ワイルド・スワン(上) (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (354ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062756600

作品紹介・あらすじ

十五歳で著者の祖母は軍閥将軍の妾になる。中国全土で軍閥が勢力をぶつけあう一九二四年のことであった。続く満州国の成立。直前に生まれた母は、新しい支配者日本の過酷な占領政策を体験する。戦後、夫とともに共産党で昇進する母。そして中華人民共和国の成立後、反革命鎮圧運動の只中で著者は誕生する。

感想・レビュー・書評

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  • 本書を読んでいる間、ずっと険しい顔になってしまう。纏足のことは知っていたが、詳細な描写は読むに耐えない。戦争中とはいえ、日本人の残虐さが酷すぎる。張作霖氏の名前が少し出てきたのには驚いた。浅田次郎氏の「マンチュリアンリポート」以来である。

  • とにかく衝撃。私は歴史は日本史選択だったので、中学時代の分しか世界史の知識がない。得意だったので、ある程度の名前は理解してるけど、深い内容となるとさっぱりだ。なので、聞いたことある名前や名称が出てくるが、改革などの前後がさっぱりわからず読み進めていった。時には漠然と知っていた纏足をググり、はじめて画像で見た。知識としてはあったが、衝撃だった。たぶんどの民族でも理解しがたい風習や価値観、美意識とかあるものだが、現代人には本当に理解しがたいひとつ。あと日本国が戦前、戦中に行っていた海外での非道も初めて文章として読んだ。韓国ドラマなどでも身分制度や、戦いのシーン、復讐などもちらりと見たりするけれど、それらの知識を超えるすさまじき内容だった。単なる戦争でもないむごたらしい処罰や不条理。読みながら何回も現在に生まれてよかったとか思ってしまったし、人間の尊厳についても常に考えた。著者の父は真っ当な共産党員なんだろうが、上巻で出てきた中で一番穏やかで今に通じるひとは夏先生だったのかなと。辛い目にも遭われているけれど、長生きをし天寿を全うされて亡くなったのはなんだか一番救いだった。とにかく現在の中国を形づくるところに通じていく話で、この先また辛い歴史を読む羽目になるような予感がするけれど、これまで知らなかった歴史にふれた作品としてすごくためになっている。

  • 本書との出会いは4年前。私の中国熱を上げた要因の一つとして”ワイルドスワン”はなくてはならなかった。と、今になって思う。
    時間ができたら必ず読み返したい。

  • 通販生活の書評欄を読んで興味を持ち、図書館で借りました。

    中国清朝のラストエンペラー溥儀の時代に生まれた祖母から、満州国の成立による日本軍の占領、撤退、蒋介石の国民党と毛沢東の共産党の内戦、文化大革命に至るまでを経験した母娘の親子三代の史実が書かれた本です。
    一般市民の目線というところが高い評価に繋がっているようですが、確かに。
    教科書で習った印象とは全く違う中国の歴史がリアルで辛くて、苦しみながら読みました・・・

    日本にもこんな時代があったのでしょうか。秩序の無い世界の恐ろしさは想像以上です。
    溥儀は、外国に対する建前のために生かされますが、下の階級は膨大の人数が戦争に巻き込まれ略奪され、ゴミのように殺され、逮捕されて処刑されていくのです。
    そして何より、共産党がどのように人民をコントロールし、どのように洗脳していったか、その過程にも寒気を覚えました。

    上巻では、著者である娘の誕生までが、いよいよ共産党が政権を握るところまでが描かれています。
    ドキドキするけど、次巻も楽しみ。

  • 読むのにとにかく時間がかかる。見聞きしたことがある単語がリアリティーを持ってストーリーとして流れていくから。そしていつも私たちが知る戦争はこちら側で、あちら側から知ろうとしたことはあっただろうか。子を持ち、この本に出会い、母として読むことができてよかった。

    著者の曾祖母まで遡りストーリーは始まる。まだ纏足が磐石な人生を歩むための必須要件だった時代から。

    女性はいつだって苦難の道を歩んできている。私たちの祖先も苦難を乗り越えて生き延びてくれたからここにいるのだけど、この本を読みながら、私はこんなに平和に暮らしてていいものだろうかと度々不安に襲われた。

    物語の主役になる彼女らだから当然ではあるが、とにかくパワフル、そして待ち受ける逆境がすごい。それらを乗り越えて、子孫を残していく。そりゃ中国のDNAはすごいよと思う。バイタリティー、負けん気の精神、半端ないだろうよ。

    上中下と3巻あるのに、えーもうここまで進んじゃうの?この先どうなるの?と大興奮の中上巻読了する。

  • 30年近くぶりに再読。3代に渡る近現代中国における庶民の生活が豊かに描かれている。
    住民同士を監視させ合う手法はナチスドイツ、東ドイツやソ連などと共通しており、人間の本質的を利用した恐怖支配というのを改めて認識。
    また、どんな環境下にあっても、多くの人は知識と本を求めているのだと感じた。

  • 下巻参照

  • 19/11/28読了

  • 結局、著者は共産党の党員に心からなるために、ブルジョワ的な部分をあらためて、人口の8割以上を占める農民の生活に近付くことを、身をもって示すことが必要なのだった。
    教養のある人がどうやって共産党的な考え方を身に付けることができたのか、それが、本書の書かれていることと云えようか。
    毛沢東による思想支配・操作は文革に入るにしたがい、より徹底的に行われ、なんの落ち度もない人が讒言され、罪に陥れられ、誰も回りは信用できないような世の中になっていってしまったのだ。
    しかし、いつしか、共産党も毛沢東のあまりにも突飛な考えや行動、独占的なやり方に不満を持ち始め、これまでのように二つ返事で従わなくなった。これに業を煮やした毛沢東は、実無知で無責任で、操縦しやすく、暴力にも走りやすい若者を操り、毛沢東崇拝の精神を叩き込み操っていった。若者も本当に毛沢東を崇拝していたかはわからない。ただ単にやりたい放題やっただけ若者が暴走したといっていいだろう。こういう場合、日本で果たして同じようなことが起こり得るのだろうか。2.26事件などは、局所的であり、全国に広がるものではなかったが、中国では、自分達の教師を徹底的にやり玉にあげ、拷問し、殺しまでしたのだ。
    ただ、本来、革命とはひとつの階級が他の階級を打ち倒す暴動であり、したがって、本来、粗暴な行為なので、中国だけが粗暴だったとは言えないのだろう。だけども、近くの子の中国がこのような思想的ギャップがあるのかと思うと、何だか怖いような気がする。
    結局、本書では、著者も紅衛兵になり、罪のない人々でも、反体制的だという他の若者につれられて、反体制狩りをするのだが、それの懺悔の書なのか、それとも、私は当時は本当はこんなことをしたくはなかったのだ、という言い訳の書なのか。読み進めるにしたがい、著者の煮え切らない態度に悶々としてしまう。
    幕末の日本は、攘夷鎖国か開国かで割れ混乱はあったが、中国ほどにお互いの人間を末端までの一般人が中傷しあい、殺しあったということはない。革命ではあったが、日本人としてお互いに尊敬しあったということだ。
    明治維新では、権力は政策を決定する力であり、それを幕府から雄藩合議にするということだったが、中国の文革は、権力は生殺与奪の力であり、金であり、人々の畏敬であり、意趣を晴らす力での奪取あった。革命という名のもとに、人々は様々な私怨をはらした。
    本書の途中までは、著者の父親は、なんて家族を省みない、妻をいたわらない人なのかと、半分怒りを感じるほどだったが、文革時の民衆の横暴に、自分の考えを崩さず、一人立ち向かっていった姿には、本書のなかで一番感動した部分だ。そこまでの思いがあったのであれば、家族へのこれまでの態度も、一貫性があったと、思うことはできる。その考えに賛成するか、反対かは別にして、終始一貫性がある態度は、称賛に値するのだ。
    文革により、物、家庭、文化、産業といった、ありとあらゆるものが破壊されるのを見て、みんなは、ようやく秩序と安定が保たれていた昔が良かったと思うようになった。

    主人公は著者の母親である夏徳鴻(シャトーホン)と、著者の二鴻(アルホン)。鴻いわゆるワイルドスワンだ。話は日本が満州国をプーイーの傀儡として建国した頃から始まる。著者の母親や祖母は、親戚などから嫌がらせを受けたり、満州国を支配する日本が作った学校でも日本人の子供たちとは別の扱いをされるなどの屈辱を受けながら育つ。やがて日本が負けて満州が解放されたが、次に来たロシア兵も略奪、暴行に明け暮れ、それが去ったあとは、毛沢東の中国共産党と蒋介石の中国国民党との内戦に巻き込まれるのだった。
    母親は、仲の良かった仲間たちが次々と国民党に殺されていくのをみて、遂に共産党への入党を決めたのであった。
    共産党は満州の北部と農村の大部分を掌握し、国民党がハルピンを除く主要都市と港湾、鉄道網を握っていた。1947年末になって、錦州周辺の共産党勢力が初めて国民党を上回った。農民は次々と共産党支持に回った。その最大の理由は、共産党が土地を耕作者へ分け与える改革を断行したからだった。小作農たちは共産党を支持することが自分達の土地を守る道だと考えたのだ。
    内戦は続き、報復合戦が繰り広げられ、どっちが悪いというものでもなくなってきたようだ。
    著者も入党し、党員と結婚した。当時、革命参加者は土曜日だけしか職場を離れてはならなかったが、著者は自分の夫と寝るために夫のもとに行ったが、これが私的だということで、自己批判を要求された。こんなことは不当だと著者は思ったが、夫は、理解できなくても、納得いかなくても、党の方針に従うべきだという考えだった。
    共産党とは、人民の思想を統一し、監視し、それを民衆自体に監視、通報させるというやり方をとり、それは、共産党による人民統治の中核をなすものだった。
    そもそも、人間というものは、考え方がそれぞれ違うことは当たり前である。それを、無理矢理に統一していこうという共産党の考え方には無理があり、それを統一していくから歪みが出る。人を信じるということ自体が出来なくなるということではなかったか。著者も、そういう自分に気づき、夫と違う考えであることに苦悩する。

  • 1900年初頭から1960年代までの激動の中国で生きた女性たち。共産党の思想と、理想とは裏腹な現実の狭間で苦しむ官僚の姿がありありと書かれている。その時々の文化、市井の人たちの考え、政治のあり方が赤裸々に描かれていて、現代の中国を見るに当たってとっても参考になる。

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著者プロフィール

1952年、中華人民共和国四川省生まれ。文化大革命が吹き荒れた1960年代、14歳で紅衛兵を経験後、農村に下放されて農民として働く。以後は「はだしの医者」、鋳造工、電気工を経て四川大学英文科の学生となり、苦学ののちに講師となる。1978年にイギリスへ留学、ヨーク大学から奨学金を経て勉強を続け、1982年に言語学の博士号を取得。一族の人生を克明に描くことで激動期の中国を活写した『ワイルド・スワン』『真説 毛沢東』(ともに講談社)など、彼女の著書は世界40ヵ国に翻訳され、累計1500万部の大ベストセラーになっている。なお、上記の2作はいずれも中国国内では出版が禁止されている。

「2018年 『西太后秘録 下 近代中国の創始者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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