黒と茶の幻想 (下) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 3123
レビュー : 280
  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062753616

作品紹介・あらすじ

美しい女が消えた夜へ
幻影の森を歩き続ける

雨の音を聞きながら、静かな森の中を進んでいく大学時代の同窓生たち。元恋人も含む四人の関係は、何気ない会話にも微妙な陰翳をにじませる。一人芝居を披露したあと永遠に姿を消した憂理は既に死んでいた。全員を巻き込んだ一夜の真相とは? 太古の杉に伝説の桜の木。巨樹の森で展開する渾身の最高長編。

感想・レビュー・書評

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  • 上巻に引き続き再々読了。

    上巻のレビューにも書いたが
    Y島の太古から続く深い森と
    登場人物たちの持つ過去との濃密さに
    ”ずぶずぶ沈んで”いきそうになりながら読んだ。

    3度目でもこれだけ作品の中に入り込まされるのはすごい。

    初読は確か10年くらい前に妹から借りて。
    とにかく高密度で夢中になって読んだという記憶しかない。
    2度目は5,6年前か?読み返したくなって購入。
    この時も夢中になって読んだ記憶はあるけど、1度目と大きな印象の違いはなかったように思う。
    3度目の今回は、多分かなり違う。
    前に読んだ時はレビュー等を残していないので比べることはできないが。
    登場人物と読んでいる自分とのキャラクターや置かれている環境があまにりも乖離している時、私はその”役”に入り込んで読む。自分の中に彼らを投影させて疑似体験しているような感覚で、その際、感情もシンクロすることが多いので違和感や反発を覚えることは(もちろんあるけれど)少ない。

    まだ20代だった1度目、
    30代になったばかりの2度目、
    利枝子や彰彦の章ではひたすら共感・共鳴し、蒔生の章では女として多少の反発を覚えるものの”そういう人間”として情報処理し、節子の章では一番現実を生きる彼女の生き方・考え方に理解しやすさを覚えていた。

    今回は3度目だからなのか、彼らとほぼ同年齢になったからなのか、”役”に入り込んでいると同時に意識の半分は彼らの世界を俯瞰で捉えながら読んだ。
    すると行間に違った景色も見えてくるから不思議だ。

    30代後半は当時の私が思っていたより大人じゃない。
    私が未熟なせいもあるだろうし、
    作中の彼らは自我が確立されていて現代の30代後半よりはずっと大人だとは思うけれど。
    でも、モノローグが真実とは限らないんじゃないだろうか。
    自己分析が好きだという節子に呆れてみせ、自分には必要ないと言う蒔生だが、彼の章で展開されていたのはどう考えても自己分析であると思えるし、自己や他者の心理分析を全くしない人間なんて多分(ほとんど)いないと思う。
    同様に実は誰よりも”三顧の桜”に執着していた蒔生のその理由は別の所にあるような気がしてならない。
    いつだって自分のことしか考えず好きなように生きてきた自分に疚しいことなど無いと言いきっていたが、
    自覚か無自覚か、彼の森の深いところには”疚しさ”や”罪悪感”が亡霊のように見え隠れしているような気がする。
    と、ここまで持論を展開して気づいたのが、
    憤りや不快感を感じながらも読み手の私自身もやはり(歪で不完全)な蒔生という男に惹かれているのだな、ということだ。

    解説に、登場人物の4人と恩田陸さんは同世代だと書いてあったが、仮に作者と同年齢だとるすると、彼らの2度目のY島ツアーはおそらく今年(蒔生の誕生日が早ければ去年のうちか)行われているわけだ。
    その旅を想像してみるのも面白い。

  • これ4人を出す順番が絶妙だと思う。
    利枝子・彰彦はまあ順当として蒔生が3番でちょっと驚きつつ、
    その前段階あたりで節子って実はどうなのと匂わせ始めるから
    締めが節子ってのも納得。

    色々謎に満ち満ちてた割には
    ものすごい事件が何にも起こらない所がまた最高。
    屋久島に凄く行きたくなる本だし、好き。

  • この展開、構成、終わり方はずるい。まさに恩田陸。
    謎解きが大に小にばらばらちりばめられてて最高。
    だいたい二章までの流れだと、蒔生が四章にくるだろうに三章においちゃう所が憎い。最後の節子がどんな章になるんだとドキドキしてたら、血みどろな場面は全部蒔生で終わらせて、節子の章では重いながらもさわやかに終わらせてる。
    それがいいところでもあり、わるいところでもあり。このどんどんどんどん血みどろでぐちゃぐちゃになっていくのがやめられない。
    正直、キャラクターとしての蒔生はエグイと思うけど、ストーリー的には三章が一番面白い。
    それまでは、蒔生と利枝子と憂理の関係をめぐるサスペンスを主軸にしてたところがあったのに、三章まででその起承転結を済ませちゃって、四章丸ごと別のエピソードにすりかえて後味をさわやかにもっていってる。そりゃずるいよ。
    蒔生のキャラクターが、どっか春樹とか龍の書く男主人公に似てる気がする。『ノルウェイの森』とか。(セックスに関して女と肉体以外は断絶しているような面だけ?共通するのは)

    まぁ全員そうだろうけど、彰彦かな、綺麗なのは。それと節子の超人的な面とか。恩田陸、綺麗だったり超人だったりするのよく書くな。
    あと、とにかくこの人は会話劇なんだな。
    ミステリー的な要素がそれだけ強いってことだろうけど、人が会話することを物語を動かす大きな力にしてる。(そうじゃない作品もあるけど、少なからずそういうところはあるだろう)
    だから、遠足だとか山登りだとか、俗世と隔絶された学園、お茶会、寝台電車や車の中、無人島っていう、とにかく長く持て余した時間と話さざるを得ないような状況が場面に選ばれるんだよな。
    それは好き。
    ただ、やるせない、この物語の収斂に入るとフラフラする点。
    すごく好きな反面、後一歩と勝手なことを思ってしまう。

  • 最終章とその前は逆かと思っていたのでちょっと驚いた。
    最終章の人はちょっと蚊帳の外感があったのだが、なるほどそういう動かし方かと。

    特に結論や解決がある訳ではなく、まして真実に到達した訳でもない様な終わり方だが、まぁ月並な表現をすれば人生に解決なんてないのよ、といったところか。

    当初の屋久島関連書というのを軽く忘れて楽しめた。

  • 再読。
    以前読んだ時はそこまで印象に残らなかったのに、今回はとにかく面白く感じた。こういう本に出会いたくてワタシは本を読むんだ、って思ったくらい(笑)
    もちろん屋久島の魅力もたっぷりだけど、4人の会話や心情がとにかく読んでて楽しかった。読んでる途中に、近くにいた旦那サンに「一番好きな映画は??」って聞いたら返答じゃなく難癖がかえってきた(´Д`)あーあ、美しい謎を一緒にとめどなく考えてくれる人と旅行したいなぁ~☆

  • 下巻です。
    下巻は蒔生と節子の章になってます。
    そして上巻から引き続き4人の旅行で、「美しい謎」と過去の話がされてます。
    相変わらず切ない話が続いてます。
    憂理に関しては特に。

    ちょっと不思議に思ったのが、章の順番です。
    なぜ利江子→彰彦→蒔生→節子の順なのか気になりました。
    というのも、4人の中では節子が一番重要じゃない人物だと思ったからです。
    でも解説を読んで納得しました。
    確かに節子は「こっち側」です。

    もし自分が40歳くらいになって、学生時代の友人と旅行に行くなら誰と行くだろうっていうのをちょっと考えてみました。
    私の場合、社会人になっても定期的に会ったり、連絡取り合ったりするか、まったく会わないかのどっちかだと思いから、こういう旅行は実現できなそうです。

  • 章の構成からもう、いいですね。
    上からの流れだと蒔生が最終章で憂理の謎を吐露するものだと思い込んでました。
    解決された謎、そうでない謎がある中で節子の夢の話が時間を置いて解明されたのは印象的。
    叶うならば辻蒔生氏五十一歳記念の旅話も是非に(笑)

  • 下巻は、蒔生と節子の章。上巻から引き続き、Y島の森の中を4人で登山する様子が描かれている。4人とも普通の大人だが、森の中の神秘的な力のせいか、非日常的で特別な空気が終始、漂っているのが感じ取れる。何か事件が起こるか、過去の事件が露呈して深刻な展開になるかと思いきや、それほどのこともなく、Y島の4人の旅行の終わり、つまり物語が幕を閉じると同時にホッとして穏やかな気分にもなった。この4人は、幸せだと思う。Y島、私も行ってみたい。友情、自然の力は偉大だ。

  • 旅という非日常的な時間によって、繰り広げられる胸の内。
    この4人で旅に出ることが出来たということは、ある意味奇跡だと思う。
    この年齢だからこそ理解できることが沢山あり、不思議とどの人物にも共感することができた。

  • これといって大きな事件が起こるわけではない。
    だが何故か、読んでいて惹きつけられる。
    どこからか「美しい謎」についての好奇心が沸き起こる。
    「理瀬シリーズ」よりは現実的なのだが、それでも幻想的な雰囲気はそこかしこに感じられる。
    登場人物4人のそれぞれの手記も様々で、なかなか飽きさせない。
    謎をあえて明らかにしないというのも、この著者独特のもの。

    当たりはずれのある著者の作品だが、これは上下巻ともに面白かった。

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著者プロフィール

恩田 陸(おんだ りく)
1964年、青森市生まれ。幼少期は名古屋、長野、富山、仙台などを転々とする。高校時代は茨城県水戸市に在住。水戸第一高校を卒業し、早稲田大学進学・卒業。
1991年、第3回日本ファンタジーノベル大賞最終候補作となった「六番目の小夜子」でデビュー。2004年刊行『夜のピクニック』で第26回吉川英治文学新人賞及び第2回本屋大賞、2007年『中庭の出来事』で第20回山本周五郎賞をそれぞれ受賞。
2017年『蜜蜂と遠雷』で第156回直木三十五賞と第14回本屋大賞を受賞した。同作品による直木賞・本屋大賞のW受賞、そして同作家2度目の本屋大賞受賞は史上初。大変大きな話題となり、代表作の一つに挙げられるようになった。2019年秋、石川慶監督、松岡茉優・松坂桃李らのキャストで映画化。

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