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本 ・本 (272ページ) / ISBN・EAN: 9784062749121
作品紹介・あらすじ
野間文芸新人賞受賞作
1通の手紙から羊をめぐる冒険が始まった 消印は1978年5月――北海道発
あなたのことは今でも好きよ、という言葉を残して妻が出て行った。その後広告コピーの仕事を通して、耳専門のモデルをしている21歳の女性が新しいガール・フレンドとなった。北海道に渡ったらしい<鼠>の手紙から、ある日羊をめぐる冒険行が始まる。新しい文学の扉をひらいた村上春樹の代表作長編。
感想・レビュー・書評
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村上春樹さんの小説って何でこんなに読みやすいのだろう。訳わからないのに、まるでマグリットの絵のようなシュールな世界に惹き込まれてしまう。
妻と離婚した“僕”はある日、耳専門のモデルの女の子の“耳”にどうしようもなく惹かれ、その子と付き合い始める。そんな時、“僕”が友達と共同経営していた小さな広告代理店に不思議な男が訪ねてくる。男がいうには、先だって“僕”の会社で作ったある生命保険会社の広告が問題だと。そこに使われている北海道の羊の群れの写真が問題なのだと。「今すぐにその広告の発行を差し止めなければ、我々は君たちの会社など簡単に握り潰してしまうことが出来る。」と言って、その男は日本社会のほとんどのことを牛耳っている右翼団体に属しているいうことを匂わす。
なぜ、そんなに羊の写真が問題なのかと、淡々と尋ねる“僕”に、その不思議な男は虫眼鏡を出して、「良く見てみろ。一頭だけ種類の違う羊がいるだろう。」と。よく見ると何十頭いる羊の中に、一頭だけ背中に変なマークの入った羊が。それが、その男のボス(先生と呼ばれている)にとって、大事な意味のある羊なのだ。だからその広告の発行は差し止めろ、それがどうしても出来ないなら、その羊を探し出してもらう。さもなければ、君たちの会社に未来はない。と脅迫する。
“僕”は脅迫されても「どうせ自分にはこれ以上失うものなんか無い」と思っていたが、どうも“僕”には、その男にも読者にも言っていない、ある友達と羊との関係が気がかりであるらしく、結局、会社を辞めて、件の羊を探しに北海道まで彼女と出かける。ここで上巻は終わり。
中心になる筋は書いたが、“僕”の過去については秘密めいているし、伏線になりそうな友人や彼女が登場したり、くっついたり、離れたり亡くなったり…なんか真ん中が見えない不思議な話。デ・ジャ・ブのような夢のようなシュールな光景の中に、“裏社会を牛耳る右翼”の影だとか、くっきりと具体的な恐怖みたいなのが影を落としたり、タバコの匂いまでがオシャレであった60年代〜70年代の退廃的な若者の姿を描いていたり、惹き込まれる要素満載。
下巻につづく。
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何度目かの再読でした。最初に読んだのは10代の頃。あの頃はよく分からなかった部分も、アラフィフになった今読むと、しみじみと心に響いてきます。なんとなく憧れていた世界を、気づけば30年かけて追いかけてきたような気さえします。
この作品は、単体でも楽しめますが、『鼠三部作』と呼ばれるシリーズの完結編にあたります。
一作目の『風の歌を聴け』は、難解だと紹介されることもありますが、本作の舞台や世界観を知るうえでおすすめです。著者のデビュー作でもあり、「カッコいい!」というのが素直な感想でした。
二作目『1973年のピンボール』は、まだ学生気分の抜けない20代が社会に取り込まれていく物語。双子やピンボールといったモチーフを通じて、現実と非現実の境界があいまいになっていく、村上春樹らしい幻想的な世界が広がっています。
そして三作目となる本作では、主人公の「僕」と「鼠」が、それぞれのやり方で社会と折り合いをつけていく姿が描かれます。
私と同じ団塊ジュニア世代には、「子どもを持たない」という生き方を、人生の流れの中で自然に選ぶ人が少なくありません。本作には、そうした時代の空気感――弱さや「こうあるべき」といった一般論との葛藤――が、「羊をめぐる冒険」という形で映し出されています。
物語の冒頭では、三島由紀夫の自決の日を「我々にとってどうでもいいこと」として登場させています。「なぜ人は繁殖を手放し、自ら墓仕舞いを選ぶのか?」という問いが、人口増加のピークを迎えていた時代の若者たちに投げかけられている、そんな名作だと感じました。
随所に印象的な描写も散りばめられています。なかでも心に残ったのは、埋め立てられた海を前にして水の流れに目を向け、「そもそもの最初から街は彼ら(水)のものだったし、おそらくこれから先もずっとそうなのだろう。」と語るシーン。とても心に残る場面でした。
こうして語り始めたら止まらなくなるような奥深く魅力的な作品です。 -
鼠三部作3作目の上巻。
僕が事件に巻き込まれる。
不思議な話。
リアルの中にアンリアルが混ざっている感じ。
こういう展開好きです。
とうとう北海道へ。
運転手好きです。 -
初期の三部作のひとつである『羊をめぐる冒険』、最近の村上春樹さんの作品よりも個人的には、読みづらい感じはありませんでした。にしても描写の細かさといい、表現力はやっぱり素晴らしいと思います、わたしはとても好きです(*^^*)
描写や視点から物語が少しずつ進み、その細やかさが小説の中の人が本当に息をしているような感じがします。
題名である羊について、どんな物語が進むのかと期待して読んでしまうと、前半はほとんど羊が出てこないので、人によっては読むのが辛いかもしれません。
純文学なので村上春樹さんの感性による、描写の細かさを感じながら、一歩一歩、主人公と共に進んで読む気持ちで私は読み終えました。
これは私だけかもしれませんが、少し小川洋子さんを感じ、不気味さや不思議な雰囲気、視点から物語が動いていく感じが私の好きな小川洋子さんっぽいなあと思いながら読みました。
性的な描写はそんなにありません。
『ノルウェイの森』とかもそうですが、今回にもチャイコフスキー 弦楽セレナーデなどの素敵な選曲が入っており、思わずYouTubeで聴いてしまいました。
雰囲気を少しずつ味わいながら、ゆっくりと物語をすすむ、心地の良い上巻でした(^O^) -
鼠三部作の三作目。
何冊か別の本を間に挟んでしまったのもあり、読了までにものすごく時間がかかってしまったが、後半から一気に動き出してスピードアップしてやっと読み終えた。
いつもながら村上春樹ワールドにいる時間は幸せだ。好きだ。(とか言って読み終わるの遅かったくせに。)
不思議な羊。いよいよ冒険が始まる予感。
この後どうなるんだろう?
下巻が楽しみ♪
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耳モデルの彼女、どんな耳なのか気になる(´˘`*)そして大人びている…こんな21歳いないよー…
ちょいちょい挟んでくる一見どうでもいい文章の中にある言い回しがなんかとても好きだな。羊をめぐる冒険、とても面白い。やっと面白くなってきた!! -
村上春樹再読
(上下巻で同じ感想を投稿しています)
私が村上春樹の末長い読者となったのは、20代(学生時代?)にこの本を読んだからである。
憶えているのはこれの英訳版を北海道利尻島旅行の道中に読んでいたことだ。
そしてこの夏、改めて利尻からのフェリーの上でこれを読んだ。
爽やかで切なくて涼しげだった頃の村上文学のこれは紛れもなく代表作である。
(なお、これ以降の作品はより濃密になってくる。行間を風が吹き抜けるような文体はひとまずここで終わる、というのが私の印象)
「羊に関することで電話がかかってくる」と、耳専門のモデルをしているガールフレンドが主人公に告げる。そして予言どおり電話がかかってくる。「だから言ったじゃない」とこともなげに彼女がいうシーンがとても好きである。合理性も理屈もヘチマもない。
北海道の短い秋。
簡潔な日本語で語られる辺境の集落「十二滝町」開拓の歴史。
悪いやつじゃない、すぐわかる「羊男」の描写。
すべてにやさしさがある。
資本主義に背を向けている印象を持たれがちな村上春樹だが、仕事の進め方について主人公とその親友が語り合うシーンはビジネスについてかなり前向きなそして的外れでない関心が彼にあることを窺わせる。
工夫して稼ぐことのまっとうさと、それが「システム」になって人生を絡め取っていくことの恐ろしさ。その境目はどこにあるのか。あまり語られないが、私はそんな裏テーマを彼の作品に感じるときがある。
その後の大作と比べれば深掘りが足りない、的な論評をすることはたやすいだろう。が、若いときにしか作れない文学的価値というものがあるとすれば、それは間違いなくこの作品に宿っている、私はそう感じる。 -
村上春樹氏の青春3部作目。私の春樹氏初読作品。
斬新さに痺れた文体とリズム。
今回の再読は【順番通りに読む】
こんなに繋がりが明確だったとは。もっと3部作とは言いながら、独立性が高かったように記憶違いしてた。
1970年の回想から、1978年に飛び、僕は妻と離婚(翻訳事務所で働いていた女の子だった!)、魅惑的な耳をした新しいガールフレンド、失踪した鼠から届いた手紙。そして、謎の羊を探す冒険がスタートしたところで、下巻へ。 -
「1973年のピンボール」の読後にせっかくだから3部作全部読もうと思い手に取った作品。
前作ではほぼ内容が掴めなかった為、この作品はもう少し理解できるだろうと思ったが結局、鼠との関係性、友人との経営、耳の綺麗な女の子、羊を探しに行くの因果関係や時系列など自分の中で複雑に絡み合ってしまい、この作品が何を訴えかけようとしていたのか理解できなかった。
そもそもこの作品はそれを重視していないのかもしれない。村上春樹の世界観は充分に味わえたと思う。
これからやっと羊を探しにいく為、「下」で少しでもこのモヤモヤが回収されると願っている。 -
鼠三部作の完結編。
羊をめぐる冒険を読むにあたって「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」を読んだ。この作品から村上春樹っぽさが一気に出たような感じがする。
すごく面白かった。早く下巻を読みたい。
著者プロフィール
村上春樹の作品






ありがとうございます!同感して頂いて嬉しいです。過去か?夢か?どこか遠くの既視感のある映像と現実とが交わって不思議なイメージを...
ありがとうございます!同感して頂いて嬉しいです。過去か?夢か?どこか遠くの既視感のある映像と現実とが交わって不思議なイメージを作っていくのが、村上文学の魅力かな?と思います。
感想を書かせていただいたのは帰宅途中の電車の中。ご指摘のマグリットの絵をネットで探し当て、「オオッ」と独り言。怪しげ...
感想を書かせていただいたのは帰宅途中の電車の中。ご指摘のマグリットの絵をネットで探し当て、「オオッ」と独り言。怪しげなオジサンになってしまいました。
帰宅してからウィキペディア等でマグリットのことを調べてみると、、、深い!かなり村上ワールドと繋がっているように思います。Macomi55さんのレビューやコメント自体が一つの作品のように感じられてくる。
久しぶりに「打ちのめされた」感覚です。
本当にありがとうございました。
ヒロキンより
こちらこそ!読んで下さってありがとうございました( ◠‿◠ )
こちらこそ!読んで下さってありがとうございました( ◠‿◠ )