麦の海に沈む果実 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 11355
感想 : 1189
  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062739276

作品紹介・あらすじ

三月以外の転入生は破滅をもたらすといわれる全寮制の学園。二月最後の日に来た理瀬の心は揺らめく。閉ざされたコンサート会場や湿原から失踪した生徒たち。生徒を集め交霊会を開く校長。図書館から消えたいわくつきの本。理瀬が迷いこんだ「三月の国」の秘密とは?この世の「不思議」でいっぱいの物語。

感想・レビュー・書評

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  • 謎めいた全寮制の学園で繰り広げられる、不思議な物語。
    窓からの景色は、色彩のない灰色の湿原。そこに浮かぶ青の丘は、まさに陸の孤島。
    緑の館と、背の高い美しい校長。
    二月最後の日に転入してきた理瀬を中心に、ミステリーとファンタジーが入り交じった見事な作品だった。
    学園は人生の休暇…ここは三月の国。出会いと別れの国。
    生徒の失踪や殺人事件が繰り返されるが、私たちは物語に身をまかせるだけ。先を読み進めるだけだ。
    何処にも行けない。身動きがとれない。そのことが決して苦痛ではなく、他にはない読書体験だった。
    校長のお茶会や、優秀な生徒たちの会話や推理、学園で行われる行事も興味深く楽しめた。
    すべての謎が解かれ、学園を後にした理瀬はまた再びここに戻ってくる。
    また理瀬に出会いたいと思う。

  • 不思議な既視感。不思議な既読感。
    初めてなのに見たことがある灰色の湿原、初めて読んだのに理瀬の同室者の名前を知っている。先に「三月は深き紅の淵を」の回転木馬を読んだからというのが単純な理由ですが同じ本を二度読みしたわけでもないのにも関わらず面白い経験ができたと思います。先にこちらを読んでいたら、「三月」がダイジェスト版のように感じられたかもしれませんし、それはそれでと思いますが、「三月」が先だと、この作品も「三月」の章の一つにも見えてしまうのが面白いところ。いずれにしても予習が終わっているのでじっくりこの独特なファンタジー世界に浸っていけたのでこれはこれでとても良かったです。
    「三月」から入るのは「あり」です。

    それにしてもここは日本なのだろうかと思えるような不思議な学園世界が描かれます。その中で留学生のヨハンの存在が逆にここが日本であることを暗示させます。いつもの如く恩田さんらしい面白い表現がヨハンの言葉を通して出てきました。「日本語って視覚的にゴージャスな感じがしていいですよね。漢字は贅沢な絵みたいだし、ひらがなは無邪気で色っぽい」こんな見方初めてでとても新鮮でした。ただ個人的にはここにカタカナを忘れてはいけないと思います。世界のあらゆる言語をカタカナは音楽を奏でるように表記することができて、結果として日本語は世界のあらゆる言語を包含できてしまうからです。これはとてもゴージャスです。

    話はそれましたが、作品は後半にかけて一気に展開します。理瀬にキャラ変が発生!また、特に前半部分で極めてゆっくりとじっくりとこの不思議な作品世界に没入させてもらえたのに、後半になっていかにも恩田さんらしく作品は読者を振り落とそうとしているかのように急に疾走を始めます。振り落とされないぞと必死にしがみついても結局は最後に振り落とされてしまう。でも、その眼の前には爽やかに余韻が広がっていた。

    「麦の海に沈む果実」これぞ恩田さんの真骨頂とも言うべき素晴らしい作品だと思いました。

  • 「黄昏の百合の骨」を読む前に、再読。私が読んだはじめての理瀬シリーズ。

    前回の読後、もしかしたら順番が間違っていたかと思いながらも、幻想的で不思議な世界観と独特の展開に圧倒されながら、犯人探しに奔走し、この作品に呑まれていく。

    三月以外の転入生は破滅をもたらすといわれる全寮制の学園。二月最後の日に来た14歳の主人公・水野理瀬に学園の生徒たちの好奇の目があつまる。閉ざされた不気味な学園で起こる失踪事件。「交霊会」と称する校長主催のお茶会。無くなった「麦の海に沈む果実」の謎の本。何もかもがすごく不気味なのに、ハマってしまう。

    学園の所在地の説明はないが、湿原、針葉樹林、太平洋、雪の言葉が綴られており、北海道の東側、何となく釧路湿原のあたりを連想する。

    まず、学園で突然、石像の陰から白い顔の少年が飛び出してくる、そして、学園の校長が大柄な女性(実は男性)…これらの描写にいきなり圧倒され、不思議な、幻想的な世界に引き込まれていく。「何かが起こる」と思い読み進めるため、校長もファミリーの聖、黎二も、ルームメイトの憂理も、1歳年上の転入生・ヨハンも皆んなが怪しく思える。

    人間誰しも、過去を振り返る事がある。記憶を振り返り、忘れたつもりでも、過去の出来事や周りの人間に縛られていることも多く、本作でも「記憶というものはゆるやかな螺旋模様を描いている。もうずいぶん歩いたなと思っていても、螺旋階段のように、すぐその足の下に古い時間が存在している。身を乗り出して下に花を投げれば、かつて自分が歩いた影の上に落とすことができるのだ。」の言葉が何度もきさいされ、そのことを匂わす。そしてこの言葉が何かを知らせるように、理瀬は過去の記憶の一部を本作では無くしていた。

    記憶を無くしている理瀬に襲いかかる失踪事件や殺人事件が、理瀬の精神を攻撃し、精神を病んでしまう。そんな理瀬が最後に記憶を取り戻した時、「ええ、パパ何もかも」と描かれた言葉の意味が一瞬分からなくなる。

    何度読んでも、この展開を予測できる人がいるのだろうか?と思ってしまう。
    なぜなら序章で、「これは私が古い革のトランクを取り戻すまでの物語である。」で始まっているからだ。そう、この物語は理瀬がトランクを取り返すための策略的な物語ではなく、結果として、トランクが無くなった理由が最後に分かるという展開であった。

    そして、この独特な不思議世界が続く、シリーズを見てみたくなる。

  • 著者のエッセイに確か出てきて読もうと思っていたもの。
    北海道の湿原に建つ全寮制の学校を舞台にしたストーリー。 読み始め海外小説のような雰囲気があり、読み辛いかなと思っていたら次第にぐんぐん引き込まれた。
    結末は意外に感じた。腑に落ちないわけではないけど、どこか不思議な読後感。
    全体に映像を見ているような緻密な描写で、私はなぜかハリーポッターを思い浮かべた。

  • 68冊目『麦の海に沈む果実』(恩田陸 著、2004年1月、講談社)
    『三月は深き紅の淵を』の中で描かれた理瀬の物語を膨らませ、長編にしたかの様な作品。
    登場人物は『三月は〜』と共通しているが、作中で起こる事件や物語の結末はかなり異なっている。
    閉ざされた環境と数多の謎が描かれた、ミステリーの魅力に溢れる作品ではあるが、クライマックスへと向かうにつれてどんどん小さく纏っていってしまったという印象を受けた。

    「そう、私たちは皆、灰色の海にゆらゆらと漂っていた。」

  •  主人公理瀬はその日から外界とは隔たれた、丘にある全寮制の学校に行くことになります。三月の国、男にも女にもなる圧倒的な校長、伝説や殺人。不思議なことが次々と起こる中、理瀬は自分の記憶に自信を持てなくなり‥。

     物語には理瀬を始めとして美しい人たちばかり出てきます。彼らが浮世離れした校舎や庭園で過ごす様はさながら少女漫画のよう。特に地下の食堂は、『天井は修道院のようにアーチ形を描き、幾何学模様の合間から下に柱が伸びていた。オレンジ色の照明が、まるでヨーロッパの酒場のような雰囲気を醸し出している。』ときているので小説の醍醐味、空間の妄想が捗ります。
     私は黎二派だったので、普段さぼっているくせに花のワルツを流れるように踊るシーンが最高でした。少女漫画のようなあからさまな行動ではなくとも、惹かれてやまない描写に頁を捲る手が止まりません。

     そんな事を言っても真髄はミステリーなので、ラストには一気に回収がなされます。その後談もセットで詰め込まれているのでちょっと気圧されるほどです。詩の中では『わたしたちは灰色の海に浮かぶ果実だった。』とありますが、読者もこの小説を読んでいる間は浮かされたような独特の時間を過ごしたのではないでしょうか。

    ちっぽけな疑問なのですが、現在学園にいる人たちはあのネットワークの中で、なぜ過去に理瀬が学園を訪れていたと気づけなかったのかしら‥。

  • 一般的に作品の評価というものは、『訴えかける感情の数』×『深さ』の総数で決まると考えてます。例えば、単純に恐怖だけを描いた作品よりは、謎解き要素を加えて探求心を唆られる方が、作品としての奥行きがあり読者層も広がります。結果的に作品として評価されやすい。
    ただし、『深さ』は読者の力量に委ねられる部分が大きいため、『訴えかける感情の数』が少なく『深さ』に特化している、いわゆる指向性が強い作品ほど評価はされにくい傾向にある。
    本作品は様々な感情が複雑に絡み合っているにも関わらず、指向性が強い作品にも思われる稀有な例な気がします。

    えー、とにかく好きな作品です。

  • 最初から最後まで不思議な物語だった。でも、「青い丘」での少年少女達が、演劇でも繰り広げられてるかのような内容でとても楽しかった。
    今後の理瀬が造り上げる世界が気になる!
    次は「黄昏の百合の骨」へ行ってきます!!

  • 学園ミステリでもあり幻想的な世界でもあり…。

    学園モノなのに爽やかさのかけらも感じられない。

    イメージはまさにグレー。
    グレーの靄の中に物語全体がすっぽり包まれ、ときおり血なまぐさい紅色が垣間見えるようなそんな世界。
    不安感に終始つきまとわれながらもとにかく一歩足を踏み入れたら出られない、引き返せない、ただひたすらひきこまれてしまう、なんとも不思議な魅力を持っている作品だった。
    そしてこの幕の閉じ方、まるで夢からまだ醒めやらぬ感覚。
    これも恩田作品らしくて好き。

  • 閉鎖的!
    異国っぽさがあって不思議な世界観。

    黎二すき・・・
    彼の‶指定席”である図書館上の張出窓のシーンが
    いかにも!なんだけどすごく好き!
    「きっと、ずっと前にも俺みたいなのがいて、やっぱりこんなふうに窓にふてくされて座って、同じ景色を見てたんだろうな」
    からの、百科事典に挟んである詩を見せてくれるところとか・・・
    キュンとするじゃないか!ひたすらに黎二がかっこいい。

    でもヨハンも好きだなぁ
    塔の窓からとりまきのしつこい女の子を抱え上げて落とす、なんて
    やっぱりいかにも!好き!
    (いかにも・・・?)

    キャラクターが良いな、と思ったお話でした。


    「いいんだよ、これはここにあった方が。そうすれば、また何年も経ってから誰かが見つけてこれを読むだろう」

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著者プロフィール

1964年、宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』でデビュー。2005年『夜のピクニック』で第26回吉川英治文学新人賞および第2回本屋大賞を受賞。06年『ユージニア』で第59回日本推理作家協会賞を受賞。07年『中庭の出来事』で第20回山本周五郎賞を受賞。17年『蜜蜂と遠雷』で第156回直木三十五賞、第14回本屋大賞を受賞する。

「2023年 『私たちの金曜日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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