- 本 ・本 (264ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062749138
作品紹介・あらすじ
青春3部作完結編
1982年秋 僕たちの旅は終わる すべてを失った僕のラスト・アドベンチャー
美しい耳の彼女と共に、星形の斑紋を背中に持っているという1頭の羊と<鼠>の行方を追って、北海道奥地の牧場にたどりついた僕を、恐ろしい事実が待ち受けていた。1982年秋、僕たちの旅は終わる。すべてを失った僕の、ラスト・アドベンチャー。村上春樹の青春3部作完結編。野間文芸新人賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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ポーカーフェイスな語り口で詩的な表現がつづく小説。
羊というのは、何か大きなメタファーだと思っていたらそれだけではなかった。村上氏は北海道のある奥地の村の開拓史と日本の緬羊の歴史についてかなり綿密に調べられたらしい。先人たちが血の涙を流して畑を作り、やがてその土地が緬羊に向いていることが分かった。その頃、日清戦争を始めるに当たって国産の羊毛を生産しようとしていた政府にとって好都合であったため、政府の後押しがあって、その村で緬羊が始められた。そしてその村の若者達は、日清戦争に徴用され、自分たちが作った羊毛で作られたコートを着て戦士していった。これらのほぼ実話を“僕”の読んでいた「十二滝町の歴史」という本を通じて知った。その村のモデルは実際にあるらしい。シュールな雰囲気の中で、リアルに歴史の中の取るに足らない普通の人々と魂が行き交うようなこの感じがたまらない。
ある裏社会の大ボスの中に入り込んでボスを導き続けていた、背中に星マークのある“羊”を探せと言われ、“僕”はその羊と友達の“鼠”の両方を探すために北海道に来るのだが、目的地に行くまでに“いるかホテル”に泊まったり、羊博士に会ったり、どこか可笑しな出会いがある。やっと目的の牧草地を探し当て、そこで出会った“羊男”、そして“鼠”。見捨てられたような土地に執着して生きる彼らはどこか哀しく愛おしい。
結局この「羊をめぐる冒険」で“僕”が見つけたものは?
冒険を終えた“僕”は故郷の埋め立てられた海を見ながら泣いた。故郷といっても事情があって実家には寄れない。ジェイという、“鼠”と“僕”との共通の友人である男が経営するジェイズ・バーが拠り所である。
この小説は「風の歌を聴け」から始まった三部作の三番目であったらしい。前の二作も順序は逆になるが読むべきだな。
ハルキストの気持ちが分かった読後感だ。
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久しぶりの小説、そして村上春樹。
続きご楽しみで隙間に本を開くことが増えたものです。
然し乍ら、村上春樹ワールド、イマイチ何か掴みどころのない後味が残りました。
どなたかのこの本の解説、読みましたがまたさらに迷宮入りな感じです。
また時間置いて読みます。 -
鼠三部作3作目の下巻。
僕は全てを失ってしまうも全うし、進んでいく。
羊に魅せられた人々と僕の話。
謎が沢山残った。
思想は受け継がれ、どこまでも続くものなのか。
一人の死によって終わってしまうものなのか。
女性は案内役。 -
上巻はあれだけ時間かかったのに下巻は一気読み!
あぁ三部作終わっちゃった…と今は寂しさが残る。
と共にようやく村上春樹さんの原点である鼠三部作を読み終えた喜びもあり。
しかしすごかった。前の二作品、そして上巻からは全く想像もしていなかった世界、そして展開だった。(いや、彼の作品はいつもか笑)
しかし登場人物の誰にも名前がないのにここまでハマっちゃうってすごいな、春樹さん。
名前ってかなり重要なポイントだと思うのに…ってその名前がないのも一つのこの作品の大事な要素でもあるのか。(あ、直子は出てきたか。ノルウェーと関係ある!?)
「羊」とはそういう事だったのか。全く想像していなかった。(いや、だからいつも)
ちょっぴりミステリーもファンタジーもフィロソフィーもメタファーも全部まるっと心地よく美しい文章に表現されていて、それでいてすごくリアル。やっぱり好きです村上さん。
むしろ今のこの世の中をまさに表しているような。「羊」というキーワード。
自分の頭では何も考えられなくて、そこら辺の誰かが言ってた言葉をまるで自分の意見だと信じ込み(グサっ…痛)、右向け右ってみんなが右向いたら何となく自分も右向いていて…頭の中は「羊」が入っているときのように空洞で「自分」なんてなくて(うっ…涙)。英語のスラングで「Sheeple」って言われてたりするやつ。
自分のことを稀にみる弱い人間だという鼠はむしろものすごく強い人に私には見える。「羊」に自分を奪われるくらいなら…って道連れにできる強さ。自分としっかり向き合い、その弱さを受け入れ愛せる強さ。ものすごく惹かれる。自分も鼠のようでありたいと思う。
鼠を失った僕…どこか人間的な何かが足りなかった僕。本当の喪失感を彼は初めて味わったように思う。彼はここから人間としてかなり成長することになるのだろう。
と、いつもながら村上春樹さんの作品のレビューはいつも以上に支離滅裂で書いてて恥ずかしい笑
まるでわかってなくて見当違いの事を書いているようで、感想なんて書けるかー!ってなりながらも、読み終わった直後の素直な感想を残してみる…
とにかく今回も村上春樹ワールドを思う存分堪能しました。また読み返したい。 -
春樹氏、青春3部作、35年超えの再読終了。
下巻で物語は大きく走り出す。
鼠から送られてきた写真の羊の謎。
右翼大組織「先生」の黒服の秘書から脅されてスタートした、羊をめぐる冒険が本格化していく。
春樹氏との出会いは本書からだった。。。
主人公「僕」の青春も終わりを告げる。3作品全てに漂う喪失感には、ただ流されていくしかないのだ。一緒になって、なくしたものを数えた。 -
は〜面白かった!
村上春樹の小説って難解だけど読みやすくてスラスラ読めるんだなあ
さらりと完走しましたが今ひとつ分かってない気がして解説サイトを拝見
なるほど…羊は悪のメタファーだったと…
私は感じ取ることができなかったけど、深いテーマも持ち合わせた作品だったみたいです
しばらくしたら2周目行きたいな
そして、その解説サイトで村上春樹の鼠三部作なるものがありこの本はその3作目にあたることを知りました
また、ダンスダンスダンスが続編になっているそうなので読みたいリストに登録しました
忙しいーー!! -
台詞に、思想に、ハッとさせられながらも、どこか全てに薄く靄のかかっているようで、私は半分眠っているかのような不思議な感覚のまま物語は進んでいった。
実は、村上作品を読むのはこれが初めてだ。タイトルはもちろん、ともすればお話のあらすじまで各所で紹介されていしまいそうなほど有名な作品たち、そして作家でありながら、どこか避けていた。なんだか不思議な話を書くのだろう、などというあやふやな見識で自分の理解力の無さを包み隠していたのだと思う。読んで難しい、理解できないと分かるのが怖かったのかもしれない。可哀そうな自尊心だ。
読み始めると、思いのほかお話は理解できた。(正しい意味の理解かどうかは定かではない)調子よく読み進んではいくが、前述の通り、どこか靄のかかったような、不思議な感覚のまま。
しかし突然に痛みが走った。
「そうだよ」と鼠は静かに言った。
「救われたよ」と鼠は静かに言った。
一般論の国では王様になれる僕と弱さや夏の光や僕と飲むビールがすきな鼠。
届いた手紙と写真と小説、ブランデーとチーズ・サンドウィッチ。
きっと作者の言いたいことは分かっていない。それでもこれは私にとっては悲しい物語なのには違いなかった。最後まで読んだ後、何度も何度もいろいろな部分を読み返している。
上手く言葉にできない。昨日の夜から喪失感が消えない。
そういえば、私は今ちょうど鼠と同じ歳だ。 -
村上春樹再読
(上下巻で同じ感想を投稿しています)
私が村上春樹の末長い読者となったのは、20代(学生時代?)にこの本を読んだからである。
憶えているのはこれの英訳版を北海道利尻島旅行の道中に読んでいたことだ。
そしてこの夏、改めて利尻からのフェリーの上でこれを読んだ。
爽やかで切なくて涼しげだった頃の村上文学のこれは紛れもなく代表作である。
(なお、これ以降の作品はより濃密になってくる。行間を風が吹き抜けるような文体はひとまずここで終わる、というのが私の印象)
「羊に関することで電話がかかってくる」と、耳専門のモデルをしているガールフレンドが主人公に告げる。そして予言どおり電話がかかってくる。「だから言ったじゃない」とこともなげに彼女がいうシーンがとても好きである。合理性も理屈もヘチマもない。
北海道の短い秋。
簡潔な日本語で語られる辺境の集落「十二滝町」開拓の歴史。
悪いやつじゃない、すぐわかる「羊男」の描写。
すべてにやさしさがある。
資本主義に背を向けている印象を持たれがちな村上春樹だが、仕事の進め方について主人公とその親友が語り合うシーンはビジネスについてかなり前向きなそして的外れでない関心が彼にあることを窺わせる。
工夫して稼ぐことのまっとうさと、それが「システム」になって人生を絡め取っていくことの恐ろしさ。その境目はどこにあるのか。あまり語られないが、私はそんな裏テーマを彼の作品に感じるときがある。
その後の大作と比べれば深掘りが足りない、的な論評をすることはたやすいだろう。が、若いときにしか作れない文学的価値というものがあるとすれば、それは間違いなくこの作品に宿っている、私はそう感じる。
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