現代思想の冒険者たちSelect アレント 公共性の復権

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (406ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062743594

感想・レビュー・書評

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  • だいぶアレントの考え方について行けるようになったのかなぁ。と錯覚させてくれた。
    ⒈19世紀秩序の解体
    ⒉破局の二十世紀
    ⒊アメリカという夢・アメリカという悪夢
    ⒋政治の復権をめざして
    という章立て。
    3章までは錯覚したままページを繰っていけたけど、最後はいけません。哲学的な要素が濃くなるとともに、読んでも読んでもぽかーんとするばかり。まだまだだな。

  • ハンナ・アレントは昔から気になる哲学者である。

    が、なかなか難解というか、取っ付きが悪いところがあって、入門できなかった。

    最近、70年前後に書かれた論文を集めた「暴力について」を読んで、なんだか入り口を見つけたような気がして、もう少し読み進めようと思ったが、昔、「全体主義の起源」を途中で挫折した記憶が甦る。

    ので、とりあえず、全体像を把握してみようということで、最近、お気に入りの「現代思想の冒険者たち」のシリーズで入門を試みる。

    いやー、かなり分かった気になりましたよ。「全体主義の起源」って、そういう話だったわけね。そりゃ、本を読んでも分かるわけないや。てな感じだ。この本のなかに引用されているアレントの文章を読んでも、ほとんど意味不明ですからね。あの本は、まず3巻を読んで、次に2巻、1巻と遡って行かないと初学者は近寄れないような特殊な構成になっているわけですね。

    この本のよいところは、「全体主義の起源」、「革命について」などの歴史の解釈を巡る作品の解説があって、そのあとに理論的な「人間の条件」に進むというところ。理論が先にあるのではなく、まずは対峙すべき現実があるというわけ。

    アレントの複数性とか、実践、対話といったことをベースとした公共性の議論は、自分の最近の思考のパターンとかなり近いことを発見した。そして、それらの背景には、人間は人間から生まれてきて、命を引き継ぎつつ死んで行く存在である、という人間がそもそも持つ継続性とか社会性に関する認識があるところがすごく共感する。

    つまりは、世界への愛なんですよ。最後は、やっぱり愛。

    とかなり共感しつつ、なんだかねー、というところもいろいろある。その辺も丁寧に解説してあるのが、本書の魅力である。

    個人的に、アレントをなんとなく読んでいて違和感を感じていたのは、言葉の定義を厳密にわけていって論じるスタイル。例えば、暴力と権力は違う、とか、私的な領域と公的な領域の定義はこうだ、とか言っても、意味あるんかー、と思う訳です。

    つまり、フーコー以降の権力論だと、まさにそれらって一体のものですからねー。

    あと、後期ウィトゲンシュタインとか、ポスト構造主義的な言語論でも、言葉の意味をそれ自体を確定することは不能で、すべての言葉は他の言葉の存在を前提としてなりたっている。またその意味もコンテキストに依存するものだから。

    つまり、一方的に、言葉の定義を明確にして議論しても、そりゃあんたの勝手でしょ、という言語観なわけですね。

    というわけで、私にとってのアレントは、たどり着く結論はかなり共感するけど、そのたどり着きかたが、やや古典的というか、旧態ヨーロッパ的な実存主義で、やや違和感があるという思想家だなー。

    アレントは、ハイデカーの弟子というか、一時愛人ですからねー。

    そういうやや古典的な思考様式、分かりにくい論理展開にもかかわらず、アレントはとても魅力のある思想家です。

    その思想の限界を指摘することはできても、彼女が対決した問題や問題に対峙する姿勢やプロセスのアクチュアリティは、誰も否定できない。

    アレントをどう読むか、どう彼女と対話するかは、読者にゆだねられている一つの政治的な実践なのだ!

  • ユダヤ人は、社会における独立した階級を形成していない集団であった。彼らは社会における地位を決したのは、階級への帰属ではなく、ユダヤ人であるということであって、そのユダヤ人たる特定の個人の地位を決したのは、結局国家だったというわけである。アレントによれば、ユダヤ人は国民国家の保護に依存する存在となり、自らの利義の擁護を国家そのものに頼ることとなった。またその利害を擁護するために積極的に政党政治に参与するようなことはなく、政治には受動的n存在、政治への不関与の立場を維持し続けた。彼女によれば、まさにこうしたユダヤ人の在り方、国民国家との特殊な結びつき方が、20世紀におけるユダヤ人の運命を決することになったという。すなわち、国家に対する不信、憎悪を、ユダヤ人が浴びることになったというのである。そして、そのことが、国民国家の没落と反ユダヤ主義の昂揚が同時的であることの1つの説明となるというわけである 。

  • その生涯が映画化されて昨今話題となっていたドイツの思想家ハンナ・アレントの思想を追った解説書を再読。『全体主義の起源』における19世紀社会史の省察を踏まえた全体主義の特徴の省察から、『人間の条件』等で示される古代ギリシャを一つのロールモデルとする独自のあるべき政治像の省察まで、彼女の生涯とその思想を丹念に追うことができる。

    後半の議論はなかなか付いていけないところがあったし、1950~1960年代当時、最も理想的な政治が行われていると考えていた国を彼女がアメリカだと捉えていた点はその後のアメリカの姿を知る現代人からすれば多少の違和感を感じるところがなくはない。

    一方で、前半の議論の主軸となる全体主義については、その論理の明晰さが古びていないように感じた。民族共同体という概念を実現しかけていたユダヤ人社会に対して、19世紀後半の「民族自決」を前提とする汎民族運動が、ほぼ必然の流れで敵対視せざるを得なかったこと、イデオロギーとテロルという2つの手段を用いて全体主義が個々人の孤立化を図りつつ、排除される第三項の存在によりその体制を拡大していく点など、全体主義が決して特定の狂信者によって生まれうるものなのではなく、特定のメカニズムにより半ば科学的(だからこそ、例えば強制収容所は官僚的に運営される)に生まれうるものなのだということが理解できる。メカニズムがわかるからこそ、悲劇を繰り返さないためのアクションも明確になるはずだし、未だこうした論理の有効性は失われていないと思う。

  • アレントにとっては西洋の伝統的な政治哲学が脱却すべきものであり, 「意見」→「活動」というモデルが可能性のひとつとして提示されていると理解した。

  • 全体主義の起源、政治の約束しか読んだことがないので、アレントの解説本としてどこまで正確かは他の人に譲りますが、アレントを抜きにしても一冊の本として素晴らしい出来上がりです
    凡百の語彙の足りない哲学エッセイストと違い、難しいアレントの思考経路を分かりやすいしかし簡単ではない日本語のテクストで私達に提示してくれます
    私の読んだアレント関連本では最高の一冊なのですが、全体主義の起源に重心がおかれ、他の本に言及が少ないのは惜しいところ

  • 最初の2章程度まで読み進めて、生まれて初めて「共和制も良いかな」と思ったが、3日で撤回した。
    『人間の条件』で展開した労働・仕事・活動による人間の行動分類、並びに肥大化する仕事…の論点は、金森修『〈生政治〉の哲学』で生政治の観点から紹介されていたのを目にしたので、もう少し馴染むかと思っていたが。何せ彼女が理想とする「政治」「活動」の概念が特殊過ぎる。政治のための政治、活動のための活動などと言い始めるのだが、それこそ個人ではなく「習俗に埋没した何か」しかいなかった古代ローマならいざ知らず、良くも悪くも「個人」が誕生してしまった近代以降に古臭そうな理想論を持ち出されてもな…。
    紹介本である本書を読む限りでの感想だが、彼女が思っている以上に我々の意見の不一致は重大で政治問題と化しており、或いは「それは社会的問題で政治では扱えない」と言うのなら、「社会的問題」の解決/に対する提案が必要とされていると考えるのだがな…となってしまう。

    ただ、19世紀的秩序の解体と帝国主義の台頭、階級が消滅して大衆化した社会、然る後に登場した全体主義と云った論点には興味を引かれる。即ち、「なんとなく(支配されている感じがして)気持ち悪い現代社会をどうしましょうか?」「そも私達の生きている社会はどんな状況になっているのでしょうか?」と云う話題に対する意見の提示にはなろう。「大衆社会」論へと手を伸ばすのもよし、(簒奪や転覆ではなく)如何に社会変革を成すかの選択肢にしてみるもよし。
    そう云った意味では、読み進めるとしたら『人間の条件』ではなく『全体主義の起源』であろうか。

  • 10/06/26、ブックオフで購入。

  • アレント独自の用語法や発想法をその都度丁寧に解説し、必要に応じて他の思想家の思想にもあたりながら、アレントの思想の全体像を非常に明快に描き出している。難しい部分もあるが、政治をめぐる公共性の問題を正面から追求したアレントの思想について知ることは、現代の政治について考える上で欠かせないと思われる。
    http://d.hatena.ne.jp/hachiro86/20061120#p1

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著者プロフィール

立教大学教授

「2023年 『現代政治理論〔新版補訂版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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