すべての雲は銀の… Silver Lining〈下〉(講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062747547

作品紹介・あらすじ

あなた、この世でいちばん重たい荷物って何だと思う?
傷ついたすべての心にやさしく降り積もる物語。

宿を整え、厨房を手伝い、動物の世話をする。訪れるのは不登校の少女や寂しい老人、夢を追う花屋の娘たち……。人々との出会い、自然と格闘する日々が、少しずつ祐介を変えていく。一方、瞳子は夫の消息を追ってエジプトへ。もう一度誰かを愛せる日は来るのだろうか――。壊れかけた心にやさしく降りつもる物語。

本書は失恋の痛手をかかえた大学三年生の祐介が、信州の宿にアルバイトでやってきて、そこで再生していく物語である。そう言ってしまうと、いや、それだけではこの小説の魅力のほとんどがこぼれ落ちる。(中略)村山由佳はのちに『星々の舟』で直木賞を受賞するが、それもこの作品のときから約束されていたといっていい。実に鮮やかな青春小説である。――<北上次郎解説より>

感想・レビュー・書評

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  •  東京から住み込みアルバイトをしに信州菅平にきた大和祐介。2年付き合った由美子を兄に寝とられた傷心者。優柔不断でボーとしていると友だちには評されているが、なかなか敏感に人の感情を理解していると思う。鈍感に見えるからか他人が警戒心を抱かず、かなり細かい打ち明け話を聞かされてる。
     下巻は、桜の登校拒否問題、里美とタカハシの恋愛、香綾の片思いとその父親との軋轢、香綾を想う幼馴染の出現、瞳子のエジプトへの旅・・・を通して、絡み合う登場人物たちの想いが描かれている。
     祐介は言われているほど鈍感ではないと思うが、手酷い失恋のあとからか、それとも天然か、女心とか恋心には気づかないらしい。香綾ちゃんの祐介への恋心には私も上巻で気づいたし、祐介も香綾ちゃんとは気が合うので、いいカップルになるのではないかと思ったがなぁ。
     ただ、園主は「瞳子に惚れたか」と祐介に言っている。祐介も自分では瞳子への想いに気づいてないみたいだったけど、図書館でエジプトの写真集を借りているし、やっぱり最初出会ったときのインパクトが強かったのだろうか。
     里美・香綾の花屋コンビも新しい目標ができたし、桜はやっと母親の理解を得たし、瞳子は行方不明の旦那のことに踏ん切りがついたし、祐介も由美子とのことを清算する気になっている。
     この後、香綾と父親がどうなるのか、桜は学校に復帰できたのか、何より祐介は自分にけじめをつけることができたのか・・・続編が読みたいような気もする終わり方だ。
     有機栽培や農作物・花の実情など、本題以外にも興味深い話題が多かった。

  • 17のころ、この本を読んで、他の誰でもなく桜ちゃんに自分を重ねた。15の私と、同じだったからだ。
    子供にとって、親というのは世界そのもので。世界に逆らうのは、ただ、ただ、苦しい。空気が読めてしまうばかりに、顔色から読み取る術が上手くなったばかりに。大人びている、と評されるのは時として褒め言葉ではないし、ただ、大人が望んだ姿を具現化しただけで、考えれば子供にだってそれぐらいのことはわかる。皮肉を承知でいうと、そんな子供のほうが本当は大人なのかもしれない。

    親であろうと他人だ。例え子供であろうと、そこに個としての意識がある。

    この本では何も起こらない。大恋愛でもないし、大冒険でもない。ただそんな別々の人間が、それぞれのしあわせと、それぞれの痛みに向き合っていることが、どうしようもなく私にとって救いだったんだなあ、と。ありきたりで、ありきたりじゃない、そんな登場人物の誰も彼もが、読む誰かの近いところにいる。

    私を不幸にするのは、いつだって私自身。
    幸せにできるのも、結局私自身。
    私が幸せかどうかは、私だけが知っていればいいこと。
    タイトルのEvery clouds has...が、そんな瞳子さんの言葉にかかってくるのも、素敵。

  • それぞれスタートラインについたところで、今後のことは読者の想像に任せるといった感じの終わり方でした。
    登場人物それぞれ、いいことを言っているのだけど、爽やかさを出したかったのか、全体的に浅い感じ。
    兄貴と由美子のカップルには最後まで「ふざけんな」と思い、もやっとしたままだった。
    祐介の口調が、園主と瞳子さんが注意したように「スカスカ」耳障り(目障り?)だったので、上巻と同じように☆3個で。

  • それぞれの傷を負い、出口のない自分の居場所を失った人々が、信州菅平のペンション「かむなび」に引き寄せられ、徐々にそれぞれの出口を見つけ歩き始めるというストーリー。ハッピーエンドでもなく、その逆でもなく、人生はまだまだ続くし、その一歩一歩の途中であるという終わり方は嫌いじゃない。
    作中の、個性についての園主の言葉や、瞳子さんの逆の発想にはっとさせられたり。
    「個性」とは、「人と違うもの」ではなく、「どれだけ沢山の人に共感してもらえるか」なるほどその通りだと思った。

  • 下巻は一気に読みきりました。上巻のエピソードを丁寧にふまえて進んでいくのがとてもよかった。

    上巻で悩んでいたこと(桜ちゃんは学校に行けないことや母との関係、花綾ちゃんは平凡な自分がお花を続けることに悩むし、瞳子さんはまだ秘密の話を抱えてるし、兄と由美子にとらわれすぎて男としての自信さえ失った祐介…etc)について、下巻は各々が自分で決めて1歩踏み出す。

    恋愛要素も、濃くなってきてページをめくるのが速くなる。
    登場人物みんなそれぞれに敵わない相手がいる。これがすごく好きだったなぁ。

  • 村山由佳の心情の描写に何度もすごいと思わされる一冊。

    人生のどん底みたいな気分を味わっても、それが永遠に続く訳じゃない。
    そして立ち直るきっかけを与えてくれるのは、たいていの場合、周りにいる人なんだな~、と。

  • 由美子と兄貴視点からも読みたいなぁ。


    覚悟がないならそういうことすんなよ、と思う。
    祐介は振られて、はじめて由美子の嫌なところに気付いて、兄貴は嫌なところを知りながらも付き合ってる。…つまりそういうこと?

  • BANANAFISHのあとがきで、自分自身も「再生」をテーマにしてるという話を読んだことがあります。なるほどな、確かに村山さんの書く作品はそういう面が強いかもしれないと思った。

    実は上巻の時から主人公が好きじゃなくてね!
    こいつうっとおしいわ~と思いながら読んでたんだけど、最終的にそんなに嫌いではなくなった。
    私は基本的に主人公にカッコよさを求めてしまうので、その辺を諦めてしまえばなんてことはないのかも。
    話のテーマ自体はすごく好きな種類ですし、素敵な考え方、言葉が沢山詰まっているように思えました。

    題名は「Every cloud has a silver lining」「どんな不幸にもいい面はある」と言う意味らしいです。能天気な格言、私も好きです。

  • 再生の物語。新刊当時以来読んだけど裏切った元カノと兄に対する怒りを覚えた当時と今の読後感は大人になっても変わらなかった。ぼくなら元カノと兄をめちゃくちゃにしてやりたい、流産させてやりたいという気持ちになると思う。

  • 上巻のゆったり展開していく感じと後半のスピード感は主人公の心の整理(安定感?)が出来てきたことで物事がスムーズに進んでいくからでしょうか?
    失恋から環境を変えたくなる、という気持ちはよく分かるし、逃げ込んだ先にはちょっと後ろめたいような思いを抱えている前半部と少しずつ自主的に動いていく後半部までの心境の変化がすごく共感できる部分かなと思いました。当たり前のことかもしれないけど、主人公の、年相応の大学生のメンタリティをリアルに感じれたような気がします。登場人物たちそれぞれの思いやら心情の変化やら、違和感なく読めたということで改めて筆者の凄さを感じました。

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著者プロフィール

村山由佳
1964年、東京都生まれ。立教大学卒。93年『天使の卵――エンジェルス・エッグ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2003年『星々の舟』で直木賞を受賞。09年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞をトリプル受賞。『風よ あらしよ』で吉川英治文学賞受賞。著書多数。近著に『雪のなまえ』『星屑』がある。Twitter公式アカウント @yukamurayama710

「2022年 『ロマンチック・ポルノグラフィー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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