アフターダーク (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
3.16
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本棚登録 : 12389
レビュー : 1081
  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062755191

作品紹介・あらすじ

時計の針が深夜零時を指すほんの少し前、都会にあるファミレスで熱心に本を読んでいる女性がいた。フード付きパーカにブルージーンズという姿の彼女のもとに、ひとりの男性が近づいて声をかける。そして、同じ時刻、ある視線が、もう一人の若い女性をとらえる-。新しい小説世界に向かう、村上春樹の長編。

感想・レビュー・書評

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  • ブンガク
    かかった時間110分

    夜の街。女の子と青年。暴力を受けた中国人。元女子プロレスラーのホテル支配人。逃げ回るコオロギ。目覚めないエリ。暴力を振るい、何事もなかったかのように日常に戻る男。テレビの向こうの四角い部屋。顔のない男。それらを見ることができる「わたしたち」。

    なんとなく眠れない夜にぴったりの、詩的な小説だ。ここしばらく、謎が巡らされ、冒険とともに謎解きがあるタイプの村上春樹をよく読んでいるけど、この作品はどちらかというと「風の歌を聴け」に近い、いくつかの断片から為る、美しいモザイクのような雰囲気がある。物語は淡々と進み、そこには何かしらの希望があり、さわやかで優しい読後感がある。以前に「多崎つくる」を読んだ時、村上春樹はなんてくだらない話を書くようになってしまったんだ、と思ったが、あの作品も、もしかしたら、こういう風に、イメージで読むべき作品だったのかもしれない。また、今回「星4つ」としたが、深夜のしっとりした気分じゃなかったら、もう少し評価は低かったかもしれない。

    位置づけ的には、「村上春樹の新境地!」という感じらしいが、それでも、夜の(闇の)深さや、そこでは全てが起こりうるのだということ、そして昼の光の、ほとんど祝福のような明るさとあたたかさは、他作品と共通するものだし、女の子と青年の出会い方が、「100%」の雰囲気と似ている。

    作品の初めと終わりで示されているように、わたしたちは個であり世界のたんなる断片だ。断片の美しさ、というか、ちいさなきらめきのようなものが、この作品からは感じられると思った。

  • 真夜中に視点をあてて描かれているところが面白かった。
    全体に暗い印象だけど、マリがコオロギや高橋と出会い、会話を交わすうちに、物語に光が射してくる。次第に夜が明けてゆく。
    そしてまた次の夜がやってくる。
    深海を彷徨っているような感じの、不思議な小説。

  • 相変わらず、村上春樹さんの小説は、よくわからない世界観なのに読みやすい。どんどん読んでしまう―。不思議だ。

    私は夜が怖い。
    とっても楽しい1日を過ごしても、ハワイのような楽園にいても、家族みんなが1つ屋根の下にいても、夜が来て1人で寝るときは怖くなる。
    この小説を読むときは、そういった夜の怖さを即座に思い出した。
    それぐらい夜の静けさ、孤独、怖さがリアルに描写されている―。
    そして、朝が来る頃にはそんな影は全くなくなってしまうところまで。

    私にとって、この小説の内容はどうでもよかった。
    ただ、闇が訪れる時間帯の空気感が伝わってくる。それがやたらリアルで、感動した。

  • 20190807、五年越しの再再読。
    以下エンディングまでのネタバレ含む、注意。
    (過去二回のレビューはメモへ移動)




    顔のない男とは、結局「男性」そのものなのではないかと思う。
    白川は、一見、優秀なサラリーマンである。
    妻との交流も出来、仕事でも能力を発揮する。
    そんな白川の暴力性が、白日の元に晒されれば、きっと私たちは驚くのだと思う。

    よく挨拶してくれたけど、まさか。
    真面目な人だったので、仕事にストレスでも感じていたんでしょうか。
    と。

    そして白川は、日常的に暴力を振るっていたかは分からない。

    だから、顔のない男とは、白川だけを指すのではないのだと思った。
    高橋や、高橋の父、組織の男、コンビニの店員。
    暴力性を男性に喩え、ある日、ぽっかりと空いた深淵に足を取られた時、コンビニに置かれた電話さながら、システムは牙を剥く。

    それが、高橋と死刑判決を受けた男の共鳴であり、システムとしての法律に、高橋自身が関心を寄せるようになったのかもしれない。

    そして、根源的というのか、理不尽な悪としての暴力を受けるのが、喩えとしての女性だ。
    中国人の売春婦、そして浅井エリ。
    浅井エリの眠りの原因を高橋に求める読みは、せっかくの夜明けを損ねてしまいそうなので、個人的には取らない。

    ただ、エリは「お姫様であること」を脅迫的に求められた人物であり、その意味では男性的な暴力性の被害者だと言える。
    美しく品があり、それに見合った人生を送ることを両親からも期待されてゆく道。

    マリがそんな姉に距離を感じながら、「取り返しのつかないことをした」と最後に涙するのは、姉を置き去りにしたことを意味するのではないか。
    つまり、「姉が姫なら、妹は秀才であること」というレールを自分だけが脱し、中国という境界の外へ出て行けてしまったことなのかなと思う。

    マリは自分の家を離れ、闇の世界を通して、そういった象徴的な出来事や人物に触れていく。
    「私たち」はもう少し俯瞰的に、彼女をキッカケにした社会システムのようなものを見通していく。

    最後に、「思い出す」ことの大切さを別の本で読んだところなので、マリがエリのことを「思い出す」ことにも触れておきたい。

    『アフターダーク』の世界では、多くの出来事が起きるわけではない。
    けれど、マリがエリとの繋がりを「思い出す」、その一点に集約されているのだとすれば。
    エンディングで、マリがエリの布団に入り、「取り返しのつかないこと」に言及し、キスをして眠りにつくことは、決してバッドエンドではないように思う。というか、思いたいのだ。

    自分にとって、とても愛着のある一冊なので、随分勝手な考察になってしまった。
    長々と失礼しました。

  • 10年ほど前に春樹の長編を集中的に読んで、唯一読み漏らしていたもの。
    2時間程度で読めた。
    wikiでは長編にカテゴライズされているが、春樹においては中編くらいと言いたいところ。
    春樹自身も肩慣らし、あるいは実験のつもりで書いたんじゃないかな。

    連想したのは、ロブ=グリエ、マルグリット・デュラス。
    そして、デヴィッド・リンチ、デヴィッド・クローネンバーグ。
    なぜって、1、カメラ・アイにこだわる手法はヌーヴォー・ロマンと共通するから。
    そして、2、暴力の質がリンチの唐突さ(とりわけ「ブルーベルベット」)やクローネンバーグのフェティッシュさに通じるからだ。

    カメラ・アイの効果としては、「僕」に限定しないことで別視点を同時進行できること。
    そして、眠り姫に対する窃視症的な文体……川上未映子が「村上さんの小説では氷の中に閉じ込められて眠る女性というイメージが頻発しますね」という指摘は、もっともだ。
    さらには、自分が知らないところで、ある人が誰かを見ている……視点を替えれば、他者が自分を見ているかもしれない、という感覚。

    ところであらすじだけ抜き出すと、マリと高橋の一夜のボーイミーツガールと読まれてしまう可能性もあるが、そういう筋の裏に、たっぷりと高橋の怪しさがが描きこまれているのが、また春樹のエグさだ。
    はっきりいって暴力の象徴そのものである白川は、高橋と同一人物なんだろう。
    同一人物で言いすぎなら、精神における双子。
    あるいは高橋が抑圧している(からこそ本人も無自覚)別人格が別人生を送っていたらという仮定の存在。
    白川が中国人娼婦に「わかりやすい」暴行を加えるのに対し、たぶん高橋はエリに「わかりにくい」暴力を加える……薬で朦朧としているエリを「アルファヴィル」に連れ込み、性交することで相手が決定的に損なわれるかもしれないと気づいていながらも「知的好奇心」ゆえに寝る=損ねる。
    さらにはそれを悪いことと自覚しているかどうかわからないまま、妹のマリにまで「知的好奇心」を抱き始める。
    無自覚の悪魔というか。誰もが悪になりうる・悪をなしうるというか。
    セックスが往々にして相手を損なうという感覚は「風の歌を聴け」にも散見されるし、「ノルウェイの森」は全編そのテーマと言えるし、「ねじまき鳥クロニクル」あたりでは性と国家のシステム的な暴力に注目を始めるし、やはり毎度同じテーマを視点をずらしながら掘り下げているという感じ。

    あと面白いなーと思ったのは、元女子プロレスラーのカオル。
    「海辺のカフカ」のトラックドライバー星野青年と同じく、無駄に知的じゃないし無駄にスノッブじゃないし無駄に示唆的な言葉を吐いたりしない、非春樹的人物。
    またコオロギという女性が使う関西弁が妙に偽物っぽくて、いい味になっている。
    こういう人物が「1Q84」や「騎士団長殺し」にも出てくれば、登場人物全員春樹の分身、というスノビズムから逃れられたんじゃないかなー。

    最後に。姉妹が抱き合って、という妹が姉に抱きついて眠っている、彼女らは家に護られている、という絵は、このうえなく甘美だ。

    「多崎つくる」と同じく、大絶賛はできないけれど、どこか引っかかる作品だ。

  • またまた河合隼雄推薦の書
    眠る姉、夜更かしする妹。

    夜の行動や意識はまるで無意識の世界にいるような不確かさがある。(だいたいお酒呑んだ後だしね)

    ヨフカシのもとに巻き起こる色々。それに対処していくことによって世界とヨフカシの心に小さな変化がある。
    それと連動してネムルに襲いかかる「何か」からの脅威にも変化が、、、

    世界にはびこるあらゆる悪意に対処するとき、
    直接自ら手を下せないことばかり。
    それどころか、まったく認識すらできていない。

    だから、
    風の歌を聴いて、ゆっくり歩き、たくさん水を飲む、
    雪かきをする。

  • 他の村上春樹作品より現代的で伊坂幸太郎的な感じがした。
    相変わらずオチなどないし、白川がどうなったかも全く不明だがそこが村上春樹的で、そんなご都合主義ではない。
    様々な視点から描かれる夜中に起こった出来事を通しながら、今日(アフターダーク)という白紙の可能性を秘めた希望の話だと思う。多分。

  • 何がおもしろいだとかそういうことではなく、すごく共感した。そしてその共感がわたしの感覚と共鳴して、ただただのめり込んだ。
    村上春樹の世界観が理解できる、共感する、といった人にはものすごく共感できておもしろいし、理解できない人には結局何なのかわからない作品だと思う。

  • 深夜のファミレスで一人、コーヒーを飲みながら、時間をつぶすのが割と好きだ。
    本読んだり、アイデア練ったり。
    多くの人々が寝静まった後、少ない人たちだけで引き受けた夜。小さな優越感に浸りながら、そんな貴重なひとときを味わうのだ。

    この物語も深夜のファミレスから始まる。
    都会の闇とファミレス店内の人工的な明るさ。
    近くにありたいと思う心と対照的に、遠く離れてしまった気持ち。
    心を求める登場人物たちの切実な願いが胸を打つ。

    クライマックスは夜明け。
    何故か、少し前にコーヒーのCMで使われていた谷川俊太郎の「朝のリレー」を思い出した。
    漆黒の闇に現れる一筋の光。
    とてもクリアな気持ち。
    心が洗われる。

    新しい一日は、誰にも平等に訪れるんだよね?

  • 最初に発売したころは、何が面白いのだか全く解らなかった作品。表紙、帯に惹かれたけど、結局図書室読みしました(当時高校生だったので)。


    しかしあの意味のわからなさがなんとなくクセになってる気がして、気になって気になって仕方がなかったので買いました。

    何気なく読み返したら、ものすごく気に入ってしまった。何が面白いのか今でもわからん。でも大好き。個人的に都会的な夜の細かい描写が、好きなんだと思いますけど。それにしてもなんだろう…何が面白いのだろう。登場人物の名言がやたら多い作品だと思う。コオロギといいタカハシといい。



    これが最初に読んだ村上春樹だったら、間違いないなく「インテリっぽいひとが書いた典型的なインテリ小説で意味がわからないし気に入らない」ってなってたろうなぁ、と。
    だっていちいち言い回しが難しい。
    色々とトリッキーな書き方をしているけれどわたしには全く解らなかった(ジョージ・オーウェン的チキンとか。なにそれ)。



    ストーリーの意味不明さは、メタファーだと作者は仰ってるらしいので気にしたことあまりなかったんですが、いつにもましてよく解らない。個人的には気に入ってる解釈もあるのだけれど、それもメタファーってことで。

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著者プロフィール

村上春樹(むらかみ はるき)
1949年、京都府京都市伏見区生まれ、兵庫県西宮市芦屋市育ち。早稲田大学第一文学部映画演劇科卒。大学在学中にジャズ喫茶「ピーター・キャット」を国分寺・千駄ヶ谷に開店していた(1981年、店を人に譲渡)。1979年にデビュー作の「風の歌を聴け」で群像新人文学賞を受賞。谷崎潤一郎賞、読売文学賞、朝日賞など数々の受賞歴がある。2006年にフランツ・カフカ賞、2009年にイスラエルのエルサレム賞受賞。ノーベル文学賞に最も近い作家の一人と言われており、毎年発表時期に日本国内でニュースになる。事実、村上春樹作品は全世界で翻訳されており、アメリカ・アジアでの評価がとりわけ高い。フィッツジェラルドやレイモンド・カーヴァーなどの作品の翻訳も手がけ、翻訳家としての仕事も高い評価を受ける。翻訳と創作活動を交互に行うことで、作風を変化させ、作家としての成長を続けている。新作が発表されるたび大きな話題となるが、近年は特別番組「村上RADIO」にてラジオDJも務め(不定期放映)、数々の名言も注目を集める。代表作に『風の歌を聴け』『羊をめぐる冒険』『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『ノルウェイの森』『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』。2019年7月31日に『神の子どもたちはみな踊る』が舞台化。2019年8月7日発売の『文学界』でロングインタビュー「暗闇の中のランタンのように」掲載。アメリカのサックス奏者スタン・ゲッツの伝記翻訳を2019年8月末に刊行予定。

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