歩兵の本領 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
3.61
  • (80)
  • (159)
  • (245)
  • (16)
  • (0)
本棚登録 : 1307
感想 : 118
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062739894

作品紹介・あらすじ

名誉も誇りもない、そして戦闘を前提としていない、世界一奇妙な軍隊・自衛隊。世間が高度成長で浮かれ、就職の心配など無用の時代に、志願して自衛官になった若者たちがいた。軍人としての立場を全うし、男子の本懐を遂げようと生きる彼らを活写した、著者自らの体験を綴る涙と笑いの青春グラフィティ。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 1970年代の自衛隊の物語。
    9編の短編連作集で、当時の自衛隊の若者たちの物語となっています。
    戦闘シーンではなく、彼らの日ごろの生活が赤裸々に面白く、楽しく、哀しく語られています。
    当時の自衛隊の世論での扱われ方がよくわかります。そして軍隊ではなく自衛隊であることの意味。

    ■若鷲の歌
    幽霊化と思いきや、その正体は..
    ■小村二等兵の憂鬱
    靴をなくしてしまった小村。その真相は
    ■バトル・ライン
    先輩を殺そうと決意するも..
    ■門前金融
    自衛隊員専門の金貸し
    ■入営
    入営した新隊員の困惑
    ■シンデレラ・リバティ
    外出時に会いに行った恋人、時間通りに戻れるか?
    ■脱柵者
    自衛隊から脱走..
    ■越年歩哨
    年越しに歩哨登板になってしまって..
    ■歩兵の本領
    除隊を決意した若者の自衛隊への決別

    でも、一番驚いたのは作者の浅田さんが元自衛隊員だったってこと!

  • 「君、いい体してるね。自衛隊入らない?」

    この言葉が流行ってたのはいつだろう。アイドルタレントじゃあるまいし、自衛官を街頭でスカウトするのかよって笑っていたけど、どうやらホントにこの言葉で自衛官を集めていた時代があったらしい。

    バブル時代よりも前の高度成長期、日本は超売り手市場で就職内定なんていくらでも稼げる時代だった。そんな時代に低賃金で長時間拘束、その上、国民から信頼されない組織である自衛隊はいわゆるブラック企業だった。

    そんな自衛隊の面々が繰り広げる理不尽な体育会系社会を描いたオムニバス短編小説集。それにしても、浅田次郎って元自衛官だったんだ。

  •  oyajisanお勧めの一冊。9つの短編集・・・う~ん、どれも涙と笑いで読み進める。理不尽だけれども温かい世界・・これを”昭和”と呼ぶのでしょうか。
     訳ありで連れてこられて、たとえ最初は殺意を覚えるほど反発しても、いつしかそこに居場所を見つけてなじんでいく。体力的にどうしてもついていけず、そのせいで連帯責任(なんて懐かしい響き!)を取らされて。でも、誰も咎めず見捨てず、さりげない優しさで包んでくれる・・浅田次郎さんの自衛隊への愛情がなせる世界なのかも。好きだな~こんな男くさい世界。

     熱発就寝と称して、訓練にもほとんど参加せずベッドに寝ている最古参の神様・・・そんな存在を飲み込む懐の深さに、どこかホッとする。
     いつからか、そんな存在を許さない、ギシギシと音が聞こえてくるような社会になってしまったような気がする。何かしでかしたら、メディアに一斉に叩かれ、追いつめられる。どこかおかしいと思う今日この頃。
     決して、「虫の居所が悪いから殴られる」社会を容認しないけど、その裏にある愛情だったり優しさだったりに、救われる思いがした。

     「門前金融」の言葉遊びに笑い、「バトル・ライン」の男気にしびれ、「シンデレラ・リバティー」にほろりとし、「脱柵者」でじぃーーんときて、最終章「歩兵の本領」でガツンとやられました。
     

  • 1970年頃の東京を舞台とした陸上自衛隊(市ヶ谷駐屯地)がテーマの中編9編が収録。それらの初出時は99~00年頃、01年刊行、04年文庫化。
    収録されている作品の時代背景となった時期は、令和となった今となっては、もはや半世紀以上も前で、読者の年代によっては、時代小説さながらの感慨があるかもしれない。初出時からも四半世紀近く経ち、その間だけでも、日本のみならず世界も驚くほどに変わってしまった。もちろん、この四半世紀近い間だけでも、この作品のテーマとなった自衛隊(陸海空いずれも)、その自衛隊の動静を大きく左右する政治情勢も、そうしたものを取り巻く様々な動きも、大きく変わってしまった。
    とりわけ、昨今では、日本が近い将来、再び戦火にまみえる可能性や、他国のそうした動きに多大な影響を受ける可能性が示唆されてもいる。また、そうしたことに対する懸念を抱く人たちも著しい。そうした時代にこそ、まだ先の大戦の際に、最前線に立っていた人たちが先頭に立っていた時代に日本という国の自衛隊がどのような状況の中にあったのかを彷彿とさせられるこの作品を読むことは、極めて意味の大きなことであると考える。ただし、令和のこの時代とは、あまりに時代背景の差異が開きすぎているので、読む人の年代によっては、理解が容易ではないかもしれない。

  • これは、兵隊の話!士官ではない。鉄拳制裁は、表向き、真は世渡り下手の苦労人たちなんだよ。そんな彼らが自衛隊と言う柵のなかで織りなす物語。

  • 古き良き時代(?)の陸自営内でのお話し
    へー、そうなんだとか大変でしたね
    などのトリビア的話題が豊富

  • 変わりゆく時代の中で、反動と言われようが偏屈者と呼ばれらようが、かつて、軍人であった矜りを捨ててはならなかった。銃も剣も国に返したが、返納してならぬ歩兵の本領を、おいても尽きぬ背骨に、私はしっかりと刻みつけていた

    しかしながら、変わり、ゆく時代に逆行するように、変わらぬ何かがあるはずだ。本作は、歩兵の本領ならぬ、まさしく作家の本領を見せつけた作品と言えるだろう
    よくも悪しくも古き良き時代の自衛隊は終焉を告げた。いよいよ次の時代に突入したわけだが、この作品に描かれていた頃の自衛隊が、実は1番良い時だったなと言うようなことにならないようにしたいものだ

  • 背表紙を見て終戦の月に読む本にピッタリだと思って手に取ったけれど、任期制陸上自衛官のお話だったんですね。今でいう3Kに安月給、それに加えて国民からは存在すら認められず尊敬も得られない悲しくなるような国防の仕事・・・。それぞれの訳あり理由により入隊した若者たちが織りなすミリタリー青春ドラマ。ちょっぴり切なくて最後にほっこりする物語でした。それにしても、浅田さんが元陸上自衛官だとは知らなかったな〜。

  • 2023.02.15
    私の中学の野球部のひとつ上の先輩は、先輩だから威張ってました。
    野球はヘタでした。せめて尊敬できるヒトが1人でもいれば、こういう短編にもなったかもしれませんが、私の中学時代の理不尽を書いたら「イヤミス」になってしまうなあと、本編とは関係ない読後感。

  • 人間味溢れつつもカラッとした雰囲気の短編。
    私は集団行動が苦手で部活すら続かなかったタイプなので、読書を通してこういう世界を垣間見るのも良いなと。

全118件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1951年東京生まれ。1995年『地下鉄に乗って』で「吉川英治文学新人賞」、97年『鉄道員』で「直木賞」を受賞。2000年『壬生義士伝』で「柴田錬三郎賞」、06年『お腹召しませ』で「中央公論文芸賞」「司馬遼太郎賞」、08年『中原の虹』で「吉川英治文学賞」、10年『終わらざる夏』で「毎日出版文化賞」を受賞する。16年『帰郷』で「大佛次郎賞」、19年「菊池寛賞」を受賞。15年「紫綬褒章」を受章する。その他、「蒼穹の昴」シリーズと人気作を発表する。

浅田次郎の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
浅田 次郎
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×