- Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062753319
作品紹介・あらすじ
猫殺しの少年「まー君」と僕はいかにして特別な友情を築いたのか(『熊の場所』)。おんぼろチャリで駅周辺を徘徊する性格破綻者はゴッサムシティのヒーローとは程遠かった(『バット男』)。ナイスバデイの苦学生であるわたしが恋人哲也のためにやったこと(『ピコーン!』)。舞城パワー炸裂の超高純度短編小説集。
感想・レビュー・書評
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ぼく・わたしの未来が詰まった現在進行形ポップ純文学短篇集。
舞城王太郎従来のアクの強さは満載ながら、とてもまとまりのよい短篇集。なので、「これは素晴らしいなぁ、舞城王太郎を人に薦めるならこの本からと言いたいな」と思っていた。そしたら最終話の「ピコーン!」でいやいやいやいや、これ人に薦めたら駄目だ、となる。
もう、舞城さんなんなの~(笑顔)、こんなの人に薦められないじゃん~(笑顔)。
勢いに飲まれるキュートな最終話も素晴らしいが、1話・2話収録作もたいへんスマートで唸る。舞城王太郎は軽快ながらもある種の泥臭さがあり、そこが魅力でもあり時にくどくもあるのだが、この2作はそこのところを「書きすぎて」おらずテーマで非常にバランスよくまとめている印象を受けた。
特に表題作にもなっている「熊の場所」は、一読したら何度も思い返す人もいるテーマではないだろうか。
自分の感情と記憶の居場所を普遍的なものにする、それもまた物語の力だなぁと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「何が飛び出すか誰にもわからない、最強の純文学!」
舞城王太郎作品の中でも、読みやすいものだと思う。表題作は必見の面白さ。
舞城さんの文章は柔らかすぎて、擬音語も多いし、若者向けと聞くとなるほどというような文章なのだけど、感情の発想がぶち抜けてる。脳にずがーんとくる。一文で惚れる。離さない。 -
熊の場所が好きすぎる!恐怖を感じて逃げたくなった時、いつも心の中で思い返す大切な短編。
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時々思い出す熊の場所。
「恐怖を消し去るには、その源の場所に、すぐに戻らねばならない。」ほんとそのとおり。 -
着眼点が流石にスゴイ。
普通じゃない出来事に直面して、思わず「そこかよっ」って突っ込みたくなる感情を抱く博之だったり。
まー君に殺されたい欲求を抱きつつも冷静な分析を行える沢チンだったり。
説明のつきづらい感情を抱くそれぞれの主人公達なのに、何故か妙に自然にすっと受け入れられるのは、不思議な体験でした。きっとこの、へんてこな出来事に直面してもへんてこな感情を抱くのが、ありのままの人間なんじゃないかなーって感じました。そうだとして、そこに着眼点を見出したこの著者はスゴイなって思いました。 -
『恐怖を消し去るには、その源の場所に、すぐに戻らねばならない。』
『死に物狂いでやってて気迫が足りないくらいなら死んだ方がマシだろう。』
『人生には正しいも間違っているもない。物差しは結局のところ自分の価値観しかないのだ。』
『二人の無意味で不必要なすれ違いがこれで終わりますように。』
『弱い方へ弱い方へ、ストレスの捌け口は見出されていくんだ。弱い方へ弱い方へ、不幸は流れ込んでいくんだ。』
『目の前に自分の人生が手付かずのまま残っているのだ。』
『今日は昨日ともその前とも違う別の日。わたしの決意の日。やると決めた日。』
『わたしは言うと決めたことを言わなくてはならない。始めると決めたことを始めなくてはならない。かなえると決めたことをかなえるための努力をしなくてはならない。』
『このようにしてわたしは哲也をどんどん失っていくのだ。そしてそれに慣れていくのだ。それに慣れていくことをわたしは受け入れていくのだ。』 -
表題作『熊の場所』で、クラスメイトの「殺すぞ」に戦慄して、生命の危機すら意識しちゃう主人公。そう、殺すなんて言われたら、そうなるのが正常なんだよなぁ。
冷や汗だか何だか、汗だくになって麻痺した頭抱えて疾走する彼に、怒涛の鮮やかさで見慣れた風景が流れ込む。
舞城王太郎の個性って、
ぶっ飛んでる!!キレキレ!!
ってそれだけなら他にもたくさんあるけど、そこにどうしようもなく人間的な、「普通」の感覚が共存するところじゃないかなぁ。
大切な人の存在や、自分を奮い立てる哲学。悪意に毒を盛られる心。
それが自覚できてなきゃ、残虐だったり超現実だったりの舞城より、日常の方がよほど狂ってる。 -
世界は野蛮で陰鬱でもいつも愛とたくましさ
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それぞれのエピソードでテーマらしきものがあるが、どれもあんまり私には刺さらなかった。各エピソードのテーマは「怖いことのあった場所にはすぐに戻るべし」「弱者が弱者として維持されているシステムが世界にはある」「自身の選択によって世界を変えられる」みたいな感じだろうか。
最後の「ピコーン!」は、胡乱な殺人事件と謎解き、と純粋性と愛といったテーマがあり、初期の舞城作品とその後の舞城作品の架け橋になる作品ではあったと思う。 -
小川哲の「君のクイズ」に「熊の場所」が出てきたからどうしても読みたかった。サイコパス感強めだけど、恐怖を取り去るためにその場所に戻るという話はよくわかる。
「バット男」も気持ち悪い話だったけど、チョー刺さった。薄気味悪い社会のシステムを傍観し続ける語り手に共感してしまう。
「ピコーン!」は馬鹿馬鹿しいことばっかり言っているけど、やっぱり刺さる。なんだかんだで愛が深すぎる。こんなに変な内容で愛を描けるのは、舞城王太郎にしかできないと思った。好き。