野中広務 差別と権力 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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レビュー : 39
  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062753906

作品紹介・あらすじ

権謀術数を駆使する老獪な政治家として畏怖された男、野中広務。だが、政敵を容赦なく叩き潰す冷酷さの反面、彼には弱者への限りなく優しいまなざしがあった。出自による不当な差別と闘いつづけ、頂点を目前に挫折した軌跡をたどる講談社ノンフィクション賞受賞作。文庫化に際し佐藤優氏との対談を付す。

感想・レビュー・書評

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  • 野中広務という政治家の名前を聞いて最も記憶に残っているのは、打倒小泉を掲げながらも自民党内の権力闘争に敗れ、「毒まんじゅう」という捨て台詞を吐いた姿である。
    この姿は、当時人気の高かった小泉に対抗する勢力の象徴であり、そのため「古くて悪い政治家である」という認識を残した。

    本書を読むと、そういう認識が実に浅く間違っているかということが分かる。
    読み終わったあとの野中広務の政治家像を簡単に言い表すと、「差別を無くすために尽力した政治家だが、用いる手段は狡猾であった」となる。

    本書は、野中の生い立ちから、町議会議員→町長→府議会議員→衆議院議員→政界引退まで綴られている。
    その過程においてはかなり激しい闘争を含めた出来事が繰り広げられており、全く平坦な道のりではない。
    これは野中自身が被差別部落の出身であることを抜きにしては語り得ないし、本書の焦点もタイトルが示すとおりである。

    野中の目指した「差別を無くす」ことが出来た暁には、本書が書かれることもなくなっているのだろう。

  • 部落差別問題を真正面から語ろうとすると、色々な壁にぶち当たってしまうのか、どうも本当に知りたいことを知れないというジレンマに陥る(そしてそれが場合によっては新たな差別を呼ぶ土壌にもなりうる)。

    この本は政治家・野中広務氏のその政治家としての人生を描くことによってこのテーマに切り込んだ作品。イデオロギーが先行せず、非常に考えさせることが多かった作品。途中、自民党内の政治のやり取りが続く場面は少々読みづらかったが、野中氏が政治家を引退する時、当時総務大臣だった麻生太郎氏に向けた発言は圧巻。この部分を読むだけでも部落差別問題を学ぶべき意義を理解できる。

  • 10年前に買ったのを、今になって読む気になりました。野中さん、すごい人だった。
    大物政治家がバンバン出てきて政治史を知る上でも面白いし、被差別部落史としても興味深いし、野中さんかっけー。田中角栄なんて「悪の権化」みたいな印象持たされてたけど、地元の人や民衆にとってはありがたい政策をやってきた人なんだね。金のある時代だからできた政治手腕だろうとは思うけど。

    あとがきに「彼の引退は(中略)平和と繁栄を志向してきた戦後の終焉を象徴する出来事だった。新たな時代には平等と平和の四文字はない。」とあり、文庫が出て10年後の今、確かにそんな世の中になっていてゾッとする。

  • 1

  • 2000年、小渕首相が亡くなった際の密室での後継者選び、加藤の乱の鎮圧。2001年に発足した小泉政権が野中広務に抵抗勢力のレッテルを貼ったことにより、まるで古いの自民党の権化のような扱いを受けたと思うのですが、私も彼をそのようにとらえていました。

    端的に申せば、野中広務氏は私の嫌いな政治家の代表格でした。
    http://naokis.doorblog.jp/archives/discrimination_and_power.html【書評】『野中広務 差別と権力』 : なおきのブログ

    <目次>
    第一章 漂流する村
    第二章 融和の子
    第三章 祈り
    第四章 青雲
    第五章 田中角栄
    第六章 転機
    第七章 二つの顔
    第八章 争奪戦
    第九章 政治と土建
    第十章 シマゲジ追い落とし
    第十一章 経世会分裂
    第十二章 落城
    第十三章 村山政権の守護神
    第十四章 恐怖の絆
    第十五章 勝者なき戦争
    第十六章 差別の闇
    対談 野中広務の去ったあとで 魚住昭・佐藤優


    2018.01.30 野中広務が亡くなった。
    2018.02.04 2018年1月の読めなかった本
    2018.03.21 読書開始
    2018.03.22 読了

  • この本はいくつかに分けることが出来る。
    「野中広務とはなんなのか」「政治(パワーゲーム)」の
    2つに分かれ、実際のボリュームは後者となる。
    ただ、終盤となり権力を失っていく時、野中広務という
    人物が非常に色濃く映ってくる。
    もともと野中広務のことは殆ど知らなかった。
    自民党の、まさに裏で糸を引く人物、という存在だ。
    だが実際のところは「調停役」にすぎない。
    調停するために様々な情報を握る中で結果的に権力を
    握っていくことになる。だが、この著者で何度かでる
    メッセージとして「彼にイデオロギー、政策信念はない」
    「そのためには平気に180度違うことを発言する」
    である。野中広務は与えられた責任、役割を全力でこなし
    ていくにすぎない。そして、自分でそれを理解している。
    No2として支えていくことに強みを発揮するのだと。

    野中広務という人物は、その手段に関しては好きには
    なれないが、闘い続けた、その姿にどこか共感せざるを
    得ない

  •  自民党の代議士、野中広務の評伝。存命の人物に関する伝記を読むことはあまりないのですが、何かで紹介されていて興味を持ったので読んでみました。

     タイトルにある「差別」とはいわゆる部落差別のことで、氏が部落出身であるが故に受けた多くの辛く悔しい体験がその政治活動の原動力になっていたことを示している。数えきれないほどの修羅場をくぐった、まさに叩き上げの政治家だと言えるだろう。

     しかし、読んでいて感じたのは(恐らく筆者の意図もそこにあるのだろうが)、彼のルーツと政治手法は別の問題だという点だ。彼が使った手法は要するに土建政治であり、金と酒と女で人を抱き込み、ライバルのスキャンダルを探しだして追い落とすといった権謀術数が描かれている。人間的には魅力的だったかも知れないが、政治面で共感できることはほぼ皆無だ。

     彼が政界を引退することになった出来事は、そういう旧来の政治手法が通用しなくなったことを意味していると解釈できるだろう。もし実際にそういう時代変化があったなら歓迎すべきことだが、本当に変化があったかどうか、まだわからない。

  • 野中広務氏の政治家引退までを描いたノンフィクション。
    この本を読んで、野中広務氏の見方が180°変わりました。
    究極の叩き上げ人生ですね。
    逆に究極の実践力がないと、ここまでのし上がることは出来ない。
    鈴木宗男氏が、頭に浮かびました。
    もちろん、全く出自が正反対の麻生太郎氏とは所詮水と油。
    著者の綿密な取材力には舌を巻きましたが、巻末の佐高信氏の解説を読んで、ジャーナリズムの道徳観というものについて、考えられさせられました。
    本人や血縁者の意向に関わらず、結果として暴かれてしまうということの意味を。
    そういう意味で、今回は野中広務氏の肩を持ちたいと思います。
    でも著者をけして全否定している訳ではないです。
    そして、我々読者にも、一定の品位や謙虚な心が必要だという事も改めて感じました。
    いろいろな意味で、得ることが大きかった読書でした。

  • 先達ての参議院選挙に先立ち、野中広務氏が自民党に復党してゐました。かういふ護憲の人は、安倍政権にとつてプラスになるのかしらん、と思つたら、どうやら野中氏が強いパイプを持つといはれる土建屋さんの票が目当てだつたやうです。立つてゐる者は、90歳でも使へ。
    政界引退から十余年の現在でも頼られる、野中広務氏とはいかなる人物か。一般には、陰で権謀術数を駆使する闇将軍の印象でせうか。悪代官のイメエヂも強いやうです。

    しかるに、魚住昭著『野中広務 差別と権力』を拝読しますと、なかなかどうして、それだけの人物ではないらしい。現在ではよく知られてゐますが、野中氏は生れながらにして差別を受ける境遇でした。いはれなき迫害を受けた経験を持つ野中氏としては、故なく虐げられる人たちへ限りなく温かい眼差しを向けます。
    たとへば、ハンセン病訴訟では当時官房長官の職にありながら、国を相手取つた原告側に寄り添ふ行動を取つてゐます。原告団の事務局長は「素晴らしい政治家です。細やかな気配りがあって人間として温かい。言葉の一つひとつに、傷ついた者をこれ以上、傷つけてはいけないという気持ちがにじみ出ています。今、私は野中さんのことを手放しで信頼できると言いますよ」と絶賛してゐます。たいした惚れつぷりですな。

    本書の第二章のタイトルに「融和の子」とあります。その後の野中氏の歩みを見るにつけ、なるほど、うまい表現だと感じました。一方的に弱者の味方かといふと、時には「わしはお前らだけの町長とちがう。全町民の町長や。お前らだけの言うことを聞けるかっ」と一喝する一面もあります。
    後に中央政界で「闇総理」と呼ばれるやうになり、政敵を次々と叩き落す一方で、身障者の施設を設立・運営したり、先述のやうにハンセン病患者の味方になる。また、松本サリン事件で容疑者扱ひされた河野義行氏は、疑ひが晴れても警察・マスコミ等から一切直接謝罪をされなかつたさうですが、唯一の例外が野中氏だつたと言ひます。弱者・虐げられた者たちへの優しさは、権力を握つてからも失はなかつたのであります。

    総理に上り詰める日も遠くないのではと思はれた野中氏ですが、自らは手を挙げることもなく、結局野中総理は実現しませんでした。魚住昭氏はその理由を、部落解放同盟の小森龍邦氏の言葉が正解ぢやないかと語ります。即ち「ふつうの議員だとその出自は問題にならんけど、総理になって日本を動かす立場になるときに『あの人の出生はこうなんだ』とキャンペーンがはられる。利害関係が一番厳しゅうなったときに部落差別が出てくるんです。それを本人は分かっていたんではないですか」といふことです。「融和の子」としては十分首肯できる意見ですね。

    さういへば失言のホームラン王・麻生太郎氏が「野中のような部落出身者を日本の総理にはできないわなあ」と発言したとか。麻生氏は否定しますが、「自分も聞いた」といふ証人も複数ゐるさうです。島崎藤村『破戒』から100年が経過しても変らぬ差別。
    野中広務氏の歩みを辿ると、日本人が抱へる問題がぽつかり浮かんできます。まさに「私は闘う」人ですね。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-647.html

  • 平成28年5月23日読了。
    政治家もヤクザ同様、熾烈な権力闘争を切り返し、頂点を目指していくことがよく分かった。
    野中広務という人物に、U2のボノが被る。

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著者プロフィール

魚住昭(うおずみ・あきら)
1951年熊本県生まれ。75年共同通信社入社。87年から司法記者クラブに在籍し、リクルート事件などの取材にあたる。96年退社。著書に『沈黙のファイル』、『』渡邉恒雄 メディアと権力』、『野中広務 差別と権力』などがある。

「2012年 『Yの悲劇 独裁者が支配する巨大新聞社に未来はあるか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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