冬の旅人〈下〉 (講談社文庫)

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  • 講談社
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本棚登録 : 54
レビュー : 6
  • Amazon.co.jp ・本 (421ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062750592

感想・レビュー・書評

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  • 最後の環のセリフが秀逸。

  • 「ハウス世界名作劇場」の枠で過去に放送していた、たとえば「フランダースの犬」や「アルプスの少女ハイジ」、「母をたずねて三千里」、比較的新しいところでいえば「ロミオの青い空」などといったテレビアニメ作品を観るにつけ、抗いようのないほどに強大で、そして時には邪悪で凶暴な運命の捻転に巻き込まれ翻弄されてゆく主人公の境遇の変化に心を痛め、あるいはホッと安堵し、とにかくハラハラして仕方がなかった、という人はきっと多いと思うが、それと同種の共感めいたものを私は読中ずっと感じていた。
    この作品はスポット的なイヴェントやトピックスを膨らませてエンターテインメントとして成立させている小説ではなく、1人の女性のティーンエイジャー時代から老いさらばえてその生の幕を閉じるまでを、比類なき壮大さと圧倒的なリアリティで書ききっている。
    リアリティといっても、そこは小説であるから、ちょっと現実には起こり難いであろう事象が重ねられていたり、現代の日本に生まれ暮らす私たちにとっては決して身近ではないシチュエーションが舞台であったりはするけれど、それなのにまるで文中のエピソードが実際に我々の周囲で巻き起こり、そこで描写されている出来事が我々の眼前で繰り広げられているかのような、徹底的なリアリティが溢れ貫かれているのである。
    文字通り流転する1人の人物の歴史を綴ったクロニクルとしては最高級の大作。

    そして読了後に残る、ほんのりとした哀しみ。
    名著は脳を刺激し、感情を揺さぶる。

    本筋とは関係ないが、20世紀初めの、帝政から共産主義へと移行してゆくいわゆるロシア革命へと至る市井の情勢が、フィクションとはいえこれまで読んだどんな歴史の教科書や参考書よりも分かりやすく理解できた。

    掛け値なしの傑作である。

著者プロフィール

皆川博子(みながわ ひろこ)
1930年旧朝鮮京城生まれ。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁・旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞(長編部門)を、『恋紅』で第95回直木賞を、『開かせていただき光栄です‐DILATED TO MEET YOU‐』で第12回本格ミステリ大賞に輝き、15年には文化功労者に選出されるなど、第一線で活躍し続けている。著作に『倒立する塔の殺人』『クロコダイル路地』『U』など多数。2019年8月7日、『彗星図書館』を刊行。

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