終戦のローレライ(4) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 2017
感想 : 138
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  • Amazon.co.jp ・本 (520ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062750035

作品紹介・あらすじ

「ローレライは、あなたが望む終戦のためには歌わない」あらゆる絶望と悲憤を乗り越え、伊507は最後の戦闘へ赴く。第三の原子爆弾投下を阻止せよ。孤立無援の状況下、乗員たちはその一戦にすべてを賭けた。そこに守るべき未来があると信じて。今、くり返す混迷の時代に捧げる「終戦」の祈り。畢生の大作、完結。

感想・レビュー・書評

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  • 何と何の為に戦うのか。伊507はそれに向けて進みます。もし東京に第三の原子爆弾が落ちていたら。もうその後は歯止めもきかず、そして何の躊躇もなく日本中に、あるいは世界中に何度も原子爆弾が落とされ、人々を国そのものを焼き尽くしていたかもしれません。残った日本人は国を失い、今も戦争を続けテロや虐殺に身を脅かされていたかもしれません。日本がなくなる。浅倉大佐が言うところの国家の切腹も、あるべき終戦の形も、日本民族再生計画も、わたしには何のことやら滑稽にさえ思えます。でももしかしたら、この平和な日本で聞くからかもしれません。平和の中ではその言葉に現実味がないのです。もし。戦時中ならば、大佐の考えに異議を唱えることが出来たかは分かりません。今だからこそ、それは望んでいる未来なんかではないと言えるのでしょう。
    戦争を知らないわたしには戦争を考える力、そして想像する力が足りません。だから、このような小説を読んでみます。そして、考えます。想像します。
    伊507の乗組員の大人たちが、若者である征人とパウラに託した想いは叶えられているのでしょうか。わたしたちも引き継いでいかないといけないものでしょう。わたしが今ここにいられることの意味を忘れないでいようと思います。

  • 達成感。
    アクションシーンの筆力は見事!
    島の位置や原爆など調べつつ読み進めた。
    原爆資料館行ってみたいと思った。

  • 手に汗握る戦闘シーンは具体的に書き込まれ、いちど読み始めたら止まりません。ただ、潜水艦の主砲でB29を撃墜するシーンなど、大事なところで「おいおい」と思う所もありますが。
    征人とパウラの掛け合いはラノベ的で、全体的な物語の雰囲気から少し浮いています。よく言えば、史実を思わせる程の緊張感の狭間に差し込まれた清涼剤。エンタメ小説として支持される理由のひとつでしょう。
    戦後60年程を駆け足で振り返る終章を蛇足と捉える意見もあります。しかし、終章によって本書は他の戦記物、SF、エンタメ小説と性質を異にしたと思います。
    わたしのような21世紀になって成人した人間は、戦後史を現在の視点から遡って見ざるを得ません。つまり、今の価値観を少しずつ過去に向かってずらしていくことで、戦後史を想像可能なものにしているということです。しかし、過去へと遡る中である時1945年8月に行き当たります。それは、明らかな断絶との出会いです。
    この断絶または差異をいかに理解するか。おそらく、戦後の価値観に染まった者がいまの立ち位置からいくら観察しても理解できないものだと思います。
    したがって、征人やパウラのような戦中世代の生を疑似体験することで、戦後社会を戦前戦中から逆照射する必要があります。すると、社会人として勤め、結婚し、子をなし、家を建て、老いる。これらのことが全て特別な経験になっていることに気付かされます。忘れ得ぬ死者への思い、価値観の激変に対する違和感など、背負い込んだ重い荷を降ろすことができないままに。
    その上でもう一度現在の視座から戦後を見渡してみましょう。戦後および今の自分の立ち位置に対し、評価の変化はないでしょうか。こんな問題提起を終章がしたのだと思います。
    そして最後に、温子かわいい。

  • 「戦後生まれの戦争物語」

    <マイ五ツ星>
    『椰子の実』:★★★★★

    <あらすじ>-ウラ表紙、少しアレンジ
    昭和二十年、夏。滅亡に瀕した日本に、既に崩壊したナチスドイツからもたらされた戦利潜水艦・伊507と、そこに搭載される特殊兵器ローレライ。その回収任務に抜擢された少年兵・折笠征人は、深海の魔女と恐れられたその中心に、一人の少女の姿を見る。
    彼女は水を介してあらゆるものを感知する能力を持ち、それは正確に敵部隊を捕捉する、完璧なるソナーであった。と同時に、潰滅した敵部隊の断末魔の叫びも全て飲み込んでしまう彼女は、そのたびに精神を、ココロを破壊してゆく-。
    ローレライ・システムを使って、「あるべき終戦の形」として日本国に“切腹”を迫る浅倉大佐の目論みを拒み、絹見艦長以下伊507の乗員たちは最後の戦闘へ。
     第三の原子爆弾投下を阻止せよ。
    孤立無援の状況下、彼らはその一戦にすべてを賭けた。そこに守るべき未来があると信じて。

    <お気に入り>
     異母弟の亡霊に問いかけ、絹見は小さく苦笑した。答えなくてもいい、いまは理屈屋のおまえの相手をしている時間はない。ただ確かに言えることは、いまのおれは海軍五省を唱えられる。人に恥じず、己に恥じず、心から唱えることができる。いまは血塗られた道であっても、己の一挙手一投足がより善き未来に近づき、切り拓いてゆくためのものだと信じられるから……。
     言行に恥ずるなかりしか。
    「魚雷二本、雷管の装着よろし!」
     気力に缺くるなかりしか。
    「左舷連管、準備よし!」
     努力に憾みなかりしか。
    「面舵一杯、深さ二十」
     不精に亘るなかりしか。
    「深度二十メートル。発射時機近づく」
     至誠に悖るなかりしか-。
    「三番、てぇっ!」

    <寸評>
    フィクションである。
    「戦争を知らない」我われにとって、日本の敗戦は“史実”ではあるが、我われの考えうる全てを費やしても、ノンフィクションとしての戦争を語ることは、できない。
    著者・福井晴敏もまた、同じだ(1968生)。
    彼に『黒い雨』(井伏鱒二著)も『レイテ戦記』(大岡昇平著)も書くことはできない。

    にも関わらず、この作品は、我われの心を大きく揺るがす。戦争で散っていった多くの人々の祈りを聴き、彼らの上に立つ現在の平和を、省みる。

    上に挙げた、絹見艦長の言葉。
    そして、散り逝く者たちの、歌。
    本編を読むと、きっと重みが、祈りが伝わるはずである。

    総数1600頁を超える超大作。
    フィクションとして描ききった、絹見をしてこの言葉を言わしめた福井晴敏、彼と同じ時代を共有する幸運を、噛み締めずにはいられない。



    と、まとめてみたが、カタい話を抜きにしても面白い、そして、めちゃめちゃグジュグジュ(笑)に泣いてしまう物語だ。

    ちなみに俺は、後半2冊を一気読みし、完全にハマってしまい、とり憑かれたように公開終了目前の映画『ローレライ』を観るためだけに、当時住んでいた京都から明石へ3時間近くかけて行った。
    (映画はやはり少し物足りなかった…)
    折しも遊びの誘いTELをかけてきた細川さん(友人)に「アホか」と一蹴された(笑)

    つまり、それぐらい面白いの!!

    • tokutokuさん
      確かに「映画は少し・・・」でしたね。
      でも原作は良かった!
      ちなみに「永遠の0」は読まれましたか?
      確かに「映画は少し・・・」でしたね。
      でも原作は良かった!
      ちなみに「永遠の0」は読まれましたか?
      2012/10/16
    • ウエッチさん
      お返事遅くなりました。
      コメントありがとうございます。
      もともと映画原作のとして書かれたのに映画が微妙というのは拍子抜けでしたね(笑)。...
      お返事遅くなりました。
      コメントありがとうございます。
      もともと映画原作のとして書かれたのに映画が微妙というのは拍子抜けでしたね(笑)。
      まぁ明石への小旅行はいい思い出です。
      『永遠の0』は文庫化即購入したのですが、そのまま3年積読状態です。
      戦争モノはなんというか…スタートに気力体力がいるんですよね…(笑)。
      でも、これを良い機会にして読み出そうと思います。
      2012/10/22
  •  なんとか終戦記念日までに読了。息つく間もない戦闘シーンの応酬にドキドキハラハラが続き、読み手の体力も消耗させられる。長かったが振り返ればあっという間で、すっかり感情移入させられ涙なしには読めなかった。一瞬帰れるのか、と希望を抱くも帰還先は本土ではなかった。
     ストーリーもさることながら、久しぶりにたくさんの魅力的なキャラクターに出会えた。

  • いよいよ最終決戦。伊507の運命は。
    その場面も、クライマックスとして、非常にいいんだけど、その後の戦後日本については、やはり考えさせられる。
    こんな、今の日本でいいのか、それでいいのか。
    蛇足的な感じもするが、いわゆるこの豊かさを享受している身としては、考えなきゃいけないな、と。

  •  いよいよ壮大な物語も終幕。潜水艦伊507が決死の覚悟で敵艦隊の中の突破を試みるあたりは、映画化されたシーンが目に浮かぶようであり、作者の描出力はすごいと思わされる。ぜひ映画化された作品も見てみたいと思うのだが、映画の評判がいまいちなのが残念なところ。

    • hs19501112さん
      映画の評判は確かにイマイチですが・・・原作至上主義でなければ十分に観る価値はあると思います。機会があれば是非ご覧になってみてください。
      映画の評判は確かにイマイチですが・・・原作至上主義でなければ十分に観る価値はあると思います。機会があれば是非ご覧になってみてください。
      2023/10/25
  • 読みきった達成感と、ついに、終わってしまった、寂しい気持ちが半々にある。

    ゴーストフリートとの戦闘、第三の原子爆弾を載せた、B-29の撃墜と、やはり、本巻も読む側の気持ちを高ぶらせてくれる場面が多くある。

    その一方で、水泡に帰した浅倉の陰謀、呆気ない最期を迎えた浅倉に、力に取り憑かれた者の虚しさも感じた。

    戦争を題材にした作品であるにかかわらず、この作品は、本当に色々な感情を抱かせてくれる。

    このような作品を読めたことに対して、深く感謝したい。

    • hs19501112さん
      福井晴敏さん、面白いですよね。
      よかったら、ぜひ「川の深さは」も読んでみてくださいませ。
      福井晴敏さん、面白いですよね。
      よかったら、ぜひ「川の深さは」も読んでみてくださいませ。
      2015/10/29
    • hs19501112さん
      さっそく「川の深さは」を読まれたのですね。
      うれしいようなこそばゆいような(笑)。
      そちらも面白いと思ってもらえて、よかったです。

      ...
      さっそく「川の深さは」を読まれたのですね。
      うれしいようなこそばゆいような(笑)。
      そちらも面白いと思ってもらえて、よかったです。

      それならば!!と、調子に乗ってしまって・・・
      「Twelve Y.O. 」と「亡国のイージス」もおすすめしてしまいます。
      2015/11/09
  • やっとこさ読了しもうした。文庫本4冊はとてもとても長い道のりなるも、超弩級の面白本だった。いささか長目ではありますが。

    年を経るごと、涙腺が緩み往く中、膨大な活字を追うほどに琴線に触れるエピソードが溢れてたりするため、出勤途上や出張時の移動の車中にて嗚咽こそこらえるものの、終始湧き上がる熱い想いに目は曇りがち。本日も往路の車中、目に溢れるものを拭いつつ終章に目を通したのでありました。最後の最後、海が漏らす◯◯を感知するところ、またもややられてしまいました。グッショリ。

    潜水艦といえば、やはりクランシーの「レッド・オクトーバーを追え」ですが、個人的にはその後の「レッド・ストーム・ライジング」で西側の硬直状態を打破する活躍に魅せられたものでした。「沈黙の艦隊」ってのもありましたね、戦闘シーンこそ面白かったけど、最後は訳わからなくなってつまんなかったかと。

    ローレライの実態が判明していくごと、???、何、F・ポール・ウィルソンばりのオカルト兵器?。やや興醒めの感があったりもしますが、ファンタジーであったかとすれば理解も違ってきます。帝国海軍の潜水艦に女の子が乗艦していること自体ファンタジーではありませんか。

    「悲鳴の聞こえない海」、良いフレーズです。

  • 終戦のローレライ完結編。
    トーキョーへの原爆投下を防いだ男たちの生き様は見事だが、最期がとても切なくなる。
    最後に切り離されたナーバルで、無事日本に漂着した征人とパウラの後日譚が語られるが、艦の男たちの最期の生き様に対してはおまけ程度にしか感じない。それでも、生き残ってしまった苦労も描かれていて、やっぱりいい作品!

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著者プロフィール

1968年東京都墨田区生まれ。98年『Twelve Y.O.』で第44回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。99年刊行の2作目『亡国のイージス』で第2回大藪春彦賞、第18回日本冒険小説協会大賞、第53回日本推理作家協会賞長編部門を受賞。2003年『終戦のローレライ』で第24回吉川英治文学新人賞、第21回日本冒険小説協会大賞を受賞。05年には原作を手がけた映画『ローレライ(原作:終戦のローレライ)』『戦国自衛隊1549(原案:半村良氏)』 『亡国のイージス』が相次いで公開され話題になる。他著に『川の深さは』『小説・震災後』『Op.ローズダスト』『機動戦士ガンダムUC』などがある。

「2015年 『人類資金(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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