新装版 虚無への供物(下) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062739962

作品紹介・あらすじ

アパートの一室での毒殺、黄色の部屋の密室トリック-素人探偵・奈々村久生と婚約者・牟礼田俊夫らが推理を重ねる。誕生石の色、五色の不動尊、薔薇、内外の探偵小説など、蘊蓄も披露、巧みに仕掛けたワナと見事に構成された「ワンダランド」に、中井英夫の「反推理小説」の真髄を見る究極のミステリー。

感想・レビュー・書評

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  • アンチミステリの世界
    これは…
    なるほど。

    『ドグラマグラ』とも『黒死館殺人事件』とも違う。奇書と構えて読むからか、胸に遺物が残る読後感。

    1955年が舞台。
    1年前に起きた洞爺丸沈没事故により両親を亡くした氷沼蒼司、紅司、藍司。
    ある晩、藍司はアイヌの格好をした不審者を目撃し、紅司は、アイヌの呪いや洞爺湖の蛇神の祟りだと怯える。
    藍司が働くゲイバーの客であり、蒼司の友人、光田亜利夫は氷沼家と仲を深めるが、そこで謎の密室殺人事件が起きてしまい、巻き込まれてゆく。
    家系・密室系のミステリーです。

    ノックスの十戒はもちろんだが、江戸川乱歩や不思議の国アリスの話などがポンポン出てくる。
    複数人による推理合戦が繰り広げられ、読んでいる方は次々に湧いて出る容疑者やトリックに惑わされてしまう。

    それぞれの人が独自の見解で犯人を推理しているので、まるでゲームのエンディングが幾つもあるような錯覚に陥るが、ちゃんと真相は1つなので安心して下さい^ ^

    奇妙な推理合戦も魅力ですが、最後まで読んでこの作品の本当の魅力が分かります。
    読後は『暗黒館の殺人』と同じようなモヤが心にかかります。
    (暗黒館の殺人が大好きなので、すぐ基準にしますが、深い意味はありませんw)

  • めちゃくちゃ面白かった。

    想像は時として現実をも凌駕し、新しい物語を生み出す。蓋を開けてみれば、なんだ、こんな感じ?
    なんだけど、時代の背景と相まって、なんとも言えないスカッとしない感じが底にあって面白い。

    読んだ本と知識が半端なくすごいと思うのだが、
    『黄色い部屋の秘密』なんかも、あ、犯人言っちゃうんだ…

    『現実に耐えられなくて逃げこんだ非現実の世界は、現実以上の地獄で、おれはその針の山を這いずるようにして生きてきたんだ。』

    終章の蒼司の告白が最高だった。考えて考えて考え出した答えは歪曲し、別の方向へ怒りとして矛先をかえる。自分が納得した形があれだ。
    無責任な好奇心の創り出すお楽しみ...
    どうやって自殺を食い止めるのか。

    真犯人は私たち御見物衆。ちょっとだけ無責任な好奇心の先にある物語。まさに虚無への供物。

    この本は読めてよかった。

  • 推理小説だと思って読み始めたので二転三転…何転したか分からない展開はかなり疲れたし、最後まで読んでもスッキリ解決したとは言いがたい内容だった。

    ただ下巻最後の久生のセリフ「ページ外の読者に向かって"あなたが犯人だ"って指差さす、そんな小説にしたい 。(中略)この一九五四年から五五年にかけて、責任ある大人だった日本人なら全部犯人の資格がある筈だから」は現代社会に生きる自分達にも当てはまる指摘だと思うし常日頃感じていることだけに共感出来た。
    社会問題に無関心で安穏と生きることを糾弾した問題作、と捉えておこう。

  • まず、単純に面白い。奇書とか墓碑銘とか何も気にせずに読んだとしても、不動ー薔薇ー犯罪の符号(特に黄色の薔薇には驚かされた)や、三重の密室トリックはとてもレベルが高く、珍説もあるものの、推理合戦はかなり楽しかった。

    そして”楽しんだ”後に訪れるのがあの仰天とも肩透かしともとれる真相。
    しかし、これは「肩透かし」だと思ったらもう十分に犯人たる資格を有していることになるのだ。事件が起こる前からヒヌマ・マーダーなどと騒ぎ立てている久夫たちと同じく、これは殺人事件でなにか突飛なトリックが使われているに違いないと思い込み、”楽しみ”にしているということなのだから。

    反推理小説であり、著者自身は「反地球での反人間のための物語」とまで言った作品だが、やはりこれほどまでに評価され読まれ続けているのは、解説にもある通りこの作品自体が面白いからに他ならない。
    流暢で読みやすく、それでいて独自の世界を築いている文体もどこかクセになる。
    これからも推理小説史に間違いなく燦然と輝き続けるだろう。

  • 再読。
    久しぶりの中井英夫文体に実家のような安心感をおぼえた。解説の出口裕弘は美文の度がすぎると思っていたようだが、シンプルではないにせよハッキリとしたスタイルを持つ文章はそれだけで読むストレスが少ない。
    探偵気取りのキャラが何人もでてきて、推理を披露するや「いやいや…」と否定され失敗していくタイプのミステリーが好きだと最近自覚したんだけど、その源流は『虚無への供物』だったんだなと。この形式の面白さは「一つの事件につき幾つもの解釈法を読ませてもらえるお得感」だと思う。けれど、この〈推理ゲーム〉がゲームであること自体に意味を持たせているのがこの作品のすごさ。推理小説が殺人事件を創り出し、探偵による秩序の回復をエンターテイメントに変える虚構の謂だと知っていれば、真犯人の動機と小説の構成が織りなすテーマの見事さにクラクラすることだろう。

  • 不幸が相次ぐ氷沼家の事件の謎を自称探偵達が推理する話。上下巻なんやけど、上の推理が割とぶっ飛んでてこの先どうする気や、と思ったら下巻で繋がってくるの凄い。下巻がまじでどう転ぶのか楽しみすぎて一気に面白くなった。最後の批判は現代にこそ刺さる。

  • 日本三大奇書のひとつであり、アンチ・ミステリの金字塔とも言える作品。
    探偵達の永遠に続く推理合戦に、現実と虚構が混ざり合い、一気にワンダランドへ連れてかれました。
    犯人の独白が痺れたしミステリファンには刺さるんじゃ無いかなぁ

  • 「虚無への供物」を初めて読んだのは、確か中学生の頃で、母方の伯母が読みさしを譲ってくれた、蜜柑箱一杯の文庫本の中に、講談社文庫版が混じっていたのだ。とはいえ、一読、そのすごさ、おもしろさに驚倒して夜を徹し、と言うなら自慢もできるが、ミステリは横溝正史氏あたりを読み始めばかりの中学生のこと、途中までは面白かったが、最後は支離滅裂、なにが四大奇書だよ、てな感想しか抱けなかったのではどうにもならない。それ以来の再読だが、中学生の俺、レベル低かったなと正直に思う。そのくせ、お話のディテール、例えば、最初の推理合戦で久夫が的外れは推理を延々披露したあげく、藍ちゃんに一蹴される辺り、ほぼ完璧に覚えていたから、さすが十代の記憶力と言うべきか。
    止まれ。
    四大奇書だの、アンチ・ミステリの金字塔だのの惹句を前にすると、尻込みもしたくなるが、実物の筆致は拍子抜けするほどに軽やか。さらさらと流れるようでありながら、表層よりはずっと手強い文体はともかく、自称探偵群以下の賑々しい顔ぶれを眺めれば、まるで今のラノベを先取りしたかのような、立ったキャラが揃っている。彼らが丁々発止を繰り広げる、推理合戦の面白さは言うまでもなく(身内で人死が出たのにこんなことやってていいのか的なことは思わないでもないが、これは伏線だから)、続々と起こる怪事、これでもかと繰り出される、的外れとも言い切れない、密室の謎解き。これほど愉しいミステリも少ない。「虚無への供物」を呼んだと言えば、自慢できるし、まずは読むべし。

  • 先入観というものは恐ろしい。本書をミステリの傑作として読めばそのアンチ・ミステリな仕掛けに一杯食わされるし、三大奇書という触れ込みで手を伸ばせば純ミステリ的手法に肩すかしを受けるだろうから。そして本書を純粋な娯楽として楽しもうとすればするほど、千人以上の死者を記録した戦後最大の海難事故、洞爺丸事故の悲劇が印象から薄れてしまうのだ。結局の所、書物が紡ぐ物語というのは私たちがそれとどのようにして出会うのかという点から切り離して考えることは不可能なのだろう。ただ一つ、「読む」という行為のみが現実として残される。

  • 三大奇書の一角にしてアンチミステリーの代表作、という前情報は得ていたので途中から段々「あれ?もしかしてこれ全部ただの事故や自殺なのに探偵役らが勝手に殺人事件に思い込んでキャッキャしてるだけなのでは…?」とヒヤリとしましたがちゃんと犯人はいました。よかった(?)
    アンチミステリーの所以たる一連の『他人の不幸をよってたかってエンタメにしてんじゃねーよバーカ!』の流れにはギクリとした方も多いことでしょう。ハイわたしです。
    巻末には約20年後の短編が収まっておりなんだかんだで皆元気そうで何より。

    …ところで玄次の事件ってただの自殺ってことになってますがあの不可解な状況や齟齬は結局なんだったんですかね…?

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著者プロフィール

中井英夫(なかい ひでお)
1922~1993年。小説家。また短歌雑誌の編集者として寺山修司、塚本邦雄らを見出した。代表作は日本推理小説の三大奇書の一つとも称される『虚無への供物』、ほかに『とらんぷ譚』『黒衣の短歌史』など。

「2020年 『秘文字』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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