新装版 戦雲の夢 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (520ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062754019

感想・レビュー・書評

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  • 長宗我部盛親(元親の方でない)の豊臣末期から大阪夏の陣までの物語。
    関ヶ原で破れて以来、寺子屋の先生としてひっ塞してる期間が長い。不遇な時期は私たちの現実にも往々としてあらわれる。「虎が猫として飼われている」ような盛親の鬱屈に共感し自分を重ねてみてしまう。また、大名は多くの家来の人生を背負っているからその重さや守れなかったやりきれなさというのは想像を絶する。だからこそ、再起の際に「過去から未来への闇」を大阪城に向かって進む姿、「天に賭ける」決意をするときに晴れやかな、胸のすく気持ちになるのだ。今居場所が見つからないとか、立ち位置がわからないとか、うまくいかないなぁなんて思ってる人にぜひ、読んでほしいです。

  • 男としてどう生きるべきかの長曾我部盛親の苦悶、葛藤を描いていましたが、現代の「サラリーマン」の日々の葛藤や苦悶に通じるところ、男として、「人生の中で何ごとかを成さねば」という思いは良く分かります(理解出来ます)。
    そして盛親自身が「自分の運を愛さない者に運は微笑しない。」云々とのくだりは他者への責任転嫁ではなく「自分自身の態度や言動からくる、いわば自己責任の大切さ」を思い知るくだりですが盛親はそれに気付きます。そこから盛親は成長を遂げていきます。

    この事は自分自身と向かい合う事の重要性を記したものであり、私も常々、自分に言い聞かせて、日々の生活を送らなければならない事だと感じました。

  • 槍一つで四国を平らげた長宗我部元親の実子であり、土佐二十二万石の領主・長宗我部盛親は、関ヶ原の戦いで西軍に加担したがために、一介の浪人の身に落ちてしまう。京にて蟄居する盛親は、再起の野望を胸中に育み、大阪の陣にその身を賭けて奮起するが…

    出来事を淡々と説明する描写に乏しい反面、物語性が非常に強く、特に中盤以降、鬱屈した盛親が野望を抱くに至る展開には、久しぶりに胸の高ぶりを抑えることができませんでした。
    なかでも、盛親の監視役である板倉勝重が、盛親の野心を計るべくした牽制と、盛親の見事な切り返しには、その「格好良さ」に舌を巻く思い。
    そのやり取りは、末尾にて抜粋。

    やはり武士の生き様は、心を揺さぶるものがあります。
    それは、その身を賭けて信念を貫く気概に感動するからでしょうし、司馬遼太郎は、その気概を語るのに長けた作家です。
    また、本書はこういった「熱い描写」に優れた一冊ですが、盛親とお里の愛慕の描写も見逃せません。

    ところで、読後に気づいたのですが、本書は1961年に刊行されており、その翌年に「竜馬がゆく」や「燃えよ剣」が連載を開始しています。つまり、本書が著者として油の乗り始めた頃合の作品と考えると、その面白さに得心のひとこと。

    ▽以下抜粋
    「しかし」
    「しかし?」
    「伊賀守どのの申されざま、武士に対するお言葉ではない。貴殿が日ごろあつかわれている公卿衆にはそのおどしは利き目がござろう。が、武士には逆の利き目になる。なるほど、拙者は日ごろ身をつつしんでいるが、他の者がそれをみれば、拙者が伊賀守どのにおどされて身をちぢめていると思う。そうなれば、拙者の一分をみせるためにも、不本意ながら、いまの境涯を捨て、再び武を立てて徳川どのに弓をひかねばならぬことになる。まるで、伊賀守どののお言葉では、暗に、拙者をして大坂に走れとでも申されているかのようじゃ」
    「いや、これはあやまったり。勝重の不覚でござった」

  • 武将としては真田幸村のように筋が通っている訳でもなく、戦乱の世に翻弄されて不運だったかもしれない、けれどクライマックスで藤堂軍を撃破した場面は圧巻。盛親や家来衆の人間味溢れる性格が清々しく描写されていて、決して暗い内容ではなく、楽しく読めた。

  • 前半つまらなかったのに、盛親覚醒後は読ませるなあ…くうう。主人公の人生観とシンクロする物語の緩急。
    歴史大河の片隅の、内省的な青春小説(というほどまで青くさくはないが)。主人公が傑人でないだけに共感しやすい。
    「城塞」は大坂の陣を政治的に理解できるが、こちらは文学的に理解する感じ。

  • 「夏草の賦」と合わせてすすめられた一冊。長宗我部元親の家督を継いだ盛親って、なんか全編通して切ない感じ。生まれた時代や境遇はここまで人に影を落とすのかな。

  • 戦の描写があっけないが、本書の主旨は戦ではないので仕方ないかな、と思う。

    ずっと自分の輝ける場所を得られないまま鬱々とした気持ちを抱えての生活には共感できる部分があった。

    「水」を得たいものです

  • 司馬遼太郎自分ランキング1位!(2011/12/1現在)

    気楽に生きてきた。
    急に大役がまわってきた!運でもあり準備不足でもあり、全てを失った。
    でも、これでもいいのかもしれないな。。・・いや?違うかも?  ・・違う。
    自分はこれをやった!というものを作りたい。無理とわかっていても、それに全力でぶつかりたい。
    ぶつかった。成功もあった。
    でもやっぱり負けた。
    だけど、やってよかった^^

    ふと考えてみたら、この人周りに愛されてるなぁ
    というか愛されすぎでしょうw 幸せな人だ

  • 男の天とは自分のもって生まれた才能を天に向かって賭けること。

    さて、そんな気概が自分にあるのやら?

    ただ、ないなら松の枝に縋りつくべきではないのだろう。

  • 主人公は長宗我部元親の四男、長宗我部盛親。舞台は豊臣秀吉により全国統一され、一時の平安期を迎えている戦国時代末期から始まります。

    物語の軸が戦いではなく、女性との関係を通し自分のなすべきことや自分自身を見出していくことに置かれ、新鮮でした。目まぐるしい時代の潮流に飲み込まれ翻弄される盛親が自問していく姿に人間味を感じる作品だと感じました。

    一方で、中盤では蟄居を命じられるため読んでいてもどかしく、退屈になる部分もあったのでこの評価になっています。
    戦国時代の華々しい小説ではなく、一人の人間を描いた魅力ある小説です。

    戦国武将の一人を深く描いた作品なので、戦国ファンなら手に取って損はない作品だと感じました。

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著者プロフィール

司馬遼太郎(1923-1996)小説家。作家。評論家。大阪市生れ。大阪外語学校蒙古語科卒。産経新聞文化部に勤めていた1960(昭和35)年、『梟の城』で直木賞受賞。以後、歴史小説を次々に発表。1966年に『竜馬がゆく』『国盗り物語』で菊池寛賞受賞。ほかの受賞作も多数。1993(平成5)年に文化勲章受章。“司馬史観”とよばれ独自の歴史の見方が大きな影響を及ぼした。『街道をゆく』の連載半ばで急逝。享年72。『司馬遼太郎全集』(全68巻)がある。

「2020年 『シベリア記 遙かなる旅の原点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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