- Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062756273
感想・レビュー・書評
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2004年 金原ひとみさん綿谷りささん達と同学年で、彼女らと同時芥川賞候補作。ひとり選にもれた作品。
大人の男性に恋をして、失恋した女子高生。傷は、思いの外深く、なかなかその想いから解放されない。
高校の同級生だった友人とその兄弟達との触れ合いから、少しずつ過去を整理していく。
少女の狭い世界から抜け出し、生まれ変わろうとする森を高校生で描いている。早熟のと形容されがちだけど、本当だから仕方ない。一般高校生は、まだ、夏休みの読書感想文書いてるもの。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
失恋した女の子がゆっくりと息を吹き返す話。
視点もテンポも息遣いも、すべてが優しさに満ちている作品だった。
しとしと降る長雨のような。
ちょっと憂鬱なんだけど、とても落ち着く作品。
浮足だつところがない。なんとか浮上しようと無理しない感じが良かった。
印象的だったのは月の描写。
ちょいちょい月が出てくる。
誰かの肩越しに、窓に。
それもまた、再生に向かう優しい時を感じるのかもしれない。
正直言って、主人公がとらわれているサイトウさんは読めば読むほどどこがいいのかわからないような、むしろ気味の悪いやつだったが、そうすることで主人公の残されてしまった抽象的な想いに焦点があてられて良かったのかも。
タイトル「生まれる森」すごく作品にあってると思う。
しっとり感と力強さ。森になる最初の小さな芽吹きを見た気がした。
キクちゃん、好きだわ。
雪生さん、いい人だけどきっと苦手だ(笑)
店長、うざキャラだけどやたらリアルで良いバランスだった。 -
「人が恋を失った直後の生々しい感情をラフスケッチのように素早く書きとめ、そこから出たいと願う人のためになればいいという思いだけで一冊書き上げた」
とは、あとがきから。
「ナラタージュ」を思い起こさせる、恋とも愛とも思える想いの結晶と、深い喪失感と絶望。
深く共感しながら読み進めました。島本さんの恋愛小説、やっぱり大好きです。いつでもここには救いがある。
島本さんの感性も恋愛観も好きですが、本書で特に好きだったのは、キクちゃん家族。
父親はもちろん、3兄弟の仲の良さや互いを思いやる距離感が心地よくて、読めば読むほど素敵な家族だなと心温かくなりました。
いわゆる一般常識ではなく、自分たちの価値観を大事にしている姿勢が共通していて、そんな生き方をできることがかっこよくも映りました。
感受性が強いこと自体は生きにくさに直結するものではないと思うけど、何か壁にぶつかったときや、深くまで心を揺さぶる恋愛を前に、振り回されず生きていくことは簡単じゃない。
けど、大人になるにつれて、そういったことも少しずつできるようになってくる。
10代後半から20代前半にかけての、一番心がささくれ立つ自体を、こんなにも丁寧に寄り添って書き上げてくれたことで当時の自分がずいぶんと慰められた気がします。 -
「幸せにしたいと思うことは、おそらく相手にとっても救いになる。けど、幸せにできるはずだと確信するのは、僕は傲慢だと思う」
私は彼女の書く話が好きだ。
静かで優しい、でも若い。そんな文章にいつもどきどきしてしまう。 -
過去に同じ島本氏の作品でも思いましたが、
場所、時間の転換がせわしなくて
気が削がれる感じがあります。
細かい部分をあげるつもりはないけれど
引用した部分のようにひたすら
~た。
~だった。
で終わる文面も、
一連の流れにありながら段落を変え過ぎているんじゃないかと思えて、
それも違和感に繋がっていると思います。
ご本人もあとがきで語られている通りに
はっきりとしたストーリーのない作品なので
共感できる部分がなければ
評価するのが難しい。 -
「きっと奥のほうに抱えた強い不安が一番身近な人間の心を容赦なく揺さぶるからだ」
「子供のときに大人の恋をすると、その後も無垢な心には戻れない」
「死にたくなったら、どんな時間でも駆けつけて止めるから。見捨てたりしないから。愚痴でもなんでも好きに喋ってかまわない。それでも抜け出せないほど絶望が深かったら、そのときは僕を殺してから死んでくれ」
「わたしはあの人に幸せになってもらいたかったんです。眠る前に新しい朝が来ることを楽しみにおもうような、そんなふうになってもらいたかった。けど私には無理だった。」
「自分が他人を幸福にできるなんて発想はそもそも行き過ぎなのかもしれないよ。幸せにしたいと思うことは、おそらく相手にとっても救いになる。けど幸せにできるはずだと確信するのは、僕は傲慢だと思う」
雪生のまっすぐで不器用な優しさがよかった。
上辺だけじゃなくて、本当に繋がるためにはいろいろ考えなくちゃいけない。 -
サイトウさんがなんだかなぁと思いました。
このひとと居ると疲れきってしまう
みたいな表現が文章中にされていたんだけど、この感覚よくわかります。
自分がどんどん自分でいれなくなっちゃいそう。
「彼にとって自分は、子どもが胸に抱くぬいぐるみみたいな存在だった」
って主人公が振り返る場面があるけど、この通り、そんなふたりの関係だったんだろうなぁ。
夏休みに主人公の野田さんは、友人キクちゃんとその家族と交流していくんですが
このくだりがわたしはとても好きです。
少しずつ、ほんとに少しずつだけど、野田さんが元気になってくのが素敵。
まだ、サイトウさんの影や傷は抱えたまんまだけど、それでもちょっとずつでも元気になってく過程が好きです。
森の中でずっと迷い続けてる野田さんだけど
もちろんすぐに出られるわけもないんだけど
物語が進みにつれ、そんな暗い森のなかに少しだけ陽が射したような、それを感じられてうれしかったです。
キクちゃんが後半で野田さんに話すとある言葉がとても印象的です。
わたし自身にも言ってもらってる気がしました。 -
「本当はもう終わっていて、わたしだけがまだ、どうすれば良いのかわかってない」終わった恋に踏ん切りが付かない「わたし」。終わらないけど、もう一度は繰り返せないこともわかっていて、なかなか抜け出せない。友達のキクちゃんと、そのお兄ちゃん…「わたし」と「わたし」をとりまく人々のある夏の日々、淡々と語られているようで、心に残っていく言葉たち。そして、抜け出せたんだ。読んでよかったと思うよ。(ま)