麦の海に沈む果実 (講談社文庫 お 83-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062739276

作品紹介・あらすじ

三月以外の転入生は破滅をもたらすといわれる全寮制の学園。二月最後の日に来た理瀬の心は揺らめく。閉ざされたコンサート会場や湿原から失踪した生徒たち。生徒を集め交霊会を開く校長。図書館から消えたいわくつきの本。理瀬が迷いこんだ「三月の国」の秘密とは?この世の「不思議」でいっぱいの物語。

感想・レビュー・書評

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  • 不思議な世界観、
    校長の強烈なキャラなど
    どれも私にピッタリハマり、
    あっという間に読み終えました。

    恩田さんの作品は他に
    【夜のピクニック】【蜂蜜と遠雷】と
    読みましたが、これとは全く違う世界で
    改めて、凄い作家だと感心します。

    次の理瀬シリーズもあり、楽しみは続きます。

  • 不思議な既視感。不思議な既読感。
    初めてなのに見たことがある灰色の湿原、初めて読んだのに理瀬の同室者の名前を知っている。先に「三月は深き紅の淵を」の回転木馬を読んだからというのが単純な理由ですが同じ本を二度読みしたわけでもないのにも関わらず面白い経験ができたと思います。先にこちらを読んでいたら、「三月」がダイジェスト版のように感じられたかもしれませんし、それはそれでと思いますが、「三月」が先だと、この作品も「三月」の章の一つにも見えてしまうのが面白いところ。いずれにしても予習が終わっているのでじっくりこの独特なファンタジー世界に浸っていけたのでこれはこれでとても良かったです。
    「三月」から入るのは「あり」です。

    それにしてもここは日本なのだろうかと思えるような不思議な学園世界が描かれます。その中で留学生のヨハンの存在が逆にここが日本であることを暗示させます。いつもの如く恩田さんらしい面白い表現がヨハンの言葉を通して出てきました。「日本語って視覚的にゴージャスな感じがしていいですよね。漢字は贅沢な絵みたいだし、ひらがなは無邪気で色っぽい」こんな見方初めてでとても新鮮でした。ただ個人的にはここにカタカナを忘れてはいけないと思います。世界のあらゆる言語をカタカナは音楽を奏でるように表記することができて、結果として日本語は世界のあらゆる言語を包含できてしまうからです。これはとてもゴージャスです。

    話はそれましたが、作品は後半にかけて一気に展開します。理瀬にキャラ変が発生!また、特に前半部分で極めてゆっくりとじっくりとこの不思議な作品世界に没入させてもらえたのに、後半になっていかにも恩田さんらしく作品は読者を振り落とそうとしているかのように急に疾走を始めます。振り落とされないぞと必死にしがみついても結局は最後に振り落とされてしまう。でも、その眼の前には爽やかに余韻が広がっていた。

    「麦の海に沈む果実」これぞ恩田さんの真骨頂とも言うべき素晴らしい作品だと思いました。

  • 謎めいた全寮制の学園で繰り広げられる、不思議な物語。
    窓からの景色は、色彩のない灰色の湿原。そこに浮かぶ青の丘は、まさに陸の孤島。
    緑の館と、背の高い美しい校長。
    二月最後の日に転入してきた理瀬を中心に、ミステリーとファンタジーが入り交じった見事な作品だった。
    学園は人生の休暇…ここは三月の国。出会いと別れの国。
    生徒の失踪や殺人事件が繰り返されるが、私たちは物語に身をまかせるだけ。先を読み進めるだけだ。
    何処にも行けない。身動きがとれない。そのことが決して苦痛ではなく、他にはない読書体験だった。
    校長のお茶会や、優秀な生徒たちの会話や推理、学園で行われる行事も興味深く楽しめた。
    すべての謎が解かれ、学園を後にした理瀬はまた再びここに戻ってくる。
    また理瀬に出会いたいと思う。

  • 「私は今でもその丘を知っている。その最初の場面ら思い浮かべることができる。冷たい駅の空気、トランクの革の感触、孤独と不安にうずく私の心臓の鼓動を。なぜなら、それは私の物語だからだ。私がなぜトランクを失い、どうやってそれを取り戻したかという物語だからである。」
    ー本文より引用

    文句なしに面白かった。
    魅惑的で不思議な導入、魅力的なキャラクター、展開、舞台設定、イベント…面白い要素を取り上げ始めたらキリがない。
    さらに巻末の解説を読むと、これ単体で読んでも面白いが、これと合わせて作中に出てきた本のタイトルの本を合わせて読むことでさらに複雑な楽しみ方ができるというではないか。すごい。すごいぞ恩田陸ワールド。
    まだ作品を読むのは数作品目だが、恩田陸作品をどんどん読んでいきたいと思わされた。

    肝心のあらすじ。
    理瀬という少女が主人公で、彼女は右も左も分からないまま、北海道の奥地の湿原が広がる閉ざされた学園に入学することになる。
    その学園には様々な事情を抱えたお金持ちの子どもたちが通っている。
    学園の潤沢な環境を利用して才能を伸ばすために入学する子どもたち、様々な事情からこの監獄のような学園に入ることを余儀なくされた子どもたち…
    この学園では互いがあからさまに素性を明かさないよう配慮(?)して、苗字では呼び合わない。ファーストネームしか互いに知らない状態だ。
    そしてファミリーという縦割り制のグループに所属する必要がある。
    その学園は三月に入学・卒業するのが慣わしなのだが、理瀬は異例の二月の編入生だった。
    飛び交う理瀬に対する憶測、噂話。
    類稀なる美貌と頭脳を持ち合わせる校長。
    校長に気に入られることでやっかみを買うことも。
    そして次々と起こる事件、明かされ発生する謎。理瀬は翻弄されていく。その翻弄の先に待ち受ける結末は。

    あらすじがうまく書けていないので面白さが伝わるか分からないが、500ページ近くありながらもスルスルと読めてしまう面白さ。ぜひ読んでほしい。
    章ごとに挟まれる扉絵も美しい。
    読んで良かった。極上のクローズド学園ミステリーだ。

  • 圧倒的な世界観と雰囲気を楽しむ作品。一本のファンタジー映画を見終わったような感覚だった。

  • 季節や風景の描写、人物の感情、友情、全て綺麗な色の文章によってその世界観に深く入りながら心地よい時間をすごせる物語でした。
    大切な一冊になりました。

  • 北の大地、広大な湿原に浮かぶ「青の丘」、中世修道院の風合いを残した全寮制スクール。女装癖のあるやり手校長。英才教育を受ける「ゆりかご」組と特殊事情を抱え家庭から隔離された「墓場」組。

    主人公の少女 理瀬は、「3月以外の時期に入学した生徒は学園を破壊に導く」という言い伝えのある中、何故か2月末日に学園に入学した。牢獄のような閉鎖的な学園生活、いわくありげな生徒たち。校長主催のお茶会で行われる降霊会。理瀬は、次々起こる生徒の死亡事件に巻き込まれていく。

    謎だらけのミステリアスな学園生活に思わず引き込まれた。ただ、ラストはかなり呆気なかった。失速した感は否めないな。

  • すっっっごい面白かったー。
    恩田陸さんの作品の中で1番好きかもしれないです。

    湿原の中に立っている三角形の学園(元修道院)が舞台。
    そこからして非現実的なのに登場人物もみんな魅力的だけど現実味がなくて。
    夢落ちとかどこからが現実でどこからが幻想なのかわからないみたいな曖昧な終わり方だったら嫌だなーと思いながら読み進めておりましたがそんなことはなかったです。

    主要な登場人物はみんな美形で主人公も美少女。
    お茶会に舞踏会、ルームメイト、学園祭、閉ざされた学園で起こる殺人事件───ときめき要素満載でちょっとラノベっぽい感じがありました。

    気分で男にも女にもなる(男性です)美形の校長先生がすごい好きでした。

    「3月は深き紅の淵を」を先に読んでたので本が出てきた時テンション上がりましたね。

    この不思議で不気味で美しい学園生活をずっと読んでいたかった……
    ラストはなかなか衝撃です。
    悪くはないけど記憶が戻るまでの学園生活が好きだったなー。

  • 沼地の中に孤立している学園を舞台としたミステリ。理瀬シリーズの第1弾。9割方読んでも着地点が分からず、第2弾に継続するのかなと思ったら、予想外の結末が待っていた。
    『三月は深き紅の淵を』がシリーズの序章という事で読了後に本作を読みましたが、本作から読み始めた方がドキドキ感が大きいと思います。次作で理瀬がどんな風に登場するか楽しみです。

  • 「黄昏の百合の骨」を読む前に、再読。私が読んだはじめての理瀬シリーズ。

    前回の読後、もしかしたら順番が間違っていたかと思いながらも、幻想的で不思議な世界観と独特の展開に圧倒されながら、犯人探しに奔走し、この作品に呑まれていく。

    三月以外の転入生は破滅をもたらすといわれる全寮制の学園。二月最後の日に来た14歳の主人公・水野理瀬に学園の生徒たちの好奇の目があつまる。閉ざされた不気味な学園で起こる失踪事件。「交霊会」と称する校長主催のお茶会。無くなった「麦の海に沈む果実」の謎の本。何もかもがすごく不気味なのに、ハマってしまう。

    学園の所在地の説明はないが、湿原、針葉樹林、太平洋、雪の言葉が綴られており、北海道の東側、何となく釧路湿原のあたりを連想する。

    まず、学園で突然、石像の陰から白い顔の少年が飛び出してくる、そして、学園の校長が大柄な女性(実は男性)…これらの描写にいきなり圧倒され、不思議な、幻想的な世界に引き込まれていく。「何かが起こる」と思い読み進めるため、校長もファミリーの聖、黎二も、ルームメイトの憂理も、1歳年上の転入生・ヨハンも皆んなが怪しく思える。

    人間誰しも、過去を振り返る事がある。記憶を振り返り、忘れたつもりでも、過去の出来事や周りの人間に縛られていることも多く、本作でも「記憶というものはゆるやかな螺旋模様を描いている。もうずいぶん歩いたなと思っていても、螺旋階段のように、すぐその足の下に古い時間が存在している。身を乗り出して下に花を投げれば、かつて自分が歩いた影の上に落とすことができるのだ。」の言葉が何度もきさいされ、そのことを匂わす。そしてこの言葉が何かを知らせるように、理瀬は過去の記憶の一部を本作では無くしていた。

    記憶を無くしている理瀬に襲いかかる失踪事件や殺人事件が、理瀬の精神を攻撃し、精神を病んでしまう。そんな理瀬が最後に記憶を取り戻した時、「ええ、パパ何もかも」と描かれた言葉の意味が一瞬分からなくなる。

    何度読んでも、この展開を予測できる人がいるのだろうか?と思ってしまう。
    なぜなら序章で、「これは私が古い革のトランクを取り戻すまでの物語である。」で始まっているからだ。そう、この物語は理瀬がトランクを取り返すための策略的な物語ではなく、結果として、トランクが無くなった理由が最後に分かるという展開であった。

    そして、この独特な不思議世界が続く、シリーズを見てみたくなる。

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著者プロフィール

1964年宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』で、「日本ファンタジーノベル大賞」の最終候補作となり、デビュー。2005年『夜のピクニック』で「吉川英治文学新人賞」および「本屋大賞」、06年『ユージニア』で「日本推理作家協会賞」、07年『中庭の出来事』で「山本周五郎賞」、17年『蜜蜂と遠雷』で「直木賞」「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『ブラック・ベルベット』『なんとかしなくちゃ。青雲編』『鈍色幻視行』等がある。

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