流星ワゴン (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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レビュー : 2242
  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062749985

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶりに本を読んだ。
    年が明けてから、ダラダラと忙しくて、ワープロ仕事で目も疲れたしと、あれこれ理由をつけて、本を読む時間を確保しなかった。

    で、久しぶりの一気読み。
    やっぱり、重松さんは上手い。ギリギリの欲しいセリフを少しじらしたタイミングで言ってくれる。
    素直になるには、こじらせた時間の分だけ必要な時間がある。それを、周りの人は待たなくちゃいけないのに、そんな簡単なことが当事者になるとわからない。
    読んでいて、しまったと思うことがいくつもあった。


    受験の失敗から引きこもりとなり、家庭内暴力までするようになった息子と家を空けることが多くなった妻。
    自身もリストラされ、生きていることが億劫になった38歳のカズは、帰宅途中の最寄駅で、父子が乗ったオデッセイに出会い、深夜のドライブへ。
    その父と息子は交通事故で5年前にすでに亡くなっていた。遣り残した思いや現実を受け容れられず苦しむ人をその人にとって大切な時間を取り戻すために案内を続けているという。
    どこだかわからないが、2人はカズを大切な場所へ連れて行ってくれるというのだった。

    カズは家庭崩壊が兆した1年前のある日へ連れられて行き、そこで38歳の父親・チュウさんにも出くわす。
    意識不明で病院にいるはずのチュウさんが25年前の姿現れたのも、どうやらこのままでは死んでいけない強い思いがあるらしい。
    中学生の頃から父親とだんだんとうまくいかなくなっていたカズは、チュウさんとの関係をやり直し、また、家族との危機に立ち向かうことができるのだろうか・・・。

    少し前に、TVでドラマ化され、見るつもりで録画したものの結局消去してしまった。けれど、予告で見た香川照之さん演ずるチュウさんと、小説のチュウさんは印象がぴたりと重なっていた。
    香川さん、いい役者さんだなあ。
    いい役はもちろん、悪役でも人間の弱さが滲む深みのある演技が好きだ。
    勝手に香川さんの声でチュウさんに広島弁をしゃべらせて、読んでいく。

    連れて行かれた過去で最初は前回と同じ状況をなぞるにすぎなかったカズが、だんだんと自分がすべき対応やしたかった言動を主体的に選択するようになる。最後は、自分が言いたかったことを言い切ったと納得して旅を終える。
    まるでただ夢を見ていただけのように、旅の始まりの夜の駅前に戻ってきた。現実の世界は何も変わっていなかった。
    「バック・トゥー・ザ・フューチャー」のように、うまくはいかない。
    けれど、深夜に帰り着いた自宅のマンションで、シンクに積み上げられた大量の食器を自分の手で洗い、片づけるのは気持ちがよかっただろう。
    たまった洗濯物を要領を得ないながらも、洗い上げるのはどんなにすっきりしただろう。
    バスルームの目地のカビも昨日は気づかなかった。
    でも今は、気になり、こすり洗いをする。
    朝になれば、自分でコーヒーを淹れ、朝食を用意する。

    人は変わろうと思えば、変われる。
    人を変えるのは難しくても、自分の行動や思考は変えられる。

    どうにも辛くて、明日が来ることを信じられないときにも、誰かに話を聴いてもらうことができて、自分を整理することができるのなら、自ら一歩を踏み出す勇気が湧いてくるだろう。最後に温かな余韻を残している。

  • 人生には大切な分かれ道がたくさんある。その時は大切と気づかない事もあり、私達は後になって色々悔やむ事も多い。
    分かれ道も何が悪かったのかもわからない一雄の家庭は崩壊してしまった。投げやりな一雄にオデッセイと橋本親子が魔法をかける。大切な分かれ道へと彼を導く。一雄と朋輩チュウさんのドライブの結末は…。

    3組の不器用な親子に私は自分を重ねる。良かれと思って言った言葉でも、相手を追い詰めたり、不快にしたり、傷つけたりする事もある。親子の場合は特に。「頑張れ」の気持ちをうまく届けたいし、受け止めたい、そう思えた作品でした。

    奥さんだけはちょっと理解に苦しむ。

  • 死んじゃってもいいかなあ、もう…。38歳の永田は家庭にも会社にも居場所を無くし、そう思い詰めていた。
    一人息子は中学受験失敗を機に家で暴れるようになり、妻からは離婚を切り出され、仕事はリストラされ…。病床にある父とも長年心の溝を埋められずに。

    そんな彼の前に現れた古い型のワインレッドのオデッセイ。何かに操られるように乗り込むと、中には5年前間抜けな事故でこの世を去った橋本親子。

    実の親子だから気が合うなんてことはない。ずっとずっと嫌いだった父。その父が自分と同い年の「チュウさん」「カズ」と呼び合う朋輩として現れたら…。

    悪いことなんて何もしていないのに、人並みに幸せだったはずなのに、いつの間にか全てを失いかけていて、もはやその取り戻し方も分からない。不器用な人を描かせたら、重松さんはピカイチだと思う。

    なんだか泣きそうになってしまった。だから重松さんは危険なんだ。

    • HNGSKさん
      ああ。何て素敵なレビュー。
      ぐるぐると、いろいろ考えてしまいますよね、この作品。重松さんには、黒いのと白いのがありますよね。これは、どっちか...
      ああ。何て素敵なレビュー。
      ぐるぐると、いろいろ考えてしまいますよね、この作品。重松さんには、黒いのと白いのがありますよね。これは、どっちかというと、黒いの?かな。だからこそ、泣いておっけーですよhetareさん。オールおっけーです。
      2013/06/26
    • hetarebooksさん
      ayakoo80000さん

      おっけー、ありがとうございます。あまのじゃく気質なので「泣ける!」みたいな評判を聞くと「泣いてたまるか!」とな...
      ayakoo80000さん

      おっけー、ありがとうございます。あまのじゃく気質なので「泣ける!」みたいな評判を聞くと「泣いてたまるか!」となるのですが、

      どうも親子ものには弱いようです…黒重松…他には「ナイフ」「エイジ」等かなぁ。白重松もざっくり突いてきますが…「なぎさの媚薬」のみ、ジャンルが…
      2013/06/27
  • 本当に大事な分かれ道って、後になってみないと分からないんだよね。「戻れるならあの時に戻りたい」と願わずにいられないのが人間だけど。
    筆者が伝えたかったのは「後悔しない生き方をして欲しい」ではなく、「後悔してもいいから懸命に生きよう」ってことなのかなと思った。

  • あっという間に読み終えた。"死んじゃってもいいかな、もう…" と人生の絶望の淵にいる主人公ほどではないけれど、私も少々落ち込んでいてすぐに物語に引き込まれた。

    内容は設定からして、ものすごくフィクションで作り話。けれど、その設定を使って筆者が描こうとしていることは現実の親子問題そのもの。

    私達は、自分と同じ歳の親には絶対に会えない。でももし会えたら、その人についていったいどれだけの発見や驚きがあるだろうか。友達として普通に話せたら、今よりどれくらいお互いの気持ちを伝えあう事が出来るだろうか。そして何より、親と子は家族であっても、自分とは全く別の人間なのだと気付くだろう。学校で出会ったクラスメイトと同じように、自分とは全く異なる性格で全く別の人生を歩んでいく生き物だと分かるだろう。

    その時、親に対して抱いていた反発心や抵抗、お互いに理解し合えないことに対する苛立ちなどの感情はきっと柔らかく変化するように思う。

    それほど簡単な事ではないかもしれない。けれどこの本を読むと、親や子どもに対する心の何かがきっと変化して、自分の毎日の行動も少し変わる。そんな本だった。


  • 38歳の永田一雄は、長年断絶に近い状態だった父の永田忠雄の最期を看取ろうとしています。彼自身も、会社からリストラをいいわたされ、妻の美代子に離婚話を切り出され、中学受験に失敗した息子の広樹は暴力をふるうなどの出来事がかさなり、投げやりな気持ちになっていました。そんな彼のもとに、5年前に交通事故で死んだ橋本親子の乗る車が現われ、一雄自身が気づくことなくやりすごしてしまった運命の分岐点へと彼を連れていきます。

    しかし、過去をやりなおそうとする彼の思いとは裏腹に、運命は定められた方向へと進んでいき、一雄は無力感に苦しめられることになります。しかし、そうした必死の抵抗を通して、しだいに彼は自分自身が奇しくも現在立たされている場所を、あらためて自分自身の運命として受け止めなおしていくことになります。

    当代随一のストーリー・テラーである著者らしい話の運び方です。はじめは、登場人物たちの回し方に多少ギクシャクした印象を受けたのですが、単線的なストーリーとは異なる、登場人物たちの運命が奇しくも出会うことでそれぞれの生き方があらためて確認されるような読後感をいだきました。

  • 人生をやり直せるとしたら。
    たくさんの分岐点で、数え切れないほどの選択をしながら人は生きていく。
    そのどの分岐点に戻りたいと思うのだろうか。

    この物語には三組の親子が登場する。
    事故死した橋本とその息子・健太。
    主人公であるリストラされた僕と息子・広樹。
    そして何故か若返った僕の父・チュウさんと僕。
    親子だからといって、何でもわかりあえるものではない。
    親子だからこそ、きっと他人よりもわかりあうことが難しい面があると思う。
    他人ならば譲歩することだって出来る。
    他人ならばわかってもらおうと努力することだって厭わない。
    他人ならば許せないことがあれば離れればいい。
    だけど、親子には逃げ場がない。
    どこまでいっても親は親で、子供は子供のままだ。
    橋本の健太への切ない思い。
    実は不器用なだけで、僕への愛はたくさん持っていたチュウさん。
    そして、息子の広樹からも妻からも逃げてばかりいた僕。
    単純に、時間を戻れば人生をやり直せるわけではない。
    どんな選択をしても、結局はそのときに気持ちがしっかりとついていかなければ意味がないのだ。
    チュウさんが何故若返った姿で現れたのかは、はっきりとは書かれていない。
    けれど、たぶんちゃんとした親子として僕と関わりたかったのではないだろうか。
    過ぎてきた時間の中では叶わなかった交流を、こんな形になってしまったとしても、実現したかったのだと思う。
    現実は厳しい。
    父親になろうと無理をして自分も健太も死なせてしまった橋本。
    不器用すぎて息子に素直に向き合うことが出来なかった過去のチュウさん。
    そして、荒れる息子や不審な行動をする妻と向き合えずに見て見ないふりをする僕。
    一番身近で小さな人間関係は、家族だ。
    少なくてもそこでは素直に互いが見つめあい、わかりあう努力をし続けなければ・・・と思った。
    父と子の物語ではあるけれど、女性が読んでも感銘を受ける物語だと思う。

  • 初めての重松作品でしたが、読みごたえあり感動した。

  • 重松清を初めて読んだ。
    ドラマで少し見てて、気になっていたから読んだところドラマとはところどころ違うところがあった。
    ただ、ドラマもこの原作も父子が大事なテーマであったし、おそらくあまり父親のことが好きでない男子にはとてつもなく響く小説ではないだろうか。
    救いのあるエンドなのか、ないエンドなのか判断は人それぞれだと思うが、僕はかなり好きな終わり方だった。

  • 危篤の父親、こわれた夫婦関係、親子関係、会社からの肩たたき。

    人生どん詰まりに陥った中年男が、
    オデッセイにのった不思議な親子とともに、
    過去の自分の過ちを紐解いていく旅に出る物語。

    メインの軸は父親と息子のわだかまりの葛藤。父親は子供のことなにもわかってないし、子供は父親の気持ちはわかっていない。
    いつか自分が父親になってわかる事は沢山あるのだろう。

    同じ著者のとんびも似たような話だったような。

    タラレバは無い人生。
    主人公は夢の旅が終わっても、何か変わるようでも、結局は変わらずまた今までの地獄の日常にもどっていく。

    人生は選択の連続とはよく言うものの、
    後悔のない選択をし続けることなんてきっと無理なんだろう。
    ストーリーの終わりも色々と考えさせられる。

著者プロフィール

重松 清(しげまつ きよし)。1963年、岡山県生まれの小説家。早稲田大学教育学部卒業。
出版社勤務を経て、フリーライターとして独立。ドラマ・映画のノベライズなどを手がけたのち、1991年『ビフォア・ラン』で小説家デビュー。
1999年『エイジ』で山本周五郎賞、2000年『ビタミンF』で直木賞、2002年『流星ワゴン』で「本の雑誌年間ベスト1」、2010年『十字架』で吉川英治文学賞、2014年『ゼツメツ少年』で毎日出版文化賞をそれぞれ受賞。
山本周五郎賞、講談社ノンフィクション賞選考委員を務める。2017年、早稲田大学文化構想学部客員教授に就任。
『とんび』、『青い鳥』、『流星ワゴン』をはじめ、多くの代表作がドラマ化、映画化されている。

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