死刑判決 下 (講談社文庫 と 46-2)

  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (404ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062748674

感想・レビュー・書評

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  • (上巻の感想からの続き)
    またラリーも印象が強いキャラクター。決して己の主義を曲げず、一途なまでにミュリエルを愛し、ミュリエルのためなら決定的な証拠を破棄することも辞さない不器用さが男の悲哀と共に語られ、最後には敗北者となる。
    アーサー&ジリアンVSミュリエル&ラリーの対決は結果的には前者コンビの勝利で終わる。それは彼ら自身の人生もそう。
    アーサーとジリアンは最後のヘロイン中毒者である事実の隠蔽から生じる裁判の不確かさから彼らの関係が急転直下で断絶されようとなるのだが、最後はアーサーの寛大な許しで終わる。この辺の件は胸を熱くする。
    後者は結局破局して終わる。やはり二つの強大なエネルギー体は最後には爆発して消滅する運命にあるのだ。

    しかし、もっとも感動的だったのは主人公四人が高潔であったこと。
    彼ら彼女らは決して自分の立場が不利になる事実、真相、証拠が現れてももみ消そうとはせずに、開示する。そして法の下に従っていかに自分たちに有利に働かせるかと試行錯誤する。
    これは法曹界では当たり前であるのだろうが、新鮮であり清々しい。鑑定結果を引き裂いたラリーは実は最も私たちに近いのかもしれない。
    また主人公四人以外の登場人物もそれぞれの人物造型がしっかりとしており、名前で誰が誰だか判らなくなる事も皆無であった。

    今回は上下巻800ページ弱あるにもかかわらず、上巻241ページで真犯人がわかってびっくりした。
    それ以降、どう物語が展開するのか心配したがやはりトゥロー、二転三転四転五転の展開を見せ、新たなる真相をも準備してくれた。彼ら四人の特異な人生を語るに加え、アクロバティックなロジックを組み込むこの贅沢さ!
    また中に散りばめられた警句や描写など心に残る物が数多くあり、ここでは書き切れない。満腹状態だ。

    最後に最も印象に残った一文を書き出して終わることにしよう。この文章は今後私の人生で大きな力になることだろう。

    “自らやった過ちは歴史に残らないほど取るに足らないもの、そう考えると楽になる”

  • リーガルというよりラブ・サスペンスとしても楽しめます。
    原題の“Reversible Errors”は、「取り返しのつく間違い」という意味でもあり、物語が進むにつれて、読者はこの原題が単なる法律用語にとどまらず、4人のそれぞれの人生におけるreversible errorsをあらわしていることに気づくだろう…これは<役者のあとがき>にある言葉です。
    本書は二組のカップル、ラリーとミュリエル、アーサーとジリアンの愛のドラマでもあります。30代、40代のおじさんとおばさんの性愛が容赦なく描かれています。男女関係なくその欲求やオーガズムまでの過程、決して美男美女なわけではない彼や彼女の衰えた肉体に対するフェティッシュな言及など。
    だからといって高尚なポルノを気取るでもなく、悦びや愉しみといった通俗のためのお約束に堕するわけもない。ここでも僕は本書のリアリティに魅せられしまうのです。中年のセックスをここまで表現した作品はあまりお目にかかれないものですから。
    うんざりと思われる読者もいると思われます。だけど、弁護士VS検察官、冤罪なのか有罪なのか、謎解きの過程で二転三転する証言や決定的な証拠の再発見、衝撃の事実の暴露といったメイン・スートリーのなかで、4人の現在と過去のエピソードが時折浮上し、性歴はその恋愛模様を奏でるうえでのグラデーションのような気がしました。
    本書には思わず唸ってしまうような文章がいくつもあります。トゥロー節というか、作者を作者たらしめている精神性(魂?)、その作品世界をリアライズするのに欠かせないものです。
    たとえば……「それでうまくいっていたんだ、ミュリエル。はじめからずっと。忘れたとはいわせないぞ」
     ラリーはようやくミュリエルのほうを見てくれた。ラリーにとって、二人のあいだに起こったことは心の石板に刻みこまれた律法に等しく、ラリーはその石板をしょっちゅう訪れては書かれた文字をすべて解読し、理解したのだ。その要素をひとつでも否定することは侮辱なのである。

  • プロットは大変良くできている。ただし、主人公(一応カップル2組)が全部哀しい。特に、検事と刑事のカップル、何の救いもない。同属嫌悪じゃないよね...

  • リーガル・サスペンスの下巻。今ひとつの内容。

  • 国選弁護人となったアーサーの前に現われる新事実。1991年事件当時と、死刑執行まで1ヶ月と迫った2001年が同時進行で話が展開する。
    アーサー他元判事ジリアン・主席検事補ミュリエル・刑事ラリーの織り成す人間模様。
    死刑制度に対する作者の鋭い視点と人間の情・宗教・・・・。

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