照柿(下) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 970
レビュー : 85
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062752596

感想・レビュー・書評

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  •  正直、ミステリーとしては下の部類(>_<)
     ホステス殺しに関しては、結局唯一の怪しかったやつが犯人で、トリックらしきトリックもどんでんも何もない(>_<)
     もう一つの殺人事件の方は、あれで犯人の動機が理解できる人はいまいし、いたら病院に行ったほうがいい(>_<)

     じゃあ、つまんなかったかと言えばぜんぜんそうでなく、これがめっぽう面白いんだなあ( ´ ▽ ` )ノ
     解説にある通り、ミステリーと言うより「小説」だね( ´ ▽ ` )ノ
     ジャンル分けなんか意味がない( ´ ▽ ` )ノ
     京極夏彦の妖怪シリーズも、背表紙のジャンル表示がいつの間にか「ミステリー」から「小説」に変わったけど、それと一緒だ( ´ ▽ ` )ノ


     ただ、ずっと読んでてドストエフスキー、ましてや「罪と罰」は連想しなかったなあ……(´ェ`)ン-…
     薄汚い人たちがカビ臭い世界でゴタゴタやってるところはたしかにそれっぽいけど、ドスト特有のユーモア感覚が本作にはまったく見受けられないからなあ……(´ェ`)ン-…
     カオルちゃんはどこまでも大まじめ。アリがコツコツ地下に巣を掘るように、ただ黙々と人間心理の奥底に潜り込んでいく( ´ ▽ ` )ノ
     合田も野田も徹底して自らの心理を探り続けていくけれど、なんというか、愛情を注ぐことによってアイデンティティを保つべき対象を持たないから(もしくは対象を間違っているから《上巻のレビューで書いたとおり、潜在的同性愛者である自覚がないので》)、この自己探索は常に見当外れのものになっている(>_<)
     で、正気を失うハメに……(´;ω;`)
     そういった点から、「罪と罰」より「タクシードライバー」とか「シャイニング」「アメリカン・サイコ」に近い作品のように感じた( ´ ▽ ` )ノ

     あらすじだけだとまるっきり面白くない(被害者もなんで自分が殺されたんだか、まったく理解できないだろうな)こんなストーリーを、よくぞこれだけ重量感のある作品にまとめ上げたもの( ´ ▽ ` )ノ
     ここまで徹底したキャラクターの心理描写をすると、書いてる作者までおかしくなるんじゃないか?、と心配になるくらい( ´ ▽ ` )ノ

     どっしり読み応えがあった( ´ ▽ ` )ノ
     歪んだ心理をリアリティたっぷりに描きこんだ本格小説( ´ ▽ ` )ノ
     やっぱり、これは映像化しても意味なしだ( ´ ▽ ` )ノ

    2018/01/03


     とはいえ、「マークス」「照柿」のあと、さらに「レディージョーカー」と続けるのはさすがにキツイので、次はカラッと明るい本を読もう……(´ェ`)ン-…

  • 合田刑事って、こんな人だったっけ?とずっと思いながら読むw 「マークスの山」を読んだのが昔過ぎて、面白かったのに内容は忘れてるしww 一目惚れって・・・ねぇ、そこまで執着されるとコワいよ、逆に( ̄ω ̄;)
    刑事としても、どうよって感じだけど、人間臭くていいのかもしれないなぁ。。。読めてよかったです、ってことでw

  • 真夏の太陽の熱でじりじりと焼けたコンクリートから立ち上る陽炎の向こうで男二人がもだえ苦しむシルエットが浮かぶ。彼らが追いかけてやまないのは目の覚めるような青いスカートの涼しげな女。その女を追いかければ追いかけるほど彼らの魂は腐った柿のようにドロドロと腐敗してゆく。読後一ヶ月以上たってもそんなイメージが焼きついて離れず視覚と感覚に深く刻み付けられている。

    一人の女を通して嫉妬に狂うのはほんのきっかけで、お互いを照らし合わせ自分に無いものを相手の中に見て憎しみを抱きつつ精神を崩壊させてゆく。達男は彫刻をやり合田はバイオリンを弾き、本質的に持っている芸術志向の対極にあるような世界で彼らは自分を埋没させながら暮らしており、気づけばなんとなく成り行きで築いてきた己の人生に「何故、今、自分はここにいるのか?」と疑問を投げかける。

    人間がズレを修正しながら生きていたら完璧なのは当たり前で、それができないから個性が生まれ、取替え不可能な自分だけの人生が存在する。そのズレを見てみぬふりをするのも簡単だけれど、不器用で愚直な人間であればあるほど、いずれはそのズレが引き起こす崩壊に直面する。まるで適正な温度で熱せられなかった亀裂の入った部品のように、幼少期に背負った傷がきちんと対処されないまま長い年月を経て、突然平坦な人生に亀裂を起こすこともしかり。いつどこで間違ったのか。人生という名のベルトコンベアのどの時点で。達男は亀裂の入った部品を握り締め、睡眠不足と頭痛を抱えたふらつく体で工場を駆け回り奔走する。どこで狂いが生じたのか?何がいけなかったのか?早く対処しないと手遅れになる、全てが駄目になるという強迫観念に追われながらの必死な姿が、達男自身の人生とだぶり切なく思う。突然何かをきっかけに、例えば葡萄のような目をした青いスカートの女をきっかけに、歯車を狂わされ壊れてゆくのは遅かれ早かれ必至なことだったのだと彼らは知っていただろうか。

    各々が知覚し感情や思考で都合良く創造された物語を事実とする人間の性質を、信じがたいほどに妄想を抱いて暴走する男達をみて、痛いほど実感する。二人の意識の流れが必要以上にトレースされた文章を執拗に追わされた私達は作品全体に漂う茹だるような熱さと共に眩暈を起こす。全ては彼らが何を見て何を想ったかの連続の世界だ。今でも蘇る疲労感。それと引き換えに、一瞬の莫大な想像と可能性や推測を行い、情報をインプットし、間違ったアウトプットをするという人間の面白さ、愚かさを見せてもらった。文庫ではそれが顕著であり見事なまでに客観的事実が省かれ二人の意識に重点がおかれているようだ。実際そこで何が起こったのか?を見失いやすいのが文庫で、ハードカバーで情報を捕捉するといった、想定外の作業が発生した。

    女同士の争いごとは醜いねという結論で落ち着こうとする中「いや男のほうがすごいぞ」と説明なく言い放った男性がいるが、確かにこの作品の中で魂が熟れて腐った柿のようでありながらも自分の人生にどれだけ正直にいきているかを競う二人を見ると、女達が体の一部や所有物で競う動物的レベルの争いごとと比べれば、本当は各々が自分自身と戦っているだけなのに、やりきれない思いを相手にぶつけ、第三者が止めようにも止められない戦いを、確かに女のそれよりも"すごい" と気づく。ただしお互いの中に自分が憧れていたものを認めていたからこその争いで、そこに気づけば争いが収束するどころか男の友情といった言葉をあてがうには物足りない、熱い関係へと昇華するというドラマの筋書きはいつも待ち遠しい。

    合田の叫び「達男、好きだ.....!」は達男の耳に届いたのかどうか。雨の音でかき消されたか。届いていてほしい。この台詞、ハードカバーにしかなかったけれど。

    • tsutomu1958さん
      素晴らしい感想です。
      素晴らしい感想です。
      2012/07/23
    • NAOKO ANDOさん
      >tsutomu1958さん
      ありがとうございます。初コメントありがたいです。
      >tsutomu1958さん
      ありがとうございます。初コメントありがたいです。
      2012/07/23
  • 合田も達夫も壊れてゆき・・・
    なんかもう一緒に濁流に飲み込まれ、気付いたらココにいました的な感じ。
    自分とは、かけ離れた所にいる人達なのに、よく解らされちゃう。
    この独特なゴリッとした文章も良いし、色々踏まえた上でまた読もう。

  • 暑い夏にジリジリ焼かれながら読もうと思っていた本。
    高校の時、マークスの山や、我が手に拳銃を、を読んだ時は、誰かが評したとおり、鋼のような文章がよくわからないけれどかっこいいと思っていた。今この作品を読んで感じる印象は、固いフランスパンのサンドウィッチみたい。どうにかこうにか噛んでいるうちに味が出てくるような。そして時々ハッとするほどみずみずしくて、色彩も鮮やかで切ない話だった。
    作者は、人格を形成する要素のなかでも、とりわけ生い立ちを重視しているようで、それが作品を暗くしているように思う。それが好き嫌いを分ける作品かもしれない、と思う。

  • (上巻より)

    もっとも興味深かったのは、解説かな。
    「小説の土台になっているのは、スーパー・リアリズムとも呼んでみたい、徹底的にリアルな現実の描写」だそうだ。
    どうも、スーパー・リアリズムは好きではないらしい。
    工場や男心とか興味がないだけかも知れないが。

    それと、作者はミステリーを書いているつもりはなく、
    小説を、恋愛小説とか純文学とか私小説ではない小説を書いているともあった。
    良かった。
    これが警察小説というならジャンルごと拒否しそうだった。

    私小説でないのはわかっているが、
    心情をうだうだ語っているという意味では、
    同じジャンルに入れてほしい。

  • 難航するホステス殺害事件で、合田雄一郎は一線を越えた捜査を進める。平凡な人生を十七年送ってきた野田達夫だったが、容疑者として警察に追われる美保子を匿いつつ、不眠のまま熱処理工場で働き続ける。そして殺人は起こった。暑すぎた夏に、二人の男が辿り着く場所とはー。

  • 単行本との違いを読みたいために。
    全体的に単行本のゴツゴツした感じのほうが好み、最後のシーン「達夫、好きや!」のセリフがなくなってるなあ。
    とはいえ内容が変わっているわけではないので評価に変わりはない、壊れてゆく様と背負う罪が明らかになる衝撃は凄いです。

  • 読み応えはそこそこあったのだけど、1人の男が殺人を犯すまでの経緯が事細かく描かれているが…私には理解出来ない。
    合田刑事が偶然出会った1人の女に執着し、女と愛人を引き離そうと妄想して画策する所も、やはり理解しがたい。

  • 苦痛だった。ドストエフスキーの「罪と罰」を思わせる緻密な描写。最後の解説に日本のドストエフスキーで罪と罰を意識してかかれた作品と書かれており納得した。

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著者プロフィール

高村 薫(たかむら かおる)
1953年大阪市東住吉区生まれ、現在大阪府吹田市在住。国際基督教大学教養学部人文学科(フランス文学専攻)卒業。外資系商社の勤務を経て、作家活動に入る。
1990年『黄金を抱いて翔べ』で日本推理サスペンス大賞、1993年『マークスの山』で直木三十五賞、1998年『レディ・ジョーカー』で毎日出版文化賞、2016年刊行の『土の記』では大佛次郎賞、野間文芸賞、毎日芸術賞をそれぞれ受賞し、新たな代表作となった。
『レディ・ジョーカー』を境として、重厚な社会派ミステリーから純文学に転向。織田作之助賞選考委員を務める。

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