらの現実を、岸さんらしい視点から問題提起している。

    昔から小説家なりたかったという岸さんのボキャブラリーの多さと、いいえて妙な例えなどは、読んでいて新鮮な驚きがある。みずみずしいのだ、感覚が。フランス仕込みのエスプリもきいていて、文章に岸さん独特のリズムがある。

    いいなあ、こんな風に文章を書いていたいなあ、と素直に思える。身の回りの小さなことから地球規模の問題まで、率直に、しかもみずみずしい感覚を持って論じていくことはたやすいことではないはずだ。作者の生まれ持った感受性の豊かさと、豊かな経験と見識の深さ、そして自分自身に常に素直でいることが必要なのだ。素直さ、が一番大切なことなのかも知れない。こんな世の中では、すぐ忘れてしまいそうになるから。

  • エスプリの効きすぎた比喩や装飾がふんだんに盛り込まれた文体や会話に、最初のうちこそやや表層的という印象を受けた。もう少しシンプルな伝え方の方が好きだなと思った。けれど読み進めていくとどんどん癖になっていくし、ぐいぐいと引き込まれていく。単に教養豊かな国際派女優がおしゃれに知的な言葉遊びを楽しんでいる本などでは決してなく、彼女が出会ったひとりひとりの人達を深く観察し、向き合って対話をし、その中から思考を深めていった、その過程がいっぱい詰まっていると思う。

  • この本を読んで私の心の奥底に潜む偏見に気づきました。「俳優」を「作家」の下に置き、俳優は一流の感性を持ってはいても、それを文字で表現するだけの知性を持っていないと思っていました。本を読み終えたとき、私はなんとおろかな偏見に囚われていたのかと自らの浅はかさに恥じ入りました。多彩な語彙をあやつり、激動の時代の光と影、そしてそこに生きる人間の微妙な心の襞を描き出す岸さんの筆力に畏敬の念を禁じ得ません。

  • 20代で単身渡仏し、激動のヨーロッパで過ごした日々。
    強い女性だなーと思います。
    エッセイというよりも自伝というほうがしっくりきます。
    難しい話もたくさんありましたが、もう一度じっくりと
    読み返したい、そんな一冊です。

  • 2010.02.07 朝日新聞に掲載されました。

  • 岸恵子は女優である、ということだけは知っていたけれども、エッセイを書く人だとは知らなかった。日本に帰国した際に、何気なく手にしたエッセイだったけれども、かなり面白く読んだ。表紙の写真をみてもらえば分かるけれども、かなりの美人だ。僕よりも2まわり以上年上の方なので、僕自身はかなり年をとってからの岸恵子しか知らない(それでもかなりの美人だったけれども)が、若い頃は本当にきれいな人だったのだな。エッセイは鋭く固い。感受性が強く相当に頭の良い人だな、ということを強く感じる。個性的で我が強い感じも受ける。男にとっては、非常に魅力的な人だろうけれども、なかなか手に負える人ではない、という印象だ。

  • 回想なのか創造なのか分からない、
    幻想的な空気が流れている本。

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岸恵子の作品

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